もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第398回 
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 公演日時: 平成23年10月10日(月)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 笑福亭 喬 若  「いらち俥」
 桂   米 左  「質屋芝居」   
 笑福亭 三 喬  「鷺取り」
 露の   都   「星野屋」
   中入
 桂   三 風  「ハンカチ」    
 桂   三 歩  「熱演家族」
 桂   米團治  「けいこ屋」

   打出し  21時10分
   お囃子  はやしや律子
   手伝い  桂 三ノ助、米輝。
 平成二十三年開催の九公演も全公演大入りとなり、今回は、ちょっと涼しくなった感のある十月十日の十月公演を迎えました。猛暑、節電の影響を受けながらも、前景気も絶好調で開催日までには前売り券も完売となり、開催当日の三連休の最終日の月曜日を迎えました。祭日とあって、いつもより更にお客様の出足好調で長い列を作って頂き、多くのお客様にご迷惑をお掛け致しました。
 今回も各地で開催される折込チラシは非常に多く、定刻の五時半開場までに人海戦術で折込を完了させ、ゆっくりゆっくりお客様にご入場頂きました。席は次々埋まっていき、開演の六時半には今席も満席となりました。今席も客席と同様に演者さんの楽屋入りも早く、全師匠が到着されましたが・・・・・・、恋雅亭始まって以来の大ハプニングが発生しました。
 事務局の不手際で桂三歩、桂三風の両師匠に出演依頼をしてしまうという「ダブルブッキング」。大騒ぎとなりました。急遽、トリの米團治師匠と相談の結果、両師匠ともご出演との運びとなりました。

 二番太鼓に続いて、開演を五分早めて六時二十五分に十月公演のトップバッターとして、笑福亭松喬一門から笑福亭三喬師匠の筆頭弟子として各地の落語会で活躍で当席常連の笑福亭喬若師が笑福亭の伝統の豪放磊落プラス現代感覚溢れた爆笑上方落語を演じるべく、『石段』の出囃子に乗って登場となりました。
 「えー、ありがとうございます。まずは『上方落語界の松坂大輔』・・・」、ここで、絶妙の間をとっていつも通り大受け。さらに、私のほうが年長で先輩、年収が七桁違う、観客動員数の違いとツカミも大成功で、さっそく本題の『いらち俥』がスタート。超低速タイプと超高速タイプの俥夫が登場する噺なので東京では『反対俥』としお馴染みの噺。まずは超低速タイプの俥夫。急いで駅まで行きたい主人公にもっちゃりゆったりの応対、イライラが募り遂に乗車拒否。それでも、キッチリ料金は徴収され、さらにイライラが募る。そこへ登場したのは超高速タイプの俥夫。一転、振り回される主人公。この落差に客席は大きな笑いが巻き起こる。十五分の高座一杯に弾け飛んだ熱演でありました。

 二つ目は米朝一門から長唄囃子の名取でお囃子の名手で、自称「米朝師匠の飲み友達」と称する程の酒豪、さらに落語の方も師匠の薫陶よろしく本格派の上方落語の名手の桂米左師匠。
 『勧進帳』の出囃子でユッタリと登場しパチンと小拍子を叩いて出囃子を止め、「えー、埃っぽい高座で・・・」と、喬若師の熱演を称えて、即、会場を「米左の世界」に引きずり込む。 お見事!マクラは歌舞伎の掛け声や噺家の出には住んでおられる住所を掛けると粋、先代文楽師匠は「黒門(くろもん)町」、先代正蔵師匠は「稲荷(いなり)町」、古今亭志ん朝師匠は「矢来(やらい)町」、と「ええとこに住まなあきまへん」と紹介して、芝居噺、忠臣蔵三段目の『質屋芝居』がスタートとなりました。
 本格派の師匠の口演だけに噺の進展に会場は吸い込まれるよう。芝居好きな質屋の番頭と丁稚が忠臣蔵三段目の喧嘩場(足利館殿中松の間刃傷の場)から裏門合点(足利館裏門の場)を熱演。さらに、質屋の主人まで加わっての大騒動を、基本に忠実にさらに、鷺坂伴内と早野勘平の掛け合いは「噺家ずくし」の工夫も入っての大熱演。場内からの拍手に乗って上出来の米左師匠でありました。

