もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第425回 
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  公演日時: 平成26年1月10日(金)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  笑福亭 呂 竹  「初天神」
  桂   米 紫  「掛取り」   
  桂   珍 念  「七度狐」
  笑福亭 仁 嬌  「崇徳院」
    中入
  桂   文 福  「春駒師匠追善」
  桂   米 平  「天狗裁き」
  桂   文 珍  「けんげしゃ茶屋」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  はやしや絹代
   お手伝  桂 梅團治、三ノ助、恩狸、文五郎
 明けましておめでとうございます。年が改まった、例年通り、例年以上にすっかり冬ムードとなりました一月十日の金曜日、「もとまち寄席・恋雅亭・新春初席公演」が開催されました。
 前売券も十二月十一日の発売後、二週間で完売と前景気も絶好調で当日を迎えました。
 当日、当日券の有無を確認される、お客様の問い合わせも多い中の週末の金曜日、お客様の出足はすこぶる好調。いつもながら、寒い中、並んで頂いたお客様にはいつもながら申し訳ないことです。
 今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回のことながら、今回も量が多い。大忙しです。
長時間、並んで頂いているお客様にせかされる様に準備を進め、五時半に定刻通り開場となりま
した。木戸を済ませて順々にご入場されるお客様で、会場一杯にご用意した席は次々に埋っていき大入り満席。その後も「立ち見覚悟」で当日券を求められるお客様が次々ご来場される中、開演予定時間の六時半を迎えました。後方に立ち見のお客様も多い中、「第四百二十五回もとまち寄席恋雅亭・新春初席公演」の開演となりました。

 その公演のトップは、当席、初出演の笑福亭呂鶴一門の筆頭弟子の笑福亭呂竹師。
鳥取大学工学部から平成十四年に入門。以後、師匠の厳しい指導にも耐え落語の腕もメキメキ上達。今回、キャリア十二年での初出演となりました。
早くから楽屋入りされ、楽屋やお囃子の準備、チラシの挟み込み、一番、二番太鼓と大忙し。
二つ目の米紫師にマクラのネタを確認して、初席のトップのみ『石段』に替わって奏でられる『十二月』の出囃子で高座へ登場。
やや緊張気味のマクラの小咄は、「お父ちゃんの出張先」。
間も良く大爆笑を誘って始まった本題は、初席らしく『初天神』の一席。五代目松鶴、六代目松鶴、そして、呂鶴師匠と同様に主人公のこましゃくれた寅ちゃんが、初天神に連れて行ってもらうために、物を買ってもらうためにと無理無理の大活躍の一席。十二分の当席初出演は満足感一杯でサゲとなりました。

 二つ目は塩鯛一門の筆頭弟子。当席常連の桂米紫師。早くから楽屋入りされ、チラシの折込の手伝い、さらに、本日のネタのキッカケをお囃子の絹代嬢と打ち合わせして満を持して『猫じゃ猫じゃ』の師匠譲りの出囃子で客席からの大きな拍手に迎えられ、愛くるしい笑顔一杯で高座へ登場。
あいさつから、「今年で二十年になります」。「落語も古典芸能ですが、歌舞伎や能楽、狂言と比べて差別を受けています」。「去年の南座の顔見世の入場料は二万七千円でっせ。ちなみに恋雅亭なら、毎月来ても一年三ヶ月来れます。私が二万七千円貰ったら、まよわず・・・・。顔見せに行きます(客席は予想通りドッカンと反応)」。
 充分、客席を暖めておいて始まった本題は、昔の大晦日はどこでもあった風景の『掛取り』の一席。「人間、好きなものには心を奪われる」と、怒涛のように押し寄せる借金取りへの言い訳が爆笑を誘う。この噺、各師が色々と工夫するクダリが演じ処だが米紫師は、落語好きの借金取りの撃退法として、東西の噺家諸師の亭号や名前を織り込んだ言い訳でまんまと待ってもらうことに成功。紙面の関係で紹介できませんが、この言い訳が実に見事で最後は客席から大きな拍手が起こる。
そして、はめものもタップリ入った本格的な芝居仕立で、芝居好きな借金取りを撃破して大喝采の内にサゲとなりました。お見事。

 三つ目はトリの文珍一門から、桂珍念師匠。この師匠も早くから楽屋入り。
開演前の手伝いも終始ニコニコは相変わらずで、フットワークもすこぶる快調。
今回も師匠との出演とあって、嬉しさと緊張が入り混じっての『ずぼらん』のコミュカルな出囃子で高座に顔を見せると「待ってました ! よっ 珍念!」とばかりに、客席から大きな拍手が起こる。
熱演で取れて高座に残っていた米紫師の羽織の紐を美味しいツカミに使ってまず、大爆笑。「ご勿体無い、ご勿体無い、お手にお怪我は御座いませんか・・・」と、前出の米紫師同様に最高の満面の笑みでマクラがスタート。
鉄板の「ナュチュラルキラー細胞」「笑いと病気の関係」のマクラから始まった本題は、東の旅シリーズから『七度狐』の一席。
お囃子のタップリ入った『野辺』、『煮売屋』、そして、狐の登場から『七度狐』へと、噺はトントンと展開。珍念師匠のいつまでも若々しく、愛くるしく個性を存分に発揮、登場人物(狐も含め)がホンワカとしたムードと御伽噺的要素満載の噺の中で大活躍し、聴いていて気持ちが良い秀作。
『野辺』からサゲまで演じると半時間以上の大作をハショルったりカットしたりすることなく余すところ無く演じ、二十二分で大いに盛り上がった『野辺~煮売屋~七度狐』は、お後と交代となりました。

