もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第483回 もとまち寄席 恋雅亭
 
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 公演日時: 平成30年11月10日(土)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  笑福亭 松 五  「書割盗人」
  桂   まん我  「風邪うどん」
  笑福亭 遊 喬  「試し酒」
  桂   枝女太  「たけとんぼ」
    中入
  桂   勢 朝  「永田町商店街懐メロ歌合戦」
  桂   きん枝  「まめだ」(主任)
 
   打ち出し 21時05分 
   三味線  勝 正子。  
   鳴り物  笑福亭 縁(ゆかり)。
   お手伝  笑福亭 呂翔。
今回は、平成30年11月10日、土曜日、第483回公演を開催させて頂きました。
寒くなったりちょっと暖かかったりと天候不順な中、熱心な多くのお客様に開場まで並んで頂きました。
チラシも、「新開地喜楽館」、「よせぴー」などを中心に届き、桂まん我、笑福亭松五、笑福亭縁、笑福亭呂翔の師匠連にも手伝って頂き、いつも通り挟み込みを開始し定刻の5時半に開場となりました。
いつもながら長らく並んで頂いたお客様が、一番太鼓に迎えられ、思い思いの椅子に着席され、席は次第に前の方から詰まっていき、後方の空きスペースに椅子を並べて、次々にご来場頂くお客様に対応し、3ケ月ぶりの大入りで、定刻の6時半に開演となりました。

その公演のトップは、笑福亭松枝門下の総領弟子の笑福亭松五師。今回も平成15年に入門され、師匠から徹底的に鍛えられ落語は元よりお囃子の腕も一流。飛梅、縁(ゆかり)、竹吉と弟、妹弟子も増え貫禄も備わってきた松五師。キャリア15年で、二つ目でも問題ないもったいないトップであります。
『二番太鼓(着到)』には笛で参加、『石段』の出囃子に乗って高座へ登場・・・、ここで、足袋がサラで滑りそうになりながら、座布団へ。さっそく、その話題、「ここは久しぶりでございまして、前もつまずいてこけそうになりまして・・・」から、「ここは、事前にネタが決まっておりませんで、こうしてオネオネ言いながら何をしようかと考えております。お客様の雰囲気に合わせまして、泥棒の出てくる噺を」と、始まった一席は『書割盗人』の一席。
この噺、今から約250年前の笑話本が原話とされ、東京の『だくだく』の元になった噺で、書き割りとは、お芝居の舞台の背景の絵のこと。主人公は、何もない自分の狭い部屋の壁に家財道具などの絵を描いてもらうのですが、その書き割りの家財道具を、盗人が盗みに入るという噺。なんともええ加減な主人公と、その無理難題にニコニコしながら応える絵心のある男、可愛らしく主人公に翻弄される盗人の登場人物の三人が松五師の任(にん)とピッタリ一致した大爆笑編に仕上がって、さらに、サゲにも一工夫があり、その話芸で、お客様の頭の中で絵に書いた家財道具や、そこで繰り広げられるシーンが見事に浮かび上がってくる
16分の好演でありました。

二つ目は、桂米朝師匠のひ孫弟子(米朝→枝雀→文我→)に当る、地元神戸市出身の桂まん我師匠。平成11年の入門以来、各賞を総なめにした逸材。今回もその幅広い演目の中から達者な話芸を期待の客席の拍手、掛け声を受け、『菊水前弾き』の出囃子で登場。当席の思い出は、「噺家になってからではなく、客席で見ていた時」と語られ、暖かさが恋しい時候にピッタリな『風邪うどん』がスタート。寒い冬の夜中、商家の情景から始まり、博打場と場面転換、ほのぼのとした噺は続き、美味しそうにうどんを食べる見事な仕草があって、「あっ」と思わず笑みがこぼれるサゲとなる間、随所に大爆笑が巻き起こった口跡のいい名演でありました。

この噺は東京では『うどん屋』と呼ばれ故五代目柳家小さん師匠の十八番でした。ちなみに、小さん師匠が演じられ、食べるくだりでは蕎麦はそば、饂飩はうどんと判った名人でした。芸談で「口の開け方と舌の形で、細い、太いの音の出し方を分けている」とのことだそうです。上方で『うどん屋』として演じられるのは別名を『三人上戸』とも呼ばれる別の噺で、上方の『うどん屋』は、東京では『そば屋』として演じられています。なんともややこしい。

