もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第493回 もとまち寄席 恋雅亭
 
◆春駒HOME◆恋雅亭TOP◆公演記録目次
 公演日時: 令和元年9月10日(火)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   二 乗  「千早振る」
  笑福亭 喬 若  「豊竹屋」
  桂   宗 助  「一文笛」
  笑福亭 枝 鶴  「愛宕山」
    中入
  林 家 染 二  「貧乏神」
  笑福亭 仁 智  「トクさんトメさん」(主任)
 
   打ち出し 21時05分 
   三味線  入谷 和女、勝 正子。
   鳴り物  月亭 秀都。
   お手伝  笑福亭鶴太。
 9月になっても猛暑が衰えない今年、令和になって五回目の公演、令和元年9月10日の火曜日に、第493回公演として開催させて頂きました。当日は、まだまだ続く暑さの中、先月同様の熱中症が発生しそうな気温。今回も熱心な多くのお客様に開場まで並んで頂きました。
チラシも、「新開地喜楽館」、「よせぴー」や本日の出演者の持込などを中心に多数届き、多くの出演者や、関係者にも手伝って頂き、いつも通り、いつも以上に手際よくこなして、「熱中症」を考慮して定刻より5分早くに開場となりました。チラシも益々、立派となり、パンフに挟むと分厚い。いつもながら長らく並んで頂いたお客様が、一番太鼓に迎えられ、思い思いの椅子に着席され、席は次第に前の方から埋まっていきましたが、並んで頂いたお客様がご入場されひと段落する時は、後方に多数の空席が。しかし、その後、一人、二人と、ご来場されるお客様が途切れず、定刻の6時半の開演時には、大入り公演となりました。

 その公演のトップは、桂米二一門の総領弟子、桂二乗師。故桂米朝師匠のひ孫弟子に当ります。師匠の桂米二師匠や一門の師匠連の教育よろしく、明るい笑顔と共に大変行儀の良い高座は定評があり、キャリア十六年、もったいないトップです。
 当日は、チラシの挟み込みにギリギリ間に合い、楽屋の準備をして、落ち着いて品の良い着物に羽織で、『石段』の出囃子に乗って高座へ登場。
「神戸や大阪の人は落語に関して、暖かい人が多い。」と切り出して、串カツ屋で遭遇した実話談?でわらいを誘って、始まった本題はお馴染みの『千早振る』の一席。
小倉百人一首の在原業平の「ちはやふる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」の歌の意味を、根掘り葉掘り、聞く処で笑いを誘う噺。その噺を、いかにもこじつけだが、噺に登場する相手にも、聞いているお客様にも判らないように振って、トントンと謎解きしてサゲに持っていくセリフは出来上がっているのだが、ある意味難しい技量の要る噺を大受けさせ流石と呼びたくなる二乗師でありました。
「落語会はトップからトリまでで一つの芝居」ですので、トップが受けると大いに盛り上がります。今回は大いに盛り上がった会になったことを付け加えておきます。

*** 落語ミニ情報 其の一 『千早振る』根問 ***
1 根掘り葉掘り、根問い葉問い、は、細かく尋ねるということですが、上方落語の『色事根問』、『商売根問』、『浮世根問』などと同じ趣向の噺です。
2 この短歌の意味は、不思議なことが多かったという神代でも、こんなことは聞いたことがない。竜田川の水を、紅葉の葉が紅にくくり染め(絞り染め)にするなんて です。
3 近年、大ヒットした競技カルタを題材とした「ちはやふる」の題名が落語『千早振る』とどう関係するのかはアニメを観たことのない博学な小生は知りません。
4 この噺に登場する力士の四股名は「竜田川」ですが、日本相撲協会の年寄名跡に読みが同じ「立田川」がありますので、実在しません。
5 この噺の作者は、江戸時代中期に上方落語中興の祖・寄席の開祖と言われた、初代桂文治師匠。この噺の他に、『蛸芝居』、『崇徳院』、などの作者です。
6 桂文治と言う名前は、三代目が東西に存在し、現在の上方桂一門の止め名の文枝の初代は、上方の四代目桂文治師匠の弟子で、上方の五代目桂文治を襲名しなかったため、上方の桂文治は四代目で終り、以後、文治代々は東京に集約されます。明治末に二代目桂文團治師匠が、一代限りで七代目文治を襲名されます。春團治一門、米朝一門は、この文團治師匠の弟子筋に当ります。八代目は根岸の文治。九代目は留さん文治、十代目は伸治で売れた人で、当代は十一代目であります。

 二つ目は、当席、二年ぶりの出演となります、七代目笑福亭松喬一門の総領弟子こと笑福亭喬若師匠。今回も、チラシの挟み込みも楽屋明るく元気一杯。お囃子も笛で参加。ノリノリで『くいな』の出囃子で高座へ登場。
座布団へオッチンして、どことなく笑ってしまう笑顔を見せるとそれだけで客席から笑いが起こる。「えー、上方落語界の松坂大輔でございます・・・。」と鉄板で卑怯な手法(笑ってしまうが良く似ている)のツカミから、草野球では一流とご自身を持ち上げ、突っ込みの腕を挙げた嫁からは「もっと金になるもので自慢しい」と突っ込まれたとのマクラから、「私はちょっとかじってるだけ」と、振って始まった本題は『豊竹屋』の一席。
何でも義太夫にしてしまう名人と口三味線の名手が繰り広げる爆笑編。お囃子の素養もお持ちの師匠なのでツボツボの生け殺しも、仕込みのサゲもバッチリ決まって、18分の高座は客席全体が暖かいまま、お後と交代となりました。
 この噺の登場人物の名前は、豊竹屋節右衛門さんに花梨(かりん)胴八さん。
命名は、義太夫の二大系譜の竹本と豊竹、義太夫節からと花梨は三味線の胴の部分に使うマメ科の木。胴は三味線の場所の名称からきていることを付け加えておきます。

