もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第411回 
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 公演日時: 平成24年11月10日(土)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   阿か枝  「子ほめ」
  笑福亭 瓶 吾  「化物使い」   
  桂   出 丸  「寄合酒」
  桂   文 也  「はてなの茶碗」
    中入
  笑福亭 鶴 瓶  「鴻池の犬」(主任)

   打出し  21時15分
   お囃子  林家 和女、勝 正子。
   手伝い  笑福亭純瓶、恭瓶、べ瓶。
 本格的な秋本番、一気に寒くなって過ごし易くなった十一月。十日にもとまち寄席・恋雅亭の十一月公演が開催されました。前売券は発売当日の一時間で完売。さらに当日まで問い合わせの電話も多い。当日は土曜日。お客様の出足も沸騰。一番の来席のお客様は午前十一時。さらに次から次へとご来場されるお客様で列はどんどん長くなっていきました。若干枚用意した当日券も早くに売り切れ開場の五時半までの長期戦となりました。長く並んで頂いたお客様には大変申し訳ないことでございます。今回もチラシは一杯届き、折込はいつも通りの人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙し。刻の五時半に開場となり、待ちわびたようにご来場されるお客様で、席は次々に埋っていき定刻の六時半には、立ち見も発生することなくピッタリの大入満席で 「第四百十一回もとまち寄席恋雅亭」の開演となりました。

 二番太鼓の後、『石段』の出囃子に乗って、五代目桂文枝門下の末弟で地元、明石出身で当席の常連の桂阿か枝師が長身をやや前かがみにして登場。
 客席からは『待ってました』との声もかかる。いつもながらの後方まで届く口跡と基本に忠実な上方落語は爆笑つかみから。言葉一言で意味合いが大きく変わるとして、「何で落語家なんかになったんですか?」、「何で落語家になったんですか?」で笑いを誘って始まった本題は『子ほめ』の一席。当席でもよく演じられるお馴染みの噺であります。五代目師匠の声や口調にもっとも似ている師。発端の「ただ」と「なだ」の聞き違いからサゲまでキッチリと行儀正しく演じられた十五分でありました。

 二つ目はトリの鶴瓶一門からいつまでも若々しく可愛い笑顔の笑福亭瓶吾師。
当席へはちょっとご無沙汰の師匠。待ち焦がれられたファンからの大きな拍手と『ぎっちょ』の出囃子に乗って高座へ登場。マクラは、「いろんな人がいますが、ついてない。」ご自身の本日の当席での失敗談。そして、大好きな特撮物の仮面ライダーの話題。「今のライダーは凄い」、と『仮面ライダー・ウィザード(魔法使い)』、「シャバルビタッチ変身」と変身するライダー。バンダイから発売された変身ベルトならぬ変身指輪の凄い処を嬉しそうに楽しそうに紹介して、「仮面ライダーは魔法使いですが、人使いの荒い人」とちょっと無理がある展開とちょっとテレながら始まった本題は師匠直伝の『化物使い』。
 この噺、元々、東京ネタ。その噺を改作して上方ネタに練り直したのは笑福亭鶴瓶師匠で、瓶吾師は師匠直伝ということになります。東京では人使いの隠居さんが口入屋(職業紹介所)から来た良く働く権助を連れて化物屋敷に転居する。化物が怖い権助がいなくなって化け物を使うのだが、上方版は引っ越してくるのは夫婦で、風呂屋で化け物が出ることを聞いた奥さんが逃げてしまって残った旦那が化け物を使うというストーリー。瓶吾師の任(ニン・芸風)から言うと上方版がピッタリ。夫婦や出てくる化け物が実に可愛く生き生きと演じられその都度、ツボツボで客席からは笑いが起こる。実にほのぼのとした二十二分の好演でありました。

 三つ目は、ざこば一門から桂出丸師匠。
芸名からもお分かりの通り、ざこば師匠が朝丸時代の入門でキャリア二十七年の逸材で当席では師匠譲りの元気一杯の、一門伝統の基本に裏打ちされた高座でファンも多い。今回も和女・正子のお師匠はんの奏でる『せつほんかいな』のうきうきする様な出囃子に乗って高座へ登場。
 マクラは上方落語界や米朝一門のトピックスから。米朝師匠のアンドロイド(ロボット人形)では、その作成費用や上下が間違っているのは***師匠が原因。と笑いを誘って、さらに、この夏経験した事実談。ご自身がトリを勤める真夏の公民館、「ボン」との音と共に故障した冷房設備、暑さの中で悶絶する客席から出た言葉は「暑い!暑い!」に混じって「面白ない」。さらに、今日の打ち上げの話題で笑いをとって始まった本題は酒噺の定番の『寄合酒』。この噺は色々な部分を足したり引いたりすることが可能な噺で間違うと間延びしたり物足りなかったりする難しい噺。その噺の色々な登場人物が出丸師匠の好演で実に生き生きと活躍して客席の大爆笑を誘った二十分強の好演でありました。

