もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第421回 
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  公演日時: 平成25年 9月10日(火)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   小 鯛  「やかん」
  桂   阿か枝  「孝行糖」   
  林家  花 丸  「腕食い」
  笑福亭 松 枝  「莨(たばこ)の火」
    中入
  桂   三 風  「引き出物」
  桂    塩 鯛  「寝床」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  林家和女、
   
 爆発的な猛暑も一服の神戸。しかし、今年は異常気象です。
前景気は絶好調で、前売券も予定枚数を完売し、その後の電話での問い合わせも多く、さらに日曜日には、七年後の「東京オリンピック」も決定してお祭りムード中、当日の九月十日を迎えました【ちなみに、オリンピックの開催時は当席は『開席五百回記念公演』が無事お開きした頃】
 先月は熱中症警報が出ましたが、今月はちょっとまし。でも残暑の中、並んで頂いたお客様にはいつもながら申し訳ないことです。今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙しです。暑い中、長時間、並んで頂いたお客様にせかされる様に準備を進め、五時半に定刻通り開場となりました。順々にご入場されるお客様で木戸口は大きな混乱もなく順調。御入場されたお客様で席は次々に埋っていき、当日券を求められるお客様も多数御来場され開演の六時半には客席ピッタリの大入満席で 「第四百二十一回もとまち寄席恋雅亭・九月公演」の開演となりました。

 その公演のトップは、トリの塩鯛一門から桂小鯛師。
平成十九年入門のキャリア七年。当席では異例の早期出演。期待のほどが伺われます。師匠の薫陶よろしく本格的な芸風をベースに若さ溢れる上方落語の熱演を期待されるお客様の拍手と『石段』の出囃子に乗って高座へ登場。「えー、只今より開演で御座いまして・・・」と、あいさつから、「世の中には色々な人がいるもので、・・・」と、小咄を二つ。『道を丁寧に教える人』と『私は目利き?』。
 そして、始まった本題は、「えっ、この噺、初めて」と、驚きの東京では前座噺の定番の無学者は論に負けず、『やかん』の一席。師匠の薫陶よろしく、鍛えられた口跡の良さと溢れる表情でトントンとテンポ良く演じられた十五分の秀作でありました。

 二つ目は五代目文枝師匠の末弟(二十番目)の桂阿か枝師。
当席ではお馴染みで地元明石出身【芸名の由来も、明石⇒阿か枝】。今回で七回目のご出演、さらに、初の二つ目での出演、と言ってもキャリア十七年です。二つ目になりますと、出囃子も『石段』からご自身の『本調子早禅』に変わり、その囃子に乗ってユックリとちょっとぎこちなく座布団へ。原因は、サッカー選手と同様に、落語を演じる際に激しい動きをしたための膝の半月版の断裂(客席は無論、大爆笑)。さらに、その治療をマクラに笑いを誘う。「実は手術をする前に誓約書を同意させられたんです。六つの項目があったんですけど、最後の項目で、『その他、予期出来ない事象』ちゅうのが、あるんですよ。これ、どう思います!」と、紹介すると客席は大受け。客席の笑いを充分獲って始まった本日の演題は、文枝師匠直伝の『孝行糖』の一席。
 舞台は大阪の堂島辺りで蔵屋敷。主人公は、上方ではちょっと珍しい与太郎キャラの頭の線が数本切れているが無類の親孝行で周りから可愛がられている男。親孝行のご褒美でお上から受け取った青差し五貫文(一両一分=お蕎麦の代金から換算すると約十六万)と、多くの人の善意で飴売りになる。この飴売りの文句に登場するのが、唐土(今の中国)の二十四人の親孝行を集め、落語にもなっている『二十四孝』。線が数本切れているので、辺りかまわず大声で売って歩いてサゲとなる噺。文枝師匠も昭和四十年代はよく演じておられたが、師匠に最も口跡が似ていると言われている阿か枝師、師匠譲りのテンポがあって、よく通る声で演じられた十八分の好演でありました。
・ 二十四孝(にじゅうしこう)=虞舜、漢文帝、曾参、閔損、仲由、董永、エン子、江革、陸績、唐夫人、呉猛、王祥、郭巨、楊香、朱寿昌、ユ黔婁、蔡順、黄香、姜詩、王褒、丁蘭、孟宗、黄庭堅、そして、飴売り文句に登場する老莱子(ろうらいし)。
 この噺、明治初期に上方の創作落語と言われていますが、作者は不明。明治後期から戦前まで活躍し、不可能とされた「上方落語」と、「江戸落語」を巧みに演じる事が出来た、「奇跡の落語家」と称された三代目三遊亭円馬師匠が東京へ移植。この師匠を八代目桂文楽師匠と共に崇拝していた三代目三遊亭金馬師匠によって創意工夫されて十八番として演じられた噺。なお、前出の『やかん』も三代目金馬師匠の十八番でした。

