もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第415回 
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 公演日時: 平成25年 3月10日(日)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   ひろば  「大安売り」
  桂   三ノ助  「はと」   
  桂   米 左  「七段目」
  桂   福團治  「しじみ売り」
    中入
  桂   春 蝶  「地獄巡り」
  笑福亭 仁 智  「兄貴の頭」  (主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  勝 正子。
   手伝い  桂 紋四郎
 ちょっと暖かくなった感のある、三月十日の日曜日、もとまち寄席・恋雅亭の弥生公演が開催されました。前景気も好調。問い合わせの電話が多い中、先月同様、前売り券を若干枚残して当日を迎えました。既にお知らせの通り、全面改装も本格的に始まった風月堂さんの入り口では、日曜でもあり当日券を求められる多くのお客様で、列はどんどん長くなっていきました。改装中は開場時刻も半時間、後ろ倒しとなり長時間、並んで頂いたお客様には大変申し訳ないことでございます。今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙しです。いつもより半時間遅れの六時に開場となり、待ちわびたようにご来場されるお客様で、席は次々に埋っていき、当日券を求められるお客様も多数ご来場され、開演の六時半には、客席ピッタリの大入満席で 「第四百十五回もとまち寄席恋雅亭・弥生公演」の開演となりました。

 公演のトップは桂ざこば一門から巨体の桂ひろば師の登場となりました。
師匠の教えを忠実に守った明るくて、若さ溢れる元気一杯、体力満点で各地で開催される落語会で大活躍。入門は2000年、十三年目でトップでの登場は先月の智之助師同様、なんとも贅沢な顔付けです。当席へは平成二十年四月の開席三十周年記念公演で初出演、以来、今回で四回目。当席常連の逸材で、客席の待ちわびた大きな拍手と『石段』の出囃子に乗って高座へ登場。
 登場するなりいきなり、高座袖に羽織を投げる。「はい、どうも、ありがとうございます。いきなり、羽織を投げたのでビックリされたと思いますが・・・」と、羽織を投げた訳を「次の三ノ助兄さんが羽織の紐を忘れたから」と暴露。マクラもそこそこに始まった本題は自身の体格とピッタリな相撲の噺、お馴染みの『大安売り』の一席。くすぐりが満載の噺だけに、その都度、爆笑が起こる。
十五分の熱演に客席からは大きな拍手が起こった。

 二つ目は六代文枝一門から地元神戸出身の当席の常連・桂三ノ助師。
『ずぼんぼ』の軽妙な出囃子に乗って、ニコニコ、笑顔一杯で、高座へ登場。それだけで客席全体もホンワカ。「ひろば君がそんなに早くネタばらしをするとは思いませんでした。何を隠そう彼は私の弟でして・・・・・・。ウソですよ、体型も顔立ちも似ていますのでこう言うと多くのお客様が信用なさいます。」
 さらに、爆笑マクラは自身の野球好きへ。「今、落ち着きません。WBCがもうすぐ始まります・・・」。高校時代は野球の名門、地元神戸の滝川高校・・・。と、楽しいマクラ。そして、始まった本題は、三ノ助師の言葉を借りるとマクラと全然、関係ない噺、自作で、文枝(三枝)師匠の創作落語『鯛』のパクリ、『ハト』の一席。ハトを擬人化した神戸を舞台とした鳩の会話。設定は『鯛』のパクリのようだが、噺の設定や随所に織り交ぜられたくすぐりは独自の創作で大笑いの連続。
 くすぐりが今の話題満載なので、どんどん変化していくであろう二十分の好演でありました。

 三つ目は米朝一門から桂米左師匠。
長唄囃子望月流名取、書道六段、と勉強家。酒も「米朝師匠の飲み友達」と相当なもの。当然、本職の落語は師匠の教えを忠実に守った行儀の良い芸風。当席でもお馴染みで、『勧進帳』の出囃子でユッタリと登場すると「えー、私の羽織の紐は自前です(大爆笑)」。ここらが、落語会は全員でひとつの芝居を演じるようなものの所以であります。前の二人と比べられますと何か虚弱体質のようですが、標準形ですと自身を紹介して、さっそく始まったマクラは「我々が高座へ上がりますと中にはお世辞の良いお客様などは『待ってました!』なんか言って頂ける。嬉しいもので・・・(くどくなかったので今回は客席からは声は掛からなかった)。」そして、「声を掛けて頂く商売。歌舞伎なんかがそうで・・」と、歌舞伎役者の屋号と掛け声の話題。南座の顔見世の三階席で実際起こった爆笑噺の紹介など、大好きな歌舞伎の話題から始まった本題は『七段目』。過去、当席ではこの噺は、文珍、小米朝時代の米團治、新治、む雀、よね吉師匠らの名演があり、特に故人となられた吉朝師匠は三度演じられています。その達者な演者が手がけられた噺をこれも歌舞伎大好きの米左師匠(二度目)が演じるのだから悪かろう筈がない。
 お囃子との息もピッタリで歌舞伎の一場面を演じる様。上方落語家を織り込んだ言い立てや、所作に随所で拍手や爆笑が起こって盛り上がった名演でありました。

