もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第422回 
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  公演日時: 平成25年10月10日(木)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  笑福亭 喬 介 「金明竹」
  月亭  遊 方 「クレーマークレーマー」   
  桂   蝶 六 「豊竹屋」
  桂   きん枝 「一文笛」
    中入
  内海  英 華 「女道楽」
  桂   三 風 「引き出物」
  笑福亭 鶴 志 「たぬき」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  林家和女、勝正子
   お手伝  月亭禄遊、
 「暑さ寒さも彼岸まで」のことわざ通り、長らく続いた爆発的な猛暑も峠を越した神戸。
しかし、今年は異常気象でした。前景気は好調で、前売券も予定枚数を若干残して当日の十月十日を迎えました。十月十日といえば、昔は「体育の日」で祝日でしたが、今は土日を合わせて三連休とするため、今年の「体育の日」は十四日の月曜日でした。ちょっと涼しくなったとはいえ、並んで頂いたお客様にはいつもながら申し訳ないことです。今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙しです。長時間、並んで頂いているお客様にせかされる様に準備を進め、五時半に定刻通り開場となりました。順々にご入場されるお客様で木戸口は大きな混乱もなく順調。御入場されたお客様で席は次々に埋っていき、当日券を求められるお客様も御来場され開演の六時半には客席は後方に若干の空席を残しましたが、ほぼ満席で 「第四百二十二回もとまち寄席恋雅亭・十月公演」の開演となりました。

 その公演のトップは、笑福亭三喬一門から笑福亭喬介師。
手伝いでは当席常連でしたが、前回の初出演では全開の高座で熱望される多くのお客様の声で高座でも常連と一年ぶりの再演となりました。今回も前回同様に大爆発の個性一杯の高座を楽しみされる多くのお客様の拍手と『石段』の出囃子に乗って飛び出すように元気いっぱいに高座へ。「さっ、只今から開演でございます。約一年ぶりの出演でございまして・・・。楽しく落語を聞いて下さい。」と一言。この一言で客席は大爆笑で「喬介の世界」へ突入。楽しく落語を聞いてもらうための五つのお願いをあいうえおで「あ、あくびをしない。い、居眠りをしない。う、うろうろしない。え、笑顔で聞く。そして、これが肝心です。お、面白ろなくても笑う。」と紹介して、絶妙の間で「それでは落語しまーす」。客席からは掛け声がかかる中、本題がスタート。
 本題は、東京落語の前座琶噺の定番の『金明竹』の一席。
東京では、前半の滑稽なやり取りが間の重要性を鍛えるためと後半の上方弁でまくし立てるクダリが口調を滑らかにするための必須条件として『寿限無』の次はこの噺とされている。その噺を一言で言うと前回の『時うどん』同様に、実に「めちゃ楽しく、面白い!!!」。道具屋の主人の甥が主人公、叔父にあたる旦那さんと奥さん、そして、大阪弁をまくし立てる同業の加賀屋佐七から来た男との会話でトントンと噺が進む。底抜けに明るい持ち前の師の個性を充分に生かしてさらに誇張。客席の後ろまで響き渡った大きな声とオーバーアクションで演じる落語はツボツボと言わず全編大爆笑の連続。
 見事に決まった工夫一杯、元気一杯、満足一杯の発端からサゲまで手を抜くことのない十七分の
高座に暫く客席の拍手は鳴り止まなかった。

『金明竹』で登場する道具七品は、今で言う重要文化財ばかりで、
①祐乗(ゆうじょう)光乗(こうじょう)宗乗(そうじょう)は、戦国時代の三代の金細工師の名人で、三作の三所物(みところもん)とは、『目貫(めぬき)』・『小柄(こづか)』・『笄(こうがい)』の三点セット。
②鎌倉時代の備前の国の刀工の備前長船(びぜんおさふね)の則光(のりみつ)の打った名刀。
③江戸時代中期の金工の絵画風彫金を考案した横谷宗珉(よこやそうみん)四分一(しぶいち)ごしらえ小柄(こづか)付きの脇差。
④京の楽焼の三代目楽吉左衛門道入の焼いたのんこ(「のんこう」)の茶碗。
⑤黄檗山金明竹(おうばくさんきんめいちく)ずんどの花活(はないけ)とは、中国原産
で黄金色で節の溝に緑色のたて筋が入っている竹(金明竹)を輪切りにして使った花活け。
⑥芭蕉のペンネームの『風羅坊』が入った本人の真筆の掛け軸である風羅坊正筆(ふうらぼうしょうひつ)の掛け物。
⑦臨済宗の高僧の沢庵(たくあん)和尚と、中国から渡来し、黄檗山萬福寺の住持を勤めた木庵隠元禅師(もくあん・いんげんぜんじ)の三僧の書いた書画を一つの屏風に張り混ぜた、張りまぜの小屏風(こびょうぶ)。

