もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第419回 
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  公演日時: 平成25年 7月10日(水)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂  ちょうば  「ぜんざい公社」
  桂   こけ枝  「始末の極意」   
  林家  染 二  「幽霊の辻」
  笑福亭 呂 鶴  「向う付け」
    中入
  桂    勢 朝   南京玉すだれ
  桂   雀 々  「猿後家」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  林家和女
   手伝い  桂 福楽、笑福亭呂好、桂 優々
 梅雨から一転、爆発的な猛暑に突入の神戸。今年も異常気象です。もっとも、夏は暑く、冬は寒くないと物も売れませんし、景気も上向きませんが。前景気は絶好調で、前売券も予定枚数を完売し、その後の電話での問い合わせも多い中、当日を迎えました。
 当日はいつも通り開場を心待ちにされる多くのお客様が長い列を作られた七月十日の水曜日。今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙しです。暑い中、長時間、並んで頂いたお客様にせかされる様に準備を進め五時半に定刻通り開場となりました。待ちわびたように御入場されるお客様で席は次々に埋っていき、当日券を求められるお客様も多数御来場され開演の六時半には後方にちらほら立ち見も出る大入満席で 「第四百十九回もとまち寄席恋雅亭・七月公演」の開演となりました。

 その公演のトップは、ざこば一門から桂ちょうば師。
自称、「上方落語界一の男前」として、各地の落語会で大勉強中。当席へは平成二十二年二月の第378回公演の初出演から数えて三度目の出演となります。マクラを軽く振って、始まった演題は『ぜんざい公社』。場所は凬月堂さんの横という設定には客席は大受け。「もしも、お役所がぜんざい屋を営業したら・・・?」の今でもピッタリな題材の噺なので、充分通用し随所に爆笑を誘ったクスグリも古さを感じさせない。トップという出番を意識した軽く、さらりと、それでいて聞いた後に満足感が残る十五分の名演でありました。
 この噺、『士族の商法』という明治時代に作られた噺が原本と言われ、明治末期に三代目桂文三師匠が創作した『改良ぜんざい』という噺が原作【二代目立花家花橘師匠は『文化汁粉』としてSPレコードで発表】とされています。戦後になって、松之助・文紅師匠をはじめ、多くの演者の手が加えられ爆笑人気作に仕上がっています。さらに、明治初期の、失業?した士族が慣れない商売をして失敗する『士族の商法』という噺が元になっているようであります。『士族の商法』は、鰻屋になる『素人鰻』、殿様の団子作りがうまくいかない『殿様団子』、甘くないので売れない『御前汁粉』という演題へと進化しています。

 二つ目は先代文枝一門から桂こけ枝師。
年齢を感じさせない愛くるしい風貌は当席でもお馴染みで、今回も師匠譲りの明るく、楽しい上方落語を演じるべく『しあわせさんよありがとう』の出囃子で高座へ登場。鉄板のマクラは実年齢の紹介。色々試した養毛剤で合理的と思ったのは筆で塗るタイプ、しかしながら筆の毛が抜け効果無し。そして、実母とデパートへ買い物に行ったら夫婦と間違えられたエピソードで、大いに客席を沸かした後、節約・倹約は必要だが過ぎると、けちん坊になると、けちん坊の小咄から始まった演題は『始末の極意』。発端からスタートし、真ん中のクダリをズバッとカットし、極意の極意を教えてもらいに夜間に木に登ってサゲになるまで十九分。
どことなくホンワカさせる高座は随所に笑いが起こる秀作でありました。

 三つ目は染丸一門から、ちょっと古いが「上方落語界の中村橋之助」こと、当席常連の当代林家染二師匠(先代は四代目染丸師匠)。いつまでも元気一杯でパワフルな師匠、今回も師匠譲りの『藤娘』の出囃子で高座へ登場。
 「ありがとうございます。続きまして染二の方でお付き合いを願っておきます。ここはいつも大入り満員でありがたいことでございまして・・・」と、挨拶し、爆笑マクラで大いに客席を盛り上げ、暖かくして、始まった演題は当席では初の口演となります、『幽霊(ゆうれん)の辻』。この噺は、落語作家の小佐田定雄先生の処女作。昭和五十二年、二十五歳の時に桂枝雀師匠のために書き下ろされた創作落語。山向こうの『堀越村』というところまで手紙を届けくれと頼まれた主人公が、峠の中腹で暗くなっったので、近くにあった茶店で休息しつつ、出てきたお婆さんに堀越村までの道のりを尋ねる。このお婆さんの堀越村の怪談話が恐怖感と共に古典落語のエッセンスがふんだんに盛り込まれ、随所に笑いを誘う秀作。染二師匠は九雀師匠からの口伝を受けて七月六日初演されたばかりの噺であります。
 お婆さんの語る怪談が師匠の芸風で一段とパワーアップ、笑いもアップ。原作の匂いを残しつつもしっかり自分流の『幽霊の辻』は、客席を大爆笑に包み込んだ二十七分の好演でありました。

