もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第402回 
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 公演日時: 平成24年2月10日(金)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂   紅 雀  「普請ほめ」
 林家  花 丸  「狸の鯉」   
 桂    春 雨  「京の茶漬 」
 桂    雀 松  「替り目」
   中入
 笑福亭 仁 福  「商売根問」    
 林家   染 丸  「小倉船」(竜宮界竜の都)(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  勝 正子。
   手伝い  桂 福楽、桂 三ノ助、林家 愛染。
 今年は寒さも一段と厳しい二月十日。第四百二回もとまち寄席恋雅亭・如月公演の開催となりました。寒い中、前景気も好調で、前売券も残部わずかで当日を迎えました。お客様の出足はいつも通り、次から次へとご来場されるお客様で列はどんどん長くなっていきました。寒さの厳しい中、長く並んで頂いたお客様には大変申し訳ないことでごさいます。一杯届いたチラシの折込を人海戦術でこなして定刻の五時半に開場となりました。

 次から次へとご来場されるお客様で、席は次々に埋っていき定刻の六時半には、後方に一部空席が残るほぼ満席の大入りとなり、「第四百二回もとまち寄席恋雅亭・如月公演」は、二番太鼓の後、祈が入って『石段』の出囃子で元気一杯に枝雀一門の末弟・桂紅雀師が登場し、開演を迎えました。枝雀一門の末弟でトップとはいえ、平成七年九月入門ですので、キャリアは十七年。なんとも贅沢な出番組となりました。あいさつもそこそこに、マクラも振らずにさっそく本題がスタート。主人公がアドバイスをもらって池田の叔父さんの出来上がった普請をほめに行き、ついでに牛もほめる、『池田の牛ほめ』。時間の関係で牛のクダリは仕込まずに普請をほめるがスカタンになる題して『普請ほめ』の一席。基本に忠実でよく通る口跡も相まって、さらに口慣れて腹に入った演目とあって、ツボでは狙いすましたように客席からは爆笑が起こる。サゲも付いた十五分の好演は再演を期待されるお客さまの拍手でお後と交代となりました。
 この噺で登場する普請は見事なもので、「何でも鑑定団」にでも出品すれば「いい仕事してますね」となる逸品揃いであることは間違い有りません。

 二つ目は染丸一門から林家花丸師。『ダアク』の出囃子で満面の笑みを浮かべて登場。
マクラは噺家の趣味の話題。最近、はまっているのは宝塚歌劇の鑑賞で、名古屋まで遠征するほどのつわもの。観客とファンとスタッフが素晴らしい舞台のために力を合わせているし、エンタテイメントとしても素晴らしいと紹介されていましたが、当席も同じ思いであります。
 最近の公演名を列挙して会場から大きな笑いを誘って始まった本題は『狸の鯉』。この噺、一連の鶴の恩返しならぬ狸の恩返し。実はこの噺、お馴染みの『狸の賽』や、『狸の札』、そして、この『狸の鯉』と、続けて演じると半時間を超える大作。花丸さんは主人公に助けてもらった狸の恩返しの話。狸が化けるのは賽ではなくて兄貴分の男の子の端午の節句の縁起物の鯉。上方では演じ手の少ない噺で、当席でも『狸の賽』が十八回演じられているのに対して『狸の鯉』は先席の『明石飛脚』に続いて初演であります。ファンタジーらしくホンワカムード一杯、元気一杯で演じられた秀作でありました。

 三つ目は上方落語界の貴公子ならぬ、上方落語界きっての虚弱体質の桂春雨師匠。
『春雨』の出囃子で登場して、ご自身の低血圧の症状と対応策を説明。上が90もなく頭まで血が通わないため慢性の頭痛で、特に地下は苦手(当席専門のギャグ)、対策は頭を心臓よりも下にすること。『これでは落語は出来ません』と仕草で説明して会場の大爆笑を誘って、『体力を一番使うのはここ(座布団)から楽屋まで、その体力を残してぼちぼち始めます』と、『高松の熱燗、京のお茶漬け』と紹介して、一度も茶漬け食べさせてもらったことのない主人公が京都までわざわざ、お茶漬けを食べに行くお馴染みの噺。直線的なくすぐりが少なく、それをにおわすようで直線的でない言葉、それを受けてさらりと交わす言葉、目線と間と笑いを誘う難しい噺。
 二十分の好演は客席のお客様を爆笑に包み込んだ秀作でありました。

