もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第484回 もとまち寄席 恋雅亭
 
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 公演日時: 平成30年12月10日(月)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  笑福亭 呂 竹  「始末の極意」
  林 家 染 左  「掛取り」
  桂   南 天  「替り目」
  笑福亭 枝 鶴  「竹の水仙」
    中入
  桂   わかば  「野ざらし」
  桂   福團治  「しじみ売り」(主任)
 
   打ち出し 20時55分 
   三味線  入谷 和女、勝 正子。
   鳴り物  桂 紋四郎。 
   お手伝  笑福亭遊喬、桂 三ノ助、笑福亭鶴太。
 今回は、平成30年納めの12月10日の金曜日に、第484回師走公演として開催させて頂きました。
年末恒例の「神戸ルミナリエ」も開催され、めっきり寒くなった元町ですが、今回も熱心な多くのお客様に開場まで並んで頂きました。
チラシも、「新開地喜楽館」、「よせぴー」などを中心に届き、多くの出演者や関係者にも手伝って頂き、いつも通り、いつも以上に賑やかに(原因は、明るい桂紋四郎師参戦によるものが大)挟み込みを開始し、「神戸ルミナリエ」の影響による元町本通りの賑わいを考慮し、定刻の5時半を5分早めての開場となりました。
いつもながら長らく並んで頂いたお客様が、一番太鼓に迎えられ、思い思いの椅子に着席され、席は次第に前の方から詰まっていき、次々にご来場頂くお客様で後方に若干の空席もほぼ埋まって、先月に続き、大入りで定刻の6時半に開演となりました。

 その公演のトップは、笑福亭呂鶴一門の筆頭弟子・笑福亭呂竹師。平成14年に鳥取大学工学部を卒業され入門。キャリア16年の逸材。ちなみに、昨年度の当席のトップは桂文三師匠のキャリア27年を筆頭に平均キャリアは17年。いつも同じことですが、もったいないトップ陣であります。
『石段』で登場され、「えー、まずは笑福亭呂竹。どうぞよろちくお願い致します。」と、鉄板の掴みも決まって、さっそく、『始末の極意』がスタート。
扇子の使い方から、極意の極意を教えてもらいに夜間に木の枝にぶら下がって手の指を離して、最後に親指と人差し指で丸く輪を作って、始末の極意とは「おゼゼを離さない」ことと、サゲとなりました。
全編、師匠の教えの基本を忠実に守ってキッチリ演じられる口演は安定感があり、ご自身の暖かいムードがあり全体をホンワカと包み込んで何とも言えない秀作に仕上がっていました。
*** 落語ミニ情報 始末家とケチの違い ***
 上方弁の始末を標準語では倹約と言うそうで、ケチと倹約家を色々、考えてみました。
・倹約家は誉め言葉になりますが、ケチは悪口にしかならない。
・ケチは自分のことを倹約家と思っているが、周りはそうは思っていない。
・ケチはむやみに金品を惜しむ人。倹約家はむだを省いて出費を出来るだけ少なくする人。
・ケチは、お金を自分以外のことに使うのを嫌うが、倹約家は、人の為にお金を惜しまない。
・ケチは常に財布のヒモは固いが、倹約家は、ここぞという時にはお金を出し惜しまない。
こう書いてみると、なるほどと思いますが、やはり、始末の極意は難しい。

 二つ目は3年ぶりの出演となる林家染左師匠。
 平成8年に大阪大学文学部を卒業され、四代目林家染丸師匠に入門。今年でキャリア22年の逸材。『虎々』の出囃子で登場。「あこがれの恋雅亭、実は初の二つ目なんです。トリをとれるのは、百年後・・・。」と、笑いを誘って、年末の風物詩、借金取りを、「人間好きなものには心を奪われる」と次々撃退する大爆笑噺、『掛取り』の一席。勿論、十八番だった染丸師匠直伝であります。
持ち時間を考えられ、『喧嘩』のくだりをカットされ、『芝居』のクダリをお囃子との息もピッタリに重点的に演じられると客席からは大きな拍手が巻き起こる。先を聞きたかった名演は持ち時間、ピッタリの18分でお後と交代となりました。