 中トリは笑福亭呂鶴師匠。お弟子さんも呂竹、呂好と二人。大御所の風格ですが、いつまでも「宝塚のぼんぼん・呂やん」の若々しい愛嬌タップリの師匠でもあります。今回も弟子の呂好師を伴っての楽屋入り。
 『小鍛冶』の重厚な出囃子に乗ってユッタリと高座へ登場。マクラは頭から離れないCMソングの一節『♪~天神橋から・・・・』。楽しむように連呼。これがキッチリとマクラになっている。楽しむように心地よさそうにマクラを振って始まった演題は『向う付け』の一席。別名を『三人無筆』。今では考えられない設定ですが、今でも大きく笑える、今では笑福亭のお家芸の噺であります。
 本題でも呂鶴ワールドは炸裂。主人公を始め登場人物が生き生きと大活躍する腹の底から大笑い出来た中トリの呂鶴師匠でありました。

 中入後のカブリは、色物として「南京玉すだれ」を米朝一門の「森田健作(これも古い)」、いつまでも若々しくて軽い、桂勢朝師匠。落語でも元気一杯でノリノリですが、今回は数段、パワーアップしての高座、南京玉すだれを努めて頂くことになりました。
 元気一杯に登場して、「暑いですねぇ、客席も暑いでしょ、暑いと思う方、手を挙げて下さい。」
客席から手が挙がると、「辛抱して下さい」。客席はドッカーン。ツカミもバッチリ。呂鶴師匠の『♪~天神橋から・・・・』を話題にすると、袖から呂鶴師匠のツッコミも入る。米朝師匠のアンドロイドの値段の噺とおねおねと噺が進む。「早よう、こんな噺でんと南京玉すだれせえやの気持ちは判るのですが、始めると三分で終わりますので」と、笑いを誘って、「南京玉すだれ」がスタート。
 「釣竿」「鉄棒」「炭焼き小屋」「東京タワー」「山の吊り橋(なかなか出来ず、♪~山の吊り橋しゃーーーと歌まで登場)」「阿弥陀物」「しだれ柳」でお開きとなりました。

 そして、七月公演のトリは、「ケイ・ジャンジャン」こと、桂雀々師匠にとって頂くことになりました。
今回も、『船弁慶』『八五郎坊主』『夢八』同様、元気一杯、汗一杯の熱演で客席を笑いの渦に巻き込んで頂いている師匠、今回も早くからお弟子さんの桂優々師を伴っての楽屋入り。準備万全で軽妙な初代春団治師匠も愛用したお馴染みの『鍛冶屋』の出囃子で、会場一杯からの拍手と喝采と掛け声に迎えられ笑顔一杯で高座へ登場。「えー、ありがとうございます。一杯のお客様で、私でお開きでございます・・・」と、トリでしか言えないあいさつも板に付く。爆笑マクラの後、始まった演題は『猿後家』の一席。
いかにも上方落語らしい噺で、歯が浮きまくるようなおべんちゃらがこれでもかと登場するので、演じ方ではイヤミな噺になってしまう難しい噺を、発端から汗ブルブルの熱演。口跡よろしく、トントンとたたみかけるように噺は進む。この間、場内は爆笑の連続。奈良の都の紹介も実になめらかに。そして、喋り過ぎてつい言ってはいけない言葉を言ってしまう。サゲは、前に失敗した又兵衛さんの失敗談を聞き、「口は災いの元ですなぁ。私も舞台からサル」でありました。
 この噺は、お亡くなりになられた文枝師匠の十八番で当席ご出演55回の最後の口演となった平成16年8月の312回公演での演題がこの『猿後家』。その師匠からの直伝の噺をキッチリ演じられた今回も汗びっしょりの熱演は四十分。サゲと共に大きな拍手が起こったことは言うまでもなく、笑顔一杯でお客様をお見送りされた雀々師匠でありました。(大入叶)
 この噺に登場する美人を解説します。
①「小野小町」詳しい系譜は不明ですが、絶世の美女、七小町などの逸話が残っていますが、絵でも後姿が多く、素顔は不明です。
②「照手姫」小栗判官(おぐりほうがん)との恋仲で伝承されてきた物語の主人公。苦労の末に結ばれる。
③「衣通姫(そとおりひめ)その美しさが衣を通して輝くことからこの名が付いたとされる本朝三美人の一人。
④「楊貴妃」中国唐時代の玄宗皇帝の寵姫。寵愛しすぎたために安史の乱を引き起こしたため、傾国の美女と呼ばれ、古代中国四大美女(西施・王昭和君・貂蝉)、世界三大美女(クレオパトラ・小野小町) の一人と呼ばれている。