もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第458回 もとまち寄席 恋雅亭 
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 公演日時: 平成28年10月10日(月)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   雀 太  「いらちの愛宕参り」
  桂   文 鹿  「銃撃戦」
  露の  吉 次  「風呂敷」
  桂   九 雀  「茶の湯」
    中入
  桂   あやめ  「大往生しまっせ!」
  笑福亭 松 枝  「立切」(主任)


   三味線  入谷和女、勝 正子。 
   お囃子  桂 二葉。
   お手伝  笑福亭遊喬、桂 三ノ助、笑福亭 縁、笑福亭竹吉。

 今回は、今年十回目となります、第458回公演を開催させて頂きました。
九月十一日の前売り開始後、順調な売れ行きを示しました。その後も電話の問い合わせも多い中、当日を迎えました。当日は三連休の最終日(月曜日・体育の日)で天候も良く、いつも以上にお客様のご来場も早く、本通りに溢れ二重三重のお客様に並んで頂きました。いつもながら長時間、並んで頂いたお客様には申し訳ないことです。
 いつも以上に多く届いたチラシを開場準備に間に合わそうと一丸となって、人海戦術で手際良くこなし、定刻の五時半に開場となりました。その後も、ご来場されるお客様は途切れず着到(二番太鼓)がなる頃には大入満席となりました。

 定刻の六時半開席となり、『石段』の出囃子に乗って、桂雀三郎一門から桂雀太師が登場。
師匠譲りの口跡の良さとテンポの良い高座を受け継ぎ各地の落語会やマスコミでも活躍中の逸材。
マクラもそこそこに始まった本題は『いらちの愛宕詣り』。
発端からサゲまで、大爆笑に次ぐ爆笑。ツボを外さない見事な好演はさすが!
客席を温め、沸騰させてお後と交代となりました。この実力でトップで十五分は勿体無い。
 この噺、元々は上方噺、東京へ移植されて『堀の内』として演じられています。
「いらち」とは大阪弁で「あわて者」「せっかちな者」の意味との説明は要りませんね。
四代目松鶴師匠のSPレコードが残っており笑福亭一門のお家芸とされています。

 二つ目は桂文鹿師匠。個性溢れる平成六年入門組の九人衆【かい枝、菊丸、吉弥、三金、三若、春蝶、福矢、文鹿、米紫、五十音順】の一人で、元プロボクサーから文福師匠に入門、ちゃん好から、入門十年を機に文鹿へ改名。落語の腕もグングンとアップ。
 古典落語をベースに『さわやか航空652便』や、今回の『銃撃戦』など、異次元の切り口の創作落語は爆笑もの。
師匠譲りの個性溢れる高座を期待する拍手と『キューピー』の出囃子で、粋な着流しで高座へ登場。お客様と演者ではない独特の口調でお客様を文鹿ワールドへ。
マクラは、「待ってました」はいりませんで、第一声は我々みんな考えて出てくんねん。そこへ掛かるとビックリ、けど今日はやりやすいけど。主催の中山寺の落語会の駐車場の車は外車が大半、上郡は軽トラが大半。一席の落語の値段は言って欲しい言われるけど言いにくいけど多いほどえで。」
おねおねの様で文鹿ワールドのマクラから自作の創作落語『銃撃戦』がスタート。
紙面で表現出来ないこれも、マクラと同じく文鹿ワールドの笑いの銃撃全開でありました。

 三つ目は、露の五郎兵衛一門から露の吉次師匠。個性溢れるコテコテの高座を今回もと、『かんちろりん』の出囃子に乗って高座へ登場。
「ありがとうございます。・・・私ごとですが五十二になりました。四十七で初婚、四十八で女の子が出来まして・・・。」その度に客席から、「あらビックリ」との反応。五十を前に授かった娘さんとのなんとも微笑ましい世間話。
客席から笑いを誘って、スッーと始まった本題は『風呂敷』の一席。
発端からサゲまで、随所に艶笑噺の名手だった師匠(露の五郎兵衛)を感じさせる名演で、ツボツボで、クスクスと笑いが巻き起こった好演でありました。
この噺は、風呂敷(ふろしき)は古典落語の演目として東京落語で広く演じられています。
吉次師匠の噺の内容からだと感じませんが、『風呂敷間男』との別名からでもお判りの通り、元は艶笑落語(バレ噺)で、昭和の戦時中に「禁演落語」として自粛対象となったので、エロティックな要素を排した滑稽噺としての演じ方が成立し、その流れによるものです。
戦前の型を最後まで伝えられた四代目古今亭志ん好師匠の口演を聴いてみると、これは、どう聴いても艶笑やなという演出でした。