 中トリは文枝一門から桂文也師匠が久々のご出演となります。
多くの門弟がおられる五代目文枝一門のまとめ役・大番頭の文也師匠ですが、落語も五代目師匠の薫陶よろしく基本に忠実な師匠。今回も師匠直伝の選りすぐりの上方落語の一席を演じるべく楽屋入り。さっそく、ネタ帳に目を通される。「長いこと出てなかったんやなぁ。長いこと続いてるなぁ。五百回までは七年半か」の感想と「このごろ、何が出てるのん?」と質問され、地元京都にちなんだ『五条橋』の出囃子で高座へ登場。
 「本日は記念すべき四百十一回公演で・・・」とつかみの挨拶。「ここ(恋雅亭)に初めて出してもろたんは忘れもしません・・・。昭和・・・。忘れました」と、いい間で客席の笑いを誘って、「その当時は五十番目でした。私も今年で四十年になりますが今は上から三十五番目で、つまり、十五人しか死んでないんでありまして・・・」さらに、京都は着だおれ、神戸は履きだおれとセンスがよろしいが、大阪は食いだおれと京都と神戸の品のよさを強調して、始まった本題は京都にちなんだ上方落語の大物の『はてなの茶碗』。
 地元の出身の土地勘を生かして、噺の舞台の場所が的確に表現され、さらに、主人公の油屋さんや茶店の親父は庶民らしく、茶金さんや鴻池さんは大店の主の威厳を漂わせて、さらに、関白や帝は高貴にと登場人物が生き生きと活躍する秀作。終盤でちょっとしたハプニングが発生。関白・鷹司公の読まれた唄「清水の 音羽の滝の 音してや 茶碗もひびに もりの下露」を一時的に失念。最後まで爆笑の連続のうちにサゲとなった半時間の熱演でお仲入りとなりました。

 そして、トリはもう皆様、お馴染みの笑福亭鶴瓶師匠に多忙な中、ご出演を頂きました。
当席では、『らくだ』、『たちぎれ線香』、『お直し』、『愛宕山』などの古典落語の大物や、自作の創作落語、そして、『鴻池の犬』、『堪忍袋』などの古典落語を新しい切り口で演じられて頂いている師匠。今回はズバリ『 ? 』。当日をお楽しみにと紹介しました。今回も、早くから楽屋入りされ高座と客席のライトの調整を指定され、高座へ耳を傾けながら、色紙へのサインや楽屋で談笑。長めのシャギリで、客席のライトを落として客席の落ち着くのを待って軽快な『とんこ節』に乗って高座へ姿を見せると客席からは拍手と共に多くの掛け声がかかる。高座へ座って、「清水の 音羽の滝の 音してや 茶碗もひびに もりの下露。文也」。これに客席は大爆笑と大喝采が巻き起こる。ホームグラウンドの当席ならではの見事なツカミ。
「いやーっ、しもた。四十年やってるけど、初めてや、あわあわ。と文福状態で・・・」と、つるべ噺がスタート。「家族に乾杯秘話」「耳の病気とミスターエックス」「自閉症と自開症」「大阪のおばちゃん被害」と、爆笑噺が続く。師匠の二十七回忌として手がけられておられる『一人酒盛』と『鴻池の犬』の内から本日の一席は『鴻池の犬』。実は『錦木検校』も候補だったのだが、昼間の福団治師匠との二人会でじゃんけんで決定して演じておられ、この演題に決定。
 ※『錦木検校』は『三味線栗毛』の別バージョンの噺で次回は是非と思っています。
鶴瓶師匠が当席で古典落語に取り組みだされたのは、古く、今から十九年前の平成五年十一月の第百八十七回公演での『胴斬り』。楽屋でトリの染丸師匠から刀の抜き方を伝授されていたのを昨日のことのように思い出しました。続いて翌年三月の第百九十一回公演で『鴻池の犬』を初演。第二百二回公演で『化物使い』を初演。初演以来、十八年ぶりの口演は六代目師匠の演出を土台にちょっとホロッとさせる三男の白の今までの悪行と苦労の独白をプラスした演出。師匠にお伺いしました。「主人公の鴻池の黒のモデルは?」「勿論、おやっさんやで」。 
 大爆笑の連続の『つるべ噺』と、全登場人物が大活躍の『鴻池の犬』。一時間の好演に客席の拍手は暫く鳴り止まなかった恋雅亭でありました。