もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第465回 もとまち寄席 恋雅亭  
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 公演日時: 平成29年5月10日(水)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   三 幸  「初天神」
  桂   雀 喜  「老老稽古」
  月亭  文 都  「鶴飛脚」
  笑福亭 松 枝  「牛ほめ」
    中入
  桂   花團治  「昭和任侠伝」
  桂   雀 々  「インドの落日」三遊亭円丈 作(主任)


   打ち出し 21時00分 
   三味線  勝 正子。  
   お囃子  月亭 天使。
   お手伝  桂 三ノ助、月亭 秀都、笑福亭 縁。

 今回は、平成二十九年五月・第465回公演を開催させて頂きました。
四月十一日の前売り開始後、堅実に売れ続けた前売り券も開催の一週間前に売り切れとなりました。電話の問い合わせも多い中、当日。出足はと思いましたが、いつも通りのお客様の出足で多くのお客様に並んで頂きました。
 チラシの数はビックリ! 多い、多い、織り込みも、演者さんに応援を頂き、手際良くこなし、定刻の五時半に開場となりました。
いつもながら並んで頂いたお客様が、一番太鼓に迎えられて思い思いの椅子に着席。その後もお客様の出足は途切れず、最後尾に長椅子も並べましたが、着到(二番太鼓)がなる頃には、立ち見も出る大入満席となりました。

 もとまち寄席・恋雅亭平成二十九年の皐月公演のトップは、六代桂文枝一門から桂三幸師。
愛媛大学卒業後、平成十四年に入門。キャリア十五年で当席初出演となりました。
古典と創作の両刀使いで、師匠の教えを忠実に守って落語への前向きな取り組みは各地の落語会でも評判。さらに、吉本所属の男前ユニットのメンバーであることを付け加えておきます。
 三味線・正子嬢、太鼓・天使師、鐘・三之助師らの『石段』の出囃子で高座へ飛び出すような元気一杯の登場となりました。トップの持分を理解され、袖では持ち時間を気にされるあたり師匠の教育のたわものと感心。
 実話のマクラから始まった本題は、古今東西多くの演じ手がおられる『初天神』の一席。初天神に連れて行ってもらうための寅ちゃんの画策のクダリは勿論、大受け。時間の関係で、みたらし団子のクダリでお後と交代となりました。

 二つ目は、桂雀三郎一門から桂雀喜師匠。同志社大学出身の逸材で、大学時代に桂春蝶師匠の家庭教師でもある師匠。平成五年に筆頭弟子として入門し、師匠譲りの滑らかな口調と切り口の鋭い落語で活躍中。今回はどんな噺を演じて頂けるか今から楽しみの客席へ『昭和拳』の出囃子に乗って一見、香港のカンフースターを彷彿とさせるような風貌で高座へ登場。
 マクラで充分に客席を暖めてから始まった噺は、長坂堅太郎氏作の『老老稽古』の一席。
ちなみに、長坂堅太郎は雀喜師匠の本名なので、自作自演の噺です。
落語の師弟関係を題材に、老老師弟が繰り広げる爆笑編で、さらに、弟子が師匠に移ってと場面転換も最高。随所に散りばめられたクスグリは、客席の落語通には「そうそう」と、落語初心者には「そんなアホな」と爆笑を誘う。雀三郎、雀喜師匠との口調がよく似ているし、それでなくても雀三郎師匠の口調で演じられたおられるので、この二師匠(雀三郎、雀喜)の今から二十年後の姿と感じられたお客様も多かった秀作でありました。

 三つ目は、月亭八方一門の知恵袋・月亭文都師匠。各地の地域寄席でも活躍され、平成二十五年に七代目月亭文都を襲名。地道に落語に取り組まれている当席常連の逸材です。今回も幅広い演題の中から選りすぐりの一席を演じて頂けることでしょう。と、期待の中、月亭天使、月亭秀都のお弟子さんを伴われて楽屋入り。
 早いもので秀都師も、三年前に当席楽屋口で出待ちし、出演された文都師匠に弟子入り志願して、年が明ける(一本立ち)。
『おかめ』の出囃子で高座へ登場してのマクラは、「落語の中には昔話のような噺があります。」と、サゲのある「桃太郎」、「鶴の恩返し」、「花咲爺さん」を、爆笑の客席に「こんなパターンお好きですね」と突っ込みを入れながら楽しそうに演じられ始まった本題は、『鶴飛脚(田中啓文氏 作』
マクラでもありましたが、昔話のような何かホンワカとする筋立てで聞いていて心がやすらぐ秀作。それでいて、ツボツボに散りばめられたクスグリが笑いを増幅させる。
狙い済ましたようなサゲがズバリ決まった二十五分の熱演でありました。