 中トリは上方落語界の大御所・桂福團治師匠。
当席へは昭和五十三年八月の第五回公演に初出演、今回で記念すべき五十回目のご出演となります。今回もユッタリと名囃子『梅は咲いたか』で高座へ登場。客席からは大きな拍手が起こる。「よう入ってますなぁ。ここは今回で五十回目の出演で(客席から大きな拍手)、古くからやってまんねん。五十年。疲れた。けど、使てんのはここ(口)の廻りだけや。」と、いつものペースでスタート。始まった本題はお客様にリクエストされましたと断って『しじみ売り』。師匠の十八番な噺で、当席では今回で5回目の口演。昭和58年9月の第66回で初演。以降、昭和59年11月の第80回、平成2年12月第152回、そして平成3年9月第161回に演じられています。今回は22年ぶりの口演となります。
 この噺、上方では珍しい人情噺。東京では、古今亭志ん生師匠の名演が残っていますし、立川志の輔師匠も新しい切り口で演じられています。東京では主人公のしじみ売りの子供の姉夫婦の心中を助け、施しをするのが鼠小僧次郎吉。つまり盗んだ金を貰ってします。これがキッカケで姉夫婦に禍が起こるのだが、福團治師匠は侠客が自身の金を渡すが近所で起こった強盗の容疑を掛けられてしまうとなっています。好みですが、小生はこちらの方が後味が良いと思っています。ゆっくり、じっくり演じられる師匠の語りに客席は聞き入っているのか咳払い一つない。タイミング良く繰り出されるくすぐりで爆笑が起こる。絶妙の語りは半時間。サゲ間近の十日戎の夜の吹きすさぶ雪の寒さとしじみ売りの少年の声を手の動きでの描写は鳥肌が立つほどの見事さ。余韻を残してのサゲも絶妙。
 言い終わると同時に客席から万来の拍手が巻き起こり、お仲入りとなりました。

 中入後のカブリは、当席常連な桂春蝶師匠が軽快な『井出の山吹』に乗って高座へ。
先代で実父同様の明るくて切れ味鋭い芸風で先代の十八番は勿論、当代独自の演題とウイングは広く、当席でもファンが多く、客席からは「待ってました!」と声が掛かる。「あのー、誰やねんと思いはった方がいらっしゃるかと、実は衝動的にズバッと刈り込んだんですが、楽屋は大騒ぎで三代目しくじったんかとか、言っときますけどキム・ジョンウンちゃいますよ(客席大爆笑)」マクラは鶴瓶師匠に奨められて東京へ住所を変えての言葉の違いや新宿末広亭に出演した時に感じた東京と上方の違い。「東京と大阪の往復、旅の連続で・・・」と、つないで始まった本題は上方の噺『地獄巡り(地獄八景)』。発端は地獄への道中から、お囃子もキッチリ入ってから三途の川へ。そこにあったのは冥土(メイド)喫茶。
 春蝶師匠曰く、この噺は時代設定はムチャクチャとのこと。セブンイレブンならぬ初七日イレブンで船の乗船券を買って鬼の船頭の船で三途の川を渡り、地獄の繁華街、冥土(御堂)筋へ。この間もくすぐり満載(もちろん時代考証めちゃめちゃ)。食べ物屋や映画館、芝居小屋、演芸の角座。ワッハ上方のオープニング企画は松鶴・米朝・春團治・文枝の四天王(ちょっと、脱線)。
 そこで、前を掃除中の先輩、実父である先代春蝶師匠と遭遇。ここから落語をちょっと脱線して父と子の会話。恋雅亭に出演していると言うと「お前が三歳の時に出来た、第一回に出演、あそこに出れたら一人前」と言い残して大阪球場へ。地獄で阪神が優勝するとどうなるかでサゲになった二十二分の秀作でありました。

 そして、三月弥生公演のトリは「創作落語の鉄人」笑福亭仁智師匠にとって頂くことになりました。
いつも明るく、切れ味鋭く、どことなくホンワカする爆笑創作落語を演じて頂く師匠。軽快な『オクラホマミキサー』ではなく、重厚な『六段くずし』「(パン)ありがとうございます。てなことでございまして、どんなことやわかりませんが、私のほうは別に気分転換で毛を短くしたわけではございません(客席は大爆笑)。何がおかしい(再び客席は大爆笑)。」マクラは京都花月での一葉斎蝶一師匠が幕が閉まったトリネタの箱抜けでの再登場や鳩に餌をやっていないので倒れた鳩、剣をさすマジックで入れるところを間違った、などを紹介。安物のナイロンのズラが燃えたなどを紹介して、見台をパンと叩いて「えー、今日の話は『兄貴の頭』で・・・」と、『源太と兄貴』の兄弟作がスタート。髪の毛が薄い兄貴に気を遣う二人の会話。その一言一言に客席は大爆笑。半時間を超える熱演は全編、ギャグの連続。サゲもズバッと決まった、紙面での紹介は不可能な秀作で、お約束通り大爆笑は◎な三月弥生公演でありました。