もとまち寄席 恋雅亭 | ||
公演記録 | 第455回 もとまち寄席 恋雅亭 | |
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公演日時: 平成28年7月10日(日) 午後6時30分開演 | ||
出演者 演目 桂 壱之輔 「真田小僧」 桂 かい枝 「青菜」 笑福亭 仁 昇 「ちしゃ医者 」 桂 小春團治 「断捨離ウオーズ」 中入 桂 米 左 「豊竹屋」 桂 文 太 「百人坊主」(主任) 三味線 勝 正子、佐々木千華。 お囃子 桂 紋四郎。 お手伝 桂 三ノ助。 |
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今回は、今年七回目となります、第455回公演を開催させて頂きました。 6月11日の前売り開始後、順調な売れ行きで、七月を待たずに完売。その後も電話の問い合わせも多い中、当日を迎えました。当日は日曜日で、さらに参議院選挙投票日。天候も良く、いつも以上にお客様のご来場も早く、本通りに溢れそうになったお客様を二度三度と前に詰めて頂きました。いつもながら長時間、並んで頂いたお客様には申し訳ないことです。 ここで当席開席以来の重大事故発生。パンフレットが到着しない。急遽、パンフレットをコピーで間に合わせ、いつも以上に多く届いたチラシを開場準備に間に合わそうと一丸となって、人海戦術で手際良くこなし、定刻の五時半に開場となりました。 次々とお客様に、印刷の不手際をお詫びしながら、ご入場頂きました。 その後も、ご来場されるお客様は途切れず着到(二番太鼓)がなる頃には大入満席となりました。 七月公演トップは、当席、初出演となります桂春之輔一門の総領弟子の桂壱之輔師。師匠の教えを忠実に守って、キッチリした高座や楽屋での立ち振る舞いは各地の落語会でも定評があります。トップとして重責を果たすべく、早くから楽屋入りされ、鳴り物の準備、チラシの挟み込みの手伝いをして頂き、定刻の六時半、『石段』の出囃子で高座へ登場となりました。 なお、今回の笛はトリの文太師匠が担当頂きました。 まず、同人会からお願いしたパンフレットの間違いのお詫びを連絡頂き、マクラもそこそこに始まった本題は、『真田小僧』の一席。 キャリアも充分で達者な師だけにお客様のツカミもバッチリで噺は進み、客席は大爆笑の連続。 こましゃくれた息子とまんまと話術にハマってしまう父親も、息子に騙されることになる母親も、登場人物の全員が壱之輔師のニンともピッタリ。客席の笑いもクスクスからハハハ、そして、ワッハッハとヒートUP。ピークになった瞬間を見定めたようなサゲも決まって十七分の爆笑高座はお後と交代となりました。 この『真田小僧』の噺の前半は別名を『あんまさんご苦労』と言い上方では演じられていました。全編で半時間となる噺なので時間の関係で大いに盛り上がったここで切るのが良い切れ場と思います。 この噺の後半は、まんまと小遣いをせしめたこの息子を、騙された父親が「本当に知恵のある子供は・・・」と言って、講談で真田幸村の若い時代の話を母親にする。それを逆手にとった息子が又々、小遣いを「真田の六文銭を教えて」と、騙し取ってさつま芋を買うことでサゲとなります。演題の由来はここまで演じないと判らないのです。NHKの大河ドラマの『真田丸』では、どう描かれるか不明ですが、講談では真田幸村は大阪冬の陣で討ち死にではなく、薩摩(さつま・現在の鹿児島県)へ落ちていくことになっていますので、そのことからサゲとなったようです。 それから、もう一つ。各業界では世間の人には判らない言葉・隠語、符牒というのがあります。落界でも色々あります。数字は今は音楽のC(チェー)、D(デー)、E(イー)ですが、昔は、(一)へい、(二)びき、(三)やま、(四)ささき、(五)かたこ、(六)さなだ、(七)たぬま、(八)やわた、(九)きわ、となっていて、武家大名の紋所から採ったとされています。六は真田の紋所の六文銭です。 二つ目は、平成六年入門組の一人の桂かい枝師匠。地元神戸出身で古典、創作、英語落語と大活躍な師匠です。 ※平成六年は八人が入門されそれぞれの個性を生かして大活躍中で、芸名と( )内は師匠・前名を五十音順に敬称略で紹介します。