三つ目は、先代(六代目)笑福亭松喬一門の二番弟子・今年で芸暦27年の笑福亭遊喬師匠。亡き師匠の教えを忠実に守って、最近ますますノリノリの師匠です。今回も師匠直伝の一席をと楽屋で準備。今日の演題は師匠の十八番の『尻餅』に内定。着物に着替えられ準備万全。まん我師匠の『風邪うどん』を聞きながら、小生に「ちょっと、付きまんなァ」と相談。確かに、真冬の情景や食べ物と類似する部分があるので、急遽、ネタをこれも師匠の十八番でご自身も手馴れた『試し酒』に変更し、お茶子さんに「見台使います。」と、言われて『琉球節』の出囃子で登場。
つかみは「えー、一杯のお客様でございまして、これやったら、沢田研二も帰らへん。」と爆笑を誘う。当席の想い出やご自身の暇な日常で思い通りの笑いを取って、「お酒のお噂を・・・」と始まった本題は『試し酒』。「五升の酒が飲めるか」を賭けた主人の身代わりとして挑戦した権助が、見事に五升の酒を飲み干してしまうという噺。遊喬師のほんわかとしたムードと田舎出の権助のイメージがピッタリ。客席からクスクスと、そして、連続して笑いが起こり続ける。師匠の松喬、大師匠の松鶴師匠と酒の笑福亭の本領発揮のこの噺、五升の酒を飲むのにゆっくり飲むとダレ間になりかねず、早く飲むとそんなに早く飲めないと難しい噺でありますが、師匠の呼吸を継ぐ演じ方で実に美味しそうに、五升ではなく倍の一斗(飲めるかどうか試しに)を飲み干した主人公。並びに演じきった遊喬師。お見事な半時間のほんわか、ゆったり、そして、満足の高座でありました。
***  落語ミニ情報  其の壱 『試し酒』について   ***
古典の匂いのするこの噺は、実は落語研究家の今村信雄氏が昭和初期に書き下ろした新作とされています。ところが、この噺には筋がそっくりな先行作がありまして、明治の英国人落語家・初代快楽亭ブラック師匠の『英国の落話(おとしばなし)』の中にあるそうです。主人公が英国連隊の兵卒ジョン、飲むのは日本酒ではなくビールになっていて、サゲも同趣向です。さらに、中国唐時代の『笑話』にも同パターンがあるそうです。
東京でのこの噺の初演は、「山椒は小粒でひりりと辛い」からの山生亭花楽。その七代目の三笑亭可楽師匠。その後、この可楽師匠の崇拝者でありました、五代目柳家小さん師匠がその演出を戦後、三代目柳家小さん師匠譲りの他の演題と共に受け継がれ、さらに磨き上げ、そして、多くの演じ手に伝承されています。

 中トリは、先代(五代目)桂文枝一門から、「しめやん」こと桂枝女太師匠にとって頂きます。『岸の柳』で高座へ登場され、「私も噺家でございまして、決してお寺さんから参ったんやございません」と、笑いを取って、「今日は落語作家の小佐田定雄先生に、『君にピッタリな落語作ったで』と作ってもらいました。ちょっと、時候が違って、お盆の墓参りのお噺を・・・」と始まった本題は、『たけとんぼ』の一席。紙面では表現できないが、ペーソスがあってメルヘンチックで、ほろっとさせたり、『上方四天王』が物まね入りで登場して、大爆笑を誘ったり、最後は「ああっ、良かった」と思える秀作でありました。

 中入り後は、久々のご出演となります、「上方落語界の森田健作」こと、桂勢朝師匠に、さらに盛り上げて頂きます。早くから楽屋入りされ、「さー、今日もタップリ唄います」と、宣誓され、元気一杯、『野球拳』の出囃子で高座へ飛び出されると客席から拍手と共に、「待ってました」と声が掛かる。これに、「ありがとうございます。別に待ってもらうほどたいした芸人ではございません」と返して、勢朝ワールドへ早くも突入。「別に、自慢する訳やないけど、今日は三ケ所の掛け持ち・・・。(客席から拍手)」。「みんな、今日はオラウータンになって、手を叩いて笑って・・・」。「(小咄のサゲを言われると)そこのお客様、判っててもサゲは言わない。みんな、判ってっても辛抱してるんだから・・・」。と、客席とのキャッチボールもバッチリ。
そして、「私に人間国宝の弟子に恥じない落語を期待するのは、みんな駄目。出来ません。」と始まった本題は、自作の歌謡落語『永田町商店街懐メロ歌合戦』。勿論、大いに盛り上げって、唄い倒された勢朝師匠の熱演でありました。

