もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第432回 
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 公演日時: 平成26年8月10日(日)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  笑福亭 鉄 瓶  「運廻し」
  桂   文 鹿  「さわやか航空625便」   
  林 家 うさぎ  「不精の代参」
  桂   米 二  「くっしゃみ講釈」
    中入
  桂   三 歩  「内緒話」
  笑福亭 鶴 瓶  「三年目」
  桂   春之輔  「もう半分」(主任)

   打出し  21時25分
   お囃子  入谷 和女、勝 正子
   お手伝  桂 三ノ助、桂 三弥
平成二十六年八月十日は、先月同様に長い恋雅亭の歴史でも、昭和天皇崩御で一回、阪神大震災で四回と計五回しか経験したことのない、休席を決断しなければならない最悪の気象状況。台風十一号直撃の予報。
状況は先月よりも悪く当日の十日の正午に兵庫県相生市付近に上陸。暴風雨にプラス交通機関がズタズタの最悪の状況。先月同様に「今日の落語会は有るの?」との電話での問合せはひっきりなしにかかる。
さすがに、お客様の出足も一部の会員様を除いてさすがに低調。でも一番乗りは正午。
それでもいつも通りに沢山届いたチラシを出演者にも手伝って頂いてスムーズな開場のための準備を進めチラシの挟み込みを実施。
今回も机に並びきれない程のいつも以上のチラシの量、一丸となって人海戦術で手際よくこなして
開場に間に合わしました。
豹変する天候を考慮して、準備が出来て即、六時二十五分に開場。
早くから並ばれたお客様から次々とパンフレットに一杯挟み込まれたチラシを持って景気の良い一番太鼓に迎えられてご入場され、思い思いの席を確保されました。
最初はやや鈍い出足でありましたが、席は次々と埋まっていき、着到(二番太鼓)がなる頃には若干立ち見も出る大入満席の状態となりました。

 『石段』の出囃子でトップバッターの笑福亭鶴瓶一門から笑福亭鉄瓶師の登場。各地の落語会で真面目に落語に取組む逸材で、師匠からはお客様を捕まえる極意を先輩からはその落語の本質の教えをキッチリ守っての上方落語は当席でもお馴染み。
「ありがとうございます。今日は大変な中、ご来場下さいましてありがとうございます。よく来られましたね」とのあいさつから、「師匠より遅れたら大変ですからえらいことから大変でして」と、うれしそうに「大変な世の中で誰かが誰かを殺す」と、医者とピストルを持った盗人の小咄から、始まった本題は集まった若い衆が「ん」の字を言うと田楽を食べれる『田楽喰い』のお馴染みの一席で、どんな「ん」の字が飛び出すかは演者の腕の見せ処なこの噺、勿論、鉄瓶師も工夫いっぱい。
「先年、神前苑の薬店・・・」のクダリは変えようもないのか、初代春團治師匠以来の定番の最も受ける処で、大いに受けた処で前座の寸法(持ち時間)をキッチリ計っての口演のカットは見事。受けるとどんどん延びるのが通例ですが、それもなく、ここでお後と交代となりました。

二つ目は久々、桂文福一門から桂文鹿師。この師も師匠の天性の明るさと先輩からはその落
語の本質の教えを伝授され各地の落語会で大活躍。当席へはスケジュールの関係もあって久々のご出演【平成十七年十月の326回公演以来】。
早くから楽屋入りされ、楽屋の準備やチラシ挟み込みの手伝いなど準備万全。『キューピー』の軽快な出囃子に乗って羽織なしの着流しの粋ないでたちで巨体に似合わず軽快に高座へ。
マクラは、ある落語会でトップの桂三輝(サンシャイン・カナダ出身)師の後に出演した際、「カナダ人の後はネパール人が出て参りまして・・・」とシャレで言ったのに本当にされた。続いて、インドでは韓国人に間違えられた。と、笑いを誘って、海外旅行に関係の今流行のLCC(ローコスト・キャリア)航空を題材にした自作の創作落語『さわやか航空625便』。
東京から大阪の格安航空機に乗った二人が体験する筋立て。随所にご自身の工夫が盛り込まれこれが実に的を得て、「ある、ある」との共感が面白いように爆笑を誘う。演者も客席もノリノリの内にサゲもズバッとヒットした二十二分の爆笑高座でありました。

