もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第406回 
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 公演日時: 平成24年6月10日(木)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 笑福亭 松 五  「道具屋」
 桂    よね吉  「皿屋敷」   
 林家   うさぎ  「悋気の独楽」
 桂   米 二  「青菜」
   中入
 桂   あやめ  「私はおじさんにならない」    
 笑福亭 松 枝  「三十石」(主任)

   打出し  21時
   お囃子  勝正子。
   手伝い  桂 二葉
 当日は夏本番一歩手前の晴れの日曜日の六月十日。第四百六回もとまち寄席恋雅亭・六月水無月公演の開催となりました。前売券も完売、日曜日でもあり、いつも以上にお客様の出足も好調。次から次へとご来場されるお客様で列はどんどん長くなっていきました。長く並んで頂いたお客様には大変申し訳ないことでございます。

 今回も一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなして定刻の五時半に開場となり、待ちわびたようにご来場されるお客様で、席は次々に埋っていき定刻の六時半には、最後部に長椅子を並べての大入り満席で 「第四百六回もとまち寄席恋雅亭・水無月公演」は、二番太鼓の後、祈が入って『石段』の出囃子で元気一杯に本日のトリの笑福亭松枝一門の総領弟子で平成十五年入門、キャリア九年で、当席への初出演となる笑福亭松五師が「がんばれ・おめでとう」の意味合いの篭る万来の拍手に迎えられて登場して開演となりました。松五師は各地の落語会はもとより笑福亭一門の落語会「たけくらべの会」などで活躍中の逸材で、又、笛の名手としても知られています。今回は初出演、並びに師匠との競演とあって大張り切りで、元気いっぱいの高座を努めるべく初出演の挨拶をし、マクラは、実にサゲが面白い『台湾ザル』の小噺。そして、本題の『道具屋』がスタート。
 基本に忠実にキッチリとした演出で噺は進展していき、ツボ、ツボではきっちり笑いが起こる。当席のお客様はよく受けるので熱演で長くなりがちであるが、そこは師匠の教育よろしく前座の役割をよくわきまえた気持ちの良い高座でありました。

 二つ目は吉朝一門から、当席常連の桂よね吉の師の登場。
師匠の教えをキッチリ守っての本格的で華のある上方落語と持ち前のイケメンでファンも多く、今回も大きな拍手に包まれて登場。「えー、続きましてよね吉のほうでお付き合いを願います・・・」との挨拶から、各電車のイメージを臭いで紹介して、昔の暑気払いとして恐い噺をする。幽霊と化け物の違いのマクラを振って始まった本題は、『皿屋敷』の一席。落語では、前半を怪談仕立てに、後半は一転、大爆笑編に、そして、見事なサゲとなるお馴染みのお噺。この噺の骨組みとなっている「皿屋敷」は、主家の家宝の皿を割って成敗され、井戸に投げ込まれたお菊が幽霊となって夜毎現れて、皿の数を読むという伝説を元に、浄瑠璃「播州皿屋敷」、歌舞伎「新皿屋敷月雨暈(つきのあまがさ)」、さらに岡本綺堂作「番町皿屋敷」などとして演じられている。
 よね吉師は、皿屋敷の紹介をサッとして、皿屋敷の由来を聞きに行っての怪談噺のクダリ。さらに車屋敷(姫路ではそう呼ばれていた)までの滑稽な道中、お菊さんの登場、一転して見世物気分での幽霊見物、そして、サゲ、と続く実によどみのない高座。二十分の熱演に客席の拍手が鳴り止まなかった秀演でありました。別嬪のお菊さんは三代目春団治師匠の色気のある仕草が有名ですが、よね吉師も持ち前のイケメン(女性なのにちょっとおかしいが)を活かして実にあでやかに演じられたことを付け加えておきたい。

 三つ目は染丸一門から、林家うさぎ師匠が芸名にちなんだ『うさぎのダンス』の出囃子で登場。
「えー、名前だけ見ていただきますとどんな可愛い女の子が出てくるのか・・・。最近よく外国人と間違われて・・・。国際結婚ですからハニーと呼ばれております」とのツカミから、女性の色気のマクラから始まった本題は、師匠十八番で直伝の『悋気の独楽』の一席。
いつまでも若々しくてちょっとエキゾチックな顔立ちのうさぎ師匠が演じられる落語に登場する、旦那、丁稚、そして、おてかけさんは昔の船場の匂いのするホンワカムード。師匠の口伝、教えをキッチリ守っての秀作は二十五分、大満足なハニーでありました。

 ここでも色々な昔の言葉が出てきます。
まずは演題にもなっている悋気。悋気(りんき)⇒今で言うやきもち、嫉妬、英語ではジェラシー。どうにも手に負えないこと、女性のこと。この落語がなければ小生はこの漢字は書けませんでした。
・いにしな⇒帰る途中のこと。「いに」は「いぬ」。「~しな」は途中のことで、帰る途中。
・かなん⇒困惑する、困った。「適わない」→「適わん」→「かなん」と変化した模様。
・お家(いえ)⇒家のうちが転じて、その家のうちに住む主婦のこと言う。お家さんと書いておえはんと発音します。
・酢でも蒟蒻(こんにゃく)が芋蛸南瓜がどじょう汁でもあかん⇒どうにも手に負えないこと、女性のこと、酢は体を柔らかくする、女性の好物の「蒟蒻、芋、蛸、南瓜、どじょう汁」でも懐柔出来ない堅物の女性のこと。