*** 落語 ミニ情報  其の弐 『永田町商店街懐メロ歌合戦』について ***
この噺は、今回で三度目の上演となります。
初演は、民主党政権時代の平成24年の第405回公演。この時はバスの車中での歌合戦。
会長は野田さん、幹事は岡田さん、行き先は尖閣諸島。添乗員は枝野さん、運転は小沢運転手。歌手は、輿石・長妻・鳩山・小沢・一川・田中・亀井・蓮舫さんとお馴染みの方々が登場しました。
再演は、自民党が政権を取り返した、平成27年の第440回公演。ここでの懐メロは、『大利根月夜』『お座敷小唄』『洒落男』『悪女』『年下の男の子』」『女のみち』『うそ』と話題の政治家の替え歌が続き、トリは勿論、兵庫県議の『城崎音頭』でサゲとなりました。
そして、今回、安倍長期政権化での第三弾。司会は、「軍事おたく」の石破さんで、町内会長の安倍さんが、『銭形平治』『北酒場』『天城越え』『PPP』と、四曲。ダンディな麻生さんが『洒落男』。小池・蓮舫・片山さんと女性が3名、『ブルーシャトー』、『東京五輪音頭』、『アルプスの牧場』、『満州娘』と4曲。続いて、『大阪ロマン』、『カサブランカ・ダンディ』、『勝手にしやがれ』。トリは旬は過ぎたが神戸では受けると、兵庫県議の『城崎音頭』でサゲとなりました。

*** 落語ミニ情報 其の参 『***の花売り娘』  ***
楽屋で、勢朝師匠から「『満州娘』は誰が歌ってました?」と訊ねられたが即答出来なかった。後で服部富子さん(作曲家の服部良一氏の実妹)と思い出したが後の祭り。
♪~私ぁ十六 満州娘。春よ三月 雪解けに、迎春花(インチュンホワ)(注)が、咲いたなら、お嫁に行きます、隣村。王(ワン)さん待ってて、頂戴ネ。これを唄える人は相当マニアックかご高齢。
戦後は、「満州」、「支那」、「南京」などは言い難くなったので、この『満州娘』や『支那の夜(山口敏子・李香蘭』や『南京の花売り娘(岡晴夫)』は歌われなくなった。
脱線ついでに、花売り娘は岡晴夫の代名詞ですが、昭和14年発売の『上海の花売り娘(♪~赤いランタンほのかに揺れる』から、『広東』、『南京(みどりの光よ)』、『東京』、『港ヨコハマ』、『長崎』、『アメリカの花売り娘』の7種類は、今でもカラオケで唄えます。
後、『道頓堀(♪~お花、お花、お花買(こ)うてんか~)』、『霧のカラカス』、『想い出の花売り娘』。未発売ですが『南京』、『銀座の花売り娘』の12種類作られました。
花売り娘では、美空ひばりの『ひばりの花売り娘(♪~花を召しませランララン)』や、小畑実の『ロンドンの街角で(ロンドンの花売り娘)』もカラオケで唄えます。

十一月公演のトリは、今や上方落語界の大御所、上方落語協会相談役、来年に師匠の名跡の小文枝の四代目を27年ぶりに襲名、神戸新開地喜楽館開館責任者の桂きん枝師匠にご登場願い、締めて頂きました。『相川』の出囃子で高座へ「えー、今の勢朝さん、いつ終わるんかと思ってました・・・。」と、ツカミの挨拶から、ほんわかムードの昔の思い出。童謡を紹介され、「雨がしょぼしょぼ、降る晩に、豆狸(まめだ)が徳利持って酒買いに」との童唄から、狐と狸の性格の違いを紹介され、始まった本題は『まめだ(三田純一作)』の一席。
笑いの少ない噺で、落語では珍しい秋の噺。師匠のイメージとピッタリなホンワカした中にホロッとする筋立ての噺を、ご自身の工夫をちりばめた構成。風に散った銀杏の葉がまめだに舞い散る文学的な表現で余韻の残った名画を見るような見事なサゲとなり、マクラから半時間強の好演に満員の客席から拍手が鳴り止まなかった霜月公演でした。
当席でこの噺が演じられるのは、これで四度目。①昭和五十九年十一月・第80回公演。桂米朝演。②平成二十四年十月・第410回公演。笑福亭竹林演。③平成28年11月・第459回公演。桂春之輔演。