もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第476回 もとまち寄席 恋雅亭
     開席四十周年記念公演・『創作落語の会』
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 公演日時: 平成30年4月10日(火)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   三四郎  「過去のないワイン」
  桂   三 若  「カルシウム不足夫婦」
  桂   あやめ  「恋する更年期」
  笑福亭 福 笑  「金策幽霊」
    中入
  笑福亭 仁 智  「老女A」
  桂   文 枝  「惚けてたまるか」(主任)
 
   打ち出し 21時10分 
   三味線  入谷和女、勝 正子。  
   鳴り物  月亭 天使。
   お手伝  桂 三扇、桂 三ノ助、桂 三語、桂 あおば、
        笑福亭大智、桂 文悠、桂 おとめ、桂 健枝郎。
 今回は、平成三十年四月第476回・『もとまち寄席 恋雅亭 開席 四十周年記念特別公演』を開催させて頂きました。三月十一日の前売り開始後、わずか一日で完売と、前景気は絶好調。
 桜の花が咲く時期特有のジェットコースター気候、一週間前の天気予報では雨模様と心配でしたが、当日はポカポカ陽気の晴天となりました。しかし、風はまだまだ冷たい中、多くのお客様に開場まで並んで頂きました。
 チラシもいつもより多く、いつものように出演者・関係者にも挟み手のお手伝い頂き、五時ジャストからスタート。手際良くこなし準備OK。記念公演で凮月堂さんからはミニゴーフル、櫻正宗さんからは清酒のご協賛、さらに、同人会は記念手拭作成し、そちらの準備もOKとなり、定刻の五時半、開場となりました。
 いつもながら長らく並んで頂いたお客様が、一番太鼓に迎えられ、思い思いの椅子に着席。記念の会で前売券をセーブしましたが、お客様の出足は絶好調を通り越して想定外。その後もお客様の出足は途切れず、着到(二番太鼓)の頃には、パイプ椅子を扉一杯まで並べるも立ち見も出る超大入満席となりました。


 その公演のトップは、地元市神戸出身・六代桂文枝一門の桂三四郎師。20人中13番弟子として平成16年入門。自他共に認める「師匠に最も迷惑を掛けた弟子」だそうです。
 7年前からは東京へ活動の軸足をおいて、東西で創作落語を中心に活躍中の若手イケメンな逸材で、『公職五人男』なる意味深なネイミングの落語会を桂米團治、林家染二、笑福亭銀瓶、桂春蝶の各師匠の一員として出演されています。
記念公演とはいえキャリア14年でトップは贅沢。しかし、三若・24年、あやめ・36年、福笑・50年、仁智・46年、文枝・52年と後の師匠連のキャリアを考えるとうなずける処。
『石段』の出囃子と超満員のお客様からの拍手に迎えられ、新調された暖簾を潜って、笑顔一杯で高座へ登場。「えー、神戸出身の桂三四郎・・・。」と初出演の嬉しさを強調した挨拶から、神戸の偏差値は低いが学費が高い神戸市内の高校を卒業と紹介し、高校の卒業試験の先生の注意【0点だけは取るな。カンニングはばれるな。カンニングは人を選べ。1点あれば合格。ナポレオンは出るぞ。解らなかったら全部ナポレオンと書け。】で客席の大きな笑いを誘う。
 そして、「ワイン同士の会話の落語」と始まった本題は自作の『過去のないワイン』。
ワインが喋るという奇抜な発想と、予測できそうで、できない展開で客席の絶え間ない笑いを誘った元気一杯、終始、笑顔一杯で演じられた秀作。特に神戸ワインが登場して「・・・とう。ダボ。」の神戸弁のクダリは拍手喝采の大盛り上がりでありました。


 二つ目は、同じく、地元神戸出身・六代桂文枝一門の桂三若師匠。
桂米紫、桂三若、桂春蝶、桂福矢、桂文鹿、桂三金、桂かい枝、林家菊丸、桂吉弥と逸材揃いの平成六年入門師匠連の一人で、 早くから楽屋入りされ、チラシの挟み込みのお手伝いも頂き、『辰巳の左褄』で高座へ登場。あいさつは、いつもの、「寝起きのジュリー」ではなく、地元にピッタリな「パルモア病院生まれのジュリー・桂三若」から、その後、押部谷で育ったと自己紹介。これだけで客席との親近感は数段UP。
・・・ 押部谷町は、現在は神戸市西区。昭和57年に西区新設により垂水区より編入。昭和22年に明石郡より神戸市垂水区へ編入。明治22年町村制施行により明石郡押部谷村。江戸時代は播磨の国でした。神戸電鉄(シンユウ・シンテツ・シンデン)には押部谷駅が有ります。路線は鈴蘭台を西から北へ、鈴蘭台西口⇒西鈴蘭台⇒藍那⇒木津⇒木幡⇒栄⇒押部谷・・・三木と続きます。 
 この師匠も4年前から東京へ進出。「東京ではよそ者、大阪では裏切り者」と呼ばれているから、大阪と東京の気質の違いで笑いを誘って、怒っている大阪人のマクラへと続き、スッと絶妙に自作のちょっとしたことに腹をたてている夫婦の会話で綴る、題して『カルシウム不足夫婦』がスタート。
現代感覚に溢れ、テンポもある秀作でありました。
下りて来られた三若師匠、「ええお客さんで気持ち良かった。もっと長く高座におったら良かった。残念。来月は『同期会』や、スケジュールが合わず残念やわ」との感想でありました。


