もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第408回 
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 公演日時: 平成24年 8月10日(金)      午後6時30分開演
   出演者     演目
  桂    鯛 蔵  「二人癖」
  笑福亭 風 喬  「堪忍袋」   
  桂    三 風  「ロボG」
  桂    文 喬  「住吉駕籠」
    中入
  林家  小 染  「たいこ腹」    
  桂    塩 鯛  「小間物屋政談」(主任)

   打出し  21時10分
   お囃子  勝正子。
   手伝い  桂三之助、月亭天使、林家染八
   
 今一年で最も暑さの厳しい八月。十日はもとまち寄席・恋雅亭の八月公演が開催されました。
前景気も好調で前売券も残数一桁とほぼ売り切れ状態。当日まで問い合わせの電話も多い。
当日は週末の金曜日にもかかわらずお客様の出足も絶好調で、次から次へとご来場されるお客様で列はどんどん長くなっていきました。長く並んで頂いたお客様には大変申し訳ないことでございます。今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなす。とにかく多い。定刻の五時半に開場となり、待ちわびたようにご来場されるお客様で、席は次々に埋っていき定刻の六時半には、後ろにポツポツ空席の残る大入満席で 「第四百八回もとまち寄席恋雅亭」の開演となりました。
 二番太鼓の後、『石段』の出囃子に乗って、若さ溢れる爆笑落語を期待される客席の拍手に迎えられトリの塩鯛一門から桂鯛蔵師の登場です。昨年、師匠の塩鯛襲名を機にさん都から鯛蔵と改名され、当席には昨年6月の「塩鯛襲名披露記念公演」に初出演。各地の落語会で元気一杯のバリバリに活躍中の逸材。「えー、ありがとうございます。開演でございます・・・」の挨拶で客席からパラパラと起こった拍手を逆手にとって、「まばらな拍手ありがとうございます」と突っ込むと今度は大きな拍手が起こり、客席のボルテージも最高潮。すかさず、携帯電話の注意事項から出身地は広島でキャリア九年と自己紹介。大阪の人間の気質を「すぐ友達になりたがる」「TVに出ても酔っ払いでも面白いことを言う」と紹介して、酒癖から口癖へとつないでノリノリ・ハイトーンで本題の『二人癖』の一席が始まる。
 この噺、東西の多くの演じ手がおられ、東京では『のめる』として演じられることが多い。登場人物も少なく、トントンと小気味良く演じないと受けない難しい噺ですが、逆にはまると大受けする噺。鯛蔵師は後者。よく練れた噺とあって絶好調の口演に客席は爆笑の連続で、癖を直す競争がどんどんエスカレートし、工夫に工夫を重ね、ついに禁句を引き出すのだが、次の瞬間「あっ」というサゲとなる。
落語は登場人物が少ない程、簡単なようで難しい噺と言われているが、この噺もその典型。登場人物は全員で三名。常に二名で展開する。言ってはいけない言葉(つまらん。一杯飲める)を言わすよう持ち込むために知恵を絞るのだが。拍子のもんやからトントントンを言葉をとアドバイスを受けて、テンポよく「田舎から大根、百本貰ろたけど、いっぺんには食べきらん。漬物にしようと思うたが樽がない。家中を探していたらこれくらいの醤油樽。この樽に大根百本詰まろかなぁ」と、演じる。手拍子をしたくなるような心地のよいテンポであります。

 二つ目は、松喬一門から笑福亭風喬師に登場願います。
師匠譲りの骨格のシッカリした上方落語を持ち前の明るさで演じておられる実力者です。『こまっちゃう』のハイテンポな出囃子で高座へ登場し、当席へは久々の出演をマクラで紹介。今日の昼間の仕事の話題では、落語を聞いて弁当を食べる催し。平均年齢八十のお客様と一緒に弁当を食べたが、おばあちゃんは食べきれないので折につめてこれを持ってピクニックへ行くとの会話に、横のおばあちゃんが、「どこへ行くの」「わからん」「それやったらピクニックやのうて徘徊や」との玄人より上手いツッコミを紹介。さらに、二歳の愛嬢の話題。「最近、なんでも噛む癖があって痛いです。よちよち歩きで滑ってこけます。横から嫁はんが『噛むは滑るわ、まるでお父さんの高座』、うまいこと言います。」と、大いに笑いを取って、師匠と奥さんの夫婦喧嘩の話題から始まった演題は『堪忍袋』の一席。
 発端から大声で元気一杯の高座は大受けの連続。この噺は元々、東京の噺でありますが、上方では鶴瓶師匠がサゲなどを改作してよりお笑いの多い噺に仕上られ、多くの演者がいる噺。風喬師は自身の工夫の演出をプラスしての好演。仕草、言葉使い、意外性のある愚痴のそれぞれのクスグリに場内は大爆笑に包まれ、大いに盛り上がった十八分の高座でありました。

