もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第474回 もとまち寄席 恋雅亭  
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 公演日時: 平成30年2月10日(土)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  林家  愛 染  「狸の鯉」
  笑福亭 風 喬  「首の仕替え」
  林家  花 丸  「うぬぼれ屋」
  桂   春 若  「天狗裁き」
    中入
  桂   文 昇  「猫の皿」
  桂   塩 鯛  「貧乏神」(主任)
 (飛び入り)
  笑福亭 鶴 瓶
  「徂徠豆腐」


   打ち出し 21時20分 
   三味線  入谷和女、勝 正子。  
   鳴り物  桂 米輝。
   お手伝  笑福亭恭瓶、笑福亭乾瓶、佐々木千華。
 今回は、平成三十年二月第474回如月公演を開催させて頂きました。
一月十一日の前売り開始後、順調な売れ行きを示して当日(建国記念日関連の三連休初日)を迎えました。実は、鶴瓶師匠飛び入りの大ハプニング公演となることは、月曜日(五日)から判っていました。「早く発表すると、大入りになるけど、他の出演者に迷惑が掛かるし、遠慮して短くなったらあかんので、いつも通りのスタイルで。」との師匠の意向で発表しませんでした。
 当日は、寒波襲来、更に折り悪く雨模様。傘を差して多くのお客様に開場まで並んで頂きました。いつもならが並んで頂くお客様の為になんとか出来ないかと無い知恵を絞って考えていますが中々、妙案がありません。
 チラシの数も多く、挟み手も出演者の師匠連やチラシ持込の落語会関係者にもお手伝い頂き、五時ジャストから挟み込みをスタート。手際良くこなし、定刻の五時半、開場となりました。
いつもながら並んで頂いたお客様が、一番太鼓に迎えられ、「過度な席取り厳禁、館内禁煙」の注意事項にうなずかれながら思い思いの椅子に着席。その後もお客様の出足は途切れず、着到(二番太鼓)の頃には、ほぼ大入満席となりました。

 その公演のトップは、林家染丸一門から地元明石出身の林家愛染師。平成二十一年に染丸師匠の末弟として入門されキャリア九年。当席へは、平成二十七年三月十日の「染弥改め 三代目林家菊丸襲名記念公演」以来の出演となります。早くから楽屋入りされ、「前回は菊丸襲名記念」のお情けで出たようなもの。今回が初出演です。」満面の笑みでお手伝いや楽屋準備をこなされる。元気一杯のイケメンは笑顔も素敵です。
 『石段』の出囃子で登場され、落語会の携帯電話の諸注意を説明。ただ写真撮影は全面禁止なので「今の内に」はNGワード。そして、「実は今のNHKの朝ドラに出ましてん。」と、『わろてんか』出演秘話で笑いを誘って、始まった本題は『狸の札~鯉』。この噺、一連の鶴の恩返しならぬ狸の恩返し噺。お馴染みの『狸の賽』まで続けて演じると半時間を超える大作。愛染師は主人公に助けてもらった狸が借金返済のお札と兄貴分の男児の端午の節句の縁起物の鯉。お馴染みの噺の割に当席でも『狸の賽』が二十回演じられているのに対して『狸の鯉』は今回で二回目と珍しい。愛染師は口演回数多い様子でファンタジーらしくホンワカムード一杯、元気一杯、終始、笑顔一杯で演じられた秀作でありました。

 二つ目は、故六代目笑福亭松喬一門の末弟・笑福亭風喬師匠。平成十年入門ですからキャリア二十年の上方落語界の中軸で、平成十八年・NHK新人演芸大賞、平成二十二年・なにわ芸術祭新人賞を受賞されておられる逸材で、師匠譲りの太い骨格のきめ細かい上方落語を楽しみにされておられるお客様の拍手と長崎県に伝わる童歌(わらべうた)のひとつの、『でんでらりゅうば』の出囃子で高座へ登場。
 挨拶の後、「私、NHKの朝ドラに出ましてん。」と、愛染師と話題が付いたことを逆手に笑いを誘う。『べっぴんさん』の商店街の店主役での出演裏話から有料打ち上げ出席秘話を紹介して、始まった本題は『首の仕替え』。
 この噺、前半が女子に惚れられる方法を教えてくれと喜公が甚兵衛さんに、「一見栄、二男、三金、四芸、五声(せい)、六未通(おぼこ)、七声詞(せりふ)、八力、九肝(きも)、十評判」、と教えてもらい自分には備わっていないかと次々尋ねるが全てアウトの『色事根問』。後半は芸事を習いに行くと『けいこ屋』で、諦め首を替えることを勧められる首を替えに行くのが『首の仕替え』と、変化に飛んだ面白い噺。風喬師匠は、師匠の松喬師匠からの口伝を下敷きに、前半をご自身のクスグリで爆笑を誘う。後半も医者の名前を赤壁周庵先生を犬の目を入れて捕まった眼科医と紹介したり、替える首の構成も現代に通じるクスグリと工夫満載。大いに笑いを誘ってサゲとなりました。
 ちなみに、噺家の首は、「お骨の生焼け・桂歌丸」「エラのはった四角い顔・笑福亭仁鶴」「いつも怒っている顔・桂ざこば」「ええーーー男・笑福亭風喬」と、「恐い、怖い」と言いながらの口演は爆笑の連続でした。