 中トリは仁鶴一門から、各地で落語会でも大活躍で、キャリア三十六年でお弟子さんも持たれている笑福亭仁嬌師匠。『ぼんち可愛い』の出囃子で高座へ登場して、
マクラもそこそこに数多い十八番の中から仁鶴師匠直伝の『崇徳院』の一席。
仁鶴師匠と同様に、主人公の熊さん、恋わずらいの若旦那、息子の全快のために無理難題を言う親旦那、そして、しっかりものの女房が、いつまでも童顔で若々しい好演で大活躍。
ノリノリの高座に客席もノリノリ。発端からサゲまで全編大爆笑の半時間の好演でお仲入りとなりました。
崇徳院と言えば「瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ」。滝の水は岩にぶつかると二つに割れるが、すぐにまた一つになるので、現世では障害があって結ばれなかった恋人たちも、来世では結ばれましょう。とのロマンチックな歌を詠まれた歌人。平安末期に源平が激突した「保元の乱」の一方の旗頭であります。

 中入り後は、トリの文珍師匠の発案で、ちょうど、来席されておられた桂文福師匠にお願いして「春駒師匠追善」の高座。
 春駒師匠は、皆様方よくご存知の通り、昨年末、六十二歳の若さでお亡くなりになられ、当席の噺家諸師とのパイプ役として影の功労者とでも言うべき師匠であります。
 「春駒」の名ビラを用意して、お囃子のはやしや絹代嬢にお願いして師匠の出囃子の『白拍子』を奏でてもらって、名ビラをひっくり返す。客席は一瞬、「ん」という反応だったが文福師匠が登場すると趣向を理解されたのか大きな拍手が起こる。
 文福師匠は謎掛けから相撲甚句「桂春駒師匠追善」で故人の功績を歌い上げてお後と交代となりました。
 続いては、出囃子が『大拍子』に変わって米朝一門から桂米平師匠。上方落語界の元祖・巨漢は健在で現在の体重は煩悩の数と同じ108kg。
 巨体を揺すって溢れる笑顔で高座へ登場。「この間、名指して呼んでもらったことがありまして・・・。持病の糖尿病が縁で『糖尿病学会の集まり』でして、私も糖尿病と大受けでして・・・」とのマクラから、「健康にはやはり睡眠が一番」と始まった本題は師匠直伝の『天狗裁き』の一席。
この噺、場面展開も登場人物もその夢の繰り返しが最初はクスクス、そして爆笑を誘う面白い噺。
しかし、間が実に難しい噺で、客席が次の言葉に気が付き笑いが起こるまでのほんの一瞬の間が勝負。客席がクスクスから大爆笑に変わる瞬間の間が米朝師匠から基本をミッチリ鍛えられた米平師匠だけに実に見事。
全編、大爆笑の連続の二十五分の好演でありました。

 そして、恋雅亭の新春初席のトリは今年も、上方落語の重鎮・桂文珍師匠にとって頂くことになりました。今回もホームグランドとでもいうべき当席、いつものように楽屋にドカッと座って、自らネタ帳を記帳される。春駒師匠が亡くなられたことを残念がられて文福師匠と打ち合わせされ、先程の文福師匠の高座となりました。
 いつものように『円馬囃子』でユッタリと高座へ顔を見せると客席からは本日一番の拍手が巻き起こる。
「只今は、えびすさんのようなふくよかな米平さんでございまして、体重は煩悩の数と一緒の108kg。私の方もちょいとお付き合いを願っておきます・・・。」と挨拶。
マクラは新春に相応しい「お賽銭は投げるから引っ付けるに替わりまして・・・」と、鮪にお賽銭を引っ着ける話題。楽しむように「えびすさん」の小咄と客席の反応もノリノリの文珍ワールドは続く。
 そして、「けんげしゃ」は、今では使わなくなった上方の古い言葉で「ゲンを気にする」こと、「大晦日から元旦にかけての噺」と説明して始まった本題は、米朝師匠が復活された『けんげしゃ茶屋』の一席。
ユッタリ、明るく、華やかに、トントンと、切羽詰って、困惑して、と、目まぐるしく変わる場面の語りも実に見事。随所に散りばめられたクスグリが大爆笑を誘って、ホームグラウンドの当席で、いつも通り客席の反応を楽しまれるかのように演じられた半時間を越える熱演はサゲで大爆笑を誘って、「もとまち寄席・恋雅亭」は無事、お開きとなりました。
 初席らしく華やかな「しころ囃子」に送られて会場を後にされるお客様は大満足なご様子で会場を後にされておられました。