もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第410回 
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 公演日時: 平成24年10月10日(水)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  笑福亭 喬 介  「時うどん」
  林家  竹 丸  「延陽伯」   
  月亭  遊 方  「憧れの一人暮らし」
  桂   春 駒  「ちしゃ医者」
    中入
  笑福亭 竹 林  「まめだ」    
  月亭  八  方  「商活栄町商店街野球部」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  林家 和女、勝 正子。
   
 秋本番でちょっと過ごし易くなった十月。十日にもとまち寄席・恋雅亭の十月公演が開催されました。
前景気も好調で前売券も既に完売。さらに当日まで問い合わせの電話も多い。当日は平日にもかかわらずお客様の出足も絶好調で、次から次へとご来場されるお客様で列はどんどん長くなっていきました。長く並んで頂いたお客様には大変申し訳ないことでございます。今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく毎回、量が多く大忙し。定刻の五時半に開場となり、待ちわびたようにご来場されるお客様で、席は次々に埋っていき定刻の六時半には、立ち見も発生することなくピッタリの大入満席で 「第四百十回もとまち寄席恋雅亭」の開演となりました。

 二番太鼓の後、『石段』の出囃子に乗って、笑福亭三喬一門の二番弟子で当席へは手伝いでは常連で初出演となります笑福亭喬介師の登場です。
各地の落語会では持ち前の明るさを全面に打ち出して大活躍の師だけに客席にもご存知の方多く、満員の客席からは大きな拍手が巻き起こる。「パン」と小拍子を叩いて「さっ、只今から開演でございます。・・・楽しく落語を聞いて下さい。」と一言。この一言で客席は大爆笑で「喬介の世界」へ突入。楽しく落語を聞いてもらうための五つのお願いをあいうえおで「あ、あくびをしない。い、居眠りをしない。う、うろうろしない。え、笑顔で聞く。お、面白ろなくても笑う。」と紹介して、絶妙の間で「それでは落語しまーす」と、本題がスタート。本題は、上方落語の定番の『時うどん』の一席。これが一言で言うと実に「めちゃ楽しく、面白い!!!」筋立てには変化はないが、底抜けに明るい主人公を持ち前の師の個性を充分に生かしてさらに誇張。客席の後ろまで響き渡るような大きな声とオーバーアクションで演じる落語はツボツボと言わず全編大爆笑の連続。サゲも見事に決まった工夫一杯、元気一杯、満足一杯の十七分の高座でありました。

 二つ目は染丸一門から林家竹丸師の登場となります。
神戸大学からNHKの記者を経て落語界へと異色の経歴を持ち、その経験を生かして演じられる落語は「竹丸の世界」を漂わせます。その竹丸師、『月光価千金(げっこうあたいせんきん)』の小気味の良い出囃子に乗って高座へ登場。※昭和3年のアメリカのポピュラーソングで日本では榎本健一氏が唄うところの「エノケンの月光価千金」としてお耳懐かしいメロディ。
 「えー変わりまして『子なき爺』が出て参りました、林家竹丸と申します。」と、大受けの挨拶。この一言で客席のムードはガラリと変わる。「秋は旅のシーズンでして・・・」と、マクラは中国で言葉が通じないことで巻き起こる爆笑体験談。「言葉が通じないことは笑いが・・・。古い婚礼の噺を」と、大いに笑いを誘って始まった本題は、これも上方落語の定番の『延陽伯』の一席おなじみの一席ですが、随所に師の工夫が満載でツボツボで客席は大爆笑に包まれる。本来のサゲまでいかずに途中で別のサゲで切った口演は十八分。大満足でありました。

 三つ目は当席、常連でトリの八方一門の総領、月亭遊方師匠。
軽快な『岩見』の出囃子で飛び込むように高座へ元気一杯に登場。いつもながら現代性溢れるマクラからスタート。いつもネタを提供してくれる愛すべきおかんからの電話。昨日、初めて「おれおれ詐欺」の電話がかかってきての話題から、野田阪神での悲惨な一人暮らしの実態で大いに笑いをとって、始まった本題は自作の創作落語『憧れの一人暮らし』の一席。
 親子三人で仲良く暮らしていた息子が一人暮らしのための部屋探しを始めるのだが、なかなか思い通りの部屋が見つからない。そこの不動産屋さんで父親と遭遇。父は離婚を決意して家探しとのこと。母親と二人暮らしを決意した息子が家に帰ると、母親が言った一言がサゲになる。昨今の家庭事情を題材にした一席は随所にちりばめられたクスグリと、たたみ掛けるような元気一杯の口演が見事に爆発して大いに盛り上がった二十五分の熱演でありました。