 中トリは米朝一門の桂米二師匠。
昭和五十一年入門ですのでキャリア三十六年のベテランで、神戸花隈をはじめとして各地の落語会の出演や米朝一門の落語会の世話役などで大活躍の上方落語界の本格派逸材で、一門では、「リクツ」とも呼ばれている知性派の師匠であります。当席では、師匠直伝の『猫の忠信』『天狗裁き』『風の神送り』などを熱演されておられ、今回も何を?と期待のお客様の待つ高座へ『五郎』の出囃子に乗って高座へ登場。天満天神繁昌亭からの出番が三人(米二・あやめ・うさぎ)が一緒との紹介から、食べ物のマクラは北海道の落語会の打ち上げで仲の良い一門の後輩と一つの蟹味噌を取り合った話題から始まった演題は夏の噺の定番『青菜』の一席。
 大家の旦那さんと品の良いその奥様、一方、植木屋さんとその奥様、風呂を誘いにくる長屋の住人の大工さんと五人の登場人物が個性豊かに描き分けられた実に見事な秀作でありました。

 ここでもちょっと紹介(米二師匠のHPを参考にさせて頂きました)。
「柳蔭(ヤナギカゲ)」⇒噺の中に出てくるお酒で、銘柄ではない。焼酎と味醂を混ぜ合わせたもので、江戸では「直し」。井戸で冷して飲むのが最高の贅沢とされた飲み物。
「青菜」⇒時期的に考えると「シロ菜」「大根の間引き菜」あたりが有力。小松菜か?ほうれん草は冬が旬なので該当しない。
「義経」⇒ご存じ悲劇の武将、源義経である。幼名を牛若、後に検非違使で九郎判官(くろうほうがん)と称した。

 中入り後は、文枝一門から地元神戸出身で上方落語界の女流一番手の桂あやめ師匠が『あやめ浴衣』の名調子に乗って高座へ登場。さっそく客席は、あやめワールドに突入。
当席へは地元とあって入門の前月までは客席で、翌月からは師匠の運転手として来場する。平成六年六月には師匠の前名のあやめを三代目として襲名、当席でも翌七月の第195回公演で襲名披露公演を開催。阪神大震災後の復興第壱回公演にも出演。さらに第3000回記念公演では、春団治師匠との対談などホームグランドです。いつまでも若々しい師匠ですが昭和五十七年入門ですから今年で三十年。三十周年記念落語会と愛嬢の勉強の出来の悪さをマクラは客席との息もピッタリで、随所で大爆笑が起こる。そして、スッと始まった本題は『私はおじさんにはならない』の一席。
 平成十七年五月の第321回での『私はおばちゃんにはならない』の進化編。仕事に生きる四十を越えた女性がおばちゃんと言われないようにと気をつけていたが、政治や阪神を酒の肴にビールをグイグイ。いつしか、おっさん化が進行していくという内容。あやめ師匠の噺は思わず「そうそう、あるある」とアイヅチを打ちたくなるような会話の連続。客席が揺れに揺れた大爆笑落語でありました。

 そして、本日のトリは上方落語界の大御所・笑福亭松枝師匠。
『早船』の出囃子で高座へ登場すると本日、一番の拍手が起こりしばらく鳴り止まない。「えー、一杯のお客様でありがたい限りでございまして、私、もう一席でお開きでございます」との挨拶から軽くマクラを振って始まった演題は、明治初期に初代桂文枝師匠によって大ネタまで仕上げられ、その後、五代目、六代目松鶴師匠の名演により笑福亭のお家芸とされた『三十石夢の通路(さんじっこくゆめのかよいじ)』の一席。ここで描かれている三十石船は徳川時代、伏見・大阪間を淀川で上り下りする交通機関として発達。米を三十石積めることから三十石船と呼ばれ、全長五十六尺(約17㍍)、幅八尺三寸(約2.5㍍)、乗客定員約30名、船頭は当初4名だったそうです。
 この噺は東京では五代目、六代目三遊亭圓師匠の十八番で、両師匠共、五代目笑福亭松鶴師匠に教えを受けたと六代目圓生師匠が芸談で語られています。松枝師匠は勿論、六代目師匠直伝であります。船宿でのやりとり、中でも宿帳に名前を書くための言い立てでは、まず竹内梅之助(五代目松鶴・これは六代目松鶴師匠も同じ演出)。続いて、瀬崎米三郎(四代目文枝)、中浜賢三(四代目米団治)、・・・中川清(米朝)、・・・一門の高島 章(福笑)、高田 敏信(松喬)、など、実名がどんどん登場、止めは石原慎太郎。ここで、笑いがドッときて終わる。
 船中ではお女中に瞑想を巡らす男、登場したお女中の落差。と、噺が進み、圧巻は楽屋との呼吸よろしく舟唄を唄うクダリ。高座の松枝師匠の唄に続いて、楽屋のよね吉師、松五師もそれに続き、情緒は満点。
♪(ヤレサー)伏見 中書島なぁ~ 泥島なぁれどよぉ~(よ~~い) なぜに 撞木まちゃな 薮の中よ(ヤレサ ヨイヨイヨーイ)。
♪奈良の大仏さんをな 横抱きに抱ぁ~いてよ お乳飲ませたおんばさんがどんな大きなおんばさんか 一度対面がしてみ~たいよ。
♪淀の川瀬の あの水車 たれを待つやら くるくると。
♪淀の上手の 千両の松は 売らず買わずで 見て千両。
♪ここはどこじゃと 船頭衆に問えば ここは枚方 鍵屋浦。
櫓を漕ぐ度に聞える「ギーギー」という櫓を漕ぐ音は扇子をこすり合わせて出す心憎い演出には客席からも大きな拍手が起こる。ゆったりとした流れに乗って淀川を下る風情を見事に演じられた半時間の熱演に客席の拍手はしばらく鳴り止まなかった大爆発の六月公演でありました。