もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第414回 
◆春駒HOME◆恋雅亭TOP◆公演記録目次
 公演日時: 平成25年 2月10日(日)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  笑福亭 智 之 介  「初天神」
  桂   あ さ 吉  「書割盗人」   
  桂   春  雨  「初音の鼓」
  桂   小春團治  「失恋飯店」
    中入
  笑福亭 三  喬  「べかこ」
  桂    雀  松  「天神山」  (主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  林家 和女、勝 正子。
   
 寒さも一段と厳しさを増した、二月十日の日曜日、もとまち寄席・恋雅亭の如月公演が開催されました。
前景気も好調。問い合わせの電話が多い中、前売り券を若干枚残して当日を迎えました。既にお知らせの通り、全面改装も本格的に始まった風月堂さんの入り口では、日曜で寒い中にも関わらず多くのお客様の列はどんどん長くなっていきました。改装中は開場時刻も半時間、後ろ倒しとなり長時間、並んで頂いたお客様には大変申し訳ないことでございます。今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙しです。いつもより半時間遅れの六時に開場となり、待ちわびたようにご来場されるお客様で、席は次々に埋っていき、当日券を求められるお客様も多数ご来場され、開演の六時半には、客席ピッタリの大入満席で 「第四百十四回もとまち寄席恋雅亭・如月公演」の開演となりました。
 公演のトップは笑福亭仁智一門から地元神戸出身の笑福亭智之介師の登場となります。
師匠の教えを忠実に守った明るくて、若さ溢れる元気一杯で地元神戸や各地で開催される落語会で大活躍。入門十三年目でトップでの登場はなんとも贅沢な顔付けです。当席へは平成二十年十二月の初出演、今回で四回目。当席常連の逸材で、客席の待ちわびた大きな拍手と『石段』の出囃子に乗って高座へ登場。「はい、どうも、ありがとうございます。開演でございまして、まずは、私、笑福亭智之介の方でお付き合い願っておきます。この世界に入って十三年・・・。」と、あいさつ。実際に楽しい落語会で起こった警察ざた、酔っぱらいが自分で警察を呼んで自分が警察に捕まった、という訳の判らない出来事を紹介。さらにご自身が出会った親子連れを男の子と女の子を間違った上にお父さんとお母さんを間違った失敗談のマクラで笑いを誘う。そして、始まった本題は、五代目松鶴→六代目松鶴→仁鶴→仁智師匠と師匠連も十八番の『初天神』の一席。初天神に連れて行ってもらうための寅ちゃんの画策のクダリは勿論、大受けで、果物、飴から、みたらし団子と寅ちゃんの要求はエスカレート(勿論・大受け)。
 そして、この噺では珍しくサゲを付けての十八分の秀演でありました。

 二つ目は故吉朝一門の総領弟子で当席の常連・桂あさ吉師にお願い致しました。
※平成十二年五月の第二百六十一回公演が初出演で今回で十回目。
今回も師匠譲りのきっちりした行儀の良い、顔と同じく端正な芸風で何を演じて頂けるか、楽しみの中、『お江戸日本橋』の出囃子で高座へ登場。マクラは英語落語の話題、アメリカ、オーストラリア、ブルネイで演じたが一番演(や)りやすいのは日本(大受け)。パントマイムは盛り上がるのが、演(や)りにくかった『時うどん』。六代文枝海外公演での大受けの字幕スーパー。大受けのマクラからスッと始まった本題は『書割盗人』。東京では『だくだく』でポピュラーな演題ですが、上方ではちょっと珍しい噺となっています。小生が最初に聞いたのは先代桂米紫師匠、当席では笑福亭松枝、桂む雀、笑福亭銀瓶、桂文昇の各師匠が演じられておられます。この噺をあさ吉師は、『書き割りとは、お芝居の舞台の背景の絵のことで、「書き割り盗人」の主人公は、何もない自分の狭い部屋の壁に家財道具などの絵=書き割り を描いてもらうのですが、その書き割りの家財道具を、泥棒が盗みに入るというお話です。』紹介されておられます。なんともええ加減な主人公と、その無理難題にニコニコしながら応える絵心のある男、可愛らしく主人公に翻弄される盗人の登場人物の三人があさ吉師の任(にん)とピッタリ一致した大爆笑編に仕上がって、さらに、落語独特の空想の世界でお客様の頭の中で絵に書いた家が見事に浮かび上がっているであろう二十分の好演でありました。
 古い噺なので、色々と難しい言葉が出てきます。紙面の関係で紹介のみに留めますが、反故(ほご)、九尺二間の長屋、黒檀(こくたん)、紫檀(したん)、宣徳の焼物、古九谷(こくたに)、大和(だいわ)の火鉢、竃(へっつい)、おくどさん、三宝(さんぼう)さん、衣桁(いこう)、兵児(へこ)帯、しごき帯、仙台平(せんだいひら)、長押(なげし)、股立(ももだち)、石突き。

