もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第412回 
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 公演日時: 平成24年12月10日(月)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   佐ん吉  「犬の目」
  笑福亭 生 喬  「ピカソ」   
  桂   福 車  「代書屋」
  桂   文 福  「金婚旅行」
    中入
  桂   米 平  「饅頭怖い」
  笑福亭 松 喬  「網船」  (主任)

   打出し  21時15分
   お囃子  林家 和女、勝 正子。
   手伝い  桂 三ノ助、桂 恩狸
 寒さも一段と進み、すっかり師走の風物詩として定着した感のある「神戸ルミナリエ」開催中の十二月十日に、一年の笑い納めとなります、もとまち寄席・恋雅亭の十二月師走公演が開催されました。
前景気も好調で前売券も残部わずか。さらに当日まで問い合わせの電話も多い。当日は平日で寒い中にもかかわらずお客様の出足も絶好調で、次から次へとご来場されるお客様で列はどんどん長くなっていきました。長く並んで頂いたお客様には大変申し訳ないことでございます。今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙し。定刻の五時半に開場となり、待ちわびたようにご来場されるお客様で、席は次々に埋っていき定刻の六時半には、立ち見も発生することなくピッタリの大入満席で 「第四百十二回もとまち寄席・恋雅亭」の開演となりました。

 二番太鼓の後、『石段』の出囃子に乗って、吉朝一門から桂佐ん吉師が客席からの大きな拍手に迎えられて登場。
 佐ん吉師は平成二十一年十一月にキャリア八年で初出演、以来三度目の出演となります。亡き吉朝師匠の薫陶よろしく、基本に忠実で元気一杯で演じられる上方落語は、当席でもファンも多い、期待の逸材であります。挨拶の後、お医者さんの小噺、『寿命と手遅れ』で大きく笑いをとって始まった本題は前座噺の定番で、ほとんどのお客様が知っておられる『犬の目』の一席。ネタの着眼点も奇抜で、多くの演者によって数々のクスグリも網羅され、いわいる「ネタに力のある噺」で、簡単そうに思えますが、こんな噺こそ意外と難しく、力量が必要な噺であります。その噺を自身の任を生かして明るく、陽気に演じられる。サゲでもトントンとたたみかけるように演じられ客席は大爆笑でした。
 前座の持分を充分、熟知し、それでいて客席を大満足させる十五分の高座でありました。

 二つ目は、トリの松喬一門から笑福亭生喬師匠に約三年ぶりに登場願います。
巨漢揃いで、芸熱心な一門の中にあっても各種芸事や埋もれた噺の復活など、さらにお弟子さんも出来て、一段と風格も備わりました。一方、愛くるしい笑顔も健在で「生喬の世界」を漂わせる師匠であります。『さつまさ』の出囃子でゆったりと高座へ登場し、さっそく、世界的画家のピカソの話題がスタート。
「ピカソの本名は、パブロ・ピカソと思われがちですが、実は・・・」と、早口言葉を髣髴とさせる、パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・フアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・シブリアーノ・センティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソと紹介。客席の大きな拍手を「これが言えたら今日の落語は終わったようなもので・・・」と、ピカソについての数々の逸話半分、大受けの脱線噺半分で口演は進んで、「パン」と小拍子を叩いて始まった本題は、登場人物が本来、フランス人のはずであるが、全員が大阪弁で大活躍する『ピカソ』の一席。
 この噺、先代桂春蝶師匠の『昭和任侠伝』に続く、自作の創作落語で、師匠なき後、一門と当代の春蝶師らが演じられておられるが、演じ手の少ない噺であります。当席では二十三年ぶりの口演となります。演者は勿論、先代の春蝶師匠。生喬師匠も勿論、発端から大阪弁オンパレード。この落差に客席は大爆笑でツカミバッチリのスタートとなりました。
 全編、師匠の工夫と熱演で爆笑の連続の二十分の秀作でありました。

 三つ目はで福團治一門から桂福車師匠。
一門の秘密兵器(秘密を平気でバラす)と言われて久しい師匠、いつも元気一杯の爆笑落語は、当席もファンも多く、当席、常連(今回はスケジュールの都合でやや出演の間隔が開きましたが)の師匠であります。『草競馬』の浮き浮きするようなリズム感一杯の出囃子に乗って高座へ登場。
 「只今は『ピカソ』という大変珍しい噺で、ネタ帳を見ますと21年半ぶりでして、先代、春蝶師匠が演じておられます。その頃の出演者を見ますと、『死んでる、名前変わった、死んでる、名前変わった、おる』と歴史を感じます。お後は、必要以上に陽気な文福師匠(高座の袖から文福師匠の高笑いが客席に聞える)、中入りの後は米平さん、そして、お目当ての松喬師匠をお楽しみに・・・。
 そして、仕事で行った会場で見た柔道の『山下康裕の世界』から名前といえば・・・」と、自身の同名である「ヤスヒロ」でパッと思いつくのは、中曽根康弘、山下康裕。そして、国民栄誉賞へ、ロンドンオリンピックの女子レスリングの話題へと、スムーズに噺が進展する。このクダリが実にシャレた内容。女子レスリングでの金メダルは伊調馨(イチョウカオリ)選手のほうが一日早い。しかし、ある先生の予想では銀メダル。理由と金メダルを獲った言い訳は。残念ながら紹介できないが、『銀メダル』、『イチョウはギンナン』『ギンナンはカオリが強い』でシャレをお考え下さい。
 大受けで始まった本題は『代書屋』の一席。この噺は四代目米團治師匠の自作。三代目師匠は米朝師匠から口伝され、随所に工夫を入れられ十八番中の十八番の噺となっています。どうしても三代目師匠と比べられるので、大幅に改編される演者が多い中、福車師匠の口演は随所にご自身の工夫が入っているが、噺の骨格(時代・筋立て)は大師匠の三代目この原型に実に忠実になぞりながら、その中にご自身のカラーを打ち出すには力量が要る難しい噺。必要以上に力まずに、それでいて福車カラーが出て大いに笑える噺に仕上がっているのは実に見事。
 客席の反応もすこぶる良かった二十二分の好演でありました。