 三つ目は染丸一門から、本人のイメージピッタリの芸名の林家花丸師匠。
一門伝統のはんなり・もっちゃりの芸風をベースに、滑舌の良さ、愛くるしい笑顔でいつも楽しい上方落語を演じて頂いている師匠。当席への出演回数も二桁に乗って、初の三つ目として登場。『ダアク』の軽妙な出囃子と満面の笑みで高座へ登場。マクラは大ファンである宝塚歌劇団の話題。タップリ歌劇の宣伝をして、付け足しで「上方落語をよろしく」に、客席は大爆笑に包まれる。「夏場ですので怪談を・・・。」と、小さい頃に経験した怖い実話を小咄風に演じサゲでドンデン。これも客席は大受け。そして、充分間合いを計って、「大阪の中船場に、相当商売をしておいでなさるお店の若旦那が、あらゆる極道の挙句に、勘当になって・・・」と本寸法から始まった演題は『腕(かいな)喰い』。小生も林家一門と七代目笑福亭松鶴師匠(松葉師匠)からしか聞いたことがない非常に珍しい噺であります。噺の筋立てが前半の苦労した若旦那が婿入りする辺りまでは『ろくろ首』のような明るい噺なのだが、後半、花嫁が・・・・・・。墓場、死んだ赤子、腕を・・・と、因果応報の暗い噺になってしまいがちである。
 しかし、花丸師匠は、持ち前の明るさで、怪談仕立てを残しながら、サゲでパッと明るくして、二十二分の好演を締めくくられました。

 中トリは上方落語界の重鎮・笑福亭松枝師匠。
早くから楽屋入りされ準備万全。『早船』の出囃子でユッタリと高座へ登場。貫禄充分でありながら、どことなく愛くるしくとっつき易い師匠であります。マクラは、このあいだお亡くなりになられた、兄弟弟子でライバルでもあり戦友でもあった六代目笑福亭松喬師匠の話題。どうしても湿りがちな話題を、逆手にとって爆笑マクラとして演じられる。愛情を感じる話題。「枕経が終わった瞬間に戒名の代金の話をするお坊さん」。薀蓄を並べて付いた戒名は、笑福院信道松喬居士(しょう ふくいんしんどうしょきょうこじ)。本名は高田敏信。新たに加わったのは「道」だけ。「笑福亭右喬師がも少し生きていて欲しかった訳」葬儀出来る黒紋付を洗い張りに出して出来上がりが間に合わないため。と、実に面白し。そして、若手の修行時代に想い出の一杯詰まった住吉界隈でのエピソードから、始まった本題は舞台も同じ、住吉街道から始まる、上方落語の大物『莨(たばこ)の火』。主人公は食(めし)の旦さん。節糸から織ったアンサンブルの絹物に茶献上の帯と品の良い井手達で、実に豪快なお金の使い方、先ほどまで、TVドラマで超人気であった「半沢直樹」の向うをはる「借りた金は倍返し」。サゲも実にひねってある演じ方によっては、イヤミに取れる難しい噺。。
師匠曰く、「あまり笑いのない噺なので、妙にこの噺は何が言いたいか、などと考えずにサラッと。けど、難しいなぁ」。その噺を、半時間、ダレ場なしの好演でありました。
※ 食(めし)の旦那=和泉の暴れ大臣と称される実在の人物。食野家は江戸時代、佐野を本拠地とした廻船問屋の一族。

 中入後のカブリは、六代文枝一門から当席常連の桂三風師匠。
師匠譲りの切れ味鋭い創作落語をベースにしてご自身の創意工夫から誕生するオリジナリティ溢れる高座は当席でも多くのファンがおられる師匠で、今回も『恋雅亭で受けなければ自信喪失』の言葉通り、気を入れて師匠譲りの『おそずけ』の出囃子で高座へ登場。万雷の拍手が起こる。ツカミは旬の話題、「東京オリンピック」から。さらに、「キッチリと出来ない」「ものをハッキリ言わない」「決断力がないので決められない」と、トントンと話題をつないで、師匠の作となる『引き出物』が、スタート。マクラが上手く連動しているので、本題の始まりが実に見事。引き出物として送られてきた商品が喋る、発想が実にユニーク。主人公は雄節・雌節と一対のかつお節。かつお節削り器がないので、一時的に物入れにいれられることになります。そこには多くの先客が。大阪弁で語りかけてくる液体石鹸によって使われることのなくなった固形石鹸は、十二年も物入れ暮らし。かつお節も削りかつお節も出番がなくなった今、出番は?と心配するのだが、妙な出番がやってきてサゲとなりました。
 随所になる程と思わせるクダリ満載のこの噺、文枝師匠の作が五年前で、そこから三風師匠に口伝された噺ですが、三風師匠にとって、ご自身の工夫が随所に入ったストライクにネタに仕上がっているのではないでしょうか。師弟合作の名作は大爆笑の内に二十二分が過ぎていました。

 そして、九月公演のトリは、上方落語の重鎮の風格一杯の桂塩鯛師匠に
とって頂くことになりました。今回の出演が記念すべき三十回目のご出演となられる師匠。風格一杯に座布団へ。「私、もう一席でお開きで御座いまして・・・」との挨拶からマクラは古典芸能の鑑賞。「この前、お能を鑑賞していたら、幕が下りてきた。能舞台に幕はないはず。よく、考えたら幕ではなく、自分の瞼。そのまま、永い眠りに付いた」に、客席は大爆笑。名人は心地よいが、下手はたまらない。それでも語って聴かせたい思う人に当たったら、さぁ大変。お馴染みの『寝床』のスタートなりました。
 主人公の大旦那になったり、番頭、そして、長屋の住人にと、七変化。落語とは他の古典芸能に引けをとらない、いや、それ以上に素晴らしいと感じさせる逸品。
サゲまで演じずに大きく盛り上がった瞬間にお開きとされた、半時間強の大熱演でありました。