もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第409回 
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 公演日時: 平成24年 9月10日(月)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂   ちょうば  「看板のピン」
  笑福亭 た ま  「憧れの人間国宝」   
  桂    楽 珍  「権兵衛狸」
  露の   都   「花嫁御寮」
    中入
  笑福亭 鶴 笑  「がまの油」    
  笑福亭 福  笑  「葬儀屋さん」(主任)

   打出し  21時10分
   お囃子  林家 和女。
   
 もうちょっと涼しくなって欲しいと感じる九月。十日にもとまち寄席・恋雅亭の九月公演が開催されました。前景気も好調で前売券も売り切れ状態。当日まで問い合わせの電話も多い。当日は雨模様の月曜日。にもかかわらずお客様の出足も絶好調で、次から次へとご来場されるお客様で列はどんどん長くなっていきました。長く並んで頂いたお客様には大変申し訳ないことでございます。
 今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく量が多い、今回は折込み人数も少なく大忙し。後で判るのですが、上方落語協会からのパンフレットは昨年の分とのオマケ付き。定刻の五時半に開場となり、待ちわびたようにご来場されるお客様で、席は次々に埋っていき定刻の六時半には、立ち見も発生する大入満席で 「第四百九回もとまち寄席恋雅亭」の開演となりました。

 二番太鼓の後、『石段』の出囃子に乗って、満員の客席の拍手に迎えられざこば一門から長身でイケメンの桂ちょうば師の登場です。
 マスコミでは「ちょばーーん」で有名ですが、落語についてはこと、師匠の薫陶よろしく、情熱と元気一杯で演じられる上方落語はファンも多い逸材で、今回も若さ溢れる爆笑落語を演じるべく高座へ登場。マクラはざこば師匠の豪快な馬券の買い方と運の強さで見事的中、馬券を買いに行って、ドキドキの配当金の換金とワクワクした褒美は? 本当のようなそうでないような爆笑マクラ。大きな笑いを誘って始まった噺は、博打の噺の『看板のピン』の一席。発端から米朝一門伝統のキッチリした演出で演じ客席は爆笑の連続。多くのお客さまが知っているサゲも間が良いのでドッと受けた前座としての持分を十分理解された口演で客席を大爆笑に包まれた十八分でありました。

 サゲと同時に『長崎さわぎ』の出囃子が下座の林家和女嬢の唄入りで景気良く奏でられる。その囃子に乗ってトリの福笑一門から笑福亭たま師が登場。
 「ありがとうございます。続きまして笑福亭たまのほうで・・・」とあいさつから、「汗だくになっていれた繁昌亭のチラシは去年のもの」とネタバラシ。怒るより笑うほうが良い話題で「ローマの空港で5時間待ちのお客様が怒ったことでさらに遅れ、怒らないほうが良い」と紹介。続いてのマクラは中トリの都師匠に関するもの。出番前にお茶を飲むと口がねちゃねちゃすると水を飲むねんと言いながらバナナを食べる都師匠。弟子の露の真(まこと)嬢は緊張のあまり「はい判りました」としか言わない。旦那さんの一言がさらに火に油を注ぐ結果になった失敗談。さらに都師匠夫婦のかみ合わない会話。との爆笑マクラで笑いを十分誘ってから始まった本題は、自作の創作落語『憧れの人間国宝』。文楽の人形国宝間近の人形遣いの師匠が舞台で倒れる処からサゲまで、師匠譲りの破天荒に見えて緻密で計算しつくされた内容と骨格のシッカリした演出での二十二分は爆笑に次ぐ爆笑でありました。

 三つ目は当席、常連で文珍一門の総領、桂楽珍師匠。
徳之島出身でホンワカムードの師匠、その個性を生かして、各地の落語会でノリノリ。当席でもファンも多く、心待ちにされておられた客席の大きな拍手と浮き浮きするような『ワイド節』の出囃子に乗って高座へ登場。「すごい、落語でございまして、今日は荒れる落語会で、メンバーを見てもらうとまともなのは私だけ・・・」との挨拶から、芸人でありながら知られていないことで巻き起こる大受けのマクラ。続いてロンドンオリンピックのメダリストに間近かに会った感想から、生まれて初めて弟の落語を聞いた二十歳違いのお姉さんの感想。そして、投票率が108%の徳之島の選挙、解読不明な方言と爆笑マクラが続く。
 そして、始まった本題は、民話落語の表現がピッタリな『権兵衛狸』。上方では珍しい噺であるが楽珍師匠のニンはピッタリ。ホームランであります。ほんわかとしたムードの師匠と主人公の権兵衛さんと狸がピッタリ重なって客席もほんわかムード。サゲもキッチリ決まって日本昔話を楽しんだ客席でありました。

