もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第397回 
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 公演日時: 平成23年 9月10日(土)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂   二 乗  「癪の合薬」
 桂   文 華  「幇間腹」   
 桂   團 朝  「短命」
 桂   福團治  「寿命」
   中入
 桂   三 象  「お忘れ物承り所」    
 笑福亭 福 笑  「大統領の陰謀」

   打出し  21時10分
   お囃子  花登 益子
   手伝い  笑福亭たま、桂 華紋。
 平成二十三年開催の八公演も全公演大入りとなり、今回はまだ暑さ真っ盛りの九月十日の九月公演を迎えました。猛暑、節電の影響を受けながらも、前景気も絶好調で開催日までには前売り券も完売となり、開催当日の土曜日を迎えました。土曜日とあって、いつもより更にお客様の出足好調で長い列を作って頂きました。出来るだけ涼しいようにと階段に詰めてもらって並んで頂きましたが、それでも多くのお客様にご迷惑をお掛け致しました。今回も各地で開催される折込チラシは非常に多く人海戦術で折込。定刻の五時半開場にはまだ、全部の折込が終わらない中、ゆっくりゆっくりお客様にご入場頂きました。席は次々埋まっていき、開演の六時半には今席も満席となりました。

 今席も客席と同様に演者さんの楽屋入りも早く、ほとんどの師匠が到着され、二番太鼓に続いて、定刻の六時半に九月公演のトップバッターとして、米朝一門から桂米二師匠の筆頭弟子として各地の落語会で活躍中の桂二条師が『石段』の出囃子に乗って登場となりました。当席には二度目となるな逸材で、今回も基本に忠実な上方落語を演じて頂くことを待ちかねたように会場からは大きな拍手が起こる。ツカミは「えー私、京都の二条に住んでおりまして二乗(にじょう)と申します。今日は四畳半の部屋から恋雅亭に参上(さんじょう)いたしました」。
 串カツ屋で急に謎掛けをすることになってすべった話題から、急に振られると人間、体に変調をきたすとつないで、「本日は『癪の合薬』というお笑いを」と、「癪」とは胸や腹のあたりに起こる激痛の総称で、さしこみのこと。 合薬(あいぐすり)とは個人の症状に合った薬のことと説明して本題がスタート。この噺、別名を『茶瓶ねずり』、東京では『やかんなめ』と呼ばれる、ちょっと珍しい噺でしたが、最近、流行なのか最近演じられることが多くなった噺です。
 二乗師は一門の文我師匠からの口伝だそうで、それを土台に茶目っ気一杯と噺の奇抜さに演じる高座に場内は爆笑の連続。お客様も演者自身も大満足な十八分高座となりました。

 二つ目は文枝一門からいつまでも若々しく元気一杯、お弟子も出来て風格もプラスの桂文華師匠。当席の常連として、過去、数多くの爆笑高座を演じていただいており、今回は何が飛び出すか楽しみされておられるお客様の拍手と、コミュカルな『千金丹』の出囃子で高座へ登場される。「えー、続きまして『上方落語界の妖怪人間ベロ』と呼ばれております・・・」とのいつものフレーズから、東京の噺家と大阪の噺家は値打ちが違うの爆笑マクラから、同じような商売に幇間もちという商売が昔はありましたと続けて、イメージピッタリの愛嬌タップリの幇間もちがご贔屓の若旦那に酷い目に合わされる『幇間腹』の一席。
 演者の個性がどう発揮されるかで受けるか受けないかを大きく左右する噺で難しいが、文華師匠が演じる噺の中で大活躍の幇間もちに場内からは大きな笑いが連続して起こった、大受けの二十四分の好演でありました。 

 三つ目は、米朝一門から学生時代のあだ名の「団長」⇒「團朝」を芸名にと逆指名とした逸話をもつ桂團朝師です。今回も師匠譲りの本格的な古典落語を元気一杯演じるべく早くから楽屋入りして準備万全。上方情緒一杯の『浪花小唄』の出囃子で高座へ登場し、長生きのコツを「かきくけこ」で、感動、興味、工夫、健康、恋と、年をとったら気を付ける「かきくけこ」は、風邪をひかない、気を病まない、くよくよしない、血圧を測ること、こけない、と紹介して会場を唸らせる。
 そして、本日の演題は、ちょっと艶笑がかった『短命』の一席がスタート。この噺、原型は徳川八代将軍の吉宗公の時代に発行された『軽口はなしどり』の中の一編、「元腹の噂」。別名を『長命』、『丙午』とも言う東西で多くの演じ手の多い噺であります。養子さんのおくやみに又、行くことになった男に、「出養生、毒も一緒に連れて行き」の川柳で亡くなった原因を説明するやり取りに、客席は、「なぜ気が付かないの」とのクスクス笑いが、そして、だんだんと気がついてくる様子に爆笑がと随所に笑いが起こった團朝師匠、渾身の二十二分の秀作でありました。

