もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第413回 
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 公演日時: 平成25年 1月10日(木)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  林家  染 太  「魁! 学習塾」
  桂   福 矢  「牛ほめ」   
  桂   珍 念  「憧れのカントリーライフ」
  桂   千 朝  「風邪うどん」
    中入
  笑福亭 鶴 二  「竹の水仙」
  桂    文 珍  「宿屋仇」  (主任)

   打出し  21時05分
   お囃子  勝 正子。
   手伝い  桂 三ノ助、笑福亭喬介
 明けましておめでとうございます。
寒さも一段と厳しさを増した、一月十日に、一年の笑い始めとなります、もとまち寄席・恋雅亭の新春初席公演が開催されました。前景気も絶好調で前売券は発売後、即完売となり新しい年を迎えても問い合わせの電話が多い中、当日を迎えました。既にお知らせの通り、全面改装中の風月堂さんの入り口では、平日で寒い中にも関わらず多くのお客様の列はどんどん長くなっていきました。改装中は開場時刻も半時間、後ろ倒しとなり長時間、並んで頂いたお客様には大変申し訳ないことでございます。
今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙し。いつもより半時間遅れの六時に開場となり、待ちわびたようにご来場されるお客様で、席は次々に埋っていき開演の六時半には、後方にちょっと立ち見が発生したピッタリの大入満席で 「第四百十三回もとまち寄席恋雅亭・新春初席公演」の開演となりました。

 二番太鼓の後、初席のトップのみに使用される『十二月』の出囃子に乗って、染丸一門から林家染太師が客席からの大きな拍手に迎えられて登場。初出演は第379回公演、約三年ぶりの二回目の出演となります。愛媛県松山市出身で大学教授の父と薬剤師の母のもと長男として生まれて、関西大学の落語研究会を経て、平成十二年入門。以来、師匠の教えを守って各地の落語会で大活躍。愛くるしい笑顔と基本に忠実な上方落語で大活躍な初席トップに相応しい出番となりました。
 「あけましておめでとうございます。はい、ただ今より開演でございましてトップバッタ-は林家染太でございます。どうぞ、よろしくお願い致します」とあいさつ。マクラはクリスマスセール、バッタものの商品を紹介。ラコステのバッタもののオコシテのTシャツの現物を出して笑いを誘って、アメリカで流行っている日本語(漢字)を紹介して客席を暖かくして始まった本題は、学生時代の塾の先生時代のアホな生徒の体験談を集めての自作の創作落語、『魁!学習塾』の一席。学生時代の家庭教師での失敗談。大いに笑いをとって始まったのは自作の『魁!学習塾』の一席。経験を元に創作された一席は、こんなこともあるあるとの客席の反応とスケッチブックを取り出しての意欲作。その内容の面白さとご自身の明るさが加わって、ひとつひとつのクスグリが見事に決まって大爆笑の内にサゲとなった
再演に期待一杯、汗一杯の十五分の熱演でありました。

 二つ目は四代目桂福團治一門からいつまでも若々しく可愛い笑顔の桂福矢師。
当席でも多くの待ち焦がれられたファンの声援と小気味の良い『楽隊』の出囃子で高座へ登場。
「えー、代わり合いましてしばらくの間、お付き合いを願います。すぐ済みますんで。オーソドックスな流れで演(や)らして頂きます。」と、マクラはTVショッピングの話題。前の染太師の余韻をユッタリしたキッチリした型どおりのしゃべりで消して小拍子をポンと叩いて始まった本題は上方古典落語の定番『牛ほめ(池田の牛ほめ)』の一席。基本に忠実に新しいクスグリもチョイチョイと入り、自身の個性が客席の笑いを誘った秀作は二十分でありました。

 三つ目は、トリの文珍一門から桂珍念師匠。
師匠の厳しくも暖かい指導の元、演じられる上方落語は当席でもお馴染みで、ファンも多い。今回も師匠譲りの元気一杯で、肩の凝らないホンワカする高座を師匠と同じ出番で演じるべく師匠のイメージピッタリで名前からして何ともおかしみのある『ずぼらん』に乗って高座へ登場。
 頭を下げて右手で扇子をクルクル廻して拍手を誘って、「場内、割れんばかりの拍手で(自身の笑いで客席も爆笑)、一杯のお客様でございまして代わり合いまして、出て参りました私が桂文珍門下の二番目の弟子でございます、桂珍念と申します。どうぞよろしくお願い致します。(会場の拍手に)、ごもったいない、お手にお怪我はございませんか」とのツカミから、各国のお国柄を紹介して笑いを誘って始まった本題は『憧れのカントリーライフ』。この噺は珍念師匠の叔父に当たります六代桂文枝師匠が三枝時代に、どこも同じような風景になってしまった田舎を題材に作られた創作落語。のどかでのんびりした田舎暮らしに憧れて移住してきた一家が巻き込まれる別の意味での忙しい日々。段々困っていく一家の様子や何とも思わずに難題?を持ち込む村の住人の一人ひとりが珍念師匠の任ともピッタリマッチした秀作。実に鮮やかでなるほどと思わせるサゲとなりました。