*** 出囃子『虎々』のウンチク ***
林家染左師匠の出囃子の『虎々』は、♪~とらとーら とーらとら、との伝統的なお座敷遊び・お茶屋遊びの『とらとら(虎々・虎拳)』で演奏される曲。虎拳は、『和籐内(わとうない)の虎退治』、『加藤清正の虎退治』と呼ばれる拳遊び、今のジャンケン(雀拳)のようなもの。
和籐内の鉄砲(または加藤清正の槍)は虎に勝ち、虎は老母に勝ち、老婆は自分の息子の和藤内(または加藤清正)に勝つ。とのルールで、襖で相手を見えなくして襖から出る時にそれぞれの姿で勝敗が決まるもの。


 三つ目は、桂南光一門から桂南天師匠の登場。『正月娘』の出囃子で登場・・・。ここで、ちょっとしたハプニングが発生。実は、わかば師匠と南天師匠の出番順が、チラシを作成した時から逆になっていました。すぐに気が付いてそれをネタに笑いを誘う。ここらはさすが。
 マクラは、打ち上げでの酒癖の悪い先輩の噺、どうしても嫌いな先輩を言えと言って迫る先輩に困った話題。実名は挙げられなかったが、大いに盛り上がって、酒の話題つながりで始まった本題は、『替り目』。南天師匠が演じられる主人公は何とも可愛い。特に後半、嫁さんに偉そうに言うのであるが実は甘えている。感謝しているのだが面と向かって表現出来ない。いなくなるとつい本音が出て、それを嫁さんに聞かれ照れくさそうに又、突っ張る。言葉は出ないが嬉しそうな嫁さんの顔が浮かぶ。その好演に客席の笑いは前のほうから波打つように後方まで、後方の笑いは又、波を打って前の方へと客席全体が大爆笑に包まれた秀作でありました。

 この噺、ここから先があります。おでんを買いに行った女房が戻って来ると燗が出来ている。うどん屋に無理をいったと判ったので、うどん屋へお詫びを言おうと、うどん屋を呼ぶ。「おい、うどん屋、あそこの家、呼んでるで」「いいえ、あそこへは行かれしまへん」「何でやねん?」「今時分行ったらちょう~ど銚子の替り目でっしゃろ。」。ここまで演じないと演題が判らない。


 中トリは、六代目笑福亭枝鶴師匠の登場となりました。お弟子さんの鶴太師を伴って早くから楽屋入りされ、ネタ定めが始まる。「えー、今日は『ふぐ鍋』と思ってきたんやけど、『風邪うどん』や『試し酒』と、似てるな。ならば、『尻餅』。(染左師匠が演じ始められる)えー、『掛取り』又、あかんやん。『初天神』を12月25日の『終い天神』として演(や)ってもええけど・・・。師匠とは入門以来の付き合いの小生がニコニコしていると、『吉しゃん。僕が困ってるので楽しそうやなぁ』。よっしゃ、『竹の水仙』。」と、決定。
 師匠に当る先代五代目枝鶴の出囃子の『地俥(だんじり)』に乗って高座へ登場され、小拍子で囃子を止める。前の南天師匠のマクラを引っ張って、「私の嫌いなのは桂南天です!」。マクラもそこそこに『竹の水仙』がスタート。
この噺、先代京山幸枝若師匠の十八番で、仲の良かった六代目笑福亭松鶴師匠の実子の五代目枝鶴師匠が口伝されたもの。当代は先代からの口伝。先代同様、大阪弁丸出しで、明るく大活躍する吞んだくれの左甚五郎先生に客席は大爆笑に包まれ、サゲもズバリ決まって、大きな拍手の中、お仲入りとなりました。

