もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第439回 
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 公演日時: 平成27年3月10日(火)      午後6時30分開演
 染弥改め 三代目 林家菊丸 襲名記念公演
   出演者     演目
  林家  愛 染  「子ほめ」
  桂   春 蝶  「山内一豊と千代」
  笑福亭 三 喬  「てれすこ」
  桂   福團治  「百年目」
    中入
  襲名記念口上
  林家  染 丸・愛 染  「絵噺」
  林家  菊 丸  「吉野狐」(主任)

   打出し  21時5分
   お囃子  勝 正子、はやしや絹代
   お手伝  桂 三ノ助、桂 福丸
 平成二十七年も三回目の公演。過去二回、大入満席を受けて、今回はまだまだ寒さの厳しい平成二十七年三月十日の皐月公演。火曜日ですが、「染弥改め 三代目林家菊丸襲名記念公演」とあって、前売り券も二月中には完売し当日を迎えました。
好天に恵まれましたが、風のきつい寒さの残る中でしたが、お客様の出足は絶好調。多くのお客様が列を作られました。開場準備に間に合わそうといつも以上に届いたチラシを一丸となって人海戦術で手際よくこなしましたが、今回はチラシ数>人員パワーで定刻の五時半に開場。
トリの菊丸師匠やご出演の三喬、春蝶師匠ありがとうございました。
早くから並ばれたお客様から次々とパンフレットに挟み込まれた一杯のチラシを持って景気の良い一番太鼓に迎えられてご入場され、思い思いの席を確保されました。
寒い中、長時間持って頂いたお客様にはいつもながら本当に申し訳ないことであります。
その後も次々ご来場のお客様で席は次々と埋まっていき、着到(二番太鼓)がなる頃には、最後列に長いすを並べて、客席一杯の大入満席の状態となりました。

 襲名記念公演のトップは、当席初出演となります林家愛染師。地元・明石市出身でキャリア六年の逸材。今回は兄弟子の記念公演のトップとして、また、体調万全でない染丸師匠のお世話係として、さらに、染丸師匠の高座の合い方として大活躍。また、上方落語協会のイケメン噺家を揃えた本年のカレンダーにも登場する、ええおとこであります。
石段の出囃子高座で登場してマクラもあまり振らずさっそく本題の『子ほめ』がスタート。
若手らしく元気一杯に、師匠の教えを忠実に守って、口跡も良く、よく通る声で、なりより、一門の伝統の「はんなり・もっちゃり」の高座は客席から多くの笑いを巻き起こす。
前座の持分をよく理解して、基本にも忠実な、襲名公演のトップとして明るい爽やかな、十五分の高座でありました。

 二つ目は三代目桂春蝶師匠の登場。
『鍛治屋』の出囃子で登場してあいさつ。兄弟子の春駒師匠の遺言で恋雅亭の世話人になったことのいきさつや決意を真剣にかつ、熱意を込めて話される。「これからも皆様方に喜んで頂けるような番組を作りますのでどうぞ、よろしくお願い申し上げます」とまとめると客席からは大きな拍手が巻き起こりました。
始まった本題は、当席でのご自身の襲名公演でも演じられた『山内一豊と千代』の一席。
皆様方、よくご存知の戦国時代に織田・豊臣・徳川の三英傑に仕えた山内一豊と、夫を良妻賢母の見本として支えた妻・千代の苦労談。元々、講談ネタですが、二人の出会いは整然と地の部分は現在的なギャグ満載にと、うまく上方落語に焼き直しされご自身の十八番として客席の大爆笑を誘った二十二分の秀作でした。

 三つ目は笑福亭松喬一門の総領、「三ちゃん」こと笑福亭三喬師匠。
『米洗い』の出囃子で高座へ。爆笑マクラが始まると客席は「三喬ワールド」に突入。
「所、変われば品、変わる」から、大阪と東京の呼び名の違いを「マクドナルド」「ミスタードーナッツ」「ハリーポッター」と紹介しあるある・そうそうと大爆笑を誘って、「所は長崎」と断って、始まった本題は『てれすこ』の一席。随所にご自身の工夫が満載で噺が進む。
噺が脱線して出題者にミスがある問題として、「インド料理でカレーに着けるパンのようものは何(ナン)ですか?」「はいそうです」。「沖縄に行くのは何を使えばいいでしょうか?」。用意していた「飛行機」ではなく「お金と時間」。
「どちらも正解ですね」と、まとめて、再び本題に戻って、噺は進む。
従来のサゲを通り越して、噺は「あれあれ」と進展。主人公とお奉行さんとの会話で「てれすこ」の語源はオランダ語で望遠鏡を意味する「テレスコ」、英語の「テレスコープ」のこと。「すてれんきょう」は「ステレン鏡」、オランダ語の「星々」、天体望遠鏡だと謎解き。いずれも、江戸時代の唯一の外国との情報交換地であった長崎から伝わったもの。
ここで、噺の発端の「所は長崎」の一言が生きてくる。実に考えられた演出。
サゲにも一工夫も二工夫もされた三ちゃん渾身の秀作でありました。

