もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第457回 もとまち寄席 恋雅亭 
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 公演日時: 平成28年9月10日(土)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  笑福亭 生 寿  「金釣り」
  桂   紅 雀  「七度狐 」
  笑福亭 銀 瓶  「一文笛」
  桂   枝女太  「住吉駕籠」
    中入
  露の  團 六  「もう半分」
  笑福亭 仁 智  「いくじー」(主任)


   三味線  勝 正子。
   お囃子  桂 紋四郎。
   お手伝  笑福亭遊喬。

 『石段』の出囃子で元気良く高座へ登場し、キャリア十年にして初出演をアピールすると、客席から大きな拍手が起こる。名ビラを見ながら、「せいじゅ」と読みます。決して「なまことぶき」では有りませんとのツカミから、後で大受けとなる携帯電話の注意事項を紹介して、「実は、ここ(恋雅亭)の初出演の時にする噺は『金釣り』と決めておりまして・・・。」と、六年半前に当席で桂團朝師匠が演じられ三年半前に口伝を受けた逸話を紹介してスタート。
金儲けを熱望する男が登場する、当席では二度目の口演となります噺。
この噺、伸縮自在の『商売根問』の一部として演じられこともありますが、鴻池(子のいけ)の上をいく親池の商家には金がタップリあると聞いて、金を釣りに行くなんとも奇妙な噺で、思わず拍手喝采となるサゲもバッチリ決まった、前座の持ち時間をキッチリ守ってお後へ引き継がれた行儀の良い好演。途中でマクラで注意した携帯電話が鳴ったハプニングも無難に交わされた十五分でありました。
この噺を生寿師からは、「六代目松鶴師匠も演じられましたが、色々なクダリが付いていましたので、コンパクトな團朝師匠に付けて頂きました。」と、お伺いしました。

 二つ目は、米朝一門から桂紅雀師匠。
『さいさい節』の出囃子で元気良く登場。高座袖で、けつまずく本日二回目のハプニング発生。
客席の笑いを誘って座布団へオッチン。
「えー、・・・ありがとうございます。高座へ上がる前に滑ってる場合じゃないです。」と、ツカミから、「落語家は位が上がらない。上の人が死なない。」と、一門の大御所のざこば師匠と南光師匠のいつまでも元気一杯の怒り方を例に紹介して、大爆笑マクラから始まった本題は、東の旅シリーズから『七度狐』の一席。
『野辺』、『煮売屋』、をカットして、七度狐の登場から噺はスタート。
実に行儀が良い高座は、「悪い奴なぁー・・・」と狐が復讐を誓って消えてから、裸で川を「深いか浅いか」と渡ったり、尼寺へ迷い込んだり、色々な物を食べさせられ、金貸しのばあさんの幽霊が出たりとさあ大変。
お囃子もタップリ入って噺はトントンと展開。紅雀師匠のいつまでも若々しく、愛くるしく個性を存分に発揮、登場人物(狐も含め)がホンワカとしたムードと御伽噺的要素満載の噺の中で大活躍し、聴いていて気持ちが良い秀作で、ハショルったりカットしたりすることなく余すところ無く演じ、二十分で大いに盛り上がった『七度狐』は、お後と交代となりました。
この噺、別名を『庵寺』。サゲは百姓は狐に向かい、「いい加減に、旅の者を騙しておかぬかい」。すると狐、「いい加減に、庵寺つぶしておかぬかい」。「庵寺つぶす」は、”あんだら尽くす。(馬鹿な真似をするの意)の地口落ちですが、今ではなんのこっちゃとても分かりにくい。

 三つ目は、鶴瓶一門から「銀ちゃん」こと、笑福亭銀瓶師匠の登場となりました。
地元、神戸出身で当席でもお馴染みの師匠で、大ヒットしたNHKの朝の連ドラ『朝がきた』へも、鶴瓶師匠と一緒に出演されたことをご存知の方も多い。
師匠譲りの『拳の三味線』の出囃子で高座へ登場し、「今日は何かありまっせ。・・・」と前の出演者のハプニングで笑いを取って、「世の中、間違いがありまして・・・。」と、居酒屋での会話を紹介。
オリンピック四連覇の伊調(いちょう)馨さんの勤め先を「アルソック」を「ソルマック」と間違え突っ込まれた男が、「ええんや、胃腸(いちょう)薬や。」には、タイムリーな人物だけに客席は大爆笑に包まれる。
このマクラにタイミング良く、本日、三つ目のハプニング発生。舞台前をお客様が左から右へ横切られる。これに銀瓶師匠は、次の出番の枝女太師匠に「枝女太兄さん、気を付けなはれや、今日は何かありまっせ。」と、楽屋に向かってタイミング良くアナンス。これには客席が天井の落ちるほどの大爆笑。
高座を下りて来られた銀瓶師匠、「マクラの本題に入る前の絶好なタイミングで美味しかった。」
そして、「ここで、演じても問題のない噺」として盗人の噺、それも「スリ」は、ステータスが高く、名人芸は、すった財布から中身を抜き、勘定して領収書を入れてまた元へもどすと紹介して始まった本題は、米朝師匠の創作の『一文笛』の一席。
イケメンで品のある師匠だけに、話術も仕草も見事。発端から面白い内容、場面転換、さらに、ほろっとさせる処もあり、あっと息を呑むサゲまでの二十二分の口演は、原作にさらに磨きのかかった秀作でありました。「よっ、銀ちゃん! お見事!」と声を掛けたい。

