もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第438回 
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 公演日時: 平成27年2月10日(火)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  笑福亭 智之介  「狸の賽」
  桂   南 天  「ちりとてちん」
     春 雨  「短命」
  笑福亭 呂 鶴  「馬の田楽」
    中入
  笑福亭 恭 瓶  「大安売り」
  桂   文 珍  「花見酒」(主任)

   打出し  21時5分
   お囃子  勝 正子
   お手伝  桂 三ノ助、笑福亭呂竹、笑福亭呂好、桂 文五郎
 平成二十七年の新春を飾る「もとまち寄席・恋雅亭・新春初席」の大入満席を受けて、今回は極寒の平成二十七年二月十日の如月公演。火曜日ですが、翌日が休日とあって前売り券は一週間で完売し当日を迎えました。
好天に恵まれましたが、一年で一番寒い季節、しかし、お客様の出足は絶好調。多くのお客様が列を作られました。開場準備を少しでも早くして、ご入場頂こうといつも以上に届いたチラシを一丸となって人海戦術で手際よくこなし、五分前倒しの五時二十五分に開場。
早くから並ばれたお客様から次々とパンフレットに挟み込まれたチラシを持って景気の良い一番太鼓に迎えられてご入場され、思い思いの席を確保されました。
寒い中、長時間持って頂いたお客様にはいつもながら本当に申し訳ないことであります。
開場時点で並ばれたお客様で当日券も一旦、ストップする。その後も次々ご来場のお客様で席は次々と埋まっていき、ついに立ち見発生。立ち見覚悟の当日券のお客様にもご入場頂き、着到(二番太鼓)がなる頃には客席一杯の大入満席の状態となりました。

 二月公演のトップは笑福亭仁智一門の総領弟子で地元・神戸出身の笑福亭智之介師。
平成十二年入門以来、地元で『鬼塚寄席』、『王子寄席』、『ひみつ寄席』などの地域寄席を精力的に開かれキャリア十四年。弟弟子も三名と勉強家で当席期待の師であります。
今回も早くから楽屋入りされ、チラシの挟み込みや楽屋準備を積極的にこなして準備万全。
『石段』の出囃子と大入りの客席からの拍手に迎えられて高座へ登場。
マクラはこの世界(落語界)に入って嬉しかったこと。お正月は入門後三年(年期)は、自分の師匠だけでなく、各お兄さん(先輩)からお年玉を貰えること。今でも師匠の仁智、大師匠の仁鶴師匠からはお年玉を頂けること。困ったことは、今では渡す立場になったこと。対処法は、正月は後輩と会わないようにする。
 そして、お金を儲ける方法のひとつが「博打」と断って始まった本題はお馴染みの『狸の賽』。
各落語会で鍛え上げたテンポも口跡もバツグンな高座は爆笑の連続。
聴いていて実に心地よい流れで、師の風貌が可愛い狸とダブリ、仕草もクスグリもキッチリ決まり、その都度、客席は拍手喝采。
サゲにも一工夫。智之介師のイメージとピッタリな、おちゃめで面白いサゲとなった前座の持ち時間をキッチリ守った十七分の名演でありました。
この噺の本来のサゲは皆様も良くご存知の通り、五の目をたーちゃんに伝えるのに、五⇒五枚⇒梅の花⇒梅紋⇒菅原道真公の紋⇒天神さん。と、続くのだが、現在では難しいサゲとなってしまったのだろうか。
サゲで登場する天神さんは、菅原道真公で平安前期の学者・政治家。謹厳にして至誠、漢詩・和歌・書をよくし、没後学問の神天満天神としてまつられた方。この方の紋所が『梅紋』。花弁が五枚あり、この落語の本来のサゲに繋がっています。
また、『質屋蔵』では、掛け塾から脱け出した菅原道真公が、質屋の主人に「利上げせよ、また、流されそうな」とのサゲとなります。これは、大宰府に左遷(流される)された逸話によるものです。

