もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第485回 もとまち寄席 恋雅亭
   新春初席
 
◆春駒HOME◆恋雅亭TOP◆公演記録目次
 公演日時: 平成31年1月10日(木)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   治 門  「四人癖」
  桂   歌之助  「悋気の独楽」
  笑福亭 岐代松  「巾着餅」
  露 の   都  「初天神」
    中入
  桂   團 朝  「秘伝書」
  桂   文 珍  「天神山」(主任)
 
   打ち出し 20時55分 
   三味線  入谷 和女、勝 正子。
   鳴り物  桂 紋四郎。 
   お手伝  笑福亭遊喬、露の 紫。
 今回は、平成31年始まりの1月10日の木曜日に、第485回新春初席公演として開催させて頂きました。
恒例の「神戸ルミナリエ」、クリスマス、そして、年末・年始と、あわただしい中、クリスマス明けに前売券も予定枚数を終了。めっきり寒くなった元町に、今回も熱心な多くのお客様に開場まで並んで頂きました。
チラシも、「新開地喜楽館」、「よせぴー」などを中心に届き、多くの出演者(桂梅團治師匠は出番がないのに挟み込みを手伝って頂く)や関係者にも手伝って頂き、いつも通り、いつも以上に手際よくこなし、混雑と寒さを考慮し、定刻の5時半を5分早めての開場となりました。
いつもながら長らく並んで頂いたお客様が、一番太鼓に迎えられ、思い思いの椅子に着席され、席は次第に前の方から詰まっていき、次々にご来場頂くお客様で後方まで、一杯引いた客席も埋まって、3ヶ月連続の大入りで定刻の6時半に開演となりました。

もとまち寄席・恋雅亭平成31年の1月・第485回もとまち寄席・恋雅亭のトップは、桂小春團治門下の桂治門師。平成20年入門で当席へは早くも二度目のご出演となる若手の期待の星で、勿論、早くから楽屋入りされチラシからお手伝い頂きました。
 正月のトップはいつもの『石段』ではなく、『十日戎』の出囃子で高座へ。「えー、皆様、明けましておめでとうございます。今日で会わないお客様、良いお年をお迎え下さい」と、挨拶すると客席が一気に楽しいムードとなる得なタイプな芸風。芸名の桂治門の紹介。小春團治の一字をもらって治門、師匠の治(痔)をもらいましたと笑いを誘って、学校寄席での難儀した実話談。『平林』を演(や)ることになったのだが・・・。①先生が粗筋と受ける処を全部喋ってしまった。②事前に三代目春團治師匠のCDを配り、聞き比べるようにと指導していた。爆笑マクラ。もっと聞きたかったが、持ち時間の関係で、癖の噺をと始まったのは『四人癖』。鼻の下を擦る、目を擦る、袖を引っ張る、手を打つ、との癖をもつ友達四人が千円を掛けて癖を直おそうと、やせ我慢は張るわ仕草でごまかそうとするわ言い訳はするわと、苦しむ姿と仕草が笑いを誘った十四分の高座でありました。

 二つ目は、故桂米朝一門から、米朝師匠の孫弟子に当ります三代目桂歌之助師匠。師匠に当る二代目歌之助師匠は、当席へも数多くご出演頂きましたが、その先代がお亡くなりになられ28年。ご自身も三代目を襲名され23年。今回は、久しぶりのご出演で、早くから楽屋入り。『雛鶴三番叟』の出囃子で登場され、噺家になった理由は大学時代、落語研究会で始めて人の前で落語を演(や)って大受けした。「この頃は仕事とは別に趣味で落語を演(や)ってはる素人さんに教えてます。」と自己紹介。
 そして、始まった本題は風貌、イメージピッタリの『悋気の独楽』。発端からサゲまで、丁稚の定吉は元気一杯に、大旦那は威厳を持って、お手掛けさんは色気タップリに、御寮人さんは上品に、店の男性は個性豊かに、そして、女子衆(おなごし)のお竹は存在感一杯に見事に描き分けられる。持ち時間の関係で随所にカットはされているのだが、それを感じさせないのは流石。師匠の先代歌之助師匠や、多くの名人の口演を彷彿とさせる秀作でありました。

