もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第498回 もとまち寄席 恋雅亭・新春初席公演
 
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 公演日時: 令和2年2月10日(月)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   華 紋  「色事根問」
  桂   壱之輔  「生まれかわり(桂文枝作)」
  桂   南 天  「粗忽長屋」 桂 あさ吉代演
  桂   梅團治  「ねずみ」
    中入
  林 家 花 丸  「金明竹」
  桂   米團治  「はてなの茶碗」(主任)
 
   打ち出し 21時10分 
   三味線  勝 正子。
   鳴り物  桂 小 梅。
   お手伝  桂 三ノ助、桂 梅光治。
 令和2年、今年は例年になく温かい二月。しかし、当日はやや寒さも厳しくなり、日曜と翌日の祝日に挟まれた2月10日の月曜日。第498回公演として開催させて頂きました。4月でお開きとの発表以来、世間への反響も大きく前売券も予定枚数を完売。電話の問い合わせも多くあった当日、多くの通行人が当席の提灯に目をやられる中、熱心な多くのお客様に開場まで、小雨模様の中、並んで頂きました。
 チラシも、「新開地喜楽館」、「よせぴー」や本日の出演者の持込などを中心に多数届き、多くの出演者や、関係者にも手伝って頂き、いつも通り、いつも以上に手際よくこなして、小雨が降りだしたので定刻の5時半を10分前倒して開場となりました。永らく並んで頂いたお客様が一番太鼓に迎えられ思い思いの椅子に着席されました。その後も、途切れることなくご来場されるお客様で客席はほぼ埋まり定刻の6時半の開演。大入満席公演がスタートとなりました。

 2月公演のトップは、当席常連の桂文華師匠の筆頭弟子で、平成20年入門・キャリア11年で嬉しい初出演、更に当席最後の初出演となります桂華紋師。師匠の厳しい躾と本人の真面目な性格で落語の腕は若手随一。12月の「NHK新人落語大賞優勝」、6月の「上方落語若手噺家グランプリ」では、辛口の文珍師匠を「お客様に笑いが届くのをちゃんと待てる間が出来ている」と絶賛させ優勝。
 当席へは早くから楽屋入りされ準備万全。『石段』の出囃子で高座へ登場。
「初めての出演で嬉しいですわ。聞きますと恋雅亭最後の初出場だそうで、後輩に言えますわ。『君は恋雅亭に出たことないのか。』」と笑いを誘って、マクラは男女の問題。彼女に振られた男に、「心配せんでもええ。女は余ってる。同世代の女性は680万人」と、安心させたものの、「男は730万人」。大きな笑いを誘って始まった本題は、前座噺の定番『色事根問』の一席。女性に好かれるには、「一、見栄。二、男。三、金。四、芸・・・・・・。十、評判」との一つ一つの珍解釈が大きな笑いを誘う。トップらしく基本に忠実に、実力に裏付けられた高座はお客様も本人も大満足な十五分でありました。
 この噺、落語の分類では根問物のジャンル。二人で進展していく前座が手掛ける噺。ここから、稽古屋へ行くと『けいこ屋』となり、首を替えに行くと、『首の仕替え』となります。『首の仕替え』は昨年、十一月に桂かい枝師匠が演じられましたが、珍しい噺になりました。現在の噺家さんが相対的に男前になって、噺に登場するインパクトの有る顔の噺家さんが難しくなったのが原因でしょうか。

 二つ目は、四代目桂春團治師匠の筆頭弟子・桂壱之輔師匠。平成8年入門のキャリア23年で二つ目。なんとも勿体ない出番組。『砧』の出囃子で高座へ登場し、師匠の四代目桂春團治師匠の実話談?の、タクシーに跳ねられて一週間意識不明。意識が戻って奥様の手を握り別の女性の名を言ってお礼。いかにも当代らしい逸話で笑いを誘って、始まった本題は、「私の方は雲の上のお話で・・・。」と、『生まれかわり(桂文枝作)』の一席。
原作に忠実に、ご自身の工夫も入り混じった秀作でありました。

 三つ目は、故桂吉朝一門の筆頭弟子で平成5年入門の桂あさ吉師匠の予定でしたが、「声が出なくなった」とのことで、急遽、代演として桂南光師匠の筆頭弟子の桂南天師匠が来席されました。こごろう時代からの当席常連の南天師匠ですから何の違和感なしに楽屋で二人会の相棒の林家花丸師匠などと談笑、着替えを済まして、『復興節』の軽快な出囃子に乗って高座へ。
 「兄さん、声、全然出ませんねん」と大声で電話があった。とのツカミから事情説明。「お客様、ビックリされたのでは、『あさ吉! いつからこんなイケメンになったんや』これで、一気に『南天ワールド』突入。
このムードで始まった本題は『粗忽長屋』の一席。この噺、「そんな、アホな!」という筋立て。なので、演者がちょっと考えてしまうと、お客様が引いてしまう腕力の必要な噺。発端からサゲまで、「南天流」に調理された結構な出来でありました。流石!

