もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第399回 
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 公演日時: 平成23年11月10日(木)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂   三ノ助  「寿限無」
 桂   あさ吉  「七段目」   
 笑福亭 銀 瓶  「千早振る」
 笑福亭 鶴 志  「上燗屋」
   中入
 桂   蝶 六  「ぜんざい公社」    
 桂   雀 々  「八五郎坊主」

   打出し  20時55分
   お囃子  勝  正子
   手伝い  桂 紋四郎。
 平成二十三年開催の十公演も全公演大入りとなり、今回は、季節はずれの暑さから一転、寒くなりました十一月十日の十一月公演を迎えました。
 異状気候や節電の影響を受ける中、前景気も絶好調で十月中に前売り券も完売となり、開催当日の木曜日を迎えました。平日で寒い日和にも関わらずお客様の出足も好調で長い列を作って頂きました。多くのお客様にご迷惑をお掛け致しました。今回も各地で開催される折込チラシは非常に多く、定刻の五時半開場までに人海戦術で折込を完了させ、ゆっくりゆっくりお客様にご入場頂きました。席は次々埋まっていき、開演の六時半には今席も満席となりました。今席も客席と同様に演者さんの楽屋入りも早く、チラシの挟み込みを手伝って頂いたり、鳴り物の準備、ハメモノのキッカケの打合せなど大忙しで二番太鼓に続いて、開演を迎えることになりました。

 十一月公演のトップバッターとして、桂三枝一門から地元神戸出身で在住、各地の落語会でも活躍中の当席常連の桂三ノ助師が笑顔一杯で明るく元気な爆笑上方落語を演じるべく、『石段』の出囃子に乗って登場となりました。「えー、ありがとうございます。地元、神戸出身で、今も神戸に住んでおります桂三ノ助で・・・」とのあいさつに場内からは大きな拍手が起こる。テレビへの露出度をマクラに、結婚2年を過ぎたので、ぼちぼち子供が欲しいとつないで始まった本題は落語の中の落語、皆様よくご存知の『寿限無』の一席。
 おなじみの噺をキッチリと演じられると、ツボツボではキッチリ笑いが起こる。演者の力量は言うまでもないですが、自画自賛ですが、実に良いお客様であります。
早口言葉の繰り返しでトントンと噺は進んでサゲとなりました。
ご存知でしょうが、長い名前は、「寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚の水行末 雲来末 風来末、食う寝る処に住む処、やぶら小路の藪柑子。パイポパイポパイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助」。

 二つ目は吉朝一門の総領弟子の桂あさ吉師。
1993年入門のキャリア18年。古典落語は勿論、創作落語。英語落語では海外公演も経験された。また、笛、太鼓の名手でもあります。『お江戸日本橋』の出囃子で登場して、「英語落語は日本で演じるのが一番」から「清水の次郎長」の芝居に出た思い出話をマクラに、始まった本題は先月の一門の米左師と同様の芝居噺『七段目』の一席。
 この噺は亡き吉朝師匠も十八番だっただけに直伝を思わせるような行儀の良い演じ方で場内を引っ張っていき、随所に大爆笑を引き起こして、途中に入るハメモノもお囃子さんとの息もピッタリで大熱演。場内からの拍手に乗って上出来のあさ吉師でありました。この噺、初代林屋(最初は家でなく屋)正蔵師匠の出版された笑話本『たいこのはやし』の一遍である『芝居好』を土台とした上方噺でその後、東京へ移植されたので、東京でも演じ手の多い噺であります。全編、芝居のパロディのオンパレードで、あさ吉師の口演では『傾城阿波の鳴戸』から、『妹背山女庭訓』の「吉野川」の段での定高(さだか)の科白、『義経千本桜』の「鮨屋」の段でのいがみの権太の科白、『夏祭浪花鑑』での団七九郎兵衛の科白、『御所五郎藏』の主人公御所五郎藏の科白、『八百屋お七』の科白と続きます。
そして、若旦那と丁稚が二階で『假名手本忠臣藏三段目・裏門』の勘平と鷺坂伴内の掛け合い、『七段目祇園一力の場』の平右衛門とお軽を演じて、刃物三昧となり二階から定吉が落ちて見事なサゲとなります。

 三つ目は、「銀ちゃん」こと笑福亭銀瓶師匠。
この師匠も当席常連で、今回は始めての三つ目とあって一段と気合の入った楽屋入り。本格的でちょっとほんわかする爆笑上方落語を期待する多くのファンの拍手と『拳(中田ダイマル・ラケット先生の出囃子でした)』の小気味の良い出囃子に乗って、薄紫の矢絣の羽織と同系色で鎌わぬ(かまわぬ)文様を散りばめた着物で高座へ登場すると、その粋な着こなしに会場からは歓声も起こる。
*鎌輪ぬ、「鎌」と「輪」と「ぬ」で「かまわぬ」、町奴が「弱きを助けるためなら命さえかまわぬ」との心意気を込めて用いたもので、七世市川団十郎 が舞台の襦袢に取り入れ人気となった柄。前に剣と鍬をプラスすると「けんかかまわぬ」となります。ご自身の子供さんの数学の点数から「開成VS灘(出身校?)」のテレビでのクイズ合戦の話題をマクラに、「物知り」と「知ったかぶり」は違うことを題材とした『千早振る』がスタート。十八番の噺で全編、基本に忠実にいたるところに新工夫が盛り込まれ噺が進展する。発端からサゲまで珍解釈の一言一言に会場は波を打つように爆笑に包まれた二十分の熱演でありました。
 ここでの三廓とは、江戸の吉原(東京都台東区浅草北部)、京の島原(京都市下京区西新屋敷)、
大阪の新町(大阪市西区中央部)だそうで、神戸の福原は入っていません。
「ちはやぶる、かみよもきかず、たつたがわ、からくれないに、みずくぐるとは。」の詩の意味を要約すると、千早振る(神の枕詞)、神代(神武天皇以前)にも、こんな不思議があったとは聞いていない。竜田川(奈良県の紅葉の名所)の水を、紅の美しい(唐紅)絞り染め(水くぐる)にするなどということは、となります。作者は平安時代の歌人で美男の代表と称された在原業平(ありわらのなりひら)朝臣。

