もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第418回 
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  公演日時: 平成25年 6月10日(月)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   團治郎  「動物園」
  林家 そめすけ  「通天閣に灯がともる」   
  笑福亭 岐代松  「紙入れ」
  桂    枝三郎  「夢の革財布(芝浜)」
    中入
  桂    楽 珍  「宿替え」
  桂   米團治  「質屋芝居」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  林家和女、勝 正子
   手伝い  桂 三ノ助、桂 慶治
 梅雨に突入の神戸。しかしながら、今年はどうも空梅雨。夏場の水不足が心配となります。
当日はいつも通り開場を心待ちにされる多くのお客様が長い列を作られた六月十日の月曜日、「もとまち寄席・恋雅亭」の六月公演が開催されました。
 前景気も好調で、問い合わせの電話が多い中、先月同様、前売り券を若干枚残しての当日を迎えました。今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙しです。五月は連携が悪くバタバタの五時四十五分開場で、長時間、並んで頂いたお客様には大変ご迷惑をお掛けしたことを教訓に準備を進め五時半に開場となりました。待ちわびたように御入場されるお客様で席は次々に埋っていき、当日券を求められるお客様も多数御来場され開演の五分前には後方にやや空席がありましたが、開演の六時半には客席ピッタリの大入満席で 「第四百十八回もとまち寄席恋雅亭・六月公演」の開演となりました。

 その公演のトップは、トリの米團治師匠の総領、桂團治郎師。
平成二十一年入門ですので入門三年で(先月に年季が開け)、当席の初出演と大抜擢。期待の大きさを伺える師です。その重責に応えるべく早くから楽屋入りし準備の万全で、『石段』の出囃子で高座へ登場すると客席からは大きな拍手が起こる。「えー、ご来場ありがとうございます・・・」と、挨拶から始まったが、いつもとちょっと様子が違うのか、やや緊張気味。すぐに軌道修正がかかり「落語を聞いて健康になる三つの方法」を紹介。客席の笑いを誘ってスッと本題へ。
 始まった本題は前座噺の定番の『動物園』の一席。師匠の教育よろしく基本にキッチリと演じられる。特に虎の歩き方の実演には笑いと共に大きな拍手が客席を包み込む。随所に散りばめられたクスグリと、可愛い息子を見るような愛情一杯の当席のお客様の爆笑に包まれた発端からサゲまでの十五分の熱演に客席からは大きな拍手が巻き起こりました。
 この噺、二代目桂文之助師匠(落語引退後は『京甘味・文之助茶屋』を設立経営)がイギリスの原作を落語に仕立てられたとされている噺で、サゲも気が利いていて、古今東西の噺家諸師によって随所にクスグリが盛り込まれた大爆笑落語であります。当席でも今回で十五回目の口演となります。余談ですが、トリの米團治師匠も当席に入門二年目で初出演された時に演じられておられます。
・昭和五十五年四月の第25回公演。その時のネタ帳には、『動物園』桂小米朝/『貧乏花見』桂福團治/『三人兄弟』笑福亭呂鶴/『けいこ屋』林家染二(現:染丸)/中入/『胴斬り』桂春駒/『肝つぶし』桂米朝。と、記載されています。

 二つ目は林家染丸一門から林家そめすけ師。
当席ではお馴染みの一門にあってやや異色の芸風でファンも多い師。『外法』の出囃子で登場し、「代わり合いまして林家そめすけの方で・・」と元気一杯にスタート。マクラは團治郎師に続いて、「落語を聞いて笑いが少ないと演者は楽屋で何を言っているか?」「逆に良く笑うと何を言っているか?」。これが実に良く受ける。続いて、大阪の西成と神戸の違いを紹介。「電車の並び方」「信号の渡り方」は大受け。始まった本題は、「DVDに残そうとした矢先、橋本市長が二十四区をなくす」と、振って、手がけられておられる大阪二十四区を題材にした創作落語の中から、大阪の街を復活させるために通天閣を建てた当時の噺、題して『通天閣に灯がともる』。登場人物がノビノビ活躍し、何かほのぼのとした、ほんわかとした秀作で、そめすけ師のイメージともピッタリマッチ。時間の関係か、DVDを買ってもらうためかは不明ですが半ばで高座を下りられた。十六分の高座は爆笑の連続でありました。

 三つ目は笑福亭一門から、笑福亭岐代松師匠。
長身と風貌、笑福亭の捨て育ち、豪放磊落な一門の芸風から繰り出される高座と、愛くるしい笑顔が加味され演じられる爆笑落語は当席でもお馴染みで、『どて福』の出囃子で高座へ登場すると大きな拍手が起こりました。ツカミは「先ほどはそめすけさんでございまして、この日本の中で一番下品なとこからやって来たそうで、私は大変上品なとこからやって来ました、十三という所から、(客席は大爆笑)」。すかさず、「笑いすぎですよ」と、嬉しそうに十三の紹介。
 「口に出てしまうと噂になる。」「これは言うてもらわなあかんことは言わないし、言うたらあかんと言われると言ってしまう」。さらに間男の小咄、『横町の豆腐屋の間男』から、ここまでがマクラの様でマクラやないと自由自在で楽しそうに演じて本題の『紙入れ(間男)』がスタート。前半は主人公の揺れ動く心と体を描写と、後半は大恩ある旦那の様子を伺うクダリ、と長すぎても短すぎても受けない難しい間が必要な演じ処。ツボでは爆笑され、外れるとクスリとも受けない当席の厳しいお客様ですが、岐代松師匠の口演は勿論、大受けの連続。マクラからサゲまで半時間弱の名演でありました。
 この噺、『風呂敷』、『茶漬間男』などと共に道徳上あまり好ましい行いではない題材で、原話は安政三年の『豆談義(名前からして内容が想像出来る本)』の『かみいれ』。安政といえば、今から二百四十年前であります。