 中トリは米朝一門で上方落語界の重鎮・桂千朝師匠のご出演となります。
多くの門弟がおられる一門にあって、師匠の薫陶よろしく基本に忠実な芸風。プラス何とも言えない面白みのある高座を努められておられる師匠、今回も選りすぐりの上方落語の一席を演じるべく、『本調子鞨鼓』の出囃子でユッタリと高座へ登場。師匠独特の間で始まったマクラは長屋の話題。長屋へ来る物売りの売り声は二(ふた)声。一(ひと)声や三(み)声。売り声は物の形を現していると「さお竹」「たけのこ」「松茸」「こうもり傘の張替え」。季節によって違う売り声と、「うどん屋」の売り声から始まった本題は仲の良かった兄弟弟子の故桂吉朝師匠も十八番だった季節感ピッタリの上方落語『風邪うどん』の一席。マクラから見事に前の流れを千朝ワールドへもっていって流れるように本題がスタート。師匠が演じられると冬の寒い路地でばくち中の若い男に呼ばれ大量注文を受け喜ぶうどん屋が次のお客も小声だったので喜んで対応するのだが・・・。見事、的外れでサゲとなりました。千朝師匠の口演は冬の寒さとうどんの暖かさが見事にマッチ。食べる仕草に客席からは大きな笑いと共に歓喜にも似た反応が起こった半時間の好演でありました。
 この噺は東京では『うどん屋』と呼ばれ故五代目柳家小さん師匠の十八番でした。ちなみに、小さん師匠が演じられるとそばはそば、うどんはうどんと判った名人でした。上方で『うどん屋』として演じられるのは別名を『三人上戸』とも呼ばれる、また別の噺で、東京では『そば屋』として演じられています。なんともややこしい。

  中入後のカブリは、当席常連で六代目松鶴一門の末弟(六代目師匠がお亡くなりになられての年月を感じます)で、当席でこの位置での出演は初となります笑福亭鶴二師匠。
 いつもながらの明るくて合法磊落な笑福亭落語を期待されるファンの拍手に迎えられ兄弟子の故七代目松鶴(松葉)師匠の出囃子だった『独楽』で笑顔一杯での高座。「本当に休憩後のすがすがしい空気の中でございまして・・・」と、挨拶して、始まったマクラは落語の稽古について。歩きながら、電車の中で、しかし、変な人に思われる。まともに見られるのはここ(高座)だけでと笑いを誘って、続いて、ご祝儀の渡し方と貰い方を客席で伝授。「お茶を飲んで頂戴」ともらった祝儀袋の中身はティパックが入っていたとサゲて始まった本題は『竹の水仙』。明るくて笑福亭の豪放磊落さとそれでいてのスマートな高座。この噺、元々、浪曲種。鶴二師匠の口演も浪曲を思わせるような流れるような口演。お囃子も入って明るい高座。中入後のすがすがしいをそのままトリに引き継いだ二十二分でありました。

 そして、初席のトリは今年も皆様、お馴染みの桂文珍師匠に多忙な中、毎年、必ず一回はご出演頂き爆笑高座、◎の師匠。
 ゆったりと『円馬囃子』で登場となりました。『円馬囃子』は、「空堀の師匠」と呼ばれた大正時代の名人、二代目三遊亭円馬師匠の作で、独演会の二席目などで登場する場合、奏でられる名囃子。文珍師匠が当席で初めてトリを努めて頂いたのは平成七年一月十日、あの阪神大震災の七日前でした。今から十八年前で、今回までの当席へのご出演は十八回。まさしく、年に一回のご出演で、過去、『たいこ腹』『天狗裁き』『らくだ』『七段目』『宿屋仇』『星野屋』『はてなの茶碗』『軒付け』『胴乱の幸助』『三枚起請』『七度狐』『御神酒徳利』『天神山』『百年目』『粗忽長屋』『高津の富』『猿後家』『憧れの養老院』と演じられておられます。
 今回もユッタリと登場。「待ってました」と客席から声も掛かって「明けましておめでとうございます・・・」。風月堂さんが工事中の中、早くから並んで頂いたお礼を述べて、「今日は戎さんでございまして・・・」と、鮪にお賽銭を貼るお参りの仕方があって、鮪といえば中国の方に喰い尽くされる、近大に鮪養殖で頑張って欲しい、観光バスには一日コースもありますが、中国人が乗ってるのは「半日コース」。客席はバツグンの反応で拍手喝采。師匠もこの好反応に嬉しそうに「細かいギャグを入れております」とノリノリでマクラが進む。まずは季節感一杯の『ツリ好きな恵比寿さん(小生が考えた勝手な演題)』。サゲと同時にここでも客席は大爆笑。実に反応の良いお客様。師匠も大いにノリノリで、次の小噺は巳年にちなんだ『山を七巻き半する大蛇(同)』。これもサゲと共にドッカーン。師匠自身も楽しまれるように次々に繰り出される。「ボクシングで勝って巻けたチャンピオンベルト」「上戸綾と綾戸智恵」などの言葉遊び。小噺と客席の笑いは約二十分も続いて、「言葉遊びの本家落語の面白さを本当に判って頂いているみなさんがこの恋雅亭に長い間お越し頂いておりましてありがたいことやと思っております・・・。これで終わると大変なことになりますので・・・」と始まった本題は『宿屋仇(日本橋宿屋仇)』の一席。
 この噺、当席ではほとんどがトリで演じられており、カットするクダリがない上方落語の大物。
その噺を発端からサゲまで骨格は先代文枝師匠で、随所に文珍流が入り、タップリと演じられた口演はマクラからサゲまで、師匠も客席も大満足な五十分。大いに盛り上がった新春初席公演でありました。