もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第417回 
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  公演日時: 平成25年 5月10日(金)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  笑福亭 た ま  「崇禅寺馬場」
  桂   三 金  「デブのお肉に恋してる」   
  桂   文 三  「京の茶漬」
  桂   米 二  「持参金」
    中入
  豊来家 玉 之 助  寿・獅子舞 
  桂   團  朝 「秘伝書」
  笑福亭 福  笑 「ざんげの値打ちもない 」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  勝 正子。
   手伝い  林家 愛染
 五月晴れの連続だった神戸。しかしながら、当日は折り悪く雨模様。
5月5日に新装なった神戸風月堂さんには以前と変わらない開場を心待ちにされる多くのお客様が長い列を作られた五月十の金曜日、もとまち寄席・恋雅亭の皐月公演が開催されました。
 前景気も好調。問い合わせの電話が多い中、先月同様、前売り券を若干枚残しての当日。今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙しです。さらに、ちょっと連携が悪く今回から五時半開場の予定ではありましたが、準備が遅れ、バタバタの五時四十五分開場。長時間、並んで頂いたお客様には大変申し訳ないことでございます。待ちわびたようにご来場されるお客様。今回は風月堂さまの協賛でミニゴーフルもプレゼントされ、それを嬉しそうに持たれて、ご入場されるお客様で席は次々に埋っていき、当日券を求められるお客様も多数ご来場され、開演の六時半には、客席ピッタリの大入満席で 「第四百十七回もとまち寄席恋雅亭・皐月公演」の開演となりました。

 その公演のトップは、トリの福笑師匠の総領、笑福亭たま師。
当席でもお馴染みの京都大学出身の秀才で、各地の落語会で師匠譲りの切れ味鋭い創作落語や、新しい切り口の古典落語で大活躍中の逸材。派手な柄の着物を粋に着こなして『石段』の出囃子で高座へ登場すると客席からは大きな拍手が起こる。「えー、ありがとうございます。まずは、笑福亭たまの方でお付き合いを願っておきます。」から、ご挨拶代わりの「ショート落語・医者に入ったピストル強盗」。ドッカンの笑いでサゲ。拍手も起こる。「この小咄で拍手貰たん初めて」と、つないでスッと始まった本題は『崇禅寺馬場』の一席。この噺、今では大変珍しくなってしまった噺、筋立ても起伏に富んで笑いも多いのだがサゲが判り難いのが原因ではないでしょうか。
 江戸時代の大和郡山藩士の遠城治左衛門、安藤喜八郎の兄弟が崇禅寺門前の馬場にて、末弟の敵生田伝八郎によって返り討ちにあった実話で、「敵討崇禅寺馬場」の題で芝居や映画になり、落語のサゲもここからきたそうです。長い歴史の当席でも、演じられるのは二度目。前回は先代の森乃福郎師匠が昭和五十八年五月の第六十二回公演で演じられたので三十年ぶりの口演となります。その噺をガラッと一新してより、明るくテンポのあるクスグリもふんだんに入った、あっと驚く人物も登場するたま流の滑稽噺に見事仕上がっているので、面白くないわけがない。客席大爆笑の連続の内にサゲとなる十五分の秀作でありました(勿論、サゲも違います)。