 中トリは五代目文枝一門から桂枝女太師匠。「しめやん」との愛称ですが、キャリアも来年で四十年と、上方落語界の重鎮で、当席でも中トリとしての登場が多くなった師匠です。
楽屋入りされネタ帳をご覧になり、ネタを検討中。小生の、「五代目師匠は夏はよく『船弁慶』を演(や)ってはりましたね。」に、「そやねん、よく、ここへは師匠(五代目文枝)の鞄持ちで来てましてんで。今日の候補でしたが、先席に塩鯛師匠で出てますね」。
『岸の柳』の出囃子で高座へ登場。マクラで久しぶりの一日で掛け持ちの嬉しさで客席の笑いと、見事に「枝女太の世界」にムードに持っていって始まった本題は、上方落語の大物の『住吉駕篭』。
発端、向かいの親父、夫婦連れ、浪人、酔っ払い、そして、堂島の旦那とフルバージョンで、客席の反応を楽しむように、どちらかと言うと豪腕ではなく肩の凝らなく演じられた半時間強の秀作でお中入りとなりました。

 中入りカブリは、地元神戸出身の露の團六師匠に久々、ご出演願いました。闘病生活で痩せられた感のある師匠ですが、『かじや』の出囃子で高座に上がられるとその片鱗も見せられず、闘病生活のマクラからスタート。
麻酔薬を吸わずにお医者さんから「吸え!」と怒られたとか、全身麻酔での手術後、*ン*ンの管をどんな若い可愛い看護婦さんが抜きに来てくれるかを楽しみにしていたら、遣って来たのは男。おもわず、「チェンジ、可愛いねえちゃんに。」と言うと、すかさず、「ここは、風俗とちゃいます」。
ちょっと、今日は早く来たので元町通りを一丁目から六丁目まで歩いたから、大阪の天神橋商店街は日本一長く十丁目まである。その十丁目のはずれの長柄橋にあった小さな居酒屋。と、噺の舞台設定を説明してスタート。
煮売屋で毎日のようにお酒を茶碗に半分頼のむ爺さん。今日もお代わりを「もう半分」とまた注文。「もう半分」、「もう半分」と結局充分飲んで帰って行く。帰った後を片づけをしていると大金の包みが置き忘れてある。亭主が追いかけて届けてやろうとすると、女房が止める。大慌てで返ってきた落とし主が「あの金は娘が身を売ってこしらえた金。返して」に対してもシラを切りネコババしてしまう。落胆して川に身を投げて死んでしまう。居酒屋夫婦はその金を元に裕福な暮らしをし、あきらめていた子供にも恵まれる。
しかし、その赤ん坊は可愛いどころか、やせ細って髪の毛は真っ白、あの爺さんにそっくり。女房は気が触れて亡くなってしまう。乳母を雇ってはみるが居つかず直ぐに辞めてしまう。事情を聞いて夜、赤ん坊と同室した。夜も更けて丑三つ刻(うしみつどき)、児がムックリと起きだして、細い腕で行灯(あんどん)の油を舐め始めた。主人が声を掛けると振り向き、爺さんそっくりな顔で「もう半分」。
文章だけを読むとなんとも後味の悪い笑えない噺を師匠の話術と明るさで見事に克服。
お客様の反応も上々でサゲと同時に大きな拍手が起こった二十分強の秀作でありました。
この噺は、明治の名人・三遊亭円朝師匠の作で怪談調の怖い噺でした。
團六師匠には、八代目林家正蔵⇒露の五郎兵衛と伝わったと推測されます。

 トリは「上方創作落語の鉄人」、笑福亭仁智師匠。当席常連の師匠としてはちょっと、間が開き二年ぶりの出演となりました。
「久しぶりやなぁ。二年ぶりやで。」いつも通りニコニコしながら楽屋入り。
重厚な『六段くずし』ではなく、軽快な『オクラホマ・ミキサー』の出囃子で高座へ登場。
つかみから「仁智ワールド」全開。マクラも大爆発のうちに、「『源太と兄貴』の兄貴がやっちゃん引退、十1年の兄貴。」と、子や孫に男の背中を見せる、題して『いくじー』。
お風呂から兄貴きち源太に、「おい、源太、バブとってくれ」。源太の入れたものは「ポリデント」。
全編、このスタイル。自宅から学校へ、そして、町内クイズ大会へと場面転換も派手。
とても紙面では表現出来ません。ただ一言。「笑わせて頂きました。ありがとうございました」。

・・・・・・・仁智師匠と当席・・・・・・・・・・・・
師匠と当席のつながりは深い。
開席当初から、明るくて、どの位置でもピッタリな師匠は、笑クリエイト社の楠本社長の出番組にはなくてはならない逸材でした。阪神大震災前の数年は年に3~4回の出演でありました。
楠本社長がお亡くなりになり、同人会が結成されてからも、世話人の故春駒師匠と同期の縁もあって、ほぼ年に一度の間隔で出演されて爆笑創作落語を演じて頂いています。
433回『目指せ甲子園』、415回『兄貴の頭』、403回『多事争論』、389回『ハードラック』、376回『源太と兄貴・純情編』、363回『源太と兄貴』、351回『EBI』、336回『川柳は心の憂さの吹き溜まり』、325回『トクさん・トメさん』、316回『スタディベースボール』、300回『目指せ甲子園』、286回『ハードラック』、264回『アイスクリーム』、250回『アフリカ探検』、244回『川柳は心の憂さの吹き溜まり』、228回『目指せ甲子園』、210回『健康居酒屋DHA』、199回『掛取り』。