もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第435回 
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 公演日時: 平成26年11月10日(月)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   三 弥  「転失気」
  林 家 竹 丸  「立候補」   
  桂   出 丸  「二人癖」
  笑福亭 鶴 志  「欲の熊鷹」
    中入
  桂   文 昇  「紀州」
  桂   雀三郎  「崇徳院」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  入谷 和女、勝 正子
   お手伝  桂 三ノ助、桂 阿か枝(挟み込みのみお手伝い感謝)
平成二十六年も残すところ、あと、二回の公演となりました平成二十六年十一月十日の第435回もとまち寄席・恋雅亭・霜月公演は、前売り券を若干枚残して当日。好天に恵まれましたが、逆に寒さが増してきた感がある一日となりました。
お客様の出足は当初はいつもよりちょっと遅め、開場時点ではいつも同様、多くのお客様が列を作られました。
今回も机に並びきれない程のいつも以上のチラシの量を一丸となって人海戦術で手際よくこなして開場に間に合わし、開場の定刻の五時半。早くから並ばれたお客様から次々とパンフレットに一杯挟み込まれたチラシを持って景気の良い一番太鼓に迎えられてご入場され、思い思いの席を確保されました。
開場時点で並ばれたお客様のご入場がひと段落した時点では後方に空席もありましたが、その後、切れ目なくご来場されるお客様で、席は次々と埋まっていき、着到(二番太鼓)がなる頃には客席一杯の大入満席の状態となりました。
トップは、六代桂文枝一門から桂三弥師。平成九年入門で、キャリア十七年目の異例中の異例のトップでの初出演をお願い致しました。毎回のようにお手伝いとして顔を出されている師だけにまさしくホームグラウンドの当席。早くから楽屋入りされチラシの挟み込みのお手伝い、楽屋準備、鳴り物手配と大忙し。
そして、開演。柝が入って和女・正子嬢の三味線を中心とした賑やかな『石段』の出囃子に乗って満面の笑みで高座へ登場すると客席のいたるところから拍手が起こる。
マクラはご自身の体験談の「JR東西線尼崎駅で東方向に向かう電車を待ち、乗り込んだ夫婦と子供の実態」。嫁はんにぼろくそに言われても孤軍奮闘の旦那。やっとの思いで確保した席も差し込む太陽の日差しが眩しい席を取ったとの突っ込みまで入れられる。尼崎を出発した電車はそのまま地下へ。そんな状況でもひるまない嫁はんのさらに一言。このマクラに客席は大爆笑。
客席のマクラの反応を確認して、「物事を知らない、判らないと言いたくない人はいるもので・・・」と始まった演題は『転失気』。
お医者さんが尋ねた『転失気』を知らないと言いたくない和尚さんと近所の住人。みんなが知らないことに気が付いた小僧の珍念が和尚さんに一泡吹かせようと考えた秘策は? 客席から大爆笑が巻き起こった、前座の役目を十二分に達成した十六分の秀作でありました。
下りてこられた三弥師、汗を拭きながら大満足なご様子で、お礼の挨拶を丁寧にされ、鳴り物に取り掛かられておられました。お疲れ様でした。

二つ目は林家染丸一門から林家竹丸師。
神戸大学からNHK記者を経て噺家へ。神戸大学落語研究会と当席とは非常に馴染みが深く、「竹ちゃんは、今度、いつ?」との声も多く寄せられての出演となりました。
軽妙な『月光値千金』の出囃子で高座へ登場。
※『月光値(価)千金』は昭和三年に出版されたアメリアのポピュラーソング。同年日本語訳も作られ親しみ易いメロディーとエノケンこと榎本健一氏の声で耳に残っておられるお客様も多いことでしょう。
高座へ登場の竹丸師、「続きまして、なんか、座敷童子(ざしきわらし)みたいなんが登場しまして・・・」と、お馴染みのフレーズから、選挙応援の余興の実話。候補者を盛り上げるための謎掛けは、受けない。すべってしまった。勿論、その候補者も落選。落語家を呼ぶとすべる。落語だから落ちる。との実話談をマクラに始まった本題は、六代桂文枝師匠の平成七年七月に初演の自作の創作落語『立候補』。
小学校時代の思い出作りで児童会(昔は生徒会)の会長に立候補するあつし君。
三人のライバルとの演説会の原稿作りでお父さんの協力も得て徹夜で作成するのですが、持って行くのを忘れ、アドリブで勝負。これが実にみんなの胸を打つ名演説。開票結果は残念ながら惜しくも一票差で落選。ここでのサゲも実に見事に決まり、全編、六代文枝師匠の原作を下書きに見事にご自身のものにされ、可愛いあつし君が竹丸師の仁とピッタリ一致し、小学校中で大活躍する十八分の秀作でありました。
この噺、時代によって選挙の対抗馬が違う。六代文枝師匠の平成十四年の口演では、小泉君と鳩山君となっていましたが、竹丸師は安倍君と麻生君が登場。特に安倍君の真似は良く似ていました。

