もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第444回 
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 公演日時: 平成27年8月10日(月)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  笑福亭  由 瓶  「うなぎ屋」
  桂    あさ吉  「ポトフの作り方」
  笑福亭  伯 枝  「悪酔い」
      文 太  「明烏」
    中入
  林家   小 染  「仏師屋盗人」
  桂    南 光  「抜け雀」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  勝 正子
   お手伝  桂 三ノ助
 平成二十七年も八回目の公演。過去の大入満席公演を受けて、一年で一番暑い・暑さ全開の八月十日の月曜日。
 前売券は発売後一週間で完売。その後も電話の問い合わせが途切れない中、当日を迎えました。お客様の出足も絶好調。暑い中、並んで頂くお客様の体調を考慮して、木戸口前に、急遽、椅子を並べて対策を打つも焼け石に水。お客様の列はドンドン長くなってくる。多く届いたチラシを開場準備に間に合わそうと一丸となって人海戦術で手際良くこなし、定刻の五時半に開場。
早くから暑い中、並ばれたお客様から次々とパンフレットに挟み込まれた一杯のチラシを持って景気の良い一番太鼓に迎えられてご入場され、思い思いの席を確保されました。長時間、それも暑い中、持って頂いたお客様にはいつもながら本当に申し訳ないことであります。その後も次々ご来場のお客様で席は次々と埋まっていき、当日券を一時ストップし、着到(二番太鼓)がなる頃には、立ち見も出る大入満席の状態となりました。

 八月公演のトップはマスコミで大活躍の笑福亭鶴瓶一門から笑福亭由瓶師。
師匠同様、真摯に落語に取り組む姿勢は各地の落語会で実証済み。平成十二年入門ですのでいつもながら勿体ない当席の出番組。早くから楽屋入りされ楽屋の準備も万全。正子・千華嬢の三味線での『石段』の出囃子に乗って満席の客席の拍手に迎えられてトップバッターとして高座へ登場。
「えー、一杯のお客様の熱気で暑いですが、もう汗ブルブルで・・・。」と、挨拶。トップの意味合いを意識されマクラもなく本題の『うなぎ屋』の一席。
ただ酒を飲むために苦労した逸話や、鰻屋の主人の困る様子をコミュカルに小気味良いテンポで演じる秀作に、客席は言うまでもなくツボツボで爆笑が起こる。上下前後に逃げ惑う鰻に困り果てる主人の仕草はまるで本物の鰻がいるようで、会場からは大きな拍手が起こった、十三分の元気一杯・汗一杯の高座は大爆笑の十三分でありました。
この噺は東西でよく演じられる噺ですが、同じ原話を元に、上方で演じられる筋(由瓶師はこの演出)と、明治維新で没落した士族が、鰻屋を開く通称『士族の商法』。昭和の名人・八代目桂文楽師匠の十八番中の十八番の『素人鰻』に大別されます。
  【土用とは】土用という時期は立夏、立秋、立冬、立春(暦の上での季節の変わり目)の前十八日間その中の「丑の日」は、年に4回から8回くらいあることになるのですが、鰻を食べるのは夏の土用の丑の日だけです。この風習を流行らしたのは 江戸時代の科学者の平賀源内と言われています。

 二つ目は、故桂吉朝一門の総領弟子の桂あさ吉師。
『お江戸日本橋』の出囃子で高座へ登場してのマクラは趣味の料理の話題。イケメンシェフを思わせる風貌でフライパンの種類を紹介。今日は創作落語を、さらに、「この噺のサゲは落語の名作『芝浜』が判らないとと、ダイジェスト落語を、そして、始まった本題は、『ポトフの作り方』。舞台は現代の家庭の一シーン。随所に「あるある」の反応を物語る笑いが起こって、芝浜のサゲとなるが、それでは芸がないとばかりに二段落ちとなった狙い澄ましたような、肩の凝らない十八分の好演でありました。
ポトフとはフランスの家庭料理の一つで、「火にかけた鍋」という意味だそうで、牛肉やソーセージとニンジン、タマネギ、カブ、セロリなどを煮込んだ料理。

 三つ目は笑福亭一門から笑福亭伯枝師匠。
この師匠も当席常連なのでお馴染み。今回も豪放磊落な上方落語を演じるべく、早くから楽屋入りされ、ネタ帳を熱心にご覧になり、『白妙』の出囃子で高座へ短髪でデップリした身体を揺すって登場。
「えー、なんやこんな頭の男がこんな色の着物を着て出て参りますとなんや、この人、落語しはんねやろか、いや、これからお勤めが始まるやろか・・・」と、笑いを誘って、師匠の住まいを紹介して、お酒のお噺をと始まった演題は『替り目』の前半のお笑い、師匠は『悪酔い』と名付けられた。伯枝師匠が演じられる主人公は何とも可愛い。特に後半、嫁さんに偉そうに言うのであるが実は甘えている。感謝しているのだが面と向かって表現できない。いなくなるとつい本音が出て、それを嫁さんに聞かれ照れくさそうに又、突っ張る。言葉は出ないが嬉しそうな嫁さんの顔が浮かぶような処で半ばとなった秀作でありました。
 この噺、ここから先がある。おでんを買いに行った女房が戻って来ると燗が出来ている。うどん屋に無理をいったと判ったので、うどん屋へお詫びを言おうと、うどん屋を呼ぶ。「おい、うどん屋、あそこの家、呼んでるで」「いいえ、あそこへは行かれしまへん」「何でやねん?」「今時分行ったらちょう~ど銚子の替り目でっしゃろ。」が、サゲであります。