三つ目は林家染丸一門の二番弟子の林家うさぎ師匠にご登場願います。
この師匠も一門の伝統の「もっちゃり・はんなり」をベースの純上方落語を熱心に取組む姿と元気
一杯の高座は当席でも多くのファンを持っておられます。今回も芸名にちなんだ『うさぎのダンス』の出囃子に乗って愛くるしい笑顔一杯に高座へ登場。
「えー、ネパール人の後はインド人が出て参りまして・・・」と、鉄板のツカミ。今回も笑いを誘って、奥さん(カナダ人)の話題から、不精な親子を扱った小咄『不精猫』。そして、始まった本題は
不精な男が大阪府豊能郡能勢町にある妙見山山頂の「能勢の妙見さん」こと能勢妙見堂(正式名称:無漏山真如寺境外仏堂能勢妙見山)に代参に行く『不精の代参』。
短編だが実に面白い筋立てで「そんなアホな」と言うような誇張された演出が随所に散りばめられている。サゲも面白い二十分の秀作でありました。
ちょっと、脱線して、なぜ、こんな面白い噺が演じられないのかが不明だが、確かに当席でも演じられない出そうで出ない噺が数多く存在しています。当席は三十五年以上の歴史があり、二千五百高座以上、演じられていますが、過去、自作の創作落語や、その師匠以外に演じ手のない噺を除いて調べてみました。『けんか長屋』『百人坊主』『近江八景』『瘤弁慶』『風邪うどん』『三人兄弟』『ざこ八』『宿屋町』『足あがり』『かか違い』『不精の代参』などなど。意外な噺があまり演じられていません。

中トリは桂米朝一門から桂米二師匠にとって頂きます。
昭和五十一年入門でキャリアも三十八年。お弟子さんも先月ご出演の二乗師と二葉師と二人。
一門、上方落語界の重鎮です。今回も、師匠直伝の本格的上方落語を中トリで演じるべく、『五郎時政』の出囃子でユッタリと登場。「えー、ありがとうございます・・・。京都から三時間半かかってここへ着きまして、へとへとでして、今、休憩中です。」この挨拶で客席は大爆笑に包まれる。
マクラの病気の話題から、「せきやくっしゃみなどの自然現象は止められない。」と断ってから始まった本題は『くっしゃみ講釈』の一席。
おなじみの一席を演じ演者の個性を出すのは難しい処ですが、さすが米二師匠。
発端からサゲまでキッチリと。もちろん、ツボツボでは爆笑でありました。
ここで恋敵として登場する後藤一山先生は、明治半ばまで活躍していた上方講談「玉龍亭」一派の玉龍亭一山がモデルとされています。『太閤記』の続き読みを得意とし、正月に第一話を読み初め、大晦日に第三百六十五話を読んで終了したという逸話が残っています。
さらに、ここでの講釈場の場面で語られる『難波戦記』は、大阪の陣を描いた場面で、豊臣秀吉亡きあと、徳川家康の策略により豊家の血脈が絶やされるまでの経緯が読まれています。

中入り後、柝が入って『三百六十五歩のマーチ』の出囃子で登場。ツカミは、「二年半ぶりに出してもらいます。前回は前歯が二本、抜けておりましたが、今回は進歩しまして四本になりました。」と、ニッコリ笑って歯を見せると客席は大爆笑。
実に楽しそうなマクラ、師匠の文枝襲名の新聞に自分も載ったと持参した新聞の話題。
・三遊亭円歌・落語協会最高顧問。・桂歌丸・落語芸術協会会長。・桂春團治・上方落語協会相談役。・笑福亭松之助・落語界の最長老。・笑福亭仁鶴・吉本興業特別顧問。・桂ざこば・人間国宝米朝一門代表。・林家染丸・林家一門の総帥。「そして、私、桂三歩・・・弟子」客席はドッカーーン。そして、何時始まったか判らないほど、スムーズに本題が始まる。
六世文枝師匠の三枝時代の平成十九年五月初演の創作落語『内緒話』の一席。
勿論、師匠直伝の一席。
三歩師匠同様、明るく声の大きい、主人公が病気療養中の友人のお見舞いに行く、どこにでもありそうな場面設定。「静かに!」と言われれば言われる程、守れない主人公。病名を聞き、静かにお見舞いを心掛ける。その努力がサゲに繋がる創作落語の雄の文枝師匠の秀作でありました。
いつもながら見ているだけで面白い雰囲気で爆笑を誘う師匠。別に意識はされていないであろうが、次はこうなると思う通りになるので実に心地よい。中入り後の雰囲気にはピッタリな師匠でありました。