 中トリは、故六代目笑福亭松鶴一門・上方落語界の重鎮・笑福亭松枝師匠にお願い致しました。当席常連で、今回もお弟子さんの笑福亭縁(えにし)嬢を引き連れての楽屋入り。楽屋でもニコニコムード。『早船』の出囃子で高座へ。マクラは「いつの間にか大御所とか重鎮になってしまった。この間まで、米朝師匠や春團治師匠がご存命でした。ただ、生きておられるだけで心の支えでした。それが今や・・・(ここからはピー)。」
そして、「恋雅亭でも初めてお聴きになる珍しい噺・・・(口元にんやり)です」と断って、「さあ、こっち入り・・・、池田のおっっさんの普請ほめて・・・」と、始まると客席からクスクスと反応が有り、始まった本題は『牛ほめ(池田の牛ほめ)』がスタート。
前座噺の定番を楽しむように、基本に忠実に演じられるので、ツボツボで爆笑が起こる。
マクラも入れて、半時間弱の口演は完全版の『牛ほめ』でありました。
 この噺は六代目松鶴師匠が松葉、鶴志師匠に付けておられるのを横で聞いていて覚えたそうで、「いざ、噺を付けて(教えて)もらうとなると緊張してなぁ。横で聞いてる方が早く覚えるで」。
さらに、「この噺な、台所の大黒柱で小遣い儲けをすんねん。一刻も早く台所に行きたいねん。だから、それを腹に入れといて、けど、普請の口上が聞かせどころやねん。意外と難しいねんで・・・。」とお伺いしました。
 ここで登場する牛は、「天角地眼一黒鹿頭耳小歯違」。角はまっすぐ天を指しており、目は地をみつめており、毛色は全体黒く、耳は小さく、歯は上下食い違っていると良い牛とされています。
 又、池田のおっさんの普請は見事なもので、「表が総一面の栂造り」「庭が縮緬漆喰」「上り框が桜の三間半節無しの通り門」「畳が備後表ヨリ縁(へり)」。「薩摩杉の鶉杢(うずらもく)」「南天の床柱」「萩の違い棚」「黒柿の床框(とこがまち)」「探幽の富士・蜀山人(しょくさんじん)の詩付き」「棗(なつめ)形の手水鉢」「尾州・ジャクオウザン(すみません漢字判りません)芯去り四方柾(まさ)」「何でも鑑定団」にでも出品すれば「いい仕事してますね」となる逸品揃いです。

 中入りカブリは、先代桂春蝶一門から桂花團治師匠。蝶六からこれも上方落語の名跡の花團治を平成二十七年に七十年ぶりに襲名。当席でも『襲名記念公演』でお目見えを果たし、当席でもお馴染みの師匠です。
長唄「月の巻」の一節の『井出の山吹』の出囃子に乗って満面の笑みで高座へ登場。
マクラは当席、先代春蝶師匠の想い出から、師匠に同行した敦賀落語会の打ち上げで、そっちの方(背中に絵を描いている方)にサインを頼まれて困った実話談、実は師匠はそっちの方が好きだった、と繋いで始まった本題は、先代春蝶師匠の十八番だった『昭和任侠伝』。
会場は一気に四十五年前にタイムスリップ。この噺、実にコンパクトに出来上がっており、花團治師匠の口演も、笑い満載、トントンと噺が進んで、爆笑が起こり、そしてサゲとなりました。