 三つ目は、「三ちゃん」こと笑福亭三喬師匠。
この師匠も当席常連で、今回も本格的でちょっとほんわかする爆笑上方落語を期待する多くのファンの拍手と『米洗い』の小気味の良い出囃子に乗って満面の笑みで登場し、「続きまして、上方落語界の熊のプーさん笑福亭三喬の方でお付き合いを願っておきます」とのツカミのあいさつで、今度は「三喬の世界」へ突入。マクラは一門の「テポドン」と呼ばれている笑福亭右喬師の失敗談をコミカルに紹介して場内を大爆笑に巻き込む。
 始まった本題は、『鷺取り』の一席。この噺、上方の前座噺とされる『根問物』一つの『商売根問』からの発展する噺であります。色々商売をやった中で「雀」を捕まえることになったが、江戸っ子の雀と難波っ子の雀が登場しての爆笑が起こる。江戸っ子の雀が大阪弁を使ったり、大阪代表のおっちょこちょいの「雀雀雀(じゃくじゃくすずめ)」が登場したり、随所に爆笑が起こる。「雀雀雀」のクダリでは場内から拍手が巻き起こる、すかさず、「こんな処で拍手貰ろても嬉しないでっせ。さっきの米左さんの芝居で見得きった時の拍手と違いまっせ」。「えーと、どこまで言ったかなぁ」と続ける。お見事!。
 さらに、「鷺」を捕りにいくクダリで大爆笑を誘って、「この男、後にニワトリで大儲けすることになります。カーネルサンダースの若き日のおはなし」と、締めくくられた。

 中トリは露の五郎一門で上方落語女流の筆頭・露の都師匠。
 今回も、言いたい放題の都ワールドマクラから、女流ならではの切り口で演じられる選りすぐりの上方落語を演じるべく芸名にちなんだ重厚な『都囃子』に乗って高座へ登場。「えー、続きまして上方落語協会 女性部部長、露の都と申します」と自己紹介。 客席は今度はものの見事に「都の世界」へ突入となりました。「笑い声が楽屋まで聞こえますねん、いやでっせ。受けへんかったらどうしょうと思たりして」「ごめんやで、こんなしゃべり方で」「私も三十を超えまして、嘘つきました。四十を、嘘つきました」「けどな、ほんまやで、喋りたいように喋るねん」と、まるで、友達と世間話でもするかのごとく、爆笑マクラが続く。そして、始まった演題は、男と女の葛藤を描いた都師匠にピッタリの『星野屋』の一席。
この噺、上方では『五両残し』としても演じられているが、サゲが推測させると、都師匠は『星野屋』として演じておられる。
 女の真底を見定めたい旦那と、見切りを付けたそぶりを見せない女の騙しあいで噺は進んで行き、幇間持ちややり手の母親も登場してサゲ前ではテンポの良い展開から見事なサゲとなる、再演を期待したい「都の世界」満載の二十五分の高座でお仲入りとなりました。