桂かい枝(五代目文枝)、林家菊丸(四代目染丸、前名・染弥)、桂吉弥(吉朝)、桂三金(当代文枝)、桂三若(当代文枝)、桂春蝶(三代目春團治、前名・春菜)、桂福矢(四代目福團治)、桂文鹿(文福、前名・ちゃん好)、桂米紫(塩鯛、前名・都んぼ)。当席常連のメンバーばかりです。 今回も当席や各地の落語会で実証済みの爆笑落語で客席全体から巻き起こるような大爆笑を誘うべく、楽屋入りされるや、当席のネタ帳(過去の演題・演者控)を入念にチェックされ、演題を『青菜』と決定。 実は先席で笑福亭呂鶴師匠が演じられる予定でしたが、前に出丸師匠が『寄合酒』を演じられたので急遽、『皿屋敷』に変更され演じられなかった噺です。直前になって演題を変える、この辺りが事前にネタを決定していない当席の真剣勝負の所以であります。 「これ、四年出てませんねん。季節もピッタリやしね。」と『三枚弾き』の出囃子に乗って満員の客席の拍手に迎えられ登場。「えーー」この師匠のほのぼのとした口調で客席はホンワカムード。 おねおねと爆笑マクラから、「植木屋さん・・・。」と始まった本題は予定通り、夏の定番『青菜』の一席。一旦、地に戻って「落語を良くご存じの方は、もうお解かりですね。あれです。あの噺ですね。この噺、ここでは四年出てません・・・。」と、再稼動。基本に忠実に随所にご自身の工夫満載の爆笑落語は、汗ブルブルの大熱演でお馴染みのサゲとなりました。 この噺の演題にもなっている青菜は、蕪(かぶ)の葉または間引き菜で、日本には古くからあり、ヨーロッパ原産で、弥生時代に伝来されたとされています。 柳陰(やなぎかげ)は、本来は焼酎と味醂を醸造過程でミックスするのが本醸造ですが、焼酎に味醂を加えたカクテルも柳陰と言った、らしい。 三つ目は、笑福亭仁鶴一門から笑福亭仁昇師匠。 師匠譲りの爆笑上方落語を、一門伝統の何となくホンワカ・ユッタリとした高座をどうぞお楽しみに。と、ご紹介しましたが、当席のご出演はタイミングが合わず、久々のご出演となりました。 『お山の杉の子』で、高座へ登場し、久しぶりの出演をマクラに始まった本題は、上方落語の伝統? の汚い噺の代表、『ちしゃ医者』の一席。 一見インテリ風で風格のある風貌と語り口の仁昇師匠の口演は発端からサゲまで爆笑の連続で、特に後半はお手水(ちょうず)屋さんが登場して***を、顔に塗られるといった汚い噺の横綱で、会場全体にプーンと臭ってくるような熱演。その熱演に客席は含み笑い、こらえるような、そして、こらえきれない大爆笑に包み込まれたいつもながらの当席のお客様を大満足に包み込んだ好演でありました。 この噺も、『青菜』と同じく当席で演じられるのは第327回公演・桂雀三郎口演。七年開いて第411回公演・桂春駒口演以来、四年ぶりとなります。 ※出囃子の浮き浮きするような『お山の杉の子』は、「(一)♪~昔、昔、その昔、椎の木林のすぐそばに・・・」。出来たのは昭和十九年で国威発揚の唱歌として生まれました。戦後は歌詞を変更してて楽しい童謡となっています。昔の歌詞は、(五)大きな杉は 何になる。兵隊さんを 運ぶ船。傷痍の勇士の 寝るお家 寝るお家、・・・・。それを、(五)大きな杉は 何になる。お舟の帆柱(ほばしら) 梯子段(はしごだん)。とんとん大工さん たてる家(うち) たてる家、・・・。 落語でも同じことですが、時代と共に変化した内容となっていますね。 この噺の演題にもなっていのは、「ちしゃ(萵苣)」。現在ではこの植物名は使われていませんが、実は皆様、良くご存じの野菜のレタスの一種で、現在のような球形ではなくて、サニーレタスのような、葉っぱ状のレタス(小松菜のようなもの)です。 薄学で判りませんが、夏場にたくさん食べると、食あたりしたそうで、「夏の医者(ちしゃ)は腹にさわる。」と、『夏の医者』のサゲにもなっています。 中トリは、桂春團治一門・上方落語界の重鎮の桂小春團治師匠にお願い致しました。 当席の常連として、数多くご出演頂き、今回も切り口鋭い爆笑創作落語を演じるべく、早くから楽屋入りされ、チラシの挟み込み用のハンドクリームを持参され、挟み込みもお手伝い頂きました。 高座袖から客席の反応を確認され、『小春團治囃子』の出囃子に万雷の拍手に迎えられ、高座へ登場。