 中トリは地元出身の桂雀松師匠。出囃子は、忠臣蔵七段目「一力茶屋」の場などで「花に遊ばば祇園辺りの色揃い~」で幕が開く合い方の『花に遊ばば』。
 踊るような調子の良い出囃子に乗って大きな頭(失礼)に満面の笑みで高座へ登場し、『えー、本日は恋雅亭秘密倶楽部にお越しくださいまして、続きまして私の方でお付き合いを願っておきます。お付き合いと言いましても別に結婚を前提にしている訳ではありません・・・。』と、お馴染みのツカミのフレーズ。もちろん、客席は大爆笑。マクラで爆笑を誘って始まった本題は、米朝師匠、枝雀師匠も十八番の『替り目』の一席。雀松師匠が演じられる主人公は何とも可愛い。嫁さんに偉そうに言うのであるが実は甘えている。感謝しているのだが面と向かって表現できない。いなくなるとつい本音が出て、それを嫁さんに聞かれ照れくさそうに又、突っ張る。言葉は出ないが嬉しそうな嫁さんの顔が浮かぶような秀作。
 その好演に客席の笑いは前のほうから波打つように後方まで、後方の笑いは又、波を打って前の方へと、さらに全体に渦巻くように客席全体が大爆笑に包まれる。再演を大いに期待したい二十五分。お仲入りとなりました。

 仲入り後、カブリは当席常連の笑福亭仁福師匠。
昭和二十五年生まれの師匠ですので還暦を越えられておられるが、何時までも若々しく軽い(失礼)師匠であります。『自転車節』の乗って照れくさそうに登場して『えー、続きまして私の方で・・・、私の方はお後の準備が出来ましたらすぐ失礼を致します。』と、繰り返して笑いを誘うが客席からは思ったほどの笑いが起こらない。ここで、困ったような顔、これには客席は大爆笑。ここまでが1セットなのか違うのかは師匠しか判らないが、とにかく大爆笑のもの。落語の回数よりも草野球の回数の方が多いとマクラで笑いを誘った後、始まった本題は、お馴染みの『商売根問』の一席。
 何とか銭儲けしたい主人公の失敗談の連続の噺。その主人公と仁福師匠のニンが見事に一致して爆笑の連続で噺は進展する。雀、河童と失敗してお後と交代となりました。

 如月公演のトリは、上方落語界の大御所・四代目林家染丸師匠。
昭和五十三年四月の第壱回柿落し公演『蛸芝居』から、昨年、第392回公演『鶴満寺』まで数多くの名演を演じておられます。今回も名調子『正札付き』に乗って貫禄充分に高座へ登場。
 客席からは『タップリ』と掛け声が掛かる。
マクラは落語の前にはあまりお腹には入れないが本日はちょっと、うどんでもうどん屋に入って、きつねうどんのつもりがカレーうどんに、そして、カレーうどん定食と美味しそうなのでついつい完食してしまい。今、眠たいと笑いを誘って、『今年は辰年、それに関連したお噺を・・・。』と、始まった本題は『小倉船(竜宮界龍の都)』。この噺、文枝師匠と米朝師匠から口伝された師匠十八番の一席。当席では昭和五十六年三月の第三十六回公演、昭和六十一年九月の第百二回公演について三度目の口演となります。
 物語は豊前(ブゼン・福岡県東部と大分県北部)の小倉から馬関(バカン・古く赤馬関(アカマセキ)と称した下関の雅称)の渡し舟で、今で言うと北九州~下関間。船中の考え物からフラスコに入って海中へ、浦島太郎や乙姫様も出演し、忠臣蔵三段目のパロディでお囃子もタップリ、楽屋も大忙しの噺。お囃子との息もピッタリの半時間の好演は大喝采のうちにお開きとなりました。

『普請ほめ』の解説。
表が総一面の栂【トガ・マツ科の常緑高木】造り、庭が縮緬漆喰【チリメンシックイ・縮緬のような細かなしわを持った漆喰】、上り框【アガリガマチ・玄関や勝手口などの上がり口に取り付けた横木】が桜の三間半節無しの通り門。
 畳が備後表【備後地方から産出する上質の畳表】の撚り縁(へり)、天井の良さが薩摩杉【鹿児島県屋久島に自生するスギ】の鶉杢【ウズラモク・鶉の羽に似た模様の杢目】。
 南天【「難を転じる」の意に解釈される縁起木の床柱】、萩の違い棚、黒柿【柿の製材のうち黒い縞杢目を有する木材の床框】。床の間に山水の掛け軸、探幽【狩野探幽:江戸初期の画家】の富士、肩に蜀山人【大田南畝(なんぽ):(1749~1823)江戸中・後期の狂歌師・戯作者の狂歌】、『唐人よ、ここまでござれ天の原、三国一の富士が見たくば』。
 坪の内、前栽(センザイ)、棗(ナツメ)【楕円球の両端を切り取った形】形の手水鉢。
台所の大黒柱。尾州【木曽檜】ジャクオォザン檜の八寸角、芯去り【芯の部分をはずす取り方】
四方柾(マサ) 【四面全てに柾目が出たもの】。