もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第400回 
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 公演日時: 平成23年12月10日(土)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂   阿か枝  「大田道灌」
 林家  染 二  「湯屋番」   
 桂    春 駒  「天狗裁き」
 笑福亭  松 喬  「持参金」
   中入
 桂   塩 鯛  「つる」    
 桂   三 枝  「赤とんぼ」

   打出し  21時05分
   お囃子  勝  正子
   手伝い  笑福亭喬楽、笑福亭喬若、桂三風、桂三ノ助、桂三語。
 平成二十三年開催の十一公演も全公演大入りとなり、本年笑い納めの師走の昭和五十三年の杮落し公演から数えて四百回の記念公演を迎えました。
 めっきり寒さが増した十一月十一日の午前十時の前売発売、正午には完売となる前景気も絶好調で開催当日の土曜日を迎えました。前日に読売新聞夕刊に掲載された影響で同人会事務局の電話が約百本の問い合わせで爆発し、厳しい寒さと小雨交じりの中、一番に並ばれたお客様は開場の六時間前の午前十一時。その後も次々とご来場されるお客様で列はどんどん長くなり、三時には一階入口まで、用意した当日券も四時半には売り切れ、その後もお客様は途切れることなくご来場され、その長い列にルミナリエに向かわれるために元町本通りを歩かれておられるお客様も興味津々で提灯に目をやられる。長い間、お待ち頂き多くのお客様にご迷惑をお掛け致しました。今回も各地で開催される折込チラシは非常に多く、人海戦術で折込を完了させ、定刻の五時半を五分早やめての開場。ゆっくりゆっくりお客様にご入場頂きました。
 今回ご来場のお客様全員に神戸凮月堂さんご協賛の「ミニゴーフル」を手渡し、ご入場頂くお客様で席はあっと言う間に埋まっていく。会員様とお連れ様のご来場も過去最高を記録した為、六時には満席となり、以降のご来場者には誠に申し訳ないことですが立ち見となってしまいました。
 演者の師匠連もルミナリエで大混雑の中、次々と到着され準備万全。立ち見覚悟の当日券のお客様にもご入場頂き二番太鼓の後、定刻の六時半、「もとまち寄席恋雅亭・開席四百回記念公演」の開演となりました。

 トップバッターは桂文枝一門の末弟、地元明石出身で在住、各地の落語会でも活躍中の当席常連の桂阿か枝師が長身をやや前屈みにして笑顔一杯で明るく元気な爆笑上方落語を演じるべく、『石段』の出囃子に乗って登場となりました。
 『えー、一杯のお客様でありがとうございます。只今より、もとまち寄席四百回記念公演の開演でございまして、まずは桂阿か枝でお付き合いを願います。私の方はごく短くお次の師匠連をお楽しみに・・・、ここは家から近いので通勤に非常に助かります。ここだけで生活出来たら言うことありませんが・・・。』とのあいさつに場内からは大きな笑いが起こる。さっそく始まった演題は、『太田道灌』の一席。東京ではお馴染みの噺ですが、当席でも上方でも珍しい演題。上方落語の一つの分野とされる『根問物』の一席。貼り混ぜの屏風の絵の解説を受けた主人公が傘を借りに来るはずの友達が提灯を借りに来てしまう。「お恥ずかしい(無い)」と断ると、「頭の上にようけ吊ってるがな」とのツッコミに、「もとまち寄席」の提灯を見上げる演出に場内を大爆笑に包み込む。全編、聞き取りやすい口跡で基本に忠実に、間もキッチリと演じられた十五分。充実した爆笑高座でありました。

 二つ目は染丸一門の総領弟子の林家染二師が、師匠譲りの『藤娘』の出囃子で高座へ登場すると、客席からは大きな拍手が起こる。『繁昌亭ではトリの師匠が二つ目!』とのお客様の声の通り贅沢な顔付けでここでも、『続きましてお後の師匠連をお楽しみに・・・。私の方は上方落語界の「中村橋之助」と呼ばれております』とのあいさつから、当席での弟弟子の失敗談や東西落語名人選で高座当番をして円楽師匠の着物をたたんで、ご祝儀をもらった想い出、そして、芝居の屋号のマクラで笑いを誘って、『昔は道楽者の若旦那が・・・』と始まった本題は十八番の『湯屋番』の一席。ご自身とこの噺の主人公の若旦那のイメージがピッタリ重なって、空想の世界で巻き起こる物語の展開に客席は爆笑の連続の二十分でありました。

 三つ目は、春團治一門を代表して「駒ちゃん」こと桂春駒師匠。
この師匠も当席常連で、さらに、皆様よくご存知の通り同人会の噺家さんとのパイプ役に尽力頂いている師匠で当席の影の立役者であります。『白拍子』の出囃子で高座へゆっくり登場して、『えー、なんともやかましい高座でございましたが、・・・』との一言で客席は春駒師匠の世界へ一変。夢にまつわる小咄を二つ振って、始まった演題はこれも師匠十八番の米朝師匠直伝の『天狗裁き』。
 夫婦、友達、家主、奉行、そして、天狗と多くの登場人物と、長屋、奉行所、そして、鞍馬山と場面転換も多く、非常に難しい噺ですが、そこはベテランの師匠、目の動きや言葉遣いで演じ分けられる。さらに、ここというポイントでは、実に見事な間で会場全体を大爆笑に包み込む。簡単なように演じられておられるが、一秒の何分の一短くてもこの大爆笑は起こらない、が、これが判っているのであるが待てるかどうかが腕のある噺家と言える二十二分の好演でありました。