 さて、発生したハプニングでお客様は大喜びでしたが、楽屋は大変でした。
顛末は両師匠の高座でのマクラの通りで、先に楽屋入りは三風師匠の方で、提灯とメクリを入替えて、パンフレットの誤植を平謝り。これで丸く収まるかと思いのほか、「三歩師匠も連絡が入ってたら・・・・?、大変やで」との想像通り、開演までに三歩師匠も楽屋入りとなりました。
 ここからは仲入り後、三枝師匠も以前に使われておられた『おそずけ』の出囃子で登場となりました三風師匠、「よく間違えられますねん。歩と風やからまだよろしいで、けど、もっと、凄いことが起こりまして、今、春團治師匠が米と春を間違えられて楽屋へ・・・。これは嘘でっせ。」「私も、師匠から『落語界の新しい風になるんや』の意味で付けてもらいましたが、風も吹かずに二十七年、来年は師匠も文枝を襲名されますので、私も枝の一字を間に入れて『三枝風』、これ嘘くさい。文の一字を入れると『三文(さんもん)風』、安っぽい。」と、爆笑マクラから始まった演題は自作の創作落語の『ハンカチ』の一席。
 やや、倦怠期を迎えた夫婦の奥深い愛情を描いた噺、夫婦喧嘩をして家を飛び出した旦那さんがひょんなことから「世界の中心で愛を叫ぶ」ではなく、「野外ステージの上から愛を叫ぶ」コンテストに参加。それをケーブルTVで見ていた奥さんと仲直りする、一等賞の商品は着物、参加賞はハンカチ、奥さんの欲しかったものは・・・・。全てのお客様が思わずホロッとした秀作でありました。

 続いて、とぼけた風貌で何とも言えない暖かさを感じさせる桂三歩師匠が、『三百六十五歩のマーチ』に乗って大きな口を開けていかにも嬉しそうに高座へ登場。客席はさらに明るくなりました。
「えらいことになりまして、え?どっちが出るの?ぢゃ、ジャンケンで決めます?。こうなったら、お客さんにどちらが聴きたいか拍手の量で決めよう。いや、三風くんが落語して、ボクがギャラだけもらって帰ります。けど、私は今日は絶対出たかったんですわ。意気込みが違います。黒紋付ですしね(ここで紋が張り紋であることを見せて爆笑を誘う)。実は十月になって初めての仕事でして・・・」、さらに、「さっき封筒貰いまして、これで安心で、開けないことにしてまして、実は前に失敗しまして。」と、貰った封筒をエレベーターに乗って行き先階を押さずにすぐ開けて、エレベーターが開いて、見送ってくれていた主催者に見られたと、三歩師匠の爆笑マクラに場内は大爆笑に包まれる。そして、始まった本日の出し物は、三枝師匠が演じられものとは一味違うであろう『熱演家族』の一席。家族が何かに熱中するホンワカホームドラマで、やきもきする主人公のお父さんも実は??に熱中。
全編、「こんなことあるある」と思わせる大爆笑編でありました。

 十月公演のトリは上方落語界の重鎮・五代目桂米團治師匠にお願い致しました。
襲名を機に使われ始めた『三下がり鞨鼓』の出囃子に乗って高座へ姿を見せると、掛け声と共に本日一番の拍手が巻き起こりました。
 「えー、米團治でございまして、春團治師匠はお越しになっておられません。正真正銘、私が最後です」と、タイムリーなクスグリで客席を沸かして、恋雅亭は私が噺家になった頃、始ました。私と共に歩んでまいりました。その席がもう四百回を迎える嬉しい限りです。と、紹介、さらに「私も、ぼんぼん、とかアホぼんとか言われておりまして海老蔵さんや最近の香川輝之の気持ちが良く判ります」と、「しかし、どこか甘くてええかっこしの処がありまして」と、失敗談のマクラで充分、笑いをとった後、始まった本題は『けいこ屋』の一席。
 女性にモテたい一心の主人公(宇治の蛍踊りの名人の一二三さん)が町内のけいこ屋・小川市松師匠の処へ弟子入り。そこで繰り広げられるお馴染みの大爆笑落語。米團治師匠は市松師匠は色っぽく、子供達は可愛く、そして、同門連中は生き生きとお囃子との息もピッタリと随所に拍手が起こった、『五代目米團治ここにあり』で客席を大満足された半時間の名演でありました。
 出演者の皆様には大変ご迷惑をお掛けいたしましたが、木戸口で、三喬師匠ご自身による独演会のチケット販売の声に見送られて帰路に着かれるお客様は大いにお笑い、満足を頂いた十月公演でありました。