 中トリは春團治一門の総領弟子、上方落語界の大御所、桂福團治師匠にとって頂きました。
いつ通り高座へ登場から繰り広げられるなんとも言えない「福團治の世界」、数多くの演題から選りすぐりの一席をお待ちの万来の拍手に迎えられ、名調『梅は咲いたか』の出囃子でユッタリと座布団へ。「えー、疲れてまんねん。あんまり力入れんとね、ちょっと咳き込みますねん、もっと力むと死にます・・・。」と、得意のツカミで会場は一気に福團治の世界へ突入する。
 「えー、今日はさっきも『短命』という噺でしたが、私の方も『寿命』というおはなしで、これはお客様に注文されまして、おもろいことないんで、それに長いですわ。長いこと演(や)ってません・・・」。楽屋入りから口演までの間、時間を惜しんでネタを繰られておられる福團治師匠から、この噺は亡くなられた枝雀さんが「福さん、この噺、ええなぁ。ぜひ教えて」とネタの交換を約束して実現しなかった噺で、枝雀師匠からは『風邪うどん』を交換する頂く予定だったとお伺い致しました。
 この噺は昭和四十七年十一月二十日の第十回島之内寄席の口演がキングレコードから「島之内寄席ライブ」として発売されました。当席では昭和五十三年の第五回公演の口演以来、実に三十三年ぶりの口演となります。「えー、蚤の四月(しんがつ)、蚊の五月・・・、八月に幽霊、十二月に借金取りがでます」。蚤もいなくなった・飲み逃げ、血を吸わなかった蚊は落ちる・貧血とクスグリから『寿命』の一席がスタート。
 大恩ある家のお嬢さんの重病で明日をも知れぬ命。この世にあるかないか判らない寿命を探しに信州まで来た水売りの源兵衛、艱難辛苦してやっとのことで寿命に出会うのですが・・・。
半時間の大作に最後部から見ていると客席は前のめりなって師匠の話芸に堪能されておられた。

 中入り後は、三枝一門の桂三象師匠。
『芸者ワルツ』の出囃子で高座へ顔を見せるだけでそのとぼけて、何とも言えない暖かさを感じさせる風貌に会場からは「クスクス」と笑いが沸き立つように起こる。「別の噺家から、私、ちょっと変わってると言われてます。人間離れしてますので、客離れが起こります。幸いなことに嫁は離れていません。もっとも最初からいませんから」。 さらに一人で乗ったタクシーでやりとりや三枝師匠と一緒に乗ったタクシーでの出来事のマクラに場内は大爆笑に包まれる。
 本日の本題は三枝師匠の創作落語の『お忘れ物承り所』。三象師匠も十八番の一席であります。ちなみに三枝師匠のHPによるとこの噺は、昭和五十八年十二月初演で四十四作目。今から二十八年前とは思えない、みずみずしくホンワカとした秀作で、題材はどこにでもあるような、駅の忘れ物の承り所でのスケッチ落語。
 三枝一門を中心に演じ手の多い噺ですが、内容は演者の個性でポイントの置き方で七変化。三象師匠も原作をベースにご自身の工夫を随所に入り、さらにその風貌のおかしさに会場からは大爆笑が連続して起こる。いつもながら大受け、風貌で得している、愛嬌タップリの三象師匠の二十分の熱演でありました。

 そして、トリは上方落語界の重鎮・笑福亭福笑師匠にお願い致しました。
もう説明の必要のない師匠で当席への出演回数は林家染丸師匠と一位二位を争います。その全てが爆笑の連続で、今回も過去同様【『神通力』『所帯念仏』『大名易者』『宿屋ばばあ』『瀞満峡』】、切れ味鋭い爆笑創作落語を演じるべく『佃くずし』の出囃子で高座へ登場。
 会場の拍手が鳴り止まない、これを暫く待って収まってから、「えー、ここ(恋雅亭)は、いつも一杯でございまして、それによくお笑いになる、何がおもろいんでっか、今のんかて大したことおまへんで。天満天神の繁昌亭に出てますけど全然違います。品があります。非常に良いお客様で・・・」とあいさつ。
 そして、始まった演題はさる九月六日に天満天神繁昌亭の第81回創作落語の会で初演の『大統領の陰謀』。今、旬の話題の原発がテーマ。各国が脱原発に動く中、赤道直下の小さな島国の女性の大統領と副大統領は逆に原発を推進し全世界の電力を引き受けようという作戦に出る。発電所建設と原始的な島の生活はアンバランスと奇想天外な噺。福笑流の解釈で展開していく内容に場内は爆笑の連続。大いに盛り上がった半時間の好演でありました。