もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第462回 もとまち寄席 恋雅亭  
◆春駒HOME◆恋雅亭TOP◆公演記録目次
 公演日時: 平成29年2月10日(金)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  林 家 市 楼  「ちりちり」
  桂   まん我  「お玉牛」
  林 家 花 丸  「けんか長屋」
  露 の 新 治  「井戸の茶碗」
    中入
  笑福亭 恭 瓶  「何言うてんねん」
  月 亭 八 方  「猫の忠信」(主任)


   打ち出し 21時10分 
   三味線  はやし家律子。  
   お囃子  桂 紋四郎。
   お手伝  桂 三ノ助、月亭 八織。

今回は、平成二十九年二月・如月・第462回公演を開催させて頂きました。
一月十一日の前売り開始後、堅実に売れ続けた前売り券も一月末には売り切れとなりました。
電話の問い合わせも多い中、当日を迎えました。当日は週末の金曜日とはいえ、今年二度目の寒波到来の天気予報で出足も心配される中、いつも通りのお客様の出足。寒い中、多くのお客様に並んで頂きました。
 チラシの数はいつも通りでしたが、織り込み部隊も人数が集まり、手際良くこなし、定刻の五時半に開場となりました。寒い中を並んで頂いたお客様は、一番太鼓に迎えられて思い思いの椅子に着席されました。開場後、ちょっと、中だるみはありましたが、当日券のお客様にもご入場頂き、着到(二番太鼓)がなる頃には丁度の大入満席となりました。※今回は一部パイプ椅子新調。

 もとまち寄席・恋雅亭平成二十九七年の如月公演のトップは、故四代目林家染語楼師匠の実子の林家市楼師。当席の常連でした、市ちゃん(染語楼)、松ちゃん(松葉)、駒ちゃん(春駒)も鬼籍に入られ、染語楼師匠も十三回忌を迎えました。三代目染語楼師匠は祖父に当たり三代続いた噺家。先代、先々代譲りで生まれついての噺家の市楼師。いつもながらもったいない番組でキャリア十六年でトップでの出演。『石段』の出囃子で高座へ登場し、「市楼(いちろう)と申しまして・・・」と、野球のイチロー選手との出場数と高座数を比較して笑いを誘って、「落語には古典と新作がありまして、一般的に噺の舞台が昔と今で区分けされますが、本日は時代設定が遣唐使の頃の新作落語」と、断って、落語作家・小佐田定雄先生の創作落語『ちりちり』がスタート。
 この噺、セリフ廻しも古風な大阪弁で、内容は昔ながらの出世のための「ヨイショ」。
貢物としての茶釜が名品(珍品)で、嘘をつくと、「チリチリ」と鳴る。
公家が「麻呂は嘘をついたことがはごじゃりませぬ」とは鳴り、「麻呂は阿保でおじゃりまする」と言うと鳴らない。その一言一言に客席は大爆笑に包まれる。
親子なので随所に四代目を思わせる部分もあり、市楼師の個性も生かされた秀作で、おそらくサゲもこの噺だけであろう、下座の鳴り物が務める秀作。
トップから笑いの全開の高座でありました。

 二つ目は、地元神戸出身・当席久々の出演となります、桂まん我師匠。師匠の四代目文我師匠の教えを守っての正統派で達者な落語は芸術祭新人賞、咲くやこの花賞、NHK新人演芸大賞など、各賞を総なめにしました。『くいな』の出囃子で高座へ登場し、「ここは、いつまでも慣れませんねん。(客席の方を指差して)私も、昔はあの辺りに座ってまして・・・。」そして、「噺家とはありがたいもので、・・・。」と、憧れの三代目桂春團治師匠に噺を教えてもらった時の実話を紹介して、
「本日は、その中でも格調高い、夜這いのお話を・・・。」と、始まった本題は、『お玉牛』。
この噺、春團治師匠が立花家花橘師匠から口伝され、エロチックな要素を薄め、磨きこんだ見せる落語の代表であります。その噺を原本に忠実にキッチリと演じられるまん我師匠の秀作は十八分。随所で客席の笑いが、「クスクス」が「ワッハハ」に変わった名演でありました。
この噺、昔は『堀越村』とも言われて、前半と後半で噺がガラリと変わります。後半を『お玉牛』として、演じられています。『貝野村』も同様な噺で後半を独立させ『手水廻し』として演じられています。
前半は京都の有力者の丹下雪之丞霧之助とその娘・玉菊が都を追われ、乳母を頼って紀州と大和の国境の堀越村にたどり着く。庄屋の作男だった、親切な与治兵衛とおるい夫婦の家に泊めてもらうことになる。その晩、父親の容態が急変し亡くなる。頼る所の無くなった玉菊は、おるいの歳の離れた京都育ちの妹として名前もお玉と変えて村に居つくことになるという筋立て。

 三つ目は、四代目林家染丸一門から林家花丸師匠。昨年は第九回繁昌亭大賞や文化庁芸術祭大賞を受賞され、芸名同様、満開の花のようで、一門伝統のはんなり・もっちゃり・ほんわかした高座でノリノリの師匠です。
『ダーク』の出囃子で登場してのマクラは大好きな宝塚歌劇の鑑賞。あまりにのめり込み過ぎて最近は仲間から「落語も歌劇調」との突っ込みに反抗してDVDで見てみるとやはり歌劇調。」と、笑いを誘って始まった本題は、五代目文枝師匠の十八番だった『けんか長屋』の一席。「女房妬くほど亭主モテもせず」の故事を紹介して、ある長屋での夫婦喧嘩が発端。これが炎上し、長屋連中も巻き込んで、仲裁に入った家主も怒り心頭で段々大きくなる喧嘩。長屋の皆が全員仲裁のために中に入って・・・。
花丸師匠曰く、「やっと、この噺が出来る歳になりましたわ。好きでしてん。この噺。」と言われる様に、任(にん)にピッタリな噺で、テンポの良い展開と多彩な登場人物。さらにサゲにも一工夫あっての秀作は二十二分。実に結構な出来で再演が心待ちの花丸師匠です。
この噺、上方落語らしい噺ですが、当席では、この『けんか長屋』の他に『宿屋町』『かか違い』『不精の代参』などが、実はあまり数多く演じられていない珍しい噺となってしまいました。