 三つ目は、トップと同じく林家染丸一門から林家花丸師匠。この師匠も平成十一年・なにわ芸術祭新人賞、平成二十二年・繁昌亭爆笑賞、平成二十六年・文化庁芸術祭賞大賞、平成二十六年・繁昌亭大賞などと受賞暦ではひけをとらない逸材、皆様よくご存知の通りです。
ちらしの挟み込みも手伝って頂き、『ダーク』の出囃子で高座へ登場。
江戸落語と上方落語のお客様の違いを面白く紹介して、マクラは「悪徳吉本興業の実態」、「花丸落語教室の生徒の実態」と本題に関連する話題から始まった本題は、平成二十四年二月十八日・『第五回超古典落語の会』初演の上方咄本より小佐田定雄先生が脚色された『うぬぼれ屋』の一席。
自分の芸の力が判っていない自信過剰な大店の主人、困り果て「芸のダメ烙印」を押してとけいこ屋のお師匠はんに頼み込む被害者連中、いやな役を引き受けるお師匠はんが巻き起こす古典の匂いがプンプンする内容。全編爆笑の連続で、アッと思わず顔がほころび笑みの中から笑いが爆発するサゲとなりました。

 中トリは、故三代目桂春團治一門で、上方落語界の大御所・桂春若師匠の登場となりました。昭和四十五年に入門ですからキャリアも四十八年。「昔、若ちゃん。今、若師匠」と呼ばれている、芸名と同じくいつまでも若々しい師匠で、行儀の良い先輩の師匠連の教えに忠実な正統派上方古典落語を演じるべく早くから楽屋入りされ、終始ニコニコムード。
「鶴瓶から電話掛かってきて、『兄さん、すんません。よろしゅう頼んます。
『遠慮せんとタップリ演(や)って下さい』ちゅよんねん。売れてても何時までも行儀のええやっちゃで。わしも六代目(笑福亭松鶴)や内の師匠(三代目春團治)にはよう怒られたけど、今となっては助かってるわ。鶴瓶もいっしょや。」このムードは鶴瓶師匠が到着されて打ち上げまで続きました。
『供奴』の出囃子に乗って高座へ登場。「いっぱいのお運び、感謝でございます。」のあいさつから師匠オリジナルの『ジョーク』がスタート。「百メートル決勝スタジアムの男性の前の空席の訳」、「天国の入り口で本物かを証明するトランプ大統領」「アメリカ大陸を見つけたのは?」などなど。「貴方、起きて、睡眠薬を飲む時間よ。」、「夢の酒はお早めに」で大爆笑を誘って、すっと本題の『天狗裁き』がスタート。実に見事な流れ。
 夫婦、友達、家主、奉行、そして、天狗と多くの登場人物と、長屋、奉行所、そして、鞍馬山と場面転換も多く、非常に難しい噺ですが、そこはベテランの春若師匠、米朝師匠直伝をベースに目の動きや言葉遣いで演じ分けられる。さらに、ここというポイントでは、実に見事な間で客席全体を大爆笑に包み込む。簡単なように演じられておられるが、一秒の何分の一短くてもこの大爆笑は決して起こらない。これが判って待てるかどうかが腕のある噺家と言えるかどうかの境目。見事な半時間の好演でお仲入りとなりました。
 この噺、元々は『羽団扇』と言う噺の前半部分で、天狗から上手く羽団扇を取り上げ空中遊泳。ドスンと落ちた先が七福神の宝船、全て夢で女房に起されサゲとなります。
 春若師匠の出囃子は、『供奴(ともやっこ)』吉原の遊郭に遊びに行く主人のお供をしていた奴(やっこ)がはぐれ、提灯を持って主人を探し回るという舞踊の時の長唄で曲調も派手で、若師匠の出囃子としてピッタリな曲。