 中トリは、枝雀一門から桂九雀師匠にお願いいしました。
当席では中トリとして、師匠譲りのテンポの良い上方落語を演じて頂いていますが、今回もその幅広い演目の中から何を? 楽しみにされた客席からの出喝采と、『楽しやな』の出囃子に乗って長身をやや前屈みにし座布団へおっちん。
「ありがとうございます。私が終わりますと皆様、お待ちかねの休憩時間でございまして、・・・。今日は休日で体育の日。・・・恋雅亭での落語鑑賞、もっとも良い選択で・・・。」
趣味の噺から「芸の道」。「柔らの道で柔道、弓の道で弓道、華の道で華道、私の知ってる道は山陽自動車道。」この間、笑いが絶えない。そして、お茶の道の茶道と紹介して、『茶の湯』。
 一門の先輩の先代歌之助師匠のようでもあり。九雀師匠の個性の漫画チックが加わった秀作。
発端で客席全体をグッとひきつけて、サゲでパッと離すまで、ハショリもカットも感じさせない見事な半時間の好演でお中入りとなりました。
この噺の原話は、江戸時代の笑話本『江戸嬉笑』の一編『茶菓子』。
講談の『関ヶ原合戦記』のうちの一段『福島正則の荒茶の湯』が下敷きにあると言われています。なお、この講談は、東京で活躍中の笑福亭鶴光師匠が、上方落語に焼き直され『荒大名の茶の湯』として演じられています。

 中入りカブリは、桂あやめ師匠。
あやめ師匠は、地元・神戸市兵庫区の出身で、昭和五十七年五代目桂文枝師匠に入門し、桂花枝。当席でも襲名披露公演を開催しましたが、平成六年に三代目桂あやめを襲名。
※初代阿や免は、四代目桂文枝、二代目あやめは、五代目桂文枝と出世名前です。
切り口鋭い創作落語だけでなく、林家染雀師匠との音曲漫才コンビ「姉様キングス」でもお馴染みです。実姉は、当日も縁の下の力持ちのお囃子の入谷和女嬢。
当日もお忙しい中、早めの楽屋入りで準備万全。芸名にちなんだ出囃子の『菖蒲浴衣』で、高座へ姿を見せると天井が抜けるほどの拍手。「えー、噂通りの大入り満員でございまして、ありがたい限りでございます。」
マクラはやはり、NHKの朝ドラの『べっぴんさん』から。
「あのドラマ、子供服のファミリアさんがモデルで、神戸が舞台・・・。けど、言葉が上品過ぎる。異人館みたいな家にすんで、・・・。私ら、やっとう、知っとう、ダボ(客席大爆笑・神戸ならでは)。」、言うて欲しいわ。・・・。荒田や新開地も。」
最近、不倫報道多いわ。最高の応対は、中村橋之助婦人の三田寛子。と、謝りながら心の中を表現する、出来立てほやほやの自作の創作ミニ落語『離縁(梨園)の妻』。
大爆笑のマクラから始まった本題は、自作の創作落語の『大往生しまっせ!』。
どこかで聴いたような昔の名女優が入院中。そこから巻き起こる一大スペクタル。上へ行ったり、下かと思えば、後とハチャメヤなようで一本筋が通っている。これをいつもながらの小綺麗なあやめ師匠が、宝塚を思わせる口調で演じるのだから面白くないわけがない。
爆笑に次ぐ爆笑で二十五分の高座はお後と交代となりました。
けど、『離縁の妻』は絶品でした。

 十月公演のトリは、上方落語界の大御所で実力を備えられた笑福亭松枝師匠に御願いしたしました。
お弟子さんの竹吉師を伴った師匠とばったり途中で遭遇し、会場入り。
『早舟』の出囃子が鳴る中、お茶子さんが小さなクッションを用意。それを膝に挟み、一礼。
「最近、正座をしようとすると右膝が痛みましてこんな顔(しかめっ面)してしまいます。立ち上がる時にもう一度こんな顔をします。原因が判らないです。・・・・。座ってしまえば痛くない。けど、落語しだすと、お客様がこんな顔を(大爆笑)。」とのマクラから始まった本題は、『立切』の一席。
 ご存知、上方落語の大物であります。
発端の若旦那が下の様子を訊くクダリ。番頭の策略に騙されて蔵の中へ。そして、蔵から出て小糸宅へ。現実を知らされる。と、常に若旦那は登場するのだが、相対する人物に存在感満点。
 サゲ前のお仏壇から聞こえる小糸の三味線とお唄をたっぷり流して、若旦那がうつむいて目頭を押さえる静寂な時間をタップリと、全編、客席を引き込む名演。
サゲの瞬間、一瞬、間が有り、天井が落ちるほどの拍手でお開きとなりました。