 中トリは上方落語界の元祖・元気印で和歌山のおいやんこと、桂文福師匠にとって頂きます。
もうこの師匠については説明不要。今回も末弟の桂 恩狸(おんり)師を引き連れて早くから楽屋入り。早速談笑、絶好調。本人曰く「ちょっと、風邪を引いて声が出難い」。そうですが、いつも通り早くもパワー前回で絶好調。派手な羽織に着替えて、袖にどっかと座って福車師匠の高座に突っ込みを入れたり客席の反応を確かめたりして準備も万全。お馴染みの『月光仮面は誰でしょう』の出囃子に乗って高座へ姿を見せると派手な羽織に客席は大爆笑。
 「ちょっと、地味な衣装で(客席はさらに笑いが)、芸名を文福。本名を福山雅治と申します」と、お馴染みのフレーズで文福ワールドへ突入。小噺、謎賭け、相撲甚句、等々。充分、客席満足させて、「では、これでお後と交代・・・。では、申し訳ないので落語を」と、始まったのは老夫婦の心温まる温泉旅行を題材とした『金婚旅行』。
 いつも通り客席も師匠も大満足な二十五分の高座でお仲入りとなりました。

 中入リ後、祈が入って米朝一門から桂米平師匠が上方落語界の巨漢でいつまでも愛くるしい笑顔一杯で『大拍子』の出囃子でどっしどっしと高座へ。
 客席からはそれだけでクスクスと笑いが起こる。この間あったお寺での大きな法要での話題。五人のお坊さんと控え室が同じで「着物着た男が六人、しかし、坊主頭は私だけ」。客席は大爆笑。さらに、放送局で反射止めの化粧をしてもらうのに「どこまで、塗りましょか?」。これにも客席は大爆笑。そして、始まった本題は『饅頭怖い』のお馴染みの一席。好きなものの訊ねあいから、嫌いなもの怖いものの訊ねあい。長い怪談調のクダリで客席をグッと絞めて謎解きで爆笑を誘う見事な演出。そして、サゲまで演じず、半ばで切り上げられる。この辺が中入カブリの出番でのご自分の役割を熟知された高座。よく受けていたのでサゲまで引っ張りたいところですが実に見事であります。
 大喝采の二十分の高座でトリの松喬師匠と交代となりました。
 
 そして、本日のトリは上方落語界の重鎮・六代目笑福亭松喬師匠。
米平師匠の口演終了と同時に師匠の出囃子の『高砂丹前』が鳴って、メクリが『松喬』に変わると客席全体が一瞬、前へ動いたような錯覚を感じさせられる。本調子ではない事はお客様全てが良くご存知で期待の一瞬。高座へ姿を見せられた瞬間から巻き起こった拍手と掛け声は師匠が座布団に座られても鳴り止まない。充分間合いをとって、「えー、昨年のこの会の翌日が病気の申し渡しの日でして・・・」と、闘病日記が一つのネタのようにスタート。ドキュメンタリーであるが随所に笑いを散りばめられた実に見事な構成の噺が続く。
 「以上、長い近況報告でした(客席からは大きな拍手)。」と、病気療養中に覚えた三つの噺の内から、「今日は遊び人の若旦那の活躍するお噺を」と二代目桂三木助師匠の速記を元に落語作家の小佐田定雄先生が脚色、復活された上方落語『網船』の一席がスタート。残る二席の内の一席は東京で上方落語を演じられておられた小南師匠が『箒屋娘』として演じられておられた、サゲのない人情噺を六代文枝師匠が船場言葉など、手を入れられて、上方風に仕上げられ入院中の松喬師匠に「是非、君に演ってもらいたい」と送られた『住吉参り』。
 この噺は真面目一方の若旦那が大活躍。残る一席は『お座詣り』であります。『網船』は親旦那の目を盗んで網船遊びに行こうとする若旦那と手引きに苦悩する野たいこ、欲と二人ずれで参加することになった親旦那、と登場人物が松喬師匠の話術に乗って大活躍。お囃子もタップリ入り、船を漕ぐ姿や網を打つ仕草など、どれをとっても一級品で、なんで、こんな面白い噺が滅びたのかと思われるような大爆笑編。疲れを感じさせない近況報告と合わせて五十分の秀作。
 来年の師走公演の出演を快諾された松喬師匠で平成二十四年のもとまち寄席・恋雅亭は打ち上げとなりました。