もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第424回 
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  公演日時: 平成25年12月10日(火)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   吉の丞 「米揚げ笊」
  林家  染 弥 「おごろもち盗人」   
  笑福亭 伯 枝 「故郷に錦」
  桂   九 雀 「味噌蔵」
    中入
  笑福亭 鶴 笑 「動物園」
  桂   文 福 「運回し」
  笑福亭 鶴 瓶 「かんしゃく」(主任)

   打出し  21時10分
   お囃子  林家和女、勝正子
   お手伝  笑福亭純瓶、べ瓶、喬介、桂 三ノ助、和歌ぼん
 例年通り、例年以上にすっかり冬ムードとなりました十二月十日の火曜日、「もとまち寄席・恋雅亭・師走公演」が開催されました。
十一月三十日、笑福亭鶴瓶師匠から電話が有り、調整の結果、大変、お忙しい中、飛び入り出演を頂くことになりました。
急遽、HP、会員様への案内、風月堂さんでの告知を実施。ルミナリエで人通りも多くなった本通り。告知を目に留められる通行客や情報を知ったお客様で前売券も完売となり、前景気も絶好調で当日を迎えました。
当日、当日券の有無を確認される、お客様の問い合わせも多い中、平日にもかかわらず、お客様の出足はいつもよりすこぶる好調。いつもながら、並んで頂いたお客様にはいつもながら申し訳ないことです。
今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙しです。
長時間、並んで頂いているお客様にせかされる様に準備を進め、五時半に定刻通り開場となりま
した。木戸を済ませて順々にご入場されるお客様で、会場一杯にご用意した席は次々に埋っていき、遂に大入り満席。その後も「立ち見覚悟」で当日券を求められるお客様が次々ご来場される中、開演予定時間の六時半には左右後ろに立ち見のお客様も多い中、「第四百二十四回もとまち寄席恋雅亭・師走公演」の開演となりました。

その公演のトップは、当席、初出演の故桂吉朝一門の末弟の桂吉の丞師。
これで、あさ吉、吉弥、よね吉、しん吉、吉坊、佐ん吉、そして、吉の丞師と一門全員が高座を努められたことになります。早くから当席へ到着し、楽屋・鳴り物の準備や、ネタ帳をメクリながら本日の演題をチョイス。
二番太鼓の後、祈が入って満席の客席のおしみない拍手と『石段』の出囃子に乗って飛び出すように元気いっぱいに高座へ。
挨拶もそこそこに、さっそく本題、当席で演じられるのは二年半ぶりとなる『米揚げ笊』の一席がスタート。

一門の伝統とも言うべき、きっちりした本格的な芸風、これも亡き師匠の薫陶よろしくの成果。
「笊」、上方では「いかき」、東京では「ざる」。もはや、「いかき」は死語なので何度も、「ざる」と言い直したり、これはサゲの複線になる、売り歩いてはいるが品物は間違いことを強調するクダリもキッチリ入った判り易い演出。
登場人物全員が吉の丞師同様に明るくて元気一杯。テンポ良くトントンと展開していくので聞いていて心地よい。
工夫したサゲもキッチリ決まっていつもより一本多いトップの持ち時間を守っての口演時間は十四分でありました。ハショル処のない満足感一杯の秀作でありました。
・・・・・  『米揚げ笊』について  ・・・・・
この噺は明治初年、初代桂文枝四天王の一人と言われた初代桂文團治(あだ名:塩鯛)師匠の作とされていますので、明治の創作、今では古典の匂いプンプンの落語と言えます。
 この噺に出てくる大間目(おおまめ)、中間目、小間目に米を揚げる米揚げ笊の間目(まめ)は、笊の目の粗さのことです。字に書けば判りますね。
余談ですが、文枝四天王の残りの師匠は、桂文三(後の二代目文枝・当代は五代目で当席で襲名公演実施済)、桂文都(後の月亭文都・当代は七代目で当席でも襲名公演予定)、桂文之助(後の月亭文都・当代は七代目で当席でも襲名公演予定)となります。