 三つ目は、同じく、地元神戸・楠町出身、当席常連の桂あやめ師匠。入門のキッカケとなったのは当席。キャリアも36年。お弟子さんの桂おとめ嬢を連れての楽屋入り。何時までも若々しいあやめちゃんであります。芸名にちなんだ『あやめ浴衣』の出囃子で高座へ顔見せる。何とも艶やか。「えー、一杯のお客様で・・・。阪神大震災の復興一回目を思い出します。あの時は通路まで座って・・・。まるで避難所見たい。並んでいる人にインタビューすると、中には『えー、炊き出しちゃうの』。」と、当時を想い出してのマクラに客席は大爆笑に包まれる。愛娘の高校入学や、入門直前直後の当席の思い出などの爆笑マクラの後、「この噺は東京の『厩火事』をヒントに作くりました。」と、始まった本題は、『恋する更年期』。主人公は50歳の女性、22年下の彼氏の本当の気持ちを確かめようと画策して・・・。純真な女心に出した年下の彼氏の答えは・・・。見事なサゲでお後と交代になりました。


 中トリは、笑福亭福笑師匠。創作落語の鉄人です。四十年の歴史の当席への出演回数NO1の師匠で、今回も早くから楽屋入りして「怪談するねん。ハメモノのキッカケの打ち合わせ」と、準備万全。さらに、今回は「マジック・イリュージョン」的な要素を取り入れた作品で、笑福亭仁智師匠にも、「ボソボソ」とアピール。
『佃くずし』をキッチリ一杯(曲を最初から最後まで)で座布団へ。最近のニュース、相撲界のゴタゴタを題材の爆笑マクラから始まったのは、題して、恐怖落語『金策幽霊』。幽霊とタッグを組んでのイリュージョンは大成功。この噺では、アッと驚く、奇術も有り、客席の大喝采を呼び込む。内容は詳しく書けないのが残念ですが、大いに弾けた半時間の秀作でありました。

 中入り後は、笑福亭仁智師匠。現在、上方落語協会副会長。言うまでも無くこの師匠も鉄人です。『オクラホマミキサー』の出囃子で高座へ登場し、「えー、先ほどは福笑先輩のひきょうな落語でございまして・・・。」と、ネタを仕込んであった福笑師匠とマジックとは違う仕込みのないマジックとして『消えるティッシュ』をネタばらしも含めて紹介。マクラは、先日、お亡くなりになられた月亭可朝師匠の選挙の陣中見舞いに仁鶴師匠のお供でお伺いした時の事実談を紹介し、「もう30年以上前にここでネタ卸した噺・・・。」と始まったのが、『老女A』。
初演は昭和58年4月の開席5周年記念公演四日目。再演が翌昭和59年12月。以降、今回で7度目口演となる師匠の鉄板中の鉄板ネタで、もう古典の風格のある噺。
中森明菜の大ヒット曲、『少女A【昭和57年7月発売】』と内容は関係有りそうでなさそうな。
高齢化社会を明るく生き抜く老女A。面白すぎる、おばあちゃんが大活躍する、展開の想像はつくのだが、思わずニッコリしてしまう秀作であります。
仁智師匠の出囃子の『オクラホマミキサー』は、フォークダンスの定番曲。学生時代に踊られた経験者も多いはず。知っているようで知らないこの曲は、アメリカの歌曲の『ターキー・イン・ザ・ストロー、藁の中の七面鳥』。♪~馬車での道中、重い荷物に疲れた馬達。ビシッとムチ打ちゃ馬が飛び跳ね。「どうどう」と馬をなだめる。藁の中の七面鳥、干草の中の七面鳥。転げてよじれて 藁の中の七面鳥。

 四十周年記念特別公演のトリは上方落語協会会長の六代桂文枝師匠にお忙しい中、お願いし、「恋雅亭ならよろこんで」と快諾頂きました。早くから楽屋入りされ、先日お亡くなりになられた月亭可朝師匠との映画、『仁鶴・可朝・三枝の男三匹やったるでぇ! ・昭和45年』の競演話を、仁智師匠と、仁智師匠は「私は47年の入門で、映画は見ましたが知りませんでした。私の入門は選挙に出馬された時で・・・。」と、先ほどのマクラの内容で楽屋を爆笑に。来客として新開地の落語定席の『新開地・喜楽館』の高四代(たかよんだい)館長がお見えで談笑。凮月堂の下村会長への挨拶を済ませ、『本調子中の舞』の出囃子に乗って手を振りながら、これも曲を一杯聞かせて登場。「ありがとうございます。えー、最近、耳が遠くなりまして、耳は近くにあるのですが、聞こえ難くなりまして・・・。」と、耳鼻科での実話談で大きな笑いをとって、「やっぱり、頭はしっかりしとかなあきまへん。」と、始まったのは自作の創作落語、『惚けてたまるか』。
題材は最近の家庭の問題、痴呆老人介護。一人息子に引き取られた老人(舅)と息子の嫁の確執を縦糸に、その老人の亡くなった嫁との想い出と息子の嫁との比較を横糸に織り成される秀作。

今回もサービス精神一杯。ホンワカムード一杯、笑いもそして、哀愁も一杯の高座は四十分を超える熱演は、拍手と笑いの連続でサゲとなりました。さて、お聴きになられたお客様のこの88歳の老人のボケの診断は、次のどれでしょうか? ①全然ボケていない。 ②所々、ボケが始まっている。 ③昔の事は覚えているが今は覚えていない典型的なボケ。
 口演の後、7月11日に杮落としする新開地・喜楽館やら、客席におられた館長を紹介されました。