そして、囃子が『トンコ節』に変わり、メクリが「鶴瓶」に変わると客席に一瞬、どよめきが起こる。
それが師匠が登場すると大きな拍手に変わる。
まずは、バツグンのツカミ。「えー、今の三歩、えらい顔してますね。歯も抜けて、けど、ああ見えて賢いんでっせ。楽屋に同級生の先生(医者)が来られてまして、先生に歯入れてもろたらええのに・・・。」
続いて、トリの春之輔師匠の話題に・・・。これも、実に面白い。紙面で紹介できないが、愛人宅前で交通事故に会って死に掛けたのを助けてもらった命の恩人の医者の名前を覚えていない。ローマでひったくりに会って手提げ鞄のトッテしか残らなかったとか。実に楽しそうにマクラを振った後、始まった本題は『三年目(茶漬幽霊)』の一席。師匠が最近、手掛けられた一席です。
この噺について鶴瓶師匠がこの噺のポイントを語っておられますので、引用致します。
怒り方ですね。『三年目』という噺は江戸前(関東)では人情噺とされ、上方(関西)では『茶漬幽霊』というタイトルでユーモアのあるお噺として演じられるんですね。で、僕が感じたポイントは、主人公の男がいかに怒るかというところだったんです。妻に先立たれた男が後妻をもらう。前妻が恨んで出てくる。でも、その出てくるタイミングが問題で「なんで今頃やねん!」って観客も亭主の気持ちになって納得してもらえるように演じたいなぁって。ね? 
前半はこの噺を十八番として演じておられた東京の六代目三遊亭円生師匠張りに、後半は暗くならないように上方の桂枝雀師匠張りのなんとも明るく、全編、夫婦の情愛となんとも可愛らしい先妻を演じられた鶴瓶師匠でありました。
サゲも昔の風習で坊さんにされた恥ずかしさと、夜は怖いとの女性の細やかさの二段仕立てと秀作でありました。

そして、八月公演のトリは、上方落語界の重鎮・上方落語協会副会長の桂春之輔師匠にとって頂くことになりました。久々のご出演と合って大張きりの師匠。楽屋入りされ楽しそうに雑談が始まる。鶴瓶師匠が到着されるとさらにヒートアップ。風月堂会長からの差入れのパンをほうばりながら雑談は続く。鶴瓶師匠に「兄さん、パン食べながら、人をパンで指しながらしゃべるのやめなはれ」との突っ込みもお構いなく、実に楽しそう。
演題は事前に『もう半分』に決定され、和女嬢とはめもののキッカケを打合せし、準備万全。
『月宮殿鶴亀』の出囃子で、貫禄タップリに高座へ登場。
「えー、大変な中、お越し下さいましてありがとうございます。えー、さっき、ずるべ(春之輔師匠は鶴瓶師匠のことを愛情タップリにこう表現される)が言うてたことは間違いで、なんぼ私でも命の恩人の名前を忘れたりしません・・・。最初から覚えてません(場内大爆笑)。さっきの鶴瓶でもう満足でしょうから私の方は気が楽です。それに今日演(や)る噺は上方の噺家は余り演りませんので気が楽です。『もう半分』という噺で、幽霊が出てきますが、決して怪談噺ではありません。サゲが着いてますので落語でございます。」とマクラもそこそこに本題がスタート。
この噺は、明治の名人・三遊亭円朝師匠の作で、昭和では五代目古今亭志ん生、八代目林家正蔵、五代目古今亭今輔師匠らが演じておられましたが、いずれも怪談調で暗い噺でした。春之輔師匠はその噺を舞台を大阪の新町に、演出を明るく演じておられた古今亭志ん朝師匠の口演を参考に置き換えられた噺であります。
発端は大阪の新町・四ツ橋の煮売屋からスタートします。
新町は大阪市西区新町。寛永年間から公許遊郭が置かれ、京の島原、江戸の吉原とともに日本三遊郭して知られています。三原遊郭と言えば、新町が神戸福原に代わって吉原、島原、福原となります。
煮売屋で毎日のようにお酒を茶碗に半分頼のむ爺さん。今日もお代わりを「もう半分」とまた注文。「もう半分」、「もう半分」と結局充分飲んで帰って行く。帰った後を片づけをしていると大金の包みが置き忘れてある。亭主が追いかけて届けてやろうとすると、女房が止める。大慌てで返ってきた落とし主が「あの金は娘が身を売ってこしらえた金。返して」に対してもシラを切りネコババしてしまう。
落胆して川に身を投げて死んでしまう。居酒屋夫婦はその金を元に裕福な暮らしをし、あきらめていた子供にも恵まれる。
しかし、その赤ん坊は可愛いどころか、やせ細って髪の毛は真っ白、あの爺さんにそっくり。女房は気が触れて亡くなってしまう。乳母を雇ってはみるが居つかず直ぐに辞めてしまう。事情を聞いて夜、赤ん坊と同室した。夜も更けて丑三つ刻(うしみつどき)、児がムックリと起きだして、細い腕で行灯(あんどん)の油を舐め始めた。主人が声を掛けると振り向き、爺さんそっくりな顔で「もう半分」。
文章だけを読むとなんとも後味の悪い笑えない噺を師匠の話術と明るさで見事に克服してトリに相応しい噺。客席の反応も上々でサゲと同時に大きな拍手が起こった半時間の秀作でありました。台風の中、大笑いされたお客様は口々に「来て良かった」「面白かった」の声や「鶴瓶さんは勿論やけど、トリが良かった」との感想も多数伺いました。
上方落語協会会長の文枝師匠の創作落語、春之輔、鶴瓶の両副会長のご出演と幹部総出演の
今回の恋雅亭。
やきもきしましたが、お客様や関係各位のご協力で開催して本当に良かった大入り公演でした。