三つ目は桂ざこば一門から桂出丸師匠にご登場願います。ざこば一門は、入門時の師匠の芸名にちなんで命名されていますので、出丸師匠はざこば師匠が朝丸時代の昭和六十年入門で、キャリアも三十年となります。今回も、慣れ親しんだ当席の高座とあって、大ハリキリで、これも軽妙な『せつほんかいな』の出囃子で高座へ登場。
※『せつほんかいな』は江戸の俗曲で各地の俗曲が江戸に伝わりアレンジされたもので徳島の地名・義経と静御前の恋など、一貫性は無いが目出度さを唄っているものとネットにはあります。
落語で大事なのは口癖と訛りだそうで、特に訛りは昔と今ではアクセントが違う言葉があるので難しいと、大師匠の米朝師匠に「おい、出丸、マクラで同じ言葉を十六回も言うたで。」と、指導されたとつないでノリノリ・ハイトーンで本題の『二人癖』の一席が始まる。
この噺、東西の多くの演じ手がおられ、東京では『のめる』として演じられることが多い。登場人物も少なく、トントンと小気味良く演じないと受けない難しい噺ですが、逆にはまると大受けする噺。出丸師匠は後者。よく練れた噺とあって絶好調の口演に客席は爆笑の連続で、登場人物は全員で三名。常に二名で展開する。言ってはいけない言葉(つまらん。一杯飲める)を言わすよう持ち込むために知恵を絞るのだが。拍子のもんやからトントントンを言葉をとアドバイスを受けて、テンポよく「田舎から大根、百本貰ろたけど、いっぺんには食べきらん。漬物にしようと思うたが樽がない。家中を探していたらこれくらいの醤油樽。この樽に大根百本詰まろかなぁ」と演じる。手拍子をしたくなるような心地のよいテンポ。次の瞬間「あっ」というサゲとなる筋と間で演じるこの噺を師匠自身も高座を楽しむように演じた明るい、明るい高座は二十二分でありました。

中トリは笑福亭の重鎮・笑福亭鶴志師匠にとって頂きます。
この師匠については説明の必要もない程のお馴染みで、体型と顔からは笑福亭の伝統の豪放磊落の高座を最も継承されておられる師匠のようですが、師匠曰く、「実はこう見えて、私、繊細なんです。」と、おっしゃっておられます。
今回も出演前の楽屋で鶴志節全開。「今日は何を?」のあつかましい小生の質問に応えて。「えー、今日は代書を演(や)ろうと思って来たんですけど、先月、出てますねぇ。難しいですね」「師匠は、たんとありますやん」「師匠(六代目松鶴)は、出来不出来が激しかったけど、私らええ時ようけ聴いてますから、耳に残ってます。『平の蔭』は、師匠から怒られてるようで、『欲の熊鷹』はいつも楽しそうで、二人の男が逆になったりしてねぇ。」。
出囃子の『鞍馬』が鳴って「よっしゃ。」と、一声残して巨体を揺すって高座袖から高座へ。
客席からは万雷の拍手が起こる。
※『鞍馬』は、どんどんと前に出てくるような豪快な出囃子で、東京の十代目金原亭馬生師匠や上方では四代目林家染語楼師匠が出囃子に使われていました。鶴志師匠にもピッタリな出囃子です。
「えー、お運びありがたく御礼申し上げます。私、もう一席で休憩でございまして、すぐ、済みまっさかい・・・」と、今年の阪神タイガースの活躍の話題から、過去の思い出したくない話題へつなげ、今日は何を演(す)るか考えない、嫌いでんねん。お客様に応じて決めるんですが・・・。電車で化粧する女はぶさいくが多い。綺麗な人は家で仕上げてくる。暑い、半袖の着物ないのかと、絶好調のマクラが続いて、始まった本題は師匠直伝の『欲の熊鷹』の一席。
なんでもない筋なのだが、この師匠にかかると、ものの見事に大作に仕上がる。噺の持ち味を崩すことなく、六代目松鶴師匠同様、楽しむような高座は最後までツボツボで爆笑の連続の二十五分の汗ブルブルの熱演でありました。
この演題名の「欲の熊鷹」とは、熊鷹(タカ科の大きな鳥)が二頭の猪をつかんだところ、猪は驚いて左右に分かれて逃げ出したが、どちらも逃がすまいと放さなかったっために、股が裂けて死んでしまったという昔話からきているそうです。

中入後のカブリは、五代目桂文枝一門から桂文昇師匠。「シューかペチャ」に分類すると、「シュー」の方に属する師匠。そこへ、一門の明るさが加わり高座は芸名通り昇り調子。今回は、六年ぶりの出演で、初の中入り後のカブリでの出演となりました。
楽屋でネタ帳をメクリながら「ない、ない。長いこと出してもろてないなぁ」と、若干しょげ気味。
横から出丸師匠が「自分の仕事は十日は入れへんことやで」と、つっこみを入れる。
中入り後、『越後獅子』の出囃子で登場し、この間の落語会で、お客様から「あんた、坂本竜馬に似てる」と、言われたことをマクラにポーズをとったり色々、アピール。どこが似ているかは、着物着て靴履いていたからのサゲ付き。
そして、徳川の将軍を紹介して、始まったのは『紀州』の一席。
会話ではなく、地(解説)をつなげて進むこの噺、サゲを生かすための仕込が重要と難しい噺、キッチリ仕込んでドカンとサゲとなりました。次の出演は六年も待てないとの客席から拍手が表していた二十分の秀作でありました。
そして、十一月公演のトリは、上方落語界の重鎮・創作+古典の二刀流。桂枝雀一門から桂雀三郎師匠の登場です。弟子も増え、ますます、絶好調。
楽屋でもドッカリ座りトリの貫禄充分。
文昇師匠のサゲを待って、軽妙な『じんじろ』の出囃子に乗って高座へ登場すると本日一番の拍手が巻き起こる。
本日のマクラは学生時代の思い出から。母校の龍谷大学の入学試験や宗教の試験。学生運動真っ盛りの龍谷大学と爆笑マクラが続き、始まった本題は十八番の『崇徳院』の一席。
お馴染みの噺なので多くのお客様が筋は御存知であろうが、それでもツボツボで爆笑が起こるのは、やはり、持ち前の口跡の良さと間とテンポのなせる業か。見事な半時間強の口演には、帰宅される多くのお客様から「良かった!」の声が数多く寄せられたことは言うまでもありませんでした。