 二つ目は、平成三年に桂南光師匠の総領弟子として入門され、キャリア二十三年の桂南天師匠が、平成二十四年七月の「襲名記念公演」以来の出演となります。
この師匠も前名のこごろう時代から当席の常連。ちょっと久しぶりの感があるネタ帳を捲りながら演題をチョイス。『正月娘』の出囃子で高座へ登場すると満員の客席が明るくなり、拍手が巻き起こる。
さっそく、「ありがとうございます。ここは大好きな会場でございまして、携帯電話が通じない。」と、落語の最中に遭遇した携帯電話が鳴り出したシーンを一つの落語のように紹介。これが実に面白く会場は大爆笑。そして、「世の中には愛想の良い方がいらっしゃいまして・・・」と、始まった本題は、NHKの朝の連ドラで、今の上方落語ブームの原因のひとつと言われている良くご存知な噺で、南光・南天の師弟揃っての十八番『ちりとてちん』。
知ったかぶりをする男を困らせてやろうと豆腐の腐ったものを加工し食べさせる。困った様子や笑いをこらえる旦那さんが師匠のイメージとピッタリで、さらに充分練り込まれ、いつも以上のオーバーアクションで演じられるのだから面白くない訳がない。
狙いすましたような大爆笑が随所に起こった、客席も演者も大満足な二十五分の好演でありました。
この噺の源流は東京落語の『酢豆腐』。明治時代の名人・初代柳家小せん師匠(通称:めくらの小せん)が落語として完成され、昭和の大名人とされた八代目桂文楽師匠の十八番でありました。
『ちりとてちん』は、三代目柳家小さん門下の初代柳家小はん師匠が改作し、上方へ伝わり初代桂春團治師匠の十八番として花開き、上方でも東京でも大爆笑落語として多くの演じ手がおられます。
ここで登場する伏見の銘酒白菊は、現在、京都(伏見)では「白菊」という名の濁り酒は醸造されていないようですが、伏見七名水に白菊井という名前がありますので、現在も酒造りの仕込み水として使われているのではないでしょうか。

 三つ目は桂春團治一門の貴公子・当席常連の桂春雨師匠にご登場願います。
今年は生誕五十年らしいですが、いつまでも若々しいイケメン師匠で、大受けの南天師匠の高座を袖で聞きながら「他の噺家はこんな熱演の後へ上るのいやがるけど、僕はこっちの方がええねん。虚弱体質のマクラが逆に受けるねん」。
今回も芸名同様の『春雨』の名調子で高座へ登場。実に楽しそうに始まったマクラは、
「私の方は南天さんのようにあまり頑張れません。虚弱体質でございまして、・・・」と、普通ならば理想的な身長、体重、ですが・・・。何か難しい病名なので、お医者さんにもっと判り易くと尋ねると「栄養失調」。客席を爆笑に巻き込んで始まった本日の演題は、ちょっと艶笑がかった『短命』の一席がスタート。養子さんのおくやみに又、行くことになった男に、「出養生、毒も一緒に連れて行き」の川柳で亡くなった原因を説明するやり取りに、客席は、「なぜ気が付かないの」とのクスクス笑いが、そして、だんだんと気がついてくる様子に爆笑が随所に笑いが起こった狙い通りの春雨師匠、渾身の二十二分の秀作でありました。
この噺、原型は徳川八代将軍の吉宗公の時代に発行された『軽口はなしどり』の中の一編、「元腹の噂」だそうで、別名を『長命』、『丙午』とも言う東西で多くの演じ手の多い噺であります。
分類としてはいわゆる「艶笑落語(バレ噺)」ですが、よく聞いてみると、直接的な描写が一切ない噺で、演者の力を必要とする落語ではないでしょうか。