 二つ目は六代文枝一門の大物(体重が)・桂三金師の登場となります。
この師も当席ではお馴染みで、毎回、師匠直伝や自作の創作落語を汗・ブルブルでの大熱演されるので、ファンも多い師であります。楽屋入りの第一声は、勿論、『暑い!』。巨体から溢れるように出る汗を拭いながら目にも鮮やかな黄色の紋付に着替え、『喜撰くずし』の出囃子に乗って高座へ登場。「ありがとうございます。もう尋常でない暑さの中、お越し下さいましてありがとうございます。暑いですね。」とスポットライトがあたっている高座の暑さを紹介して、「体重120kg、体脂肪51%、皆さん笑ってられますけど、私の膝も笑ってます」。デブの良い処は親しみ易い。悪い処は親しみ易過ぎる。帯にオシャレをしていますが、座ると帯が見えない。と色々な不具合があると紹介。それがことごとく当たっているので客席は爆笑の連続。
 そして、始まった本題は、自作で噺の中でモテモテのデブの奥野(三金師の本名)君と美人の彼女のラブロマンス、題して『デブのお肉に恋してる(ハートマーク入り)』。三金師は、「このネタは、テレビで『デブの瞳に恋してる』」が流行った時に創った噺です。私の理想の恋愛の形を落語にしたものです。是非どなたか、僕と恋に落ちませんか?4、5回やり、師匠三枝からはOKをとりました。」とのコメント。奥野君とその男友達、彼女とその女友達の会話の場面転換と二人の心の動きがその都度、爆笑を誘う秀作。十八分の大爆笑編に仕立てられた

 三つ目は文枝一門から、桂文三師匠。
いつまでも童顔で愛くるしい笑顔一杯で、そのキャラクターと師匠の教えを忠実に守った爆笑落語は当席でもお馴染みです。平成二十一年五月につく枝から桂派の名跡文三の五代目を襲名。当席では同年八月の第三百七十三回の披露公演を開催、今から四年前でありました。一時は二十キロの減量に成功し、スリムになっておられたが、今回はふっくらとした元の愛称ピッタリの「肉団子。甘酢あんかけ中華風」の風貌となっておられた。『助六上り』で愛嬌タップリに登場し、客席に「ブンザでございます。ブンザでございます。」と愛嬌を振りまくと笑いと共に大きな拍手が起こる。「言い訳するわけやありませんが、暑いです。前のカレーみたいな男の熱がまだ残って・・・」と、客席を笑いの渦に巻き込んで、入門当時に師匠に付いて来ていた頃の当席の思い出や文枝語録を紹介。言葉の行き違いで気分が良くなったり悪くなったりしますと紹介。さらに、大阪人はストレート、京都人は遠回しに言うので気がつかないと、つないで始まった本題は師匠の十八番、直伝の『京の茶漬』。
 この噺、京都のことをあまりよく言わない噺、後の出番が米二師匠を意識してかどうか不明ですが、「この噺は京都では出来ません。落語ファンの方は、もうお分かりですねぇ、『京の茶漬』というお噺を聞いて頂きます」と本題が始まる。これが、実に結構な出来である。「いつも、帰りかけると『お茶漬けでも』と言う。『一遍、食べさせてもらおう』と大阪の暇人が京へお茶漬けを食べに行ったというだけのお噺で」と、断っているように、この噺の筋は、実に単純で、皆様良くご存じ。しかし、直線的なくすぐりが少なく、それをにおわすようで直線的でない言葉、それを受けてさらりと交わす言葉、目線と間と笑いを誘う、間と呼吸が非常に難しい噺であります。その噺を愛くるしい笑顔全開で噺は進んでいき、二十分の好演は客席のお客様を爆笑に包み込んだ秀作でありました。
 なお、当席では、先代文我師匠、五代目文枝師匠が三回を含む十四回目の口演。師匠にあたる五代目文枝師匠は平成十五年八月の第300回記念公演で演じられた。

 中トリは米朝一門の中軸・京都在住の桂米二師匠。
『五郎』の出囃子で京都人らしく気品漂っての登場。「雨の中ご来場ありがとうございます。私の後がお持ち兼ねの休憩でございまして・・・」。この一言で客席は爆笑に包まれる。お金の話題から、明治時代の噺と断って始まった噺は、これも師匠の十八番、直伝の『持参金』。江戸時代の一両や十両という単位であれば良いが、現在も通用する円、それも一円とか十円が登場する噺は演出が難しい。同じ一円でも今と昔は価値が大きく違うからで、別の意味で笑いが起こってしまう。やんわりと「明治時代の噺」と断ることで、客席のお客様の頭の中は明治時代にセッティング完了。変な笑いも起こらず噺は進展していきました。さすが、恋雅亭のお客様。ツボでは笑うがポイントを外した笑いは起こらない。二十五分の秀作でありました。