 中入りカブリは、桂ざこば一門から、桂わかば師匠の登場となります。いつでも、ほっこりと温かみがあって、何か浮き浮きする師匠。万来の拍手で登場され、いつもながらのマクラから、始まった演題は『野ざらし(野晒し)』の一席。
 わかば師匠の『野ざらし』は東京風の演じ方。発端は隣の長屋の住人の処に訊ねてきた女性の因縁話を聞き、ならば自分もと骨を釣りに行く。一人瞑想にふけり、大騒ぎするクダリを持ち前の明るい芸風で実に楽しそうに演じられる。客席も爆笑の連続。
 「♪鐘がぁ~ ボンとなりゃぁさ、上げ潮ぉ、 南さ。カラスがパッと出りゃ、コラサノサ、骨(こつ)がある、サーイサイ。」「♪そのまた骨にとさ、酒をば、かけりゃさ、骨がべべきてコラサノサ、礼に来るサーイサイ。スチャラカチャンたらスチャラカチャン。」と、サイサイ節で大いに盛り上がってお後と交代となりました。

*** 落語ミニ情報      『野ざらし』と『骨釣り』  ***
 この噺、中国の明代の笑話の「笑府」の中にあり、絶世の美女楊貴妃や三国志の張飛も登場する大作が元ネタとされています。それを土台に、元僧侶の二代目林家正蔵師匠が因縁話として作られ、それを初代三遊亭円遊師匠が滑稽な噺に改作され、その後、東京の代表的な噺として多くの演じ手のいる噺であります。上方へは、昭和50年代に月亭可朝師匠が東京風をそのまま『野ざらし』として演じられてから、多くの演じ手のいる噺となっています。
 一方の『骨釣り』は、出展はよく判りませんが、張飛と石川五右衛門ですから、『野ざらし』の元ネタに近いとされていましたが、永らく滅んでいた噺で、桂米朝師匠が復活されました。
 サゲは石川五右衛門が出てくると、「釜割りに来たか」となります。男の処へ男が夜、出てくるのですから、石川五右衛門・釜茹・釜割り・お釜を掘る・男色ということになります。


 師走公演のトリは上方落語界の大御所・桂福團治師匠。
 当席へは昭和53年8月の第5回公演に初出演、以後、出演回数は今回で55回を数えます。
今回もユッタリと名囃子『梅は咲いたか』で高座へ登場。客席からは大きな拍手が起こる。「よう入ってますなぁ。ここは。古くからやってまんねん。五十年。疲れた。けど、使てんのはここ(口)の廻りだけや。」と、いつものペースでスタート。昔の売り声を、♪~縦の糸はええ声、横の糸は四季の移り。と、タップリ聞かせて、客席全体がホッコリなったところで、始まった本題は、お客様にリクエストされましたと断って、十日戎の夜の物語・季節感もピッタリで、師匠の十八番、『しじみ売り』。当席では今回で6回目の口演。昭和58年9月の第66回で初演。以降、昭和59年11月、平成2年12月、平成3年9月、平成25年3月についで5年半ぶりの口演となります。
 この噺、上方では珍しい人情噺。東京では、主人公のしじみ売りの子供の姉夫婦の心中を助け、施しをするのが鼠小僧次郎吉。つまり盗んだ金を貰ってします。これがキッカケで姉夫婦に禍が起こるストーリーです。
 この噺を福團治師匠は、東京で上方落語を演じられておられた桂小南師匠からの口伝。師匠の演出は元々の上方の型侠客が自身の金を渡すが近所で起こった強盗の容疑を掛けられてしまうとなっています。好みですが、小生はこちらの方が後味が良いと思っています。さらに、とってつけたようなサゲやその前を人情噺的に、旅情的に改良されて演じておられます。ゆっくり、じっくり演じられる師匠の語りに客席は聞き入っているのか咳払い一つない。タイミング良く繰り出されるくすぐりで爆笑が起こる。絶妙の語りは半時間強。サゲ間近の十日戎の夜の吹きすさぶ雪の寒さとしじみ売りの少年の声を手の動きでの描写は鳥肌が立つほどの見事さ。余韻を残してのサゲも絶妙。言い終わると同時に客席から万来の拍手が巻き起こり、平成30年納めの師走公演はお開きとなりました。