*******  『昭和任侠伝』と桂音也師匠  ********
・『昭和任侠伝』は、桂音也師匠が、当時、絶大なる人気のあった東映任侠映画のパロディを随所に盛り込んで、昭和四十五年頃、創作された新作落語。健兄い(高倉健)、鶴田おじき(叔父き鶴田浩二、緋牡丹お竜(藤純子・現:富司純子)らが主演した東映任侠映画のパロディが散りばめられた噺。
・故桂春蝶師匠(先代)が十八番とされ、没後は、花團治師匠や実子の桂春蝶師匠など一門の方を中心にで演じられています。
・原作者の桂音也師匠は、神戸大学卒業後、朝日放送にアナウンサーとして入社。後輩の道上洋三、乾浩明らと落語研究会を作り趣味で落語を始め、高じて大学の後輩の桂枝雀師匠に昭和四十五年に入門され桂音也。以後、数々の自作の創作落語で活躍されておられたが、昭和五十三年三月亡くなられた。当席のご出演はかないませんでした。
・自作には『昭和任侠伝』、と音源が残っているのでは、『履歴書』(『代書』の現代アレンジ版)、『日本沈没その後』『やもめの定やん』『四百四十年』『わぁ』『野須・虎田・陸奥の大予言』『羽衣』『旅の恥』となど。

 五月皐月公演のトリは、故桂枝雀一門から、「けいじゃんじゃん」こと、当席常連の桂雀々師匠に大変お忙しい中、お願い致しました。早くから楽屋入りされ、同人会スタッフと本日のネタのハメモノ(音楽)のキッカケの打ち合わせを念入りに。結果的には、バツグンのタイミングでCDが流れ、師匠から「完璧でした」のお礼を頂戴しました。
 いつもながら元気一杯で『鍛冶屋』の出囃子で高座へ登場されると本日一番の拍手が起こる。「えー、一杯のお客様でありがとうございます。『かつらじゃくじゃく、又の名をケイジャンジャン』と申します。」と、鉄板の挨拶から、マクラは昭和五十二年入門当時の話題。今年が入門四十年の記念の年。そして、幼少期の苦労談を明るく、明るく語り客席の笑いを誘う。そして、始まった本題は、師匠と同じような家庭環境の新作落語・『インドの落日(三遊亭円丈作)』。噺の内容は、ちょっと、お涙頂戴パターンだが、雀々師匠のキャラクターが明るく・さわやかな演出が随所に。そして、絶妙のキッカケで音楽が流れ、お開きとなりました。
 本日は恋雅亭にしては、ちょっと珍しい古典二席、新作四席の番組構成でした。

*******  三遊亭円丈師匠と『インドの落日』  ********
・円丈師匠は、昭和三十九年、六代目三遊亭円生師匠に入門、ぬう生。昭和五十三年、三遊亭円丈で真打昇進。師匠の死後新作落語で活躍中です。上方ではあまりお馴染みがありませんが、六代文枝師匠や福笑師匠に大きな影響を与えておられる巨人であります。
・円丈師匠の新作落語は、戦前戦後を通じて従来のお客に分かり易く、親しみやすい筋立てや登場人物が笑いを誘う形から、「異形」に近い、「圓丈的典型」の構成になっています。例えば、「机と手がくっついた男『ぺたりこん』」とか、「死ぬ前に芸者遊びがしたいと飛び回る末期ガン患者『夢一夜』」、など荒唐無稽です。
・紙面ではとても紹介しきれませんが、順不同で、前出の他に『国際噺家戦略』、『パニック・イン・落語界』、『自殺便り』、、『グリコ少年』、『悲しみは埼玉へ向けて』、『パタパタ』、『ギャグを訪ねて三千里』、『いたちの留吉』、『遥かなるたぬきうどん』、『横松和平』、『一ツ家ラブストーリー』、『ランボー怒りの脱出』、『新寿限無』などがあります。
『インドの落日』は円丈師匠が、『インドの落日』は、昭和五十五年、池袋演芸場で「十日連続三題話」で「あまよの品定め、インド、死体置き場」の三題を前夜にもらい、一晩で作り演じたというものだそうです。それを、雀々師匠が口伝されたものです。
・音源は、CD化され発売されものと、昭和六十年のNHK落語FM亭の2テイクあります。