 中入後のカブリは、風月堂改装オープンをお祝いして、『寿獅子舞』を当席に初お目見えとなります太神楽曲芸師の豊来家玉之助師匠に演じて頂きました。
 早くから楽屋入りされ、チラシの挟み込みからお手伝い願って、早くも準備万端。景気の良いお囃子に乗り、高座、客席と大暴れ。「さすが、お見事」と拍手喝采の中、お客様の禍をお客さまの頭をかぶって食べ尽くすお払い、お礼に御祝儀も食べ、満腹のお獅子でありました。

 トリ前(モタレ)は、米朝一門から桂團朝師匠。
芸名は本来は師匠が決定するものだが、師匠が提示した候補の中から学生時代のあだ名【体格が大きかったから「団長」】を自ら選ばれたらしい。その風貌を生かしての元気一杯の上方落語を今回もお楽しみに。と、紹介しましたが、元気一杯、『浪花小唄』で高座へ登場する。客席からは大きな拍手が起こる。それを受けて「只今、拍手を頂いたお客様に限り、厚く御礼申し上げます」と、第一声。さらに、「この後がお待ち兼ねの福笑師匠。もう着替えも終わっておりまして、出る準備も万全、私の方は軽く、軽く、お付き合いを願っておきます」。と、始まったマクラはショート小咄。『桃太郎』、『花咲か爺さん』、『こぶとり爺さん』、『鶴の恩返し』。我々はしゃべるだけですが、テキヤという商売は喋って物を売る、これが難しいと紹介。さらに、縁日の「金魚すくい」の極意を紹介して、昔はこんな店もありましたと秘伝を書き連ねた本を売る商売を題材にした『秘伝書』の一席がスタート。トントンとテンポよく進む噺にツボツボで大きな笑いが客席から巻き起こった十五分の好演でありました。

 そして、皐月公演のトリは、「創作落語の雄」笑福亭福笑師匠にとって頂くことになりました。
今回もその幅広い持ちネタの中から自作の創作落語か爆笑古典落語の中から選りすぐりの一席を演じるべく、早くから楽屋入り、お馴染みの『佃くずし』の出囃子で高座へ登場すると、待ってましたとばかりに本日一番の拍手が巻き起こる。ちょっと納まるのを待って、小拍子を「ポン」と軽く叩いて、「ありがとうございます。今日は雨になりまして、お客様は入ってはるやろかと思てましたら、本当に大入りで・・・。又、恋雅亭のお客様は良う笑いまんねやわ。何がそんなに面白いんやろ思て。楽屋では、おい病気、ちゃうやろか・・・・。芸人の扱いがお上手やさかい・・・」と、早くも福笑ワールドは全開。さらに、「ただのお客様を笑わすのは難しいですが、お金払って、見に来てくれてはるお客様は、元、取らな損するやんけ。笑うぞーー。目が真剣ですわ。今日のメンバー、家でTVで見たらそない笑いまへんで・・・。」と、さらに、「雨の中、出て来られるのは元気の証拠・・・。元気でいるためには女性はおしゃれを、服代がもったいないと思う頃から病院代がかさむ・・・。同じ使うのなら医療費より、衣料費。人間はいずれ死にます・・・。」と、大爆笑のマクラから始まった本題は出来立ての自作の創作落語『ざんげの値打ちもない』。
 天才さぎ師のバアさんの臨終の場での思い出噺。マクラのテンションそのままに口演は続き、「ワイルドだろ。」「いつ見せるの、今でしょ。」の今、旬のギャグも満載の半時間の爆笑高座でありました。