・・・ 落語ミニ情報 其の壱  この噺に登場するものについて  ・・・
① 熊野の牛黄散(ごおうさん)は、熊野三山で授与する特別の神札。牛黄(ごおう)を混ぜた墨で書かれており、嘘を付くと血を吐いて死ぬとの特別な効果があったとされています。
牛黄(ごおう)は、漢方に使用される生薬で原料は牛の胆石。末梢の赤血球数を著しく増加させ、虚弱体質、肉体疲労、病中病後、胃腸虚弱、食欲不振、血色不良、冷え症などの万能薬とされています。今では量が少なく、じゃ香と同じく貴重品です。
② 女子衆のお竹を、「酢でも蒟蒻(こんにゃく)が芋蛸南瓜がどじょう汁でもあかん」と紹介しています。これは、体を柔らかくする「酢」や女性の好物の「蒟蒻、芋、蛸、南瓜、どじょう汁」でも、懐柔出来ない堅物の女性、どうにも手に負えない女性だという表現です。
③ 悋気(りんき)は、やきもち、嫉妬のことで、英語ではジェラシー。この落語がなければ、小生は悋気も独楽も漢字では書けませんでした。
④ ジェラシーには、プラスとマイナスが存在するそうで、相手をもっと、自分に引き寄せようとし、ダイエットや、化粧、優しく接したりするのはプラス。自分より容姿や性格に勝る相手に好意を寄せるのを力で抑え込むのはマイナスのジェラシーです。

 三つ目は、故六代目笑福亭松鶴一門から笑福亭岐代松師匠。長身でいつまでも若々しい師匠、といってもキャリア37年のベテランの域。
『どて福』の出囃子で、高座へ登場。ここでお茶子さんが、小拍子を置き忘れたハプニング発生。高座上から、袖に要求すると、すかさず持ってくる。さっそく「えー、ここでは前に、『湯飲みを用意して』と、頼んで置いたら見台の上に置いてあった。私が出るとねぇ」と、すかさず、笑いに返られる。そして、十三と新開地の共通点。「お医者さんは一人ではだめ。」から、発見が遅れた。入院した。某噺家から見舞いをもらい義理雅が出来た。会長選挙があった。お返しに某噺家に票を入れた。との爆笑・「風が吹けば桶屋が儲かる」の実話・暴露マクラから始まった本題は、創作落語の『巾着餅』の一席。昨今の事件・話題をシャレにし、どことなく古典の香りもする際ネタ。当席でも、このタイプの噺はよく受ける。岐代松師匠のフラとマッチして更に増幅された秀作。際ネタですので、刻々進化する期待ネタです。
*「フラ」というのは落語界の隠語で、何とも表現出来ないおかしさのことで誉め言葉です。個人的な持って生まれた天分のようなもので、稽古では身につきませんし、上手や達者とも別のものです。

 中トリは、故露の五郎兵衛一門から露の都師匠。お弟子さんの露の紫師を伴われて、早くから楽屋入りされ、嬉しそうに準備。怖いものなしの爆笑高座を期待されるお客様の拍手に迎えられ『都囃子』の出囃子に乗って高座へ登場。
「えー、ありがとうございます。私、公益財団法人・上方落語協会・女性部、部・・・長(ここで客席から合唱が起こる)の露の都でございます」と、客席からの反応に「広まってきたね、五人くらい合唱してくれたわ」と自己紹介され、さっそく大阪のおばちゃん口調の「都ワールド」突入。
 この師匠は、毎日放送の素人名人会に出演し、好評価を得、その時の審査員の露の五郎(故:露の五郎兵衛)師匠に、日参。そして、昭和49年に入門を許された落語界初の女流落語家で、今や、多くの弟子を持たれる重鎮。私生活では、6人の子を持つ母親であります。
 今日の占いよりますと、キーワードは、「金色」、「ソース焼きそば」、「甘味処」だそうで、「金色の着物を着てきました。見えへんと思うけど総絞りやで、どうでもええけど。ソース焼きそばじゃなく、ホームランと言う、具が四つのうどん。それも1.5倍、食べてん。元町に着いたら、ここ(凬月堂)に特選あんみつちゅうのがあってん。高かったけど本格的やで、入ってる物が違うわ。みんな、食べてみ。美味しいから・・・。あ、そんで、お腹一杯で帯が足らん。苦しいから途中で降りたらごめんなぁ。」と、絶好調で客席も大受け。
 本日は『初天神』。師匠直伝のこの噺を、親子が天神さんに出掛けるまでの色街のクダリを念入りに演じられる。言っている言葉は相当、ひわいなのに、この師匠が演じるといやらしさを感じさせないのは不思議。そして、みかん、みたらし、飴、凧揚げをしてサゲとなりました、「都ワールド」込みで二十五分の好演で、途中下車もなく、大きな拍手の中、お中入りとなりました。