 中トリは笑福亭一門から笑福亭鶴志師匠。巨体を揺らしながら楽屋入りするや楽屋話全開。
その勢いそのままに、松鶴師匠の出囃子の『船行き』をアレンジした『船行きくずし=鶴志囃子』に乗って堂々と登場。小拍子をポンと叩いて「えー、ちょっとお断りしておきますが、足を捻挫しまして高座を下りる時によろけますが、決してシビレが切れたのではありません。最長で二十分は正座出来ますから笑わんように・・・」とツカミ一発で鶴志ワールドへ突入。「落語界の松坂大輔やとか熊のプーさんやとか愛称を名乗っておりますが、私は・・・(あまりにも似つかないので割愛)。」と、会場を大爆笑に包み込んで、マクラがスタート。「今日はお酒のお噂で・・・」と、まずは、上方落語界で酒癖の悪かった先代文我師匠、先代小染師匠、そして先代春蝶師匠のエピソードから、「しかし、格が違います」と、六代目松鶴師匠のエピソードを紹介。この間、四師匠とも当席のお客様はよくご存知とあってドッカン、ドッカンの大受けで爆笑の連続。そして、始まった本題は、「上燗屋、へいへいへいと逆らわず」の狂歌から始まる『上燗屋』。
  師匠譲りの芸風とご自身も大好きなお酒の噺とあって実に楽しそうに、美味しそうに演じられる。その一言、一動作に場内も「そうそう」「美味しそう」「ようそんな」といった感想らしくその都度、爆笑や含み笑いが起こる。タメたり、引っ張ったり、突き放したりとご自身も客席の反応を楽しみながらの二十五分の熱演でありました。
 下りてこられ、「酒の噺をする時は、必ず、師匠(松鶴)の逸話をマクラに使いますねん。ここのお客様は師匠のことも覚えてはるお客様が多いでっさかい反応が一段とよろしいですわ」と笑顔一杯の鶴志師匠でありました。

 仲入り後のカブリは春蝶一門から桂蝶六師。
「お先、勉強させて頂きます」と元気一杯、楽屋に挨拶して『乗合船』の出囃子で高座へ登場。「えー、いつも一杯でございまして嬉しい限りでございまして。本当に・・・逢いたかった。忘れた頃にお声が掛かります」と、あいさつから、大阪と東京の喧嘩の仕方の違いを紹介して始まった本題は、先代春蝶師匠の十八番の『ぜんざい公社』の一席がスタート。
この噺、『士族の商法』という明治時代に作られた噺が原本と言われ、戦前には『改良善哉』として、戦後、多くの噺家諸師の工夫が加わった噺。「もしも、お役所がぜんざい屋を営業したら・・・?」の今でもピッタリな題材の噺なので、充分通用し随所に爆笑を誘ったクスグリも古さを感じさせない。
出番を意識した軽く、さらりと、それでいて聞いた後に満足感が残る十五分の名演でありました。

 十一月公演のトリはお弟子さんも出来、上方落語界の重鎮に相応しい風格も備わった、ケイジャンジャンこと、桂雀々師匠にお願い致しました。芸風にピッタリな景気の良い『かじや』の出囃子に乗って高座へ姿を見せると、掛け声とともに本日一番の拍手が巻き起こりました。トリとしての挨拶から、東京の新宿末広亭へお客様として行った時に遭遇した老人パワー(トリの笑福亭鶴光師匠も霞んだ、膝代わりでの芸暦六十五年の太神楽曲芸の翁家喜楽師匠の至芸)を紹介して始まった本日の演題は、枝雀師匠が橘ノ円都師匠からの口伝を大爆笑編に磨き上げられた『八五郎坊主』の一席。
勿論、直伝の雀々師匠十八番物であります。
 「つまらん奴は坊主になれ」と聞かされ、下寺町のずく念寺を紹介され、大きな銀杏の木があって、その形状がニワトリの鶏冠(とさか)に似ている処からその名前が付いた鶏頭(ケイトウ)の花が満開の寺内へと季節感一杯の演出。お寺で頭を丸めてもらって、法名も付けてもらい、「坊主、抱いて寝りゃ可愛いてならぬ、どこが尻やら頭やら、トンコトンコ」と上機嫌で友達に法名を紹介。
 発端から、既に汗ブルブルの熱演、サゲまでパワーが落ちることなくに場内を大爆笑に包み込まれた四十分の大熱演でありました。

木戸口では、先月の三喬師匠に続いて銀瓶師匠ご自身による独演会のチケット販売の声に見送られて帰路に着かれるお客様は大いにお笑い、満足を頂いた十一月公演でありました。