 中トリは露の一門で、上方女流噺家の大御所、露の都師匠。
大阪のおばちゃん丸出しのマクラがわりのみやこ噺と本題の落語の高座はいつも大爆笑を巻き起こします。今回もどんな話題のマクラと爆笑落語を演じるのかとの客席の期待の拍手と出囃子『都囃子』に乗って高座へ顔を見せると本日一番の拍手が巻き起こる。「どうも、ようこそ・・・。さっき、たまちゃんが言っていたことは全部――――本当です(客席は大爆笑)。」
 マクラはパソコンの使い方がだんだん判ってきた嬉しさ。念力で満月を見れた満月乙女会の話題。西宮の夷神社での一回目の結婚式で弟弟子の団四郎師匠と五郎兵衛師匠に司会してもらった想い出。二回目は綺麗な鎖骨を見せたいために着たウエディングドレスが超え過ぎのために破れた大騒ぎの結婚式の話題。「みやこ噺」から始まった本題は、六代文枝師匠が今から約二十年前の平成六年に創作された『花嫁御寮』の一席。
 小さな美容院を営む一家。母親が一家の中心で父親は専業主夫。美容院なので多くの花嫁さんの着付けをするが自分の娘はまだと気をもむ。長年の恋人はいるのだが、結婚に踏み切らない。どうしても娘に結婚をと、母親は元気な父親を心臓が悪く余命半年。命のあるうちに花嫁姿を見せてとの奇策に売って出る。親孝行な娘が結婚を決意し、準備を終えての当日。仮病の父親に今までの感謝の言葉を言ったりするお涙頂戴の場面もウソを突き通すクダリで笑いが巻き起こる。当然、父親は結婚式の出席を我慢させられる。五年後、記念日での若夫婦の旦那は「お義父さんの命が危ないということだったが、先日一緒にゴルフに行ったら、走るわ、食べるわ、熱いお風呂に入るわで、とても以前にあんな状態だったとは信じられない」。娘が「今度はお母さんが先日の胸にしこりがあって、命のあるうちに孫の顔を見たい」というサゲ。
 このようなことは起こらないであろうが、考えそうな噺。その噺を原作も良く出来ているが都師匠の工夫がタップリ入って、特に女性の目から見た工夫が随所に入った口演に、客席の笑いが絶えない。マクラの「みやこ噺」と本題で半時間を越える熱演は始まりの拍手よりもさらに大きな拍手で中入となりました。しかし、この噺の可哀想過ぎる扱いの父親を見ていると都師匠の旦那様とオーバーラップするのは私だけでしょうか?

 中入リ後は、笑福亭一門が揃います。それも、一門ツートップの濃い両師匠です。
まずは、『パペット落語』で日本だけでなく世界中でブレイク中の笑福亭鶴笑師匠。
当席でも人形を巧みに使った人形劇落語でお馴染みの師匠ですが、今回は見台・膝隠しを前に置いての上方落語。いつもの「ドンガ、ドンガラガッタ、国松様のお通りだ・・・」の『ハリスの旋風』の出囃子で元気良く高座へ登場。
* この『ハリスの旋風』もお馴染みのない方も多くなったのでは。ちばてつや先生原作で少年マガジンに連載され、アニメとして関西TVでも放映された、昭和四十一年なので今から約半世紀前の作品。主人公の石田石松少年が鶴笑師匠とオーバーラップする。
 高座へ登場直後からフルパワー。「今から後半戦です。気をたしかに持って・・・」と、大阪のおばちゃんの話題を三つ。そして、今日のネタにちなんで世界の大道芸人を紹介して、「今日は上方落語に挑戦します」と、本題の『がまの油』がスタート。口上のネタ繰りも充分で口捌きもバツグン。客席からは拍手が随所で起こる乗り乗り高座。サゲの後の小道具を使ったオマケも大受けの高座でありました。

 そして、本日のトリは上方落語界の重鎮で爆笑創作落語の雄・笑福亭福笑師匠にとって頂きます。
過去、『大統領の陰謀』『神通力』『大道易者』『宿屋ばばぁ』など、毎回、パワフルな創作落語をタップリと演じて頂いている師匠。ホームグラウンドの当席でパワー爆発です。『佃くずし』のいつもの出囃子で飛び出すように高座へ。「本日はお足元のお悪い中、こんなに一杯のお客様でありがとうございます。いつもそうですがここのお客様はよくお笑いになられるので、演者も熱演が続きまして、お開きが九時をころぶことをお許し下さい(客席からは熱演に期待を込めた大きな拍手が起こる)。」
 「えー、中入の都さんが結婚式の噺をしはりましたので、トリ相応しく葬式の噺を・・・。」と、マクラ振らずに始まった本題は自作の創作落語『葬儀屋さん』。 福笑師匠と相性バツグンの当席で繰り広げられる福笑落語の真髄。何と表現しても表現つくせない。ただ一言、受け過ぎ。師匠の一言、一言に客席が揺れる。福笑ここにありを示す半時間の熱演でありました。
 トップのちょうば師からトリの福笑師匠まで、全てが当席初演となる、お客様も演者も濃厚さと満足感をタップリ味わった第409回もとまち寄席恋雅亭は大盛り上がりの中、お開きとなりました。