二つ目は染丸一門から林家染弥師。師匠の薫陶もよろしく、演じられる上方落語も大きく花が咲いてきました。来年は入門二十年の節目となり、林家一門にとって、染丸、花丸と並んで、大名跡・林家菊丸の三代目を秋に襲名されるお目出度い話も纏まり大張り切り。
※二代目菊丸師匠は、『不動坊』『堀川』『後家馬子』『吉野狐』などの作者で、菊丸は115年ぶりの名跡復活となります。
『万歳くずし』の出囃子で満面の笑みで登場すると、「ぶっそうな世の中で・・・」とのマクラから、
ピストルを持って入った盗人をメスで防戦したその家の主人の医者。なる程と思わせるサゲから、本題の『おごろもち盗人』が始まる。
この噺、東京では『もぐら泥』と呼ばれ、節季の金の工面をする夫婦とちょっと間抜けな盗人、さらに、その盗人をさらにひどい目に合わす酔っ払いと、登場する人物が染弥師の語りと仕草で高座狭しと大活躍。場面転換、会話の妙、と大変面白い噺に仕上がって、さらに、持ち時間を考慮し、サゲまで行かずに「さて、この先、この盗人の運命は・・・」と含みを持たしての十五分の高座は、思わず「よっ、出来ました、三代目、菊丸」と、声を掛けたくなるような、秀作でありました。
※ 題名の「おごろもち」とは、上方では「もぐら」の古い呼び名で、平安時代に田畑の畦(くろ)を持ち上げるところから「畦(くろ)もち」、土を持ち上げるの意から「壌(うくろ)もち」、さらに、
「おごろもち」。さらに変化して「もごろもち」、「もぐらもち」、「もぐら」。土に潜(もぐ)るから「もぐら」という説もあるそうです。

三つ目は笑福亭松鶴一門から、笑福亭伯枝師匠。
一門の豪放磊落な伝統と、一見、怖そうな風貌もにっこり笑顔で明るい高座は当席ではいつも爆笑を誘っています。
今回も大好きな恋雅亭とあって大張り切りで『白妙』の出囃子で高座へ。
ここで、ちょっとしたハプニング。名ビラ(芸名を書いた舞台袖の紙)が床に落下してしまった。
「えー、続きまして、上方落語界の・・・・、と呼ばれております」。客席からはクスクスと小さな笑いが起こる。「私は誰でしょう・・・」。さらに、お茶子さんが名ビラを引き上げ、再び持って出てくると客席の笑いは頂点へ。
このハプニングを逆手にとって、「昔、この恋雅亭は十二月は艶笑噺の会、大人の童話集てな特集をやってまして、内の師匠(六代目松鶴)や露の五郎兵衛師匠、森乃福郎師匠なんかがよく出てられてましたが、それを思い出しまして、『故郷に錦』を演(や)らしてもらいます。この噺、人間国宝の米朝師匠が演(や)られますと芸術性豊かな匂いが、内の松鶴師匠が演(や)りますとワイセツの匂いがする噺で・・・。今日は松鶴バージョンで(客席からは大きな拍手が起こる)。」
登場人物の叔父さんの天性のエロは自身の任ピッタリに、松鶴師匠はあの顔で後家のお母さんの色気もタップリでしたが、伯枝師匠も負けず劣らず大したもの。
二十二分の口演に客席は大満足でした。客席最前列には小学六年生の豆噺家が座っていたのは本題に入ってから気が付いたのはご愛嬌でした。

*落語・ミニ情報 落語『故郷に錦』について
 この噺は滅多に演じられることのない珍品。当席で初めて演じられたの、昭和五十五年十二月の第三十三回公演「年忘れ艶一夜・大人のための道道話集」。今から三十三年前。
伯枝師匠も言っておられた、ご存知の方も多い年末特番で開催されていた艶笑噺の公演。
その時の出演者は次の通り。
『蔵丁稚』 桂   小 米
『大名道具』 森乃  福 郎(故人)
『茶漬間男』 桂   米 朝
『故郷へ錦』 笑福亭 松 鶴(故人)
・二次会は会場での出演者、お客様合同での大忘年会。嬉しそうにお客様と談笑しながら酒を酌み交わしておられた三師匠が昨日の様に思い出されます。
小生がこの噺と始めて出会ったのは、米朝師匠のレコード『いろはにほへと』。艶笑噺を集めたレコードで、そのトリの演題として演じられたのが、この『故郷へ錦』でありました。
『羽根突き丁稚』『反故染め』『あとの二人』『火消しのかか』『猪飼野』『医者間男』『茶漬け間男』『狐と馬』『めす馬』と、題名だけで創造出来る噺が並んでいました。
 その後『続・いろはにほへと』と、松鶴師匠の『上方へそくずし(トリの噺は『狸茶屋』、全編、ピー、ピーだらけの言語満載)』の三枚が小生の上方艶笑噺の宝物であります。
聞き比べてみると、両師匠の芸風がよく出ていて面白く、伯枝師匠の言葉通り芸術とワイセツは紙一重です。