 中トリは笑福亭一門から六代目笑福亭松喬師匠。
大阪での連続独演会の合間を縫っての当席出演となりました。独演会での本日の演題は『らくだ』と『二人癖』で、特に『らくだ』は、主人公のらくだが生きている処からスタートし、なぜやくざになったかを謎解きする演出だそうで一時間半の長講だったと師匠からお伺いしました。『高砂丹前』の出囃子に乗って高座へ登場すると、待ちかねたように会場全体から大きな拍手と掛け声が起こる。
 『ルミナリエがこんな混雑しているのは初めてで、私も十二月はよく出してもらってるのですが、高速も十一キロの渋滞で・・・』。明日が千秋楽の独演会の話題から、古典落語で一番難しいのは、お金の扱いで、両、銭、厘はまだ良いが円となると今の価値と比べて取り扱いが難しい。お客様の頭の場面設定がキッチリ定まらず妙な処で笑いが起こる。と説明して、米朝師匠の『百円札』の絶妙の小咄から始まった本日の演題は『持参金』の一席。この噺は、『逆さの葬礼』という噺の前半部分を独立させた噺。その噺を実に趣向が面白く場面転換や人間の心の動きなどが見事に絡み合ったコンパクトな噺に米朝師匠が仕立て上げられた噺。その噺をさらに登場人物ひとりひとりを生き生きと描き分けられた秀作、随所ではまったような笑いを誘う。『明日の独演会を考えるとどっちに力を入れるかはハッキリしていますわ。手を抜こうと思わなくても自然に抜ける。そんな、体力は残っておりません。』と、マクラで笑いをとっておられたが、手を抜くどころか全力投球の爆笑の連続の半時間の熱演でありました。

 仲入り後のカブリは当席で「襲名記念公演」を開催頂いた桂塩鯛師匠が襲名後、二度目の出演を頂きました。出番前、『この記念の会でこの顔ぶれでこの出番、何を演(や)るか、難しいですわ。』と慎重に演題を検討され、『鯛や鯛』の前の『猫じゃ、猫じゃ』と同様の軽快な出囃子に乗って巨体を揺すって高座へ登場。
 『落語も古典芸能ですが、最高峰はお能で・・・。この間、観に行かせてもらいましたが、途中で幕が閉まってきましてビックリしました。舞台には幕なんかないし、下がってきたのは幕ではなく、瞼でした・・・。後で感想はと聞かれて正直に『途中で寝ました』と言うたら『健康な証拠です』と言われまして・・・。』と、体験談をマクラに使って始まった本題は『つる』の一席。この噺、米朝師匠によると上方落語の全ての要素が凝縮され一歩間違えると受けない非常に難しい噺だそうであります。その噺を基本に忠実に場面転換もテンポ良く、それでいて間もタップリととって演じられる。お馴染みの噺であるのに客席からは波打つような笑いが起こる。実に見事な十八番の口演でありました。

 さて、四百回記念公演のトリは上方落語協会会長の桂三枝師匠。
文枝師匠の小文枝時代の『軒すだれ』の出囃子で登場されると、客席からは本日一番の拍手が巻き起こり、それに応えて手を振りながらの登場となりました。
 『今年も残り少なくなり、来年になりますと、大変なことに・・・。』との言葉に、さすが当席のお客様、すかさず、拍手が巻き起こる。『まだまだ先と思っておりましたが、早いもので・・・』。そして、最近、歳と共に髪の毛が少なくなった話題からマクラが始まり、『最近、訳の判らない歌が流行っております』と、「マルマルモリモリ」や「ぽにょぽにょ・・・」と紹介して、『♪~、大阪には面白(おもろ)いもんがいっぱいあるんやで、通天閣、タイガースに、桂三枝、いらっしゃい』。
 そして、『やはり、童謡・唱歌が一番』と、始まった演題は自作の創作落語の『赤とんぼ(平成十九年十一月初演)』の一席。童謡好きの部長に隠していた童謡好きがバレ、連れて行かれたのが「童謡酒場」。童謡の歌詞や、童謡と唱歌の違い、自ら作詞した「どんぐりころころ」の四番などの数々のウンチクを聞いた後、部長が歌う数々の童謡。これには場内から手拍子も起こる。散々、聞かされたので巻き返しを図った新人が歌うのが「埴生の宿」。これで形勢が一気に逆転。そして、サゲとなり、四十分の熱演に切れることのない笑いが起こった四百回記念公演のトリの高座でありました。
 さて、この噺、「桃太郎」「あめふり(あめあめふれふれ)」などの童謡の歌詞の意味の解説や、「埴生の宿」は竹山道雄氏が執筆した「ビルマの竪琴」で歌われる歌で、この作品が掲載されたのが雑誌『赤とんぼ』、ここで演題の『赤とんぼ』に繋がるなど、三枝師匠が研究された内容が随所に盛り込まれています。三枝師匠の創作落語が何度聞いても心を打つのは各作品ごとに緻密な研究の上に出来上がっているからだと思っています。
 無事、四百回記念師走公演をお開き出来ました。来年度も新春初席四百一回公演から相変わりませず御贔屓お願い申し上げます。