もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第420回 
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  公演日時: 平成25年 8月10日(土)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  林家  卯三郎  「夏の医者」
  桂   雀 喜  「ポイントカード」   
  笑福亭 銀 瓶  「書割盗人」
  桂   春 駒  「替り目」
    中入
  古今亭 菊志ん  「短命」
  桂    雀三郎  「船弁慶」(主任)

   打出し  21時10分
   お囃子  林家和女、勝 正子
   
 梅雨、爆発的な猛暑に突入の神戸。今年も異常気象です。
もっとも、夏は暑く、冬は寒くないと物も売れませんし、景気も上向きませんが・・・。前景気は絶好調で、前売券も予定枚数を完売し、その後の電話での問い合わせも多い中、当日を迎えました。八月十日は熱中症警報が出ました。のんきなことを言っておれる状態ではなくなり、並んで頂いたお客様が熱中症でご迷惑が掛かったらと心配して、急遽、阪神大震災以来の整理券を配布することにいた致しました。会場到着は、3時過ぎ。もう、二十名位のお客様が並ばれておられる。整理券の準備をして配布を始める。
 今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙しです。暑い中、長時間、並んで頂いたお客様にせかされる様に準備を進め、五時半に定刻通り開場となりました。整然と整理券順にご入場されるお客様で木戸口は大きな混乱もなく順調。ご入場されるお客様で席は次々に埋っていき、当日券を求められるお客様も多数ご来場され開演の六時半には客席ピッタリの大入満席で 「第四百二十回もとまち寄席恋雅亭・八月公演」の開演となりました。

 その公演のトップは、染丸一門から林家卯三郎師。
学生時代は獣医を目指して猛勉強したとあって人呼んで「上方落語界のドリトル先生」。師匠の薫陶よろしく林家の伝統のはんなり・もっちゃりを受け継ぐ芸風と端正な顔立ちで当席でもお馴染み。『石段』の出囃子で高座へ。「えー、開口一番の林家卯三郎でございます。」と、挨拶して最近の暑さから働かないと余計に暑く感じる。続いて、獣医時代の思い出。動物の暑さ対策、点滴の袋に水を入れて牛の背中へ垂らす方法を紹介して、その昔はだれでも医者になれたと紹介して、始まった演題は、『夏の医者』。
 真夏の田舎の情景をバックに倒れた親を心配する息子と腕は確かだが邪魔くさがりの医者、そして、被害者となるうわばみが登場する噺。御伽噺を楽しむように客席から爆笑が巻き起こった十七分の秀作でありました。
 この噺は東西共にまったく同じように演じられている噺。原話は、1765年に出版された笑話本「軽口独狂言」にある「蛇(うわばみ)の毒あたり」。ここでの病気はちしゃ菜の食べ過ぎ。夏場に食べ過ぎると食あたりすると言われていたようです。もっとも今のように冷蔵庫などがない時代のことですので特にちしゃが危ないということではありません。 「ちしゃ(萵苣)」はレタスの和名。今の球形のレタスではなくて、小松菜のような形の野菜だったようです。

 二つ目はトリの雀三郎一門の惣領弟子、桂雀喜師。
この師も師匠の薫陶よろしく各地の落語会で大活躍。当日も岡本での落語会と掛け持ちと大忙し。『昭和拳』の出囃子で「えー、ありがとうございます。続いて出てまいりましたのが、米朝の弟子の枝雀の弟子の雀三郎の弟子の雀喜で・・・」と挨拶。マクラはいつまでも米朝師匠に名前を覚えられない実話を紹介。これに客席は拍手喝さいの大爆笑。実に面白い。
 大いに客席を盛り上げて、色々なポイントカードの説明をして始まった本題は自作の創作落語『ポイントカード』。今ではほぼ全員の財布の中に存在するポイントカード。客席の共感を笑いに変えてのノリノリの二十二分の熱演でありました。

 三つ目は鶴瓶一門から、「銀ちゃん」こと笑福亭銀瓶師匠。
もう説明の必要のない師匠で、マスコミでも大活躍で、今回も出演を持ちわびられた客席の大きな拍手と『拳』の心地よいテンポの出囃子に乗って高座へ登場。「ありがとうございます。一昨日から高校野球が始まりまして」と、最も旬な話題からスタート。出番が三つ目だったので、前の二師がマクラで言っていないかを確認して高座へ。アナウンサーのなんとも無責任なアナウンスで大いに笑いをとって、始まった本題は『書割盗人(東京では、だくだく)』。
 師匠にお伺いするとこの噺は先代桂歌之助師匠の口伝だそうで、前半の書割の設定がキッチリしていないと後半の盗人が忍び込んできた時のクスグリが生きてこない難しい噺であります。なんともええ加減な主人公と、その無理難題にニコニコしながら応える絵心のある男、可愛らしく主人公に翻弄される盗人の登場人物の三人が銀瓶師匠の任(にん)とピッタリ一致した大爆笑編に仕上がって、さらに、落語独特の空想の世界でお客様の頭の中で絵に書いた家が見事に浮かび上がっているでしょうし、サゲは「命をとられたつもり」で、基本に忠実に自身の工夫がいたるところにちりばめられた二十五分の熱演高座でありました。
 原話は、安永時代に出版された笑話本「芳野山」の「盗人」で、東京の『だくだく』は上方から伝わったとされています。古い噺なので、色々と難しい言葉が出てきます。紙面の関係で紹介のみに留めますが、反故(ほご)、九尺二間の長屋、黒檀(こくたん)、紫檀(したん)、宣徳の焼物、古九谷(こくたに)、大和(だいわ)の火鉢、竃(へっつい)、おくどさん、三宝(さんぼう)さん、衣桁(いこう)、兵児(へこ)帯、しごき帯、仙台平(せんだいひら)、長押(なげし)、股立(ももだち)、石突き。