 中トリは六代目笑福亭松鶴一門・上方落語界の重鎮・笑福亭呂鶴師匠。
開場即に当席に到着され、木戸口で「おはよう、今日もお世話になります」と、あいさつに来られ、
楽屋入りしてもニコニコと超ご機嫌。
春雨師匠のサゲを受けて、『小鍛治』の出囃子で高座へ登場。
「えー、・・・・・・。」のあいさつから、ユッタリと呂鶴ワールドの世界へお客様を誘い込む。
ユッタリと楽しむようなマクラから始まった本題は、笑福亭のお家芸の『馬の田楽』。
初代桂春團治師匠の十八番の爆笑落語を笑福亭流にパワーUPされた一席で、主人公の馬方、子供、老人、酔っぱらいと多くの登場人物が呂鶴師匠の舌先で大活躍する秀作。これでもかと畳み込む呂鶴師匠に客席は大爆笑の連続の二十五分の好演でありました。
この噺、色々な登場人物が大活躍する噺ですが、舞台が大阪の船場ですので、登場する子供達
は小学校の低学年の悪がきのようですが、実は船場の金持ちのボンボンなのです。
従って、言葉使いは意外と丁寧で子供同士でも敬語を使って喋っています。この辺りが『初天神』
に登場するトラちゃんとは大きな違いなのです。
現在では、生粋の「船場ことば」を使える噺家は少ないようですが、数少ない船場ことばの使い手であられた故六代目笑福亭松鶴師匠が、まだ、若く、元気で、暇(失礼)だった頃、入門直後の福笑、鶴三(松喬)、松枝、呂鶴の四師匠を並べて徹底的に口伝をしているので、呂鶴師匠もバツグンであったことを付け加えさせて頂きます。
 
 中入り後のざわつく客席に柝が入って、『いやとび』の出囃子に乗って笑福亭恭瓶師匠の登場となりました。
「久しぶりの憧れの恋雅亭でございまして・・・。私の後が文珍師匠で、今の間におトイレになと。あっ、言っておきますが席を外された方の顔は一生忘れないですが・・・。」と、挨拶から、マクラはお相撲さんの話題。「奥さんが綺麗な人が多い。特に**。綺麗な奥様で、きっと『短命』です。」では、客席から大爆笑が起こる。ここらが、ライブの醍醐味。
軽くマクラを振った後、始まった本題は、鶴瓶師匠も演じられるので直伝であろう、『大安売り』の一席。
町内の丁稚のような体型の力士。江戸の本場所から帰ってきた。成績は、勝ったり負けたり。
様子を聞くと「押し出し、寄り切り、上手投げ、内がけ、うっちゃり、あらゆる技で」と、ところが全部負け。相手が勝ったり、こっちが負けたり。次の所では、土付かず。風邪をひき、部屋で寝込んでおりました。余興の花相撲で素人相手に3連勝の相手は子供たち。見込みないので廃業を親方に申し入れると「お前が辞めたらチャンコ料理は誰が?と、説得され、しこ名を変えて出直すことに。
「玉二つ」から「大安売り」と改名、「誰にでも負けてやります。」とサゲとなる噺。
くすぐりが満載のこの噺を明るく、明るく演じられ、その都度、爆笑が起こる。
この噺の名手? 笑福亭鶴瓶師匠の芸談(本人は、おこがましい、と断わって)としてお伺いした、「この噺は、最後の方へいくと、お客さんは『また、負るんやで』と全員判ってはんねん。そこで、照れたらあかんねん。そこを平気で語んねん」の言葉通り師匠の教えをキッチリ守り、平気で語ってサゲとなりました。
トリにつなぐ中入りカブリのポジュションを考慮された十八分の熱演に客席からは大きな拍手が起こりました。

 トリはご存知、桂文珍師匠。今年は二月公演にご出演頂きました。
楽屋入りして、いつもと同じように高座の袖にどっかと座られ反応を確認。にやにや、くすくすと実に楽しそう。そして、『円馬囃子』の名調子に乗って高座へ登場されると、本日一番の拍手が巻き起こる。「えー、久しぶりの恋雅亭でございまして・・・」との挨拶から年が寄るとすぐに思い出せない。人の名前も、私もよく思い出してもらえず、この間も「えー、それそれ、えー、三枝さん。」隣のご主人が「違うがな。名前、変えはった人や。」思わず「違いまっせ、鶴瓶です。」次々に飛び出すシャレた会話に客席は酔いしれるように笑いと拍手の連続。二人の男の会話、「人が減ったなぁ」、「どんどんと・・・」、「最後に残るのは我々、二人やなぁ。」「そらそうや、わしら、ここ動かれへん。***やもん。」には天井が抜けるほどの大爆笑が巻き起こる。
「今、限界集落を題材にした噺を考えてますねん」と、紹介され、始まった本題は『花見酒』の一席。文珍ワールド全開の一席。いつもですが、筆では表せない「一度、ぜひ生で」の一席でありました。