もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第427回 
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 公演日時: 平成26年3月10日(月)      午後6時30分開演
 八天 改め 七代目 月亭 文都襲名記念公演
   出演者     演目
  桂   阿か枝  「千早振る」
  桂   蝶 六  「がまの油」   
  笑福亭 松 枝  「袈裟御前」
    中入
  文都・八方・松枝・蝶六・阿か枝  「記念口上」
  月亭  八 方  「堀川」
  月亭  文 都  「小倉船」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  林家和女、勝 正子
   お手伝  桂 三ノ助、三弥、弥太郎、月亭 方気
 まだ、寒さも残る三月十日、もとまち寄席恋雅亭『第427回・八天改め七代目月亭文都襲名記
念公演』が開催されました。前売券も三月の声を聞くと同時に売り切れ、当日券状況の確認など
の電話も多い中、当日を迎えました。
 出演者にも手伝って頂いてスムーズな開場のための準備を進め、チラシの数も過去最大を記
録して机一杯に並べられたものを人海戦術で挟み込む。落語会自体の数も増えているのと、多く
の落語好きの集まる当席のお客様の来場を狙っての配布であることが原因だろう。
それにしても昨今、印刷の技術の向上と料金が安価となったこともあって立派なチラシが多いの
に驚くとともに、かたくななまでに第壱回から変更していない当席のチラシとの対比も面白い。
定刻の五時半に開場となり、彼岸前とはいえ寒さの厳しい中、早くから並ばれたお客様が次々と
パンプレットに一杯挟み込まれたチラシを持って景気の良い一番太鼓に迎えられてご入場され、
席は次々に埋まっていきました。楽屋の方も本日の主役の文都師匠をはじめとしてご出演の師匠
連、お囃子連中も次々到着され準備万全。着到(二番太鼓)、柝が入って、『八天改め七代目月亭
文都襲名記念公演』の開席となりました。
 『石段』の出囃子でトップの桂阿か枝師が長身をやや前かがみにして高座に登場。
「えー、ありがとうございます。只今より『もとまち寄席恋雅亭八天改め七代目月亭文都襲名記念
公演』の開演でございまして・・・」との挨拶。
マクラは私事ですが愛息の話題。父親の商売がもう判るのかテレビを普段は足を投げ出して観て
いるのだが、「笑点」が始まると正座をして歌丸師匠をみて「パパ」と言うと紹介。
客席を暖めて始まった本題は、上方落語の『旅ネタ』と並んで前座話の定番と言われている『根問
物』の中から『千早振る』が始まる。
上方では、『旅ネタ』と『根問物』で、落語で重要なテンポ(調子)と会話のやり取り(間)を勉強する
と言われています。
この『千早振る』は、サゲ前に繋がる仕込みが永遠と続き、そして、サゲ前にトントンと謎解きをす
る演じるのに力量がいる噺ですが、阿か枝師は五代目師匠(文枝)に極似した耳障り、テンポも良
い口跡でトントンと進めストンと落ちるという客席からも思わず声が出たサゲでありました。
 二つ目は先代春蝶門下の桂蝶六師匠。
師匠は本年九月の林家染弥改め三代目林家菊丸襲名に続いて、来年の春に約七十年ぶりの復
活となる、名跡・三代目桂花團治を襲名されることになりました。
上方落語界も染丸一門の染丸、花丸、菊丸とはんなりした名跡が、春團治、福團治、小春團治、
米團治、梅團治、そして、花團治とかっこいい名跡が復活揃うことになります。
ちなみに先代春蝶師匠もこの花團治襲名の話があったそうです。
高座へ登場してニッコリ笑って「・・・・、本当に(絶妙の間)会いたかった」とのツカミからマクラは、
同じ喋る商売でも難しい叩き売りの話題。喋る前にお金を頂く我々と違って、聞く気のない通行人
を立ち止まらせて物を買わすのだからと説明されると納得の難しい商売。
叩き売りの商売を実演して、「昔はこれの代表格ががまの油売りで・・・」と本題の『がまの油』が始
まる。筋の運びも主人公が素と酩酊してからの口上の対比も師匠(先代春蝶)直伝を思わせる好
演はマクラと合わせて二十分。大爆笑でありました。