 中トリは桂春駒師匠。当席ではもう説明不要の師匠です。
いつまでも「駒ちゃん」の愛称通りの若々しい愛嬌タップリの師匠で、落語も古典から創作と幅広い師匠、今回は、米朝師匠直伝の一席を「サゲまで」と高座袖で言い残して、『白拍子』の出囃子で高座へ。客席からは本日一番の拍手が起こる。お酒の小咄を楽しそうにユックリ演じられる。サゲをご存知なお客様がおられると、どうしてもサゲの言葉を急ぎがちですが、実に良い間で演じられるとサゲが一段と引き立ち爆発的な笑いが起こる。実に見事であります。そして、流れるように始まった本題は『替り目』の一席。
 春駒師匠が演じられる主人公は何とも可愛い。嫁さんに偉そうに言うのであるが実は甘えている。感謝しているのだが面と向かって表現できない。いなくなるとつい本音が出て、それを嫁さんに聞かれ照れくさそうに又、突っ張る。言葉は出ないが嬉しそうな嫁さんの顔が浮かぶような秀作。さらに、おでんを買いに行った女房が戻って来ると燗が出来ている。うどん屋に無理をいったと判ったので、うどん屋へお詫びを言おうと、うどん屋を呼ぶ。「おい、うどん屋、あそこの家、呼んでるで」「いいえ、あそこへは行かれしまへん」「何でやねん?」「今時分行ったらちょう~ど銚子の替り目でっしゃろ。」がサゲとなる『銚子の替り目』。その好演に客席の笑いは前のほうから波打つように後方まで、後方の笑いは又、波を打って前の方へと、さらに全体に渦巻くように客席全体が大爆笑に包まれる。二十五分。お仲入りとなりました。

 中入後のカブリは、東京からお招きをしました、古今亭菊志ん師。
菊志ん師は、平成六年、今は亡き古今亭円菊師匠に入門され、平成十九年真打ち昇進。バリバリの若手真打ち。当席では珍しい江戸前のテンポ・キップのよい江戸落語を演じるべく、『神田祭』の出囃子で高座へ登場。客席からは大きな拍手が起こる。
 マクラは当席まで来るのに苦労した噺を大きく誇張して。これが実に面白く客席は大爆笑に包まれる。ノリノリで始まった演題は当席でもよく演じられる『短命』の一席。勿論、江戸バージョン。この噺、大師匠の五代目古今亭志ん生、師匠の古今亭円菊師匠の十八番なので、菊志ん師匠の口演が悪かろうはずがない。ツボツボで大爆笑が起こった二十五分の熱演でありました。
 これで、当席へは東京からのご出演は、古今亭志ん朝、古今亭志ん輔、快楽亭ブラック、三遊亭竜楽の各師匠に続いて五人目の登場となりました。

 そして、八月公演のトリは、枝雀一門の桂雀三郎師匠。
「ちょっと押してるが、今日はこれ」とばかりに、『じんじろ』の小気味良い出囃子で高座へ登場。マクラは振らずに本題へ。時期もピッタリな上方落語の大物『船弁慶』の一席。下座との息もピッタリ。客席との息もピッタリで、演者も客席も下座もノリノリの発端からサゲまで、キッチリと半時間の好演でありました。

桑原(くわばら)=落雷・災難・いやな事などを避けるために唱えるまじない。
柳蔭(やなぎかげ)=味醂、焼酎をブレンドした夏用の冷酒。本直し。『青菜』にも登場。
鋳掛(いかけ)屋=はんだなどで鍋・釜など金属製の器具のいたんだ所を修繕する。
ラオ仕替え屋=キセルの竹筒を仕替える行商人。蒸気を使い口と雁首のヤニを取ったりした。
難波(なにわ)橋=堺筋の北浜、大川にかかる橋。別名はライオンの像があるのでライオン橋。
平知盛(とももり)=平清盛の子。壇ノ浦で鎧二領をつけて入水。平家屈指の勇将。