 三つ目は、春團治一門のイケメンコンビの一角、当席常連でもあります「上方落語界の若旦那」桂春雨師匠が芸名にちなんだ『春雨』の出囃子でユックリ(弱々しく・ポーズか?)と高座へ登場。
※平成五年四月の第百八十回・開席十五周年記念公演が初出演で今回で十五回目。
高座へ登場すると高座は暖かいですが楽屋は寒い。虚弱体質では応える。今年で五十、孔子は天命を知る歳。織田信長の死んだ歳、天命を知るか死ぬかは皆様の責任。落語で笑わなかったら皆様は明智光秀。光秀にならないこと。と爆笑マクラが続く。客席からは大きな笑いが起こる。そして、ご自身とイメージが重なる、お大名の小噺、そして、始まった本題は当席では初めて演じられる『初音の鼓』。殿様とお付きの三太夫といつも胡散臭いものを売りつける商人の吉兵衛が、源九郎狐の親の雄狐雌狐の皮が張られ、源義経が静御前に与えたとされる初音の鼓をめぐって繰り広げる騙し合い。本物なら「ポン」と打つと傍らにいる者に狐が乗り移って「コン」と鳴くはずと三太夫を誘惑して殿様の前に、見事騙したと思ったら今度は殿様が「コン」と鳴く。どちらが騙されたかはサゲが証明することになる江戸落語の秀作。別名を『ぽんこん』。これを上方風に演じられた熱演に客席からは勿論、大きな笑いと拍手が巻き起こった二十分でありました。

 中トリは創作落語・古典落語の二刀流・当席常連の桂小春團治師匠。
※昭和五十四年十二月の第二十一回公演が初出演で今回で三十四回目。
理知的でそれでいて切り口の鋭い独創的な創作落語で、毎回、爆笑を誘っておられる師匠。今回も『小春團治囃子』に乗って高座へ登場。客席からは掛け声も掛かる。「年配の女性はカタカナ用語を使いたい」。それでの失敗談。「エルメス→ヘルペス」は大受け。日本は文字が多いが漢字をど忘れするとひらがなで書けるが、漢字しかない中国は?。電報などは特に大変、中国は底知れない。とのマクラから、今日は登場人物は中国人で中国語で演じると判らないのでと断って始まった本題は『失恋飯店(ハートブレイクホテル)』。この噺、ご自身のHPでは、「昭和六十一年五月の『創作落語の会』にて初演。登場する中国語のニュアンスを伝えるため、中国語の部分のみ漢字の音読で語られる日本初の漢文落語であります。映画会社の赤羽と岸田は、中国電影公司の王氏と日中合作映画の打ち合わせを進めるが、一人の女性の出現で王と映画の運命は大きく変わってしまう。」と、紹介されています。
随所に散りばめられたクスグリが何時もと同じように大爆発し、二十五分超の高座は大爆笑の連続でした。

 中入後のカブリは、当席常連で笑福亭松喬一門の大黒柱・笑福亭三喬師匠です。
※ 平成四年五月の第百六十九回公演が初出演で今回で二十三回目。
小気味の良い『米洗い』の出囃子で満面の笑みで高座へ登場するや、『トリの雀松師匠が文之助を襲名する、地元神戸でおめでたいですが、我々は祝儀を・・・。繁昌亭が出来て十二名の襲名があった。祝儀は交際費扱いにはならない。と、中入後の客席を笑いに包み込んで始まった本題は『べかこ』。当席では昭和六十年六月の第八十七回公演の染丸師匠の口演以来二十七年ぶりに演じられる噺です。
 主人公は桂、笑福亭、林家、月亭でもない上方の噺家・泥丹坊堅丸。この主人公は三喬師匠のイメージとピッタリな明るくて暖かくどこも憎めなく描かれ、最初から大受け。お姫様を慰めるために招かれ客分として城内を案内され、調子に乗った主人公がつい大騒ぎ。取り押さえられ藁にも縋る気持ちで絵に書いた鶏に懇願してサゲ。登場人物一人一人が生き生きと大活躍する三喬ワールドは、二十五分のノリノリの秀作でありました。
 題名になっている「べかこ」とは「べっかんこー」、「あかんべー」の意味でこれがサゲとなっています。

 そして、如月公演のトリは地元・神戸出身で今年の十月に上方落語界の名跡・三代目桂文之助を八十三年ぶりに襲名される枝雀一門で当席常連の桂雀松師匠に初めてとって頂くことになりました。
※ 昭和五十五年六月の第二十七回公演が初出演で今回で三十一回目。
忠臣蔵七段目「一力茶屋」の場などで「花に遊ばば祇園辺りの色揃い~」で幕が開く合い方の『花に遊ばば』の踊るような調子の良い出囃子に乗って大きな頭(失礼)に満面の笑みで高座へ登場すると、客席からは掛け声と共に大きな拍手が巻き起こる。
※ この出囃子は東京では二代目、三代目三遊亭円歌師匠の出囃子であります。
「えー、三喬はあんな男やなかったですが、ねー、何か家庭に辛いことでもあるんですかね、判らないですが・・・。えー、続きまして私の方でお付き合いを願っておきます。お付き合いと言いましても別に結婚を前提にしている訳ではありません・・・。」と、お馴染みのツカミのフレーズ。もちろん、客席は大爆笑。「春節ですがまだまだ寒いですが・・・」から始まった本題は『天神山』の一席。
 この噺、前半は、変ちきの源助が大活躍の『墓見』。後半は胴乱の安兵衛が大活躍する、芝居の蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)、通称「葛の葉」の四段目の「子別れ」が下書きとなっている。この噺は人形浄瑠璃のひとつで和泉国信太(しのだ)の森の白狐が女に化けて安倍保名(あべのやすな)の子となる安倍晴明を生んだという伝説を脚色したもの。枝雀師匠十八番のこの噺を発端からサゲまで師匠の口伝に忠実に、ご自身の工夫も随所に入った前半は幽霊との因果応報の噺、後半は狐を嫁さんにする噺で演じ方で暗い噺となるのだが、明るく明るく演じ、客席は大爆笑。狐を買い取るクダリでグッと盛り上げ、サゲは師匠と同様、「子供に言い聞かせて姿を消します。
 ある春の日のお話でございます」。半時間の秀作であった。上手い !