 三つ目は、故桂米朝師匠の末弟、桂宗助師匠。暖かい客席をそのまま、中トリに引き継ぐべく早くから、涼しげで上品な着物に着替え準備万全。『月の巻』の出囃子で高座へ登場。
「落語と落語の間に挟まりまして、・・・(絶妙の間)、落語でございます。」とツカミも大受け。
盗人の種類からその最高峰はスリ、スリのランクとつないで、始まった本題は、師匠の故桂米朝師匠の自作で十八番の『一文笛』の一席。この噺、米朝師匠、33歳の昭和33年初演とされています。
尊敬する師匠直伝の噺で、ご自身も十八番とされているだけに悪かろうはずがない。人情噺としてホロッとさせてサゲで後味の悪さがなくなった秀作でありました。

 中トリは、上方落語界の重鎮・六代目笑福亭枝鶴師匠。
今回もお弟子さんの笑福亭鶴太師を伴っての楽屋入り。楽屋ではニコニコモードで仁智師匠と昔話。宗助師匠も加わった、松鶴一門、米朝一門も何時終わるともない新年会の昔話は打ち上げでも絶好調でした。
二挺の三味線と、大太鼓・鶴太、笛・喬若、祈・染二師匠ら楽屋総出での踊るような『だんじり』の出囃子で高座に枝鶴師匠が姿を見せると客席から大きな拍手。
当席に来る際、阪神梅田駅の特急で遭遇した甲子園球場へ向う熱狂的な阪神ファンで笑いを誘った後、始まった本題は『愛宕山』の一席。のどかな京の旦那さんや芸者さんの山遊びを縦糸に、大阪の二人の幇間持ちの軽さを横糸に、意地の張り合いを斜めに織り成した上方落語の最高峰の大物。お囃子との掛け合いもバッチリで、枝鶴師匠、笑福亭伝統の豪放磊落に見える高座ですが、実は緻密に考え抜かれた演出や言葉遣い、ちょっとした仕草に色気を感じる師匠。ツボツボで確実に笑いが起こり、アッと息を呑むサゲが清涼剤の半時間の秀作でありました。
 枝鶴師匠はカットされていましたが、幇間二人が愛宕山に登る際に、唄を歌います。
まず、端唄『梅にも春』の一節。続いて、「♪~登らば登れ愛宕山、登ったとて1円のポチ (小遣い) にもなるじゃなし」と、『かまやせぬ節』の替え歌。そして、参道の茶店で客の呼び込みに実際歌った、「♪~
そのあと、次のような唄を歌う。愛宕山坂 ええ坂 二十五丁目の茶屋の嬶(かか) 婆旦那さんちと休みなんししんしんしん粉でもたんと食べ 食べりゃうんと坂 ヤンレ坂~」。

 中入後は、四代目林家染丸一門の総領弟子・「パワフル染二」こと林家染二師匠にお願い致しました。早くから楽屋入りされ、染丸師匠が染二時代に使われておられた『藤娘』の出囃子で高座へ。挨拶の後、「明日が私、入門しまして、36年になります。今晩が35年、最後の高座となります。」と、挨拶すると客席から大きな拍手。さらに、「可愛い初孫も出来まして・・・。」と、嬉しそうにマクラを振った後、始まった本題は、ご自身が最も衝撃を受けた創作落語の『貧乏神』。
この噺、落語作家の小佐田定雄先生が、桂枝雀師匠に書き下ろした創作落語。家に取り付いた貧乏神に金をせびる主人公とけなげにその男を支える貧乏神。なんともけったいな噺ですが、染二師匠の芸風にピッタリな噺で、主人公の豪腕と困った様子の貧乏神の対比が実に面白い秀作でありました。
枝雀師匠の初演は正確には判りませんが、昭和57年に『KTVとっておき米朝噺し』、翌58年3月に『第56回枝雀寄席』、同年9月に『MBS笑いころげてたっぷり枝雀』でOAされ、59年には『東芝EMI・桂枝雀独演会』としてレコードが発売されています。

 九月公演のトリは、上方落語協会会長で創作落語の鉄人・笑福亭仁智師匠にお願い致
しました。フォークダンスの定番曲、『オクラホマミキサー』の出囃子に乗って高座へ姿を見せられると天井も落ちるほどの拍手と共に、『待ってました』と掛け声が。『タップリ』との掛け声に『出来まへん』と、返して客席から爆笑を取って、「貧乏神の染二さん、今から新装の居酒屋へいかれるそうで・・・」。袖から染二師匠が返事をすると、当席ならではの展開から、「昨年、上方落語協会の会長に・・・」と挨拶。客席から大きな拍手が起こると「拍手よりキャッシュ」と再び笑いが。さらに、繁昌亭での数々の不具合を「先代会長の祟り」。さらに、次々と仁智ワールドの爆笑マクラが大爆発。そして、始まった本題は、ご自身の鉄板創作落語から、『トクさん、トメさん』の一席。説明の必要のない大爆笑編。
師匠のHPで、この作品を、「高齢化社会における家族の深層心理を、老婆が白日の下にさらす問題作。」と、紹介されておられます。
仁智師匠の初演は正確には判りませんが、平成9年に『第188回NHK上方落語の会』、平成17年に『第107回ABC上方落語をきく会』、平成25年に『第332回NHK上方落語の会』でOAされています。当席では、平成17年9月の『第325回公演』からの再演となります。記