 中トリは当席のプロジューサーで、上方落語界の重鎮・桂春駒師匠。
今回も幅広い持ちネタの中からバツグンの爆笑落語を演じるべく『白拍子』の出囃子で高座へ登場。「ありがとうございます。当席は色々な噺を聞いて頂いておりますが、我々、出る前にネタ帳というのがありまして過去に誰が何を演(や)ったかを調べて、なるだけ色の付かんお耳新しい噺を・・・。東西の古典・創作を合わせて最もきたない噺です。大いに笑って頂いて、すぐ忘れて下さい。」と、始まった噺は初代春團治からのお家芸、数多い落語の中でも最も、きたない噺とされる『ちしゃ医者』の一席。今年の独演会でも演じられた勿論、師匠、十八番物です。「八百八商売の中でお医者さんという商売は・・・。本日はお医者さんはお見えではないですか?これで、演(や)り方が変わりますんで」と、断ってマクラがスタート。お医者を扱ったマクラを二、三、振って本題へ。いつもは一見インテリ風の風貌と語り口の師匠ですが、今回は発端からサゲまで爆笑の連続の噺を弾けるように演じられ、特に後半は会場全体にプーンと臭ってくるような熱演。その熱演に客席は含み笑い、こらえるような、そして、こらえきれない大爆笑に包み込まれたいつもながらの当席のお客様を大満足に包み込んだ好演でお仲入りとなりました。
 ちょっと、脱線して、なぜ、この噺が暫く、演じられなかったのか?師匠の紹介の通りこの噺が前に当席で演じられたのは第327回公演での桂雀三郎口演以来、七年ぶりで、その間、約六百の噺が演じられているのに・・・。しかし、当席ではなんと二十年以上演じられていない、出そうで出ない噺が数多く存在しています。二十年といえば千五百高座以上、演じられていないことになります。 自作の創作落語や、その師匠以外に演じ手のない噺を除いて調べてみました。『けんか長屋』『百人坊主』『近江八景』『瘤弁慶』『風邪うどん』『三人兄弟』『ざこ八』『宿屋町』『足あがり』『かか違い』『不精の代参』などなど。意外な噺が演じられていません。

 中入リ後は、笑福亭一門から笑福亭竹林師匠の登場です。
いつもの『山羊さん郵便』の出囃子で登場すると、いつも通りどこか申し訳なさそうに語り出す独特の世界。「ずいぶん涼しくなってまいりまして、暑さも落ち着いてまいりました。しかし、暑いと可笑しな人間がよく現れますようで・・・。」と、可笑しな人が出没することで有名な南海電車で遭遇した一人でブツブツ呟いている、元祖ツイッターのおっさんの話題から、「ちょっと笑いが少ないですが、その分短いです。」と断って始まった本題は、第80回以来、28年ぶりに演じられる『まめだ(三田純一作)』の一席。
 自身の生まれ故郷は奈良県の山村で平家の落人村落だそうです。終戦後、お父さんがアメリカ兵に男は殺されると怯え、実家へ逃げ帰った。帰る途中にここまではアメリカ兵も来ないと感じたほどの、ど田舎だそうで、当然、狸もよく出るそうです。笑いの少ない噺ではありますが、師匠のイメージとピッタリなホンワカした中にホロッとする筋立てで、落語では珍しい秋の噺で、絵を見るようなすばらしいサゲに客席は大満足。二十分の好演は中入りカブリの重責をキッチリ果たされた師匠でありました。

 そして、本日のトリは上方落語界の重鎮・月亭八方師匠にとって頂きます。
過去、「恋雅亭はええお客様で聞いてくれて笑ろてくれはる」と、当席での反応を参考にされたり出演を心待ちにされておられる師匠、ホームグランドの当席に『夫婦万歳』で高座へ登場。客席からは本日一番の拍手が起こる。「ありがとうございます。いつもいつもこちらへよしてもらいますと連日満員でございましてありがたい限りでございます。・・・せっかく寄せてもろて何か面白い噺はないかな」と始まったマクラは比叡山延暦寺での六代桂文枝襲名披露口上で起こった爆笑噺。
 タップリ笑いをとって始まった本題は、「文枝(三枝)さんが200以上の創作落語を創っていて、八方ちゃんに演ってもらいたいネタがあるねん、野球好きの君に向いてるから、演ってーな」との創作落語『商活栄町商店街野球部』。舞台はさびれていく商店街を活性化させようと、寿司屋、お好み焼屋、スナックの役員が集まって、略して、『商活』を目指して話題づくりとして社会人野球チーム、安心して買い物をして頂ける商店街を目指しているので『安心タイガース』をつくることになる。
 発端から師匠の軽やかな口跡から次々に飛び出すクスグリのオンパレード。上方落語の『大安売り』は相撲が題材だがその野球版。ユニークで強い守りの野球のメンバーを一人一人紹介するが、これが実に的を得た起用。先発ピッチャーはフォークボールが得意なクリーニング屋、中継ぎは接骨院。押さえの切り札はマッサージ屋。キャッチャー・ガソリンスタンド屋。内野は、ファースト・瀬戸物屋、セカンド・魚屋、サード・お好み焼屋、ショート・電器屋。外野は、ライト・電器屋、センター・てんぷら屋、レフト・財閥の息子と鉄壁を誇る。代打・パチンコ屋、ふとん屋、そば屋の三人衆。さらに、バント専門の葬儀屋、流し打ちの質屋と充実。極め付きは代走専門の百円均一店。
 それぞれの起用理由が面白く、的を得ているのでその都度、客席は爆笑の連続。
中学生相手の練習試合に望むのだが、38対0と大敗。そして、トントン、スコーン、ズバッと決まったサゲで大爆笑連続の半時間の口演はサゲとなり、大入の客席の拍手に何度も「ありがとうございました」で応え、お見送りする八方師匠でありました。