「えー、世の中には片付け下手の方がいらっしゃいます。」からマクラがスタート。 師匠ご自身も片付け下手で悩んでおられたらしいが、「片付け下手病」と、言う病名の病気だと判ってホッとしましたと、始まった本題は自作の『断捨離(ダンシャリ)ウオーズ』。 どこにでもいる夫婦の、どこにでもあるような会話をベースに爆笑噺は進展。「ダンシャリ」と「ダンミツ」など、とても紙面には表現出来ないギャグ満載の口演は半時間弱。客席全体に響き渡るお客様の拍手と「お中入り~~」の声と共に中入を告げる太鼓が鳴り響きました。 中入りカブリは、桂米朝一門から桂米左師匠。 イケメンの師匠が、色々な芸事の名手としての土壌をベースに演じられる上方落語は客席全体を爆笑に巻き込む落語を演じて頂けることでしょう。と、ご紹介の通り、早くから楽屋入りされ準備万全で、『勧進帳寄せの合方』の出囃子で高座へ登場。 「楽しい、楽しい中入り休憩の後、こんなんが出て参りまして・・・。八時を廻りまして選挙速報が気になる中・・・。」と、切り出して、「拍手を出喝采と呼ぶ」と振って、歌舞伎の掛け声の掛け方へ、そして、歌舞伎役者の屋号を紹介して、大阪と東京の掛け声の掛け方の違いを誇張ぎみに紹介。 マクラは歌舞伎から文楽に変わって、「日本人が日本の物語を日本語で演じて、字幕が出る」、太夫さんとお三味線との陰陽の妙を紹介して十八番の『豊竹屋』。 あらゆる芸能に造詣が深い師匠ならではの演題。浄瑠璃好きの豊竹屋節右衛門さんと口三味線名人?の花梨(かりん)胴八さんが即興の浄瑠璃を語ることになり、お互いに「先に」「先に」と順番を譲っているうちに、どちらともなく「先に旗持ち踊りつつ、三味や太鼓で打ちはやす」「チン、チン、チンドンヤ」。「水をじゃあじゃあ出しっぱなし、隣の婆さん洗濯」 「ジャジャ、シャボン、シャボン」。とコラボレーション。 さらにヒートアップし、「去年の暮れの大晦日、米屋と酒屋に責められて」 「テンテコマイ、テンテコマイ(てんてこ舞い)」。「二十五日のお祭りは」 「テンジンサン、テンジンサン(天神さん)」。「子供の着物を親が着て」「ツンツルテン、ツンツルテン」。「夏の売り物、そばに似れども蕎麦でない、うどんに似れどもうどんでない、酢をかけ蜜かけ食べるのは」「トコロテン(心太)、カンテン(寒天)」。「それを食べ過ぎてお腹を壊して駆け行く先は」 「セッチン、セッチン(雪隠)」 。 そして、サゲとなりました。よく通る声とテンポの良い展開がマッチし、師匠自身も大いに楽しんで、乗り乗りの二十二分の高座でありました。 七月公演のトリは、もうご説明の必要ない上方落語界の大御所、桂文太師匠に御願いし、「喜んで出してもらうで」と快諾頂きました。 早くから楽屋入りされ、出囃子の笛を担当され、お囃子さんとキッカケの打ち合わせをして、『さわぎ』の出囃子が鳴り、メクリが「文太」に変わると客席全体から沸き上がるような熱気が判る。 高座へ姿を見せると、本日一番の拍手と、「待ってました!」「タップリ!」と客席のあちこちから声が掛かる。 「えー感謝でございます。待ってました! なんて、ありがたいことでございます。この間、繁昌亭に出ましたらご祝儀が飛んできまして、あの時は演(や)りにくかった。その点、今日は演り易いなぁ・・・(客席拍手喝采)」。そして、今日、七月十日が六十四回目の誕生日だそうです。 「少々、長いお噺ですので、九時を越えると思いますが、選挙速報はご了承下さい」と、客席の拍手で了解を頂いたとして始まったのは、『百人坊主』の一席。 この噺、東京では『大山詣り』として演じられ、神奈川の大山へお詣りするのですが、文太師匠は、大和吉野の大峰山にお詣りすることに設定を上方バージョンにされています。 お詣りして海難に遭うのだから、関西の人には、大峰山~高野山~太子のコースは浮かび易いが、ちょっと、距離に無理はあるが、そこは落語の世界のご愛敬。 途中、きっかけを思いっきり間違えられていたことには、焦ることなく難なく処理され、本番では逆に大きな笑いと拍手が起こる。 発端からサゲまで、舞台転換もトントンと半時間強。サゲの後、熱演に満足されたお客様の喝采が鳴りやまなかったことを付け加えておきたい。 |