 三つ目は上方落語界の重鎮・笑福亭松枝師匠の登場となりました。
『早船』の出囃子で登場されるとさっそくマクラで松枝ワールドが展開される。
本題は『源平盛衰(性粋)記』と並んで師匠十八番の歴史絵巻『袈裟御前』の一席。
重鎮らしい貫禄と、どことなく軽く軽妙な高座の師匠にピッタリな噺で、脱線しては又、本題へ、そ
して、又脱線と客席を大爆笑に包みながら好演は続きます。
「落語は生の芸」の言葉通り、前出の『がまの油』とかぶるくだりでも「え、ここはさっき出ました
ね・・。へへ」と笑いを誘うあたりはさすが。
サゲもズバッと決まって襲名記念公演は、通常より一本早いお仲入りとなりました。
この噺は平安末期から鎌倉初期に大きな影響を及ぼした文覚(もんがく)上人、俗名遠藤盛遠(え
んどうもりとお)が出家に至るエピソードを一席にしたてたもの。
殺される袈裟御前は平安末期に木曾義仲の想い者の巴御前、源義経の愛人の静御前と並んで
美人の誉れ高かった女性であります。

 シャギリ、柝が入り幕が開いて高座上手から、桂蝶六、笑福亭松枝、月亭文都、月亭八方。桂
阿か枝の師匠連が黒紋付、袴姿で深々と頭を下げ『記念口上』がスタートなりました。
司会進行は桂阿か枝師。
口開けは八方師匠。「えー、本日はお寒い中、又、阪神タイガースが弱い中、ご来場頂きまして
・・・」と、鉄板ネタの挨拶。「文都と言う名跡は百二十三年ぶり・・」「(文都師匠が)百十三年ぶり」
とつっこむと、「123は、パチンコ屋なぁ」と絶妙のボケ。褒め倒して最後に「当人はちょっと地味で
ございますが、水原弘の唄同様で『地味(君)こそ命、地味(君)こそ命、我が命』とまとめ「関西一
の無責任男」の異名通りの独特の力の抜けた、おねおね話術に客席は和やかな笑いに包まれま
した。
続いて桂蝶六師匠。
「えー、新文都師匠と私は同期生で同じ『んなあほな(上方落語協会季刊誌)』の編集委員。いつ
も、会議の時はお互いが吸い寄せられるように隣に座ります。そして、どちらからともなく、お互い
の膝に手が伸びて・・・」と、特殊な関係を強調し、文都師匠の否定のつっこみがあって客席の笑
いを誘う。さらに、「言うてええんかなぁ」、横の松枝師匠の「ええで」の声に後押しされて襲名前に
文都師匠の奥さんが家を出た事を暴露。実は襲名と同時に夫婦別れというケースが多いと実名
(SSやKB、KA)入りで紹介すると、すかさず、文都師匠が「来年、君も襲名(蝶六改め花團治)や
で」とツッコム。
松枝師匠は、『襲名』の故事来歴を紹介し、客席からの拍手を誘う。
締めは松枝師匠の発声で、新文都師匠の活躍を祈念して「打ちましょ、チョーンチョン。も一つせ、
チョーンチョン。祝うて三度、チョチョンがチョン」と『大阪締め』。
本当の事と嘘が交じり合った大爆笑の襲名記念の口上でありました。
中入り後は、『夫婦萬歳』の出囃子で月亭八方師匠の登場となりました。
先ほどの口上をマクラとして、「関西一の無責任男」からガラリ変わって「上方一の落語責任男」と
ばかりに、酒の話題から早速、本題の上方落語の大物『堀川』がスタート。
この噺、前半の喧嘩極道が大活躍するクダリは笑いも場面転換も多く大いに盛り上がるので、時
間の関係などでここで切る場合が多いのですが、『堀川』の演題名から言うと浄瑠璃『近頃河原の
達引(ちかごろかわらのたてひき)』堀川猿廻しの段のパロディを語ってサゲとなるのが本寸法で三
味線に乗って楽しそうに演じられる八方師匠、半時間を越える熱演でありました。

 本日のトリは勿論、七代目月亭文都師匠。準備万全で『おかめ』の出囃子で高座へ顔を出すと
掛け声と共に、本日一番の拍手が起こる。
「えー、ありがとうございます。昨年の三月に襲名して早いもので一年、光陰矢のごとし(銀行で金
を借りると行員はやくざのごとく取り立てる意味)で嬉しい限りで・・・」との挨拶から、まだまだ、文
都と言う名前がお客様に浸透しておらず八天さんと呼ばれますとつないで、「私の方は旅のお噂
で・・・」と、大物『小倉船(竜宮界龍の都)』がスタート。
この噺、前半の船中でのくだり、中ほどはフラスコに入って竜宮城へ行く奇想天外、そして、後半
は『忠臣藏』三段目「裏門」での鷺坂伴内と早野勘平の科白のパロディでグッと芝居噺と飽きる所
のない噺。
文都師匠の口演は基本を忠実に踏襲しながら唄有り、踊り有り、随所に自身の工夫有り、そして、
サゲも一工夫有りと有り有りずくしの半時間超の大熱演でありました。