 中トリは、故露の五郎兵衛一門から当席でも熱狂的ファンをお持ちの露の新治師匠に大変お忙しい中、ご出演を頂くことになりました。
電話で過去の演じられたネタの確認をされて満を持しての登場となりました。楽屋入りされても高座の様子や持ち時間を入念にチェックされ、『金比羅』の出囃子で満面の笑みで高座へ登場すると待ってましたとばかり客席から大きな拍手が巻き起こる。
挨拶から「えー、世の中には訳の判らんことが多いですな。七十年、全国で計り続けた座高。止めました、理由は意味が無かったため。なんやねん」と、客席と一体となって噺が進み、始まった演題は、『井戸の茶碗』の一席。
この噺、東京では演じ手も多く、別名を『茶碗屋敷』とも呼ばれている噺。講談ネタを落語の人情噺化されたもので、お涙頂戴の噺が多い中、登場人物の全員が実直な善人という、聴いていてホッとして思わず目頭が熱くなり、拍手をしたくなるような明るい人情噺です。
聞き手(お客様)も語り手(演者)も気持ちの良い古典落語の代表作の一つであります。この噺を身体全体から善人が溢れ出る新治師匠が笑わす処、泣かす処、決める処と見事に演じ分けられた、サクサク、トントンと進む実に小気味よい半時間弱の口演。サゲとなった時には天井が落ちそうなほどの拍手が巻き起こったことが、満足・納得のOKを頂けることの何よりの証明でありました。

 中入りカブリは、笑福亭鶴瓶一門から笑福亭恭瓶師匠。一門では笑瓶、晃瓶、純瓶、達瓶、についでの五番弟子。九州福岡出身で、博多弁を生かしての落語で各地の落語会で活躍中。
出番を待つ楽屋でも温かく、ホンワカしたムード。
そのムードそのままに『いやとび』の出囃子でややざわつきが残っている高座へ登場。師匠譲りのマクラのうまさで客席は恭瓶ワールドに知らず知らずに突入。
マクラでの恭瓶師匠と娘さんとの関係の実話から本題へスムーズに移行。
始まった本題は、『何言うとんねん』。現文枝師匠が三枝時代の創作落語で、恭瓶師匠からは、直接、お稽古頂いた大感激の一席だそうです。
どこの家庭でもあるような、子供の不良化を心配する親と、親が心配していることを良く理解している子供。結果的には親が心配しているほど悪い子供はいない、親のことを良く理解している子供の内容なので後味の実に良く、恭瓶師匠のキャラクターとピッタリな秀作・名演でありました。
予断ですが、この噺、時代と共に内容が変化する噺で、妻が見ているジャニーズのアイドル写真も「ヤっくん(薬丸裕英)」、「ニッキ(錦織)」、「タッキー(滝沢)」と変化。恭瓶師匠は「マツジュン(松本潤)」で演じられていました。

 二月如月公演のトリは上方落語界の重鎮・月亭八方師匠に、大変お忙しい中、お願いし、「恋雅亭なら喜んで」と快諾を頂きました。女性のお弟子さんの八織(はおり)師を連れて楽屋入りし、上機嫌で楽屋で談笑。
『夫婦萬歳』のノリノリの出囃子で高座へ登場、
お得意の『八方はなし』で大いに客席を笑わして始まった本題は『猫の忠信』、縮めて『猫忠』の一席。
この噺、個性豊かな多くの人物が登場し、場面もクルクル変わる力の要る噺で、発端は道での立ち話から嫉妬から夫婦喧嘩を狙うが失敗。このあたりからちょっと怪談調になってくる。稽古屋では芝居風に種明かし、そして、「なーんや、猫やったんか」との一言でパッと舞台が明るくなって、名づくしとなってサゲとなる、その間、笑いの連続のお客様も師匠も大爆発の四十分の秀作でありました。
 どうでも良いことですが、常吉に化けていた猫が正体を現して、「申ぉします、申ぉ~します・・・高貴の方に飼われたる、素性正しき三毛猫の・・・。あれに掛かりしあの三味の、表皮は父の皮、裏皮は母の皮・・・。」との口上になります。この猫の両親は三毛猫ですが、遺伝子の関係で三毛猫の雄はわずかな確率でしか生まれません。さらに、その雄には生殖能力がありません。よって、この猫の父親は? 今も昔も人も猫も男女の関係は複雑。

 この噺は、歌舞伎、文楽で「仮名手本忠臣蔵」「菅原伝授手習鑑」と並んで三大名作と称される「義経千本桜」のパロディで、「鮓屋」「渡海屋」「吉野山」「川連法眼館(通称・四の切)」の段などは有名です。噺の登場人物も源義経を始め、弁慶、静御前、亀井片岡伊勢駿河の四天王等々や佐藤忠信は狐が化けている設定で登場しますし、前半に出てくる、もめさしの六さんも亀井六郎の名前とオンパレード。
「建て」とは、一つの演目を通し語ることで、「見取り」とはいろんな出し物から有名なところを少しずつ語る「よりどり見取り」公演スタイルのことで、この落語でいう「千本の建て」とは、「義経千本桜」を全編語る番組となっており、素人の会にしては凄い番組といえます。