 中トリは四代目桂福團治師匠。早くから楽屋入りして準備万全。
根多帳を捲りながら、昔を懐かしむ。横の染丸師匠も「この字うまいなぁ、今、こんな字書ける人おらへんで、楠っさん(神戸落語界の父と言われた笑クリエイト社の楠本社長のこと)の字やろ」と、さらに、「ここでも襲名披露公演をやってもろてなぁ。凝り性やった楠っさんが、入場券は染丸の焼印を一つ一つ押してくれた丁度、かまぼこ板位の大きさの木の札やったわ。家に置いてある宝物や」と感無量。
三喬師匠のサゲと同時に名調子『梅は咲いたか』が客席に流れる中、ユッタリと師匠が高座へ登場。
いつものマクラとはちょっと違う、弾けた様なマクラから始まった本題は、今の時期にピッタリな「昔からこのぉ人を使えば苦を使うてな事を言いますが・・・」と始まった『百年目』。
船場の奉公人の名前は丁稚は松、吉が付く。手代は七が、番頭は助が付き名前を聞くと身分が判ると紹介して、噺がスタート。
多くの登場人物や場面転換も多く、終盤の旦那が番頭を諭す際の大きさを出すクダリなど、上方落語屈指の大物と言われている噺で、発端の番頭の小言、がらり変わっての桜ノ宮の花見の賑わい、旦那と出くわしてからの心の葛藤、そして旦那に呼ばれからサゲまでを半時間にまとめあげられた大満足な口演で、お仲入となりました。

 中入り後は、本日の出演者がズラリ揃っての襲名記念の口上。
司会進行は桂春蝶師匠。軽く笑いを誘って福團治師匠を紹介。「新菊丸さんは、私と同郷の三重の四日市でございまして、地元も大いに期待の星であります。・・・それにはなによりも皆様方のご愛顧が必要でございます。どうか、・・・・・・、よろしくお願い申し上げます。」と、重厚な口上。
「続きましては笑福亭を代表致しまして、菊丸さんの先輩で上方の堀越学園と呼ばれております大阪産業大学の先輩・・・」と、紹介されて三喬師匠の爆笑口上が、「大阪大学産業学部出身(客席大爆笑)の私と菊丸さん。染丸一門は美形、松喬一門は盗人。どうぞ、師匠から芸を盗すみ、先輩から息を盗すみ、お客様の心を盗んで・・・」と、見事な口上でありました。
そして、染丸師匠、「師匠はリハビリ中でございまして、今日は一言(ひとこと)だけお願い致します」の春蝶師匠に促されて、「よっ」。客席は大爆笑。
口上の締めは「大阪締め」。「打ちましょ、チョンチョン、もう一つせ、チョンチョン、祝うて三度、緒チョンがチョン」と見事に決まったことは言うまでもありません。

 「口上」の後は、幕が開いて新菊丸師匠の師匠の四代目林家染丸師匠が、聞き手の愛染師を従えて、客席の万雷の拍手に迎えられて高座へ。
本日の演題は『絵噺』。
小ばなし的な話のネタを絵で表現したり、絵を描きながら落語のサゲへ持っていくなど、古くからあった落語の芸のひとつだそうで、上方芸能の研究家の師匠が脳梗塞から復帰後、新趣向の高座として演じられておられる。大爆笑のうちにトリへと交代となりました。

 トリは『萬歳くずし』の出囃子で三代目林家菊丸師匠の登場となりました。
高座へ登場する師匠に客席は本日一番の拍手が巻き起こる。「えー、本日は・・・」と挨拶から、先代作の一席、襲名披露公演では初演と断って『吉野狐』の一席。この噺、色々なうどんの上方での別名が重要な役割を果たす。上方でないと意味が判り難い難しい噺で、長い歴史の当席でも初めて演じられる噺で、上方の人情・艶・庶民・食にプラス狐の恩返しと盛り沢山。発端からサゲまで流れるように噺は展開。独特の言い回しのサゲもズバリ決まった半時間の好演でありました。