もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第423回 
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  公演日時: 平成25年11月10日(日)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   さん吉 「代脈」
  笑福亭 遊 喬 「試し酒」   
  桂   團 朝 「宗論」
  桂   文 太 「無妙沢」
    中入
  桂   梅團治 「鉄道勇助」
  露 の  都  「ハルちゃん」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  林家和女、勝正子
   お手伝  露の瑞、桂小梅
 長らく続いた爆発的な猛暑も嘘のようなで、しかしながら、暑いのか寒いのか「さっぱり判らん猫の糞」状態のけったいな天気で、当日の十一月十日の日曜日を迎えました。前景気は好調で、前売券も予定枚数を若干残すのみ。日曜日とあって、お客様の出足はいつもより早く、いつもながら、並んで頂いたお客様にはいつもながら申し訳ないことです。
 今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙しです。長時間、並んで頂いているお客様にせかされる様に準備を進め、五時半に定刻通り開場となりました。順々にご入場されるお客様ですが、木戸口は大きな混乱もなく順調。御入場されたお客様で席は次々に埋っていき、当日券を求められるお客様も含めて開演の六時半には客席は後方に若干の空席を残しましたが、ほぼ満席で 「第四百二十三回もとまち寄席恋雅亭・霜月公演」の開演となりました。

 その公演のトップは、故桂吉朝一門から桂佐ん吉師。
平成十三年入門ながら当席へはこれで四回目の出演で常連であります。師匠の薫陶よろしく本格的な芸風をベースに若さ溢れる高座は毎回、大爆笑を誘っていますが、今回も期待されておられる多くのお客様の拍手と『石段』の出囃子に乗って飛び出すように元気いっぱいに高座へ。挨拶もそこそこに、お医者さんにまつわる小咄をマクラに始まった本題は『代脈』の一席。登場人物全員が佐ん吉師同様に明るくて元気一杯。テンポ良くトントンと展開していくので聞いていて心地よい。
 トップの持ち時間を守っての口演時間は十五分でありましたが、どこを抜くこともなく、ハショル処もなく満足感一杯の秀作でありました。

 二つ目は故六代目松喬師匠の二番弟子の笑福亭遊喬師。
大柄な体型と人懐っこい笑顔で演じられる上方落語は、本年、故人となられた六代目笑福亭松喬師匠の薫陶もよろしく、絶好調。『琉球節』の出囃子に乗って高座へ登場して、始まったマクラは、やはり亡き師匠との思い出噺。そして、「師匠も大好きだった恋雅亭で、師匠のお得意だった酒の噺を・・・」と、始まった本題は大酒飲みが主人公が大活躍する『試し酒』の一席。
 「五升の酒が飲めるか」を賭けた主人の身代わりとして挑戦した権助が、見事に五升の酒を飲み干してしまうという噺。遊喬師のほんわかとしたムードと田舎出の権助のイメージがピッタリ。客席からクスクスと、そして、連続して笑いが起こり続ける。師匠の松喬、大師匠の松鶴師匠と酒の笑福亭の本領発揮のこの噺、五升の酒を飲むのにゆっくり飲むとダレ間になりかねず、早く飲むとそんなに早く飲めないと難しい噺でありますが、師匠の呼吸を継ぐ演じ方で実に美味しそうに、五升ではなく倍の一斗(飲めるかどうか試しに)を飲み干した主人公。並びに演じきった遊喬師。お見事な二十分のほんわか、ゆったり、そして、満足の高座でありました。
 この噺のウンチクを少々。
古典の匂いのする噺だが落語研究家の今村信雄氏が昭和初期にものした新作とされています。ところが、この噺には筋がそっくりな先行作がありまして、明治の英国人落語家・初代快楽亭ブラック師匠の『英国の落話(おとしばなし)』の中では、主人公が英国連隊の兵卒ジョン、飲むのは日本酒ではなくビールになっていて、サゲも同趣向です。さらに、中国唐時代の『笑話』にも同パターンがあるそうです。東京でのこの噺の初演は七代目三笑亭可楽師匠。可楽師匠の崇拝者でありました、五代目柳家小さん師匠がその演出を戦後、さらに磨き上げ、そして、多くに演じ手に伝承されています。
※ 三笑亭可楽は江戸時代から続く、噺家の名跡で、一時は東西で存在し、芸名の由来は「山椒は小粒でひりりと辛い」から「山生亭花楽」。現在は九代目の師匠が健在です。

 三つ目は米朝一門から、桂團朝師匠。
一門のキッチリしたお行儀の良い伝統を下敷きにご自身のパワフルな高座は、当席ではいつも爆笑を誘っています。今回も、待ってましたとばかり『浪花小唄』の景気の良い出囃子と万来の拍手に乗って高座へ登場。誰との名指しはせず、「お父さんがしっかりしていればその息子は今一。落語界にも。」と連呼。客席のカンの良いお客様からはクスクス。その笑いで気が付かれた別のお客様がクスクス。最初は何のことが判らなかったお客様も気が付かれクスクス。やがて、会場全体がクスクスと笑いに包まれるといった勘が良く、聞き込まれたお客様の多い当席ならではの展開に団朝師匠も狙い通りとひと調子声も上がってネタばらし。客席はドッカンと沸いておお盛り上がり。
 充分、温まった客席を確認されて、始まった本題は、「宗論はどちら負けても釈迦の恥。」の枕詞から始まる、『宗論』。どちらかというと古風な題材のこの噺を、若さを生かして若旦那の演出に力点を置いて、それでいて、親旦那の風格を損ねることなく一門伝統のキッチリとした口調と、ご自身のパワフルな演じ方を織り交ぜ演じられる。その高座に客席は爆笑の連続。大いに盛り上がった二十分でありました。