 中トリは上方落語協会重鎮で、熱狂的なファンを持つ桂文太師匠。
ゆっくりゆっくり、『三下りさわぎ』の出囃子に乗って、万来の拍手と喝采、掛け声に迎えられて高座へ登場。「『待ってました!』なんて言われると緊張します。この間は繁昌亭ではおひねりも飛んできました。演(や)り難うてね、その点今日は演り易いなぁ」と、つかみもバッチリ。さらに、「先ほどは伯枝さんで、酔えば酔うほど六代目松鶴師匠に似てきます。それも悪い時の、その点、私は文枝の弟子でどこか、しゅっとしてまっしゃろ」と、さらに笑いを誘って、「昔はこの、色街といぅよぉなまことにけっこぉなところがあった。江戸が吉原、京が島原、大阪新町、ここは三廓と言ぃまして大夫とか言われる女性がいらっしゃった。言葉でも『あぁしまほぉ、こぉしまほぉ』魔法をつこたんですなぁ。」これは国訛りが出ないようにとの工夫、さらに、銭を知らない花魁の小噺をマクラに使って色街の説明。そして、本題の当席では初お目見えとなる『明烏』が始まる。
 登場人物の若旦那は勿論、源兵衛、太助、さらに、女将や花魁まで生き生きと演じられた秀作は狙い済ましたような笑いが随所に起こり、サゲと共に大きな拍手が鳴り止まなかったことは言うまでもありません。中入り後は、「チャカチャンリンチャンリン」と『たぬき』の出囃子で「もっちゃり・はんなり」と五代目林家小染師匠が登場。お馴染みの当席常連の師匠であります。丁寧に挨拶やご来場のお礼を述べ、ゆったりとした昔の言葉がバンバン出てくるマクラでお客様の笑いを誘って、盗人のマクラから、始まった本題は『仏師屋盗人』。「ベリバリボリ」の擬音で盗人が入ってくるクダリや、ここの主人は一向に驚く様子もなく逆に盗人の印伝(なめしがわに漆で模様を現した染め革で作った袋物)の煙草入れの煙草も借りる落ち着きようのクダリなど、そして、表へ出るつもりが奥の襖を開けるとそこには賓頭盧(びんずる)さんがあり、ビックリして首をはねてしまって、形勢は一気に逆転。仏師屋に使われ、首をにかわで修繕する手伝いをさせられる羽目になる。意外に簡単な作業でなおって高額な報酬に盗人は金を残して、膠鍋を持って逃げ出します。気が付いた仏師屋と盗人の押し問答でサゲとなる、最近はあまり演じられることのない笑福亭の噺をキッチリ演じられた小染師匠でありました。

 さて、大入りの八月公演のトリは桂南光師匠。
早くから楽屋入りされ、元町の街を散策され、再度、楽屋入り。
『猩々』の出囃子で本日一番の拍手に迎えられ高座へ。
「エアコンをかけてるんですけど、皆様方の熱気で・・・。暑さでウツウツとされておられるお客様もついウトウトされ、笑いで起きられたり、もう少しで終わりますから・・・」と、笑いを誘って、「今日はちょっと珍しい噺をと始まった本題は『抜け雀』の一席。
 発端からサゲまで登場人物の絵師の武士、宿屋の夫婦、そして、絵師の父がそれぞれ、軽妙、重厚、にと大活躍。聴いているうちに従来のサゲに登場する駕籠かきがマクラから登場せず、父絵師も駕籠は描かない。その疑問も素晴らしいサゲで納得した秀作は大爆笑の半時間強。大入りの公演はお開きとなりました。
 今回の南光師匠のサゲは落語作家の小佐田定雄先生との改作だそうです。
薄学の小生もこの『抜け雀』のサゲは、米朝師匠の口演を聴くまでは、東京の「親を駕籠かきにした」しか知りませんでした。このサゲを言うために、マクラで「駕籠かきというのは最下級の職業で」、「駕籠かき」=「雲助」=「悪者」と、駕籠かきはしょうがないものと説明しているのだと思っていました。『住吉駕籠(東京ではくも駕籠)』でもお馴染みです。米朝師匠は、「現在親に駕籠をかかせた」とサゲておられます。このサゲは義太夫の『双蝶々曲輪日記』橋本の段の文句に「現在親に駕籠かかせ」を踏まえていると小佐田先生の本に解説されています。この噺を米朝師匠は四代目桂文枝師匠から口伝された通り演じれておられましたので、上方でも古くから演じられていた噺ではないでしょうか。南光師匠からは、現在では非常に難解なサゲとなっているので、小佐田先生に改変してもらったとお伺い致しました。駕籠かき自体や浄瑠璃の文句が判らなくなった現代では見事なサゲではないでしょうか。