 中入り後は、故桂米朝師匠の直弟子・桂團朝師匠に盛り上げて頂きます。名前の由来でもありますが、学生時代は応援団長、盛り上げるのは十八番な師匠であります。元気一杯、『浪花小唄』で高座へ登場。「只今、拍手を頂いたお客様に限り、厚く御礼申し上げます。中入後は、團朝の方でお付き合いを願っておきます。私の後がいよいよ、文珍師匠で、私が下りなければ、師匠が上がれないシステムになっております。私の方は軽く、軽く、お付き合いを願っておきます。」と始まったマクラは、初めての経験、憧れの文珍師匠と同じ高座へ上がれる、それも、昼の喜楽館と恋雅亭で・・・。今日、昼間、喜楽館で二人の落語、聴いてきた人?」と、客席で問いかけると、一人だけ手が上がる。「一人なら同じ噺でもええなぁ。」客席はドッと受ける。「朝、西宮の戎さんを走ってましたなぁ。一年は早い。この前、同じ光景、見たのに・・・。けど、開門神事やのに、朝の六時に門が開くのに角のおでん屋、なんでやってまんねやろなぁ。あそこを走るんでっさかい、ほこりだらけでっせ。それを昼からの人が食べまんねん。」そして、マーガリンのバター塗り放題のフランクフルトや前に卵の殻が積んであるベビーカステラ。「金魚すくい」の極意。この露天商のことをテキヤ、的に矢が当る処からついたんやそうで・・・。」
そして、昔はこんな店もありましたと秘伝を書き連ねた本を売る商売を題材にした『秘伝書』の一席がスタート。トントンとテンポよく進む噺にツボツボで大きな笑いが客席から巻き起こった、出番の位置や全体の構成を実に良く考えられた名高座でありました。

 当席・新春初席のトリは勿論、桂文珍師匠。いつもながら、お忙しい中、お願いし快諾を頂きました。楽屋入りされると、ネタ帳を見ながら小生と昔噺。「今日、えらい目におうてなぁ。西元町から團朝君に歩かされた。」そして、いつものように高座の袖にドカッと座って楽しそうに他の演者さんの高座をご覧になられておられるいつもの落語大好きな文珍師匠。
『円馬囃子』の重厚な出囃子に乗ってユッタリと高座へ姿を見せられると万来の拍手が巻き起こる。「えー、私も古くなり、こんな処(トリの出番)に追いやられてしまいました。ここ(恋雅亭)も四十年だそうで、初めに出られてました方は全部、死にました。いや元気で活躍中で・・・。今日は今、出ました團朝君と新開地の喜楽館に出てまして、ここへ来るのにどこで下りたらええか聞きましてん。ほな、『そら師匠、西元町』。騙されました、遠かった・・・。」
「今日は戎さんで・・・。」と、戎さんに関係する小咄。この中に先ほどの前の演者さんの口演のくすぐりが見事に散りばめれて、客席の大爆笑を誘う。見事。
次々に繰り出されるマクラに大爆笑の客席。さらに、次の話題・・・。又もや大爆笑。そして始まった本題は、上方古典落語の名作で、師匠に当る先代桂文枝師匠の十八番『天神山』。
噺の骨格には先代の型を踏襲され、師匠の工夫が随所に散りばめられお囃子との息もピッタリの秀作であったことは、言うまでもありません。残念ながら紙面では伝えられませんが百聞は一見にしかず。今年の初席も大いに盛り上がって、正月らしく、『しころ』の送り囃子に乗って、笑顔一杯に満足げに会場を後にされる多くのお客様をお見送り致しました。