 三つ目は当席、常連の六代文枝一門の桂三風師匠。
今回も師匠譲りの切り口の鋭い創作落語を元気一杯・迫力満点で演じるべく、これも師匠譲りの『おそずけ』の出囃子で高座へ、客席はいつも通りの大きな拍手で迎える。マクラもそこそこに始まった演題は師匠の創作落語『ロボG』。父親が家に帰ってきても娘とはすれ違い。母親は「気にしないで」と言うが、父親はイライラ。夫婦の将来を考えて、頼みの綱の娘がもう少し年配者に優しくなるようにと開発されたおじいさんのロボットを買ってくる。このロボット、やたらと早起きしたり、だんだん物を忘れていったりと、精巧にできている。両親は手を焼くが、娘とは意気投合。娘は優しい普通の娘に変わっていく。そして、ある日、外国人と結婚することを宣言する。「我々を置いて行くのか?」に「ふん、けど、ロボGは連れて行くよ!」でサゲになった。文枝師匠の口演とは時代背景が違うので自身の工夫も随所に入り、狙いすましたようなくすぐりに客席は爆笑の連続の秀作でありました。
 この噺、原作ではこの後があり、娘に子供が出来て喜んで、これもロボGのおかげだと感激する。しかし、動かなくなったらしい。いい娘になったのはよいが、自分達の面倒を見てもらおうと思っていた狙いは外れ。父親が妻に「お前と二人きりでは寂しいな」というと、妻が「私はそんなことない」という。なぜかと聞くと、「ロボットの亭主を買ってきた」というサゲ。

 中トリは五代目文枝一門の知恵袋で地元神戸出身の桂文喬師匠に努めて頂きます。
「古典良し、創作良しの両刀使いの師匠。いつまでも若さ一杯の爆笑高座を繰り広げていただけます」と、ご紹介した通り『祭』の出囃子で高座へ登場するなりハイテンションのマクラがスタート。「軽佻浮薄(けいちょうふはく)」と言う難しい四文字熟語から、豪放でどこか抜けている実父の失敗談をマクラに爆笑を誘う。二三紹介すると、「男の三道楽、飲む打つ買う、ワシも薬飲む、点滴打つ、紙おむつ買うや」「指で体を押すと胸が、腹が、頭がと体中が痛い。病院へ行くと指が折れてる」。客席は好反応。 「マクラからの本題へ入り方がスッと入れない。どんと止まって、ガクッと下がって・・・」と、始まった本題は、お馴染みの『住吉駕籠』の一席。茶店の主人とのクダリから酔っぱらいが絡んでくるお馴染みのクダリでサゲをつけた。お馴染みの噺に自身の工夫が満載の二十五分の高座でありました。

 中入リ後は、「ちゃかちゃんりんちゃんりん」の『たぬき』の出囃子でホンワカと五代目林家小染師匠の登場です。この師匠は、もう説明の必要のない当席常連です。
 小染師匠、前名の染八と命名されたお弟子さんを連れての早くからの楽屋入り。笑顔で楽屋で談笑し、準備万全。「えー、ありがとうございます。・・・」と、にちゃっーーーと満面の笑みに客席は小染ワールドに突入。マクラでは「恋雅亭は勿論ですが・・・」と、断って、「天満天神繁昌亭」へ是非、お越し下さい。昼夜、毎日、開いてます。閉まってるのは九月の二日だけ、この日は「彦八祭り」をやってます。と、宣伝。実は小染師匠は、今年の繁昌亭の運営委員、彦八祭りの実行委員長だそうです。
 そして、始まった本題は林家のお家芸、はんなり・もっちゃりした『たいこ腹』の一席。お茶屋の猫にまで愛想を振りまく幇間持ちの一八と、針治療の初心者の贔屓の若旦那が繰り広げる大爆笑編。噺の内容と師匠のイメージがピッタリだけに面白くないわけがない。二十分間、爆笑に包まれた客席でした。

 そして、本日のトリは上方落語界の重鎮で貫禄タップリの桂塩鯛師匠にとって頂きます。
当席では昨年の襲名記念公演、四百回記念公演に続いての出演となります。楽屋で師匠から、「今日はちょっとタップリよろしいか。ここ(恋雅亭)のお客さまに聞いて欲しい噺がありますねん。」と、立川志の輔師匠に付けて(口伝)もらった江戸落語の大物『小間物屋政談』、勿論、当席では初演演題。『鯛や鯛』の芸名に因んだ出囃子で貫禄十分で高座へ登場すると本日一番の拍手が起こる。えー、これでお開きでございますので・・・、世間には七人、似た人がいるようで・・・」と、師匠も昔は『どかべん香川』『ちゃっきり娘のアポアポ(秋美師匠)』今は『出川』と紹介して、似た人が原因で大変なことになる『小間物屋政談』が始まる。
 東京では五代目古今亭志ん生師匠が講談での演題『万両婿』を元に、六代目三遊亭圓生師匠が六代目小金井芦州先生から教わって、元々は人情噺であったので落語としてサゲを付けて演じておられた江戸落語の大物中の大物。塩鯛師匠は登場人物の名前はそのままで舞台を箱根山中から鈴鹿山中に小田原宿を土山宿に、江戸南奉行所が大阪西町奉行所に置き換えて上方風で演じられる。登場人物や場面転換も次々に起こり、その随所に新しいくすぐりも盛り込まれた秀作は手に汗握る展開でお奉行所でのお奉行様の登場となる。東京の大岡越前守ではなく、佐々木信濃守の名裁き。
四十分の大作は大満足のお客さまの万雷の拍手でサゲとなりました。