 中トリは、上方落語界の重鎮の貫禄・桂梅團治師匠にお願い致しました。今回は、弟子で実子の桂小梅師がお囃子として参加。得意のカメラ技術でも大活躍。
さらに、年季明け前の桂梅光治(うめこうじ)師も手伝いで来席。ここで、ちょっとしたハプニング。高身長なので高座の袖の煉瓦に頭をゴツン。大きな音と共に声を殺して痛みに耐える。当席ならではの洗礼。
 お馴染みの『龍神』の出囃子で、はみ出る様な大きな花菱の紋が入った実にシックな緑の羽織で、満面の笑みで高座へ登場。「ここには、入門当時、師匠の春團治のカバン持って来て以来、色々な思い出があります。やっと、前座で出してもろたら、前日、運動会の余興で声が全然、出えへんかった。(入門12年目の平成4年11月第174回公演での『大安売り』)」から、「初めて、汽車の写真以外で賞、貰いましてん、昨年度の『文化庁芸術祭優秀賞』と紹介し、客席からの拍手を受ける。始まった演題は、『ねずみ』の一席。元々の舞台は奥州は仙台ですが、梅團治師匠は生まれ故郷の岡山を舞台に演じられておられます。当席では、403回公演以来の八年ぶりとありますが、ユッタリとほのぼのと楽しめる半時間弱の秀作でありました。

*** 落語ミニ情報 其の壱 『ねずみ』 について ***
 この噺は、『三井の大黒』、『竹の水仙』、『蟹』、『猫餅』、『笑う首』などの一連の左甚五郎の逸話談の中の一つ。
 東京では、元々、浪曲種だったので、「落語浪曲」として、大阪出身で、東京で活躍された鬼才の広沢菊春師匠と義兄弟だった『芝浜』で有名な三代目桂三木助師匠に伝わって演じられ、一門の弟子、いずれもお亡くなりになられましたが、七代目春風亭柳橋、九代目入船亭扇橋師匠らに伝わっています。現在は立川志の輔師匠らが演じられます。
上方には先代桂歌之助師匠が移植されたようでありますが、詳細は小生の薄学の為、不明で梅團治師匠に聞いておけばよかった。

 中入後のカブリは、四代目林家染丸一門から、林家花丸師匠。今回も芸名同様、楽屋でも高座でも花満開の師匠でした。
『ダアク』の出囃子で高座へ。「私の後がいよいよ、貴公子の出番でございます。ここは思い出一杯。四代目染丸のカバン持ちで、初めて来た時、楽屋の鶴瓶師匠に『米朝師匠にマントヒヒと言うて来い。先輩の命令は絶対やと言われた』。あの人、『家族に乾杯』などでええ人に見えますけど、実は悪い人です。」客席は大爆笑。趣味は宝塚。その影響で、落語の語り口調が宝塚風にと実演。これにも、大爆笑。そして、その暖かさそのままに始まった本題は『金明竹』の一席。
この噺、前後に大きく二つに分かれるのだが、時間の関係で前半を短く、後半の言い立てでは客席から拍手も巻き起こる熱演。客席を大いに沸かせてお後と交代になりました。

*** 落語ミニ情報 其の弐 『金明竹』 について ***
 この噺の前半は狂言の『骨川』。後半は初代林屋正蔵師匠の作とされています。東京では良く演じられ、聞いていると上方弁が訛っている師匠が時々おられます。アクセントは難しいものです。当席では、林家染雀師匠が、平成13年11月の第279回公演で演じられたのが初演です。
 ここで紹介される道具七品とは、①祐乗、宗乗、光乗【ゆうじょう、そうじょう、こうじょう・刀の目貫師後藤家の初代、二代、四代】三作の三所物【みところもん・刀に付ける細工物 目貫(めぬき)・小柄(こづか)・笄(こうがい)】。②備前長船の則光(のりみつ)四分一【銅一、銀四分の一の合金】ごしらえ、横谷宗珉【彫金の名工】の小柄(こづか)付きの脇差。③のんこの茶碗【江戸前期の楽焼きの名工 三代目道入(どうにゅう 通称:のんこう)作の茶碗のこと】。④黄檗山金明竹遠州宗甫の銘のある寸胴【水平】の花活け。⑤織部の香合。⑥風羅坊【松尾芭蕉の別号】正筆の掛物。⑦沢庵、木庵、隠元禅師貼り混ぜの小屏風【三名僧の書を一つの屏風に仕立てたもの】。

 当席・2月公演のトリは、桂米團治師匠にお願い致しました。いつも通りニコニコで楽屋入りされる。さっそく、一門挙げて500回記念のご出演のお礼。「私はどこでも(どの出番順)出ますよ。」との暖かい言葉を頂く。打ち上げで、「僕が入門した時、ここ(恋雅亭)はあってん。楠本さんにはなんでか良く可愛がってもろたわ。」と昔話。初出演は、異例の入門1年半後の昭和55年4月の第25回公演。小米朝//呂鶴/染二/福團治/中入/春駒/米朝(主任)でした。
 準備万全で『鞨鼓』の出囃子で高座へ。「正真正銘の貴公子でございます。頭に手をかざす気功師ではありません」と挨拶。「相変わらず新聞にはうちの親父が登場します。米朝会談、米朝対立、米朝物別れ、この間は、どうなる米朝。もう死んだがな。」とツカミもバッチリ。武庫之荘も尼崎市だが、正直に言わない。尼崎市とは言わず阪急武庫之荘。武庫之荘に住んでるから六代目松鶴師匠にいじめられまして、「なぁ、よう聞きや、噺家は南海沿線か近鉄沿線に住まなあかん。阪急・・・。ペケ」。話題は京都と大阪の対立へ。そして、始まった本題は、京都を舞台とした場面転換も時の帝まで登場するスケールの大きな『はてなの茶碗』。米朝師匠が復活された噺ですが、もう米團治バージョン満載。発端からサゲまで、37分の熱演。見事なサゲでお開きとなりました。