 中トリは上方落語界の重鎮・桂文太師匠。
『三下りさわぎ』の出囃子でユックリ登場。客席からは大きな拍手と共に掛け声が掛かる。さっそく始まったマクラは登山ブームの話題。名前は伏せながら、「上方のお囃子さんの中にも若手のそれもイケメンの噺家さんを同行して登山に興じるモサがいる」と客席の笑いを誘う。さらに、陽気な唄として『アルプス一万尺』を扇子で拍子をとって、数番唄って、「ええ加減に止めてえなぁ」と、和ませ本題へ突入。
 先月の紹介で、「本格的な上方落語を、さらに江戸落語の移植ネタをと客席を爆笑の渦に巻き込んで頂いている師匠で、今回も選りすぐりの一席をタップリ。大爆笑、疑いなしです。」と、ご紹介しましたが、今回の選りすぐりの一席は、江戸落語の移植版『無妙沢(東京名:鰍沢)』。明治の名人・三遊亭円朝師匠作の三題噺(卵酒、鉄砲、毒消しの護符)の『鰍沢』を原本に、場所を山梨県身延山から野勢の妙見山に移しての意欲作であります。
 冬の雪深い山中で道に迷った主人公が藁にも縋る思いで助けを求めた一軒のあばら家。外の吹雪と中の囲炉の火の暖かさ、そこでの妙齢の女性との会話、ちょっと、口が滑って・・・。風邪の妙薬?の卵酒を飲んで眠りに付く主人公。帰ってきた主人が飲み残しの卵酒を飲み悶絶。身の危険を感じて逃げ惑う主人公、火縄銃を持って追いかける女、と、登場人物が生き生きと大活躍。圧巻はラスト。切り立った崖に追い詰められる主人公、下は濁流と文太師匠の描写の素晴らしさで、映画を見ているようにお客様の頭の中は物語が進行。サゲ前に、地に返って「弾が命中させましょか?、それとも、外しましょか?」とお客様に問いかけ。この上方らしくサービス精神一杯の演出のお客様が選ばれた展開は「外れるパターン」と原作の『鰍沢』通りの展開。そして、師匠の工夫のサゲとなりました。文太師匠はこの噺について、「東京落語の『鰍沢』をこちらに移したもの。名作と言われるだけあって、骨組みがしっかりした噺なので、ストーリーを丁寧に演じるようにしています。こんな下げをつけてみました。  と語っておられます。

 中入後のカブリは、春團治一門から当席常連の桂梅團治師匠。
ほんわかとした風貌そのままの登場人物が大活躍する落語はには当席でも多くのファンがおられ、客席から巻き起こる拍手と『龍神』の出囃子で高座へ顔を見せるとそれだけで客席から笑いが起こる。「えー、今日は昼席の繁昌亭に出てまして、トリで、ここでは中入りカブリ。以前、繁昌亭でトリをとった後の恋雅亭、何かの記念会の日でしたので、トップでした。そんな中途半端な存在の噺家で御座いまして・・・」と、客席が笑い転げる大爆笑のツカミ。
※ この梅團治師匠の言われた公演は、平成二十一年四月の第368回・小米朝改め五代目桂米團治襲名記念公演のこと。出演者は、桂梅團治/桂枝三郎/笑福亭松枝/林家染丸/中入/桂南光/桂米團治。
 マクラからエンジン全開の大爆笑高座。始まった本題は『鉄砲勇助』ではなく、そのパロディ版の『鉄道勇助』。大の鉄道マニアの師匠だけに、日本国中の鉄道の路線、駅名や名物にまつわる話題で笑いを誘う。噺は北海道へ飛び寒さゆえ起こる奇想天外なストーリーが展開する。サゲも一工夫された源本をご存知のお客様は勿論、ご存知でないお客様も充分に笑える秀作。客席も演者も大満足なマクラからサゲまで二十五分の熱演でありました。

 そして、十一月公演のトリは、上方落語、いや東西を通じても女流噺家の第一人者、露の都
匠に初めてとって頂くことになりました。四百回を越える当席でも、襲名披露公演での桂あやめ師匠についで二人目。通常公演では初めてとなる女流のトリ。いつも女性の目を通しての切り口で演じられます爆笑落語演じるべく、『都はやし』の出囃子に乗って、ユッタリと階段も一足一足踏みしめるように高座へ。
 まずは、初トリを嬉しそうに紹介。「以前は師匠のカバンを持って来てましたここ(恋雅亭)に、最近は年に一回出してもろてまして・・・。ここは一週間位前に出番が葉書で届きます。その時に他の出演者や出番順が判るんです。今回、パッと見ましたら『わっー、トリやわ』どないしょ。いつもは中トリか、今の梅團治君の出番のカブリが多いんですわ。早速、過去の演題を調べましたら、ほとんど、ネタが出尽くしてますねん。どないしょ、よっしゃ、あの創作をと、決めてきたですわ。けど、前で乗り物の創作の噺が出まして、私も、乗り物の噺ですねん。噺が付きますねん(題材が重複する)。けど、やります(客席は拍手喝采の大受け)。」そこからは、都の世界炸裂のマクラ。客席はドッカンドッカンと大受け。そして、都師匠同様の愉快な大阪のおばちゃんが主人公で大活躍する創作落語『ハルちゃん(石山悦子・作)』がスタート。「こんなおばちゃん、おるおる」と、共感のお客様の笑い声で、自然と演者も力が入る。
 演者もノリノリ、客席もノリノリで噺が進み「なるほど」と、唸らせるようなサゲとなりました、前半の「都の世界」を含めて半時間強の当席の初トリを努められた都師匠に客席からの拍手はしばらく鳴り止まなかった。