 二つ目は月亭八方一門から自作創作落語の優、月亭遊方師匠。
本日のお手伝いの月亭禄遊師。そして、太遊師とお弟子さんも二人の師匠です。しかし、毎回、汗、ブルブルのパワフルな口演で客席を爆笑の渦に巻き込んでおられる元気一杯の師匠であります。今回も大好きな当席で、さらにパワーUPした高座を披露すべく楽屋入り後、ネタの練習に余念がない。『石見』の出囃子で元気よく登場するとちょっとしたアクシデント。「別に仕組んだ訳ではありません。こんな、姑息な手段は使いません。」と、テレながら爆笑マクラがスタート。繁昌亭で見送りの際に着物でご来場の方だけに渡している大入袋を色々な手を駆使して貰おうとするおばちゃんの実態。さらに、二十代前半に食うにも困っていた時代に訪れた幸運。UFOに入っていなかった青ノリが入っていなかったことにクレームを本社に電話すると送られてきたお詫びの1ダースのUFO.。クレームをつけるとバブル期とも相まって大量に送られてきたお詫びの品々。「これで、食いつないできました」と、紹介して、最近実際に遭遇した、ほぼノンフクションと、断って始まった本日の創作落語は『クレーマークレーマー』。金属片が入っていたキャラメルでクレームをつける。話を大きくするために独身なのに、「三歳の娘が食べた」としたために、お詫びに来たキャラメルメーカーの社員に反論されタジタジ。客席は大爆笑が続く。金属片は詰めてあった銀歯。お詫びに送られてきた品物は・・・。これがサゲになっています。

 三つ目は先代春蝶一門から、桂蝶六師匠。
当席へは数多くご出演だった先代をご存知のお客様も多く、又、先代をご存じないお客様にも先代譲りの何とも言えない可笑しみのある高座の蝶六師。「お先、勉強させて頂きます」と元気一杯、楽屋に挨拶して『乗合船』の出囃子で高座へ登場。挨拶の後のマクラは師匠もお好きな狂言へ移る。場内のお客様を巻き込んで狂言の言い回しを披露されると、これには場内も乗り乗りで一体化。会場の雰囲気をガラリと変え、始まった本題は浄瑠璃好きと三味線好きの二人の掛け合いの面白い『豊竹屋』の一席。
 次の中トリのきん枝師匠の出番を意識した軽く、さらりと、それでいて聞いた後に満足感が残った十五分の名演でありました。

 中トリは、今や上方落語界の重鎮の貫禄一杯の桂きん枝師匠。
もって生まれたなんとも言えない軽い乗りと年齢を重ねられ、師匠譲りの本格的古典落語を当席で演じるべく早くからの楽屋入り。『相川』の出囃子で高座へ愛くるしい笑顔を見せると、客席から本日、一番の拍手が起こる。「長いこと出てません。約2年ぶりですわ。【平成二十三年五月第393回小つる改め 六代目笑福亭枝鶴襲名披露公演以来。演題は『孝行糖』】」。「なんで、呼んでもらわなかったやろ。二回捕まるわ、選挙に落ちるわ、私もその間、大変でして・・・」には客席は大爆笑。楽しまれるように演じられる爆笑マクラは、続き、十五分。
 満を持しての本題は、米朝師匠作の創作落語『一文笛』の一席。発端からサゲまで、皆様、ご存知の通り、爆笑のクダリやちょっと人情噺風のクダリもあり、そして、「良かった。ホッとした」と思わせるサゲへと名演は続く。お客様も演者も大満足な四十分の熱演でありました。

 中入後のカブリは、色物として、『女道楽』内海英華嬢。
いつまでも若々しく、それでいて、熟女の色気ムンムン。今回も大張り切りで自慢ののどと三味の音色をお楽しみの多くのお客様の大喝采と『踊り地』の出囃子に乗って高座へ。「ようこそお越しくださいまして、久しぶりに恋雅亭の方でのお目通りでございまして、フアンの方お待たせいたしました。(拍手)」キッチリした芸に裏打ちされた高座は、まず、若い時代の当席や神戸の思い出。
 英華嬢のHPをご紹介すると、
一年ぶりの、「恋雅亭」でした! この蒸し暑い中!イッパイのお客様にお越し頂きありがとうございました。m(__)m  英華は、舞台で懐かしい神戸や恋雅亭の思い出をオシャベリして都々逸で、ご機嫌を伺いました。 舞台の袖は、初めて行った恋雅亭の楽屋とゼンゼン変わらない懐かしい場所でした。(^-^)v
ええ声とええ音締を披露してのトリネタは「アンコ入り都々逸・勧進帳」で、自慢の三味の音を聞かせて、お後と交替となりました。お見事。

 そして、十月公演のトリは、上方落語界・笑福亭の重鎮・笑福亭鶴志師匠にとって頂くことになりました。
毎回、六代目松鶴師匠を彷彿とさせる師匠。今回も、豪放磊落で、それでいて、どことなくホンワカする本格的な芸の真髄を演じるべく、今回も巨体を揺らしながら楽屋入りするや楽屋話全開。その勢いそのままに、松鶴師匠の出囃子の『船行き』をアレンジした『船行きくずし=鶴志囃子』に乗って堂々と登場。小拍子をポンと叩いて「えー、暑いでんな。もう十月ですっせ。何時もやったら袷の時期でっせ。半袖の着物があったらええのに・・・」と、ツカミ一発で鶴志ワールドへ突入。「色んなことを言いながら頭の中は何を演(や)ろかなと、考えてますねん。えーと、あれはまだ覚えてない、難しい、忘れた、ねー。難しいもんだ・・・」。
 そして、始まった演題は、東京の五代目柳家小さん師匠の十八番だった『たぬき』。
この噺は『狸の札』『狸の鯉』『狸の賽』の三部作。鶴志師匠は楽しむように、『狸の札』を、続いて『狸の鯉』を。体型からは狸の真ん丸いイメージ。ちょっと厳しい顔が愛くるしい笑顔になると可愛い小狸に。芸というものは凄いものだと感じさせる半時間の好演でありました。
 
※手伝いの月亭禄遊師は、漫才師、ピン芸人を経て、平成十年十二月に月亭遊方師匠に入門、先程、開催されました。平成二十五年度NHK新人演芸大賞「落語部門」の決勝に出場された逸材です。