中トリは桂枝雀一門から、各地で落語会を積極的に開催されておられる桂九雀師匠。
基本に裏付けされた口演は古典良し、創作良しの両刀使い。長身を折り曲げるように満面の笑みで高座へ登場。江戸時代の消防のやり方、衣装、忠臣蔵の装束と、火事の話題から始まった本題は小佐田定雄先生の脚色で上方へ移植された東京落語の『味噌蔵』。
東京落語の中でも上方の匂いのする噺。主人公は倹約家の主人。嫁さんを貰うのも金が掛かる。子供が出来てもお金が掛かる。まして、奉公人も金が掛かるとの徹底振り。蔵の類焼防止には「商売ものの味噌で目塗りをせよ」と指示。一瞬、太っ腹と思いのほか、燃えた味噌は焼き味噌で奉公人の食事に・・・。と、徹底振り。
九雀師匠はその主人を子供が出来て素直に喜び、火事のことだけを心配する真面目な主人として演じられる。東京風を上方に移植すると主人の倹約ぶりがより誇張され、ちょっとやり過ぎと思うところを、聞き終わってまことにすがすがしい気分になる秀作となっています。
途中、上方らしくお囃子もタップリ入って大いに盛り上がった、二十二分の秀作でお中入りとなりました。
中入り後、カブリは笑福亭松鶴一門から笑福亭鶴笑師匠。
日本はもとより、世界各地で大活躍の師匠。とにかく。笑えることは ◎ 。皆様の目と耳でお確かめ下さい。と、ご紹介しましたが、その通りで、いつもの「ドンガ、ドンガラガッタ、国松様のお通りだ・・・」の『ハリスの旋風』の出囃子で元気良く高座へ登場。
* この『ハリスの旋風』もお馴染みのない方も多くなったのでは。ちばてつや先生原作で少年マガジンに連載され、アニメとして関西TVでも放映された、昭和四十一年なので今から約半世紀前の作品。主人公の石田国松少年が鶴笑師匠とオーバーラップする。
 今回も高座へ登場直後から「今から後半戦です。気を確かに持って・・・」と、始まる。
「鶴瓶兄さんを早く見たいやろから短くいきます。」とか、
「今日は古典落語します。定吉。へー。・・・。たいしたものでしょう。」いきなりフルパワー。
さらに何度も脱線しそうになって、始まった本題は『動物園』の一席。
虎の身体の動きを実演すると客席から拍手が。これには嬉しそうに『拍手、待ってました』。
サゲも色々ある中から「心配するな、園長の池田や」。十五分の高座は短さを感じさせない充実高座でありました。
※ この噺の原話は英語圏に広まるジョーク(ゴリラが皮をかぶる)で、二代目の桂文之助師匠が落語にまとめられたそうで、アベノミクス効果でちょっと景気も良くなったとはいえ、貴方ならこのアルバイトやりますか?

そして、上方落語の元気印、「和歌山のおいやん」、桂文福師匠の登場となりました。
早くから楽屋入りされ、高座袖にドッカと座って実に楽しそうに出番を待っておられた師匠。『月光仮面は誰でしょう』の出囃子で高座へ。「バァー、ちょっと地味な衣装ですみません。」と、いつもの鉄板のツカミ。
実は、鶴瓶師匠の出演が決まるまで恋雅亭初のトリで緊張されておられたらしいが、決まったのでいつもと同じ様にノビノビ、ノリノリの文福師匠。
謎掛け、相撲甚句、河内音頭、そして、昭和歌謡大全集、と、大受けの高座から、「ちょっとこ古典落語を・・・。」と始まったのは『運廻し』。別名を『田楽食い』だが、食べるのが饅頭なのでこの題名が相応しい。
盛り上げる万金丹の看板もスラスラと・・・。そして、大熱演の高座はサゲとなりました。
ちなみに、「ん」の数は、ご自分でお確かめを。
「せんねん、しんぜんえんのもんぜんのやくてんげんかんばんにんげんはんめんはん しんきんかっぱんきんかんばんぎんかんばん、きんかんばんこんぼんまんきんたんぎんかんばんこんじんはんごんたんひょうたん、かんばんきゅうてん」
さて、トリは笑福亭鶴瓶師匠。『とんこ節』で高座へ登場すると本日一番の拍手が巻き起こる。
「しゃべりは何を言ってるのか判らへんけど。唄は上手い」と文福師匠の話題、亡くなる前の松鶴師匠の警察病院での話題をマクラに、「今日は、昨年まで十二月といえば、ここは松喬の兄貴が出てましたし、今日は伯枝と鶴笑と笑福亭が二人出てますので・・・」と始まった演題は『癇癪(かんしゃく)』の一席。
東京の噺をベースにして、主人公は勿論、六代目松鶴師匠。
「マジックチンキ、エネルギー体質」「マジックの青は信号の・・・」「靴は茶色しかないので、全部並べると、ワシは・・・か!」などなど、全編実話の大爆笑編。怒鳴りまわるが人情味溢れる松鶴師匠が噺の世界で大活躍すると、ご存知の方もご存知ない方も大爆笑。そして、ホロリと涙も。笑いが絶えなかった半時間の熱演でありました。