 中トリは六代文枝一門から、桂枝三郎師匠に御出演をお願い致しました。
現在、『枝三郎六百席』を展開中の師匠で、そのネタ数の豊富さは折り紙つきで、大爆笑の「枝さんの世界」を楽しみにされておられる客席の拍手と名調子『二上り中の舞』に乗って紋付、袴で高座へ登場。鉄板の「続きまして桂枝三郎でございまして、さぞ、お力落としでも御座いましょうが・・・。」の挨拶に客席は大爆笑。「ここ【恋雅亭の中トリの出番】は、私が入門当初は、松鶴、米朝、春団治、小文枝の指定席でして、私なんかが出てええんかと思っておりまして・・・」と、始まった枝三郎ワールド。色々な話題から楽しむように今日の本題を選定。そして、始まった本題は『夢の革財布(芝浜)』。舞台を東京の芝から大阪へ移して、登場人物も大阪弁の名演は半時間。感想は長々書くことなくサゲも工夫しての心に染み渡る好演でありましたの一言。
 この噺、色々な説がありますが、明治の名人・三遊亭円朝師匠が、「酔漢」と「財布」と「芝浜」の三題噺として演じられたものとされています。三題噺とは、好視聴率番組だった『ざこば・鶴瓶のらくごのご』(92年から98年までABC朝日放送でOA)。しかし、早いものでこの番組も終了して15年も経つのですね。戦後、東京では三代目桂三木助師匠が作家や学者の意見を取り入れて改作し、十八番として演じられたのが現在の型となっています。明治三十六年には歌舞伎の世話物狂言『芝浜の革財布』(しばはまのかわざいふ)として初演されています。

 中入後のカブリは、文珍一門の総領・桂楽珍師匠で、お馴染みの『ワイド節』の出囃子で満面の笑みで座布団へ。
 この師匠が登場するだけで、その体型と風貌で思わず客席全体がいつもホンワカムードに包まれる。「恋雅亭、次から次へTVで見たことない人ばっかり出てきてスンマセン」から、親戚でも知りません、法事で坊さんに間違えられた。と売れていないことを強調して、さらに「出来るなら早送りしたいこの落語」、「びっくりしたこんな人でもプロなんや」の川柳で客席の大爆笑を誘う。マクラは続いて、昔住んでいた西成を紹介するとさらに大受け。よく判らないが何とも言えない面白みが体全体からにじみ出てくる得なニン。ノリノリでマクラが続く。8分経過した処で、楽屋からマキの合図があったのか「えー、もう、入る入る。私、マクラが長いんで」と、楽屋袖にも聞えるように始まった本題は『宿替え』の一席。今日は酒の噺をと思っておられたらしいのだが、前に出たので急遽、変更らしいのだが、ちょっと間の抜けた主人公や、しっかりものの奥さん、さらに人の良い引越し先の住人と、師匠のキャラクターと同様の登場人物が大活躍し、全編、爆笑の連続。
大いに盛り上がってサゲとなりました、二十五分の大熱演でありました。

 そして、六月公演のトリの上方落語界の名跡・米團治の五代目。御存知、桂米團治師匠の登場となりました。
 今回は黒紋付で『三下り鞨鼓』の出囃子で高座へ登場すると天井のシャンデリアが揺れるような大きな拍手が巻き起こる。「一杯のお運びでまことにありがたく御礼申し上げます。もう一席でございます。皆様、笑い疲れたのではないでしょうか。本当に良いお客様でございまして、最後、やっと御曹司が登場してまいりまして、・・・」と、挨拶。そして、歌舞伎の市川海老蔵さんの一年間の評価の変わり方を紹介。昨年はテキーラを灰皿でと評価は最悪。今年は芸の開眼と最大限の評価です。昨年と何か変わったことは?。お父さんの團十郎さんがお亡くなりになられたこと。と、紹介すると、勘の良い客席のお客さまは大爆笑。会場全体へ広がって大爆笑に。
 続いて米團治を襲名したが、名前の認知度がまだまだ低い。地方の落語会では「べい團治」、「こめ團治」と呼ばれる。極め付きは「この前、家に帰ったら親父(米朝師匠)がおい、小米朝」。 この話題で大爆笑を誘ってマクラは歌舞伎の話題へ展開。南座の猿之助公演での失敗談で笑いをとり、「今から歌舞伎をご覧頂きます。南座で見たら一万五千円から、今日は二千円。前売り買われた方は千八百円」と、客席をひっくり返して始まった演題は『質屋芝居』。
 ある質屋さんで繰り広げられる登場人物の全員が芝居好きの大爆笑編。質屋の三番蔵で演じられるのは仮名手本(かなでほん)忠臣蔵の三段目の喧嘩場。米團治師匠と三味線、楽屋の合いの手、ツケ、太鼓との息もピッタリ。芝居好きな師匠がノリノリで、それでいて、基本には忠実に演じられるのだから悪かろうはずがない。客席も二千円では安い、楽しくて大爆笑の連続の芝居見物でありました。

※ 上方落語の特徴でもある芝居噺は歌舞伎をベースに作られたものがほとんどで、『加賀見山』『本能寺』『瓢箪場』のように歌舞伎の芝居をそのままに演じる噺と、当席でも演じられることの多い、東海道四谷怪談の『足上り』、忠臣蔵から『蛸芝居』『蔵丁稚』『足上り』『七段目』、そして『質屋芝居』などのように、普通の落語から登場人物が芝居好きで演じ出すという仕立てになっている噺に大別されます。