 中入り後は、故五代目桂文枝一門から桂文昇師匠。いつまでも愛くるしい笑顔と語り口で若々しい師匠で、今回も大好きな当席の出演とあって大張りきりで、『越後獅子』の出囃子に乗って登場。ツカミは「えー休憩開けでございまして・・・。スマホはいらわないように・・・。いらうとカラオケのリモコンでどつきますよ。話し合い示談、警察に届けずに上方落語協会へ届けて・・・。」と、直近の話題で客席を爆笑の渦へ。マクラは、落語以外の仕事として造幣局の前から上がる花火の合間にお客様の前でしゃべる仕事。毎年、環境が変わります。初年度・お客様の最後列。二年度・前面だったがライトなし。三年度・下からペンライトのみ。四年度以降・電話無くテレビで見てます。
 さらに、我々の仕事は人によって値打ちが違う。同じように書画骨董も値段があってないようなもので解らない物とのマクラから『猫の皿』が始まる。
 この噺、何でもない噺ですが、サゲが最高。何でもない噺だけに場面設定やちょっとした間が大切。これが狂うと受けない。ベテランの師匠だけにその辺りは良く熟知され、大阪平野ののどかな風景をベースに茶店の主人から、梅鉢紋高麗茶碗を騙し取ろうとの策略の会話や猫の動きなど見事に演出が決まり、見事なサゲとなりました。

 如月公演のトリは桂ざこば一門の総領弟子で、上方落語界の大御所・桂塩鯛師匠にお願い致しました。早くから楽屋入りされ、鶴瓶師匠へのあいさつの後、『鯛や鯛』の出囃子でドッシリと高座へ登場。客席から「待ってました!」と声が掛かる。
マクラは、「我々の仲間には神を信じない人と信じる人がいる」と、信じない人の代表で上岡龍太郎、信じる人の代表で、一門の**(御曹司)を挙げて理由を説明。怪我をして治らないので、行った先は「拝み屋さん」。その拝み屋さんから「医者へ行け」と言われたと客席を爆笑に巻き込んで始まった本題は、小佐田定雄作の『貧乏神』。場面は古典、内容は貧乏神が登場する摩訶不思議なストーリー。桂枝雀師匠の十八番でしたが、その噺を見事に、人の良い貧乏神とグウタラな主人公が塩鯛流になっている秀作で、会話、仕草、目線の一つ一つで客席は大爆笑に包まれる。サゲも決まって半時間弱のトリの高座はお開きとなりました。
 当席では平成二十八年六月の第456回公演で、桂きん枝師匠が同名の『貧乏神』を演じておられますが、こちらは各駅亭車氏作の全く別の噺です。
 貧乏神は、薄汚れた老人の姿で、痩せこけた身体で首からは頭陀袋(ずだぶくろ)を下げ、顔色は青ざめた顔色で悲しそうな表情で、手に好物の味噌の芳香を楽しむための渋団扇を持っている姿。怠け者が好きで、押入れに住み着くそうです。熱に弱く囲炉裏で火を焚くと逃げて代わりに福の神が来るという説もあるそうです。
 余談ですが、昔、鉛筆の両端とも削ることを『貧乏削り』と言っていませんでしたか?。

 本来はここでバレ太鼓が鳴りお開きとなるのですが冒頭でも書きましたが、出囃子が『トンコ節』に変わって、お茶子さんが「鶴瓶」名ビラを持って登場。それを見たお客様から拍手が起こる。帰り掛けたお客様も異変に気が付き再び着席。鶴瓶師匠が高座へ姿を現すと大きなドヨメキと共に拍手喝采。
 「えー、本来であれば今の塩鯛でお開きなんです。僕のスケジュールと十日が合わず久しぶりでございまして、今日はネタ下しをやりたくて・・・。遠慮なさらずに用事のある方は帰って下さいよ。」と、鶴瓶ワールドがスタート。ドラマ出演の話や、『家族に乾杯』の裏話を披露の後、今日の噺の主人公の荻生徂徠を紹介し、講談・浪曲種で、まだ、進化途中の噺と断って『徂徠豆腐』がスタート。サゲ前でちょっと言い間違いはありましたが、それもご愛嬌で、「ドラマが頭に浮かぶ落語を演(や)りたい」と言っておられる師匠にピッタリな熱演は半時間。お客様は「良かった」「得した」「ビックリした」と言いながら会場を後にされた大盛り上がりの如月公演はお開きとなりました。