もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第394回 
◆春駒HOME◆恋雅亭TOP◆公演記録目次
 公演日時: 平成23年 6月10日(金)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂  小 鯛  「兵庫船」  とま都改め
 桂  鯛 蔵  「代脈」   さん都改
 桂  ざこば  「厩火事」
 都んぼ改め四代目
 桂  米 紫  「佐々木裁き」
   中入
 襲名記念口上
 ざこば・塩鯛・米紫・鯛蔵・小鯛・松枝【司会】
 都丸改め四代目
 桂  塩 鯛  「鯛」    

   打出し  21時00分
   お囃子  勝 正子
   手伝い  桂 そうば。
 「襲名記念公演」は前景気も絶好調で五月下旬で前売り券も完売となり、当日の小雨模様の金曜日を迎えました。小雨の中、今席も出足好調で多くのお客様に列を作って頂きました。出来るだけ雨に濡れないように階段に詰めてもらって並んで頂きましたが、それでも多くのお客様にご迷惑をお掛け致しました。
 各地で開催される折込チラシ数も先月並みの枚数で人海戦術(本日のご出演者含む)で折込。完了と同時に定刻より五分早い五時二十五分に開場となり、ゆっくりゆっくりお客様に、ご入場頂き、席は次々埋まっていき、開演の六時半には満席となりました。客席と同様に楽屋入りも早く、ざこば師匠も開演までに到着されて二番太鼓に続いての開演となりました。

 満席の六月公演「都んぼ改め 四代目桂米紫 都丸改め四代目桂塩鯛襲名記念公演」のトップバッターは、一門の都まと改め桂小鯛師。平成19年入門、今年でキャリア5年目と当席へのスピード出演となりました。
 定刻の六時半、『石段』の出囃子で高座へ。「えー、ありがとうございます。只今より開演でございまして・・・・。」と、あいさつ。自身の芸名の紹介(芸名を都まとと聞いた時の衝撃)で本日一発目の笑いを誘って、「私の方はご陽気な旅の御噂を・・・。」と、始まった本題は記念公演に相応しい『西の旅・兵庫渡海は鱶の魅入れ』。「ここにございました大阪の馬の合いました二人の男、讃岐の国は象頭山、金毘羅大権現に参詣を済ませましての帰り道・・・」。道中は播州の西国三十三箇所から明石、人丸神社、舞子、須磨、柳原と進んで、この噺の舞台は地元神戸の鍛治屋町の浜(JR神戸駅から南へ約1`の神戸市兵庫区鍛治屋町)へ到着。ここから船の乗り込んで大阪の天保山までの船中での出来事がこの噺です。
 小鯛師は、乗り合いから出船の部分をカットして船中の国所の尋ね合いのお笑いの多い部分に圧縮して演じられる。船中の会話でグッと盛り上がった処でお後と交代と、若々しく舌もなめらかな元気一杯の十七分の高座でありました。なお、この噺の原話は文化年間に笑話本「写本落噺桂の花」の『乗り合い船』だそうであります。

 二つ目は同一門の二番弟子のさん都改め桂鯛蔵師の登場。
平成15年に桂都丸師匠に入門し桂さん都の芸名で各地の落語会で元気一杯のバリバリの活躍中の逸材であります。童謡『かわいい魚屋さん【加藤省吾作詞・山口保治作曲】』の出囃子に乗って高座へ登場。♪〜かわいい かわいい 魚屋さん。ままごと遊びの 魚屋さん。今日(こんち)はお魚 いかがでょ・・・。
 「えー、夜毎、夢にまで見た恋雅亭の高座でありまして・・・。」と場内から激励の拍手が起こった挨拶にから、師匠のトリの時は帰ろうとするお客様をお客様が止めたが、私のトリの時はお客様が連れ盛って帰ってしまわれたとの失敗談。同じ失敗談を題材とした爆笑上方落語の『代脈』がスタート。
抜けているようでちゃっかりしているお医者の玄関番が若先生との触れ込みで往診し、繰り広げられ、お定まりの屁も飛び出すいかにも上方落語らしい一席を、きっちりとタップリ、そして、もっちゃり演じられた二十二分の秀作でありました。ちなみに、この噺の原話は文禄十年の笑話本「露鹿懸合咄」の『祝言前書』だそうであります。

 三つ目には一門の総帥、桂ざこば師匠が弟子、孫弟子の晴れ舞台に華を添えて頂きます。
早くから楽屋入りされて本日のネタの並びやごあいさつの並び順などを指示されて楽屋の話題の中心になっていかにも嬉しそうに談笑される。
 『御船』の出囃子に乗って高座へ登場すると会場からは大きな拍手が起こる。すぐに羽織を脱ぎながら「すぐ、脱ぐんやったら着てこなんだらええのに、持ってるとこを見てもらおと思てね」。そして、「なんでこんなに可愛いのかな・・・。可愛いことおまへんで」と、良く泣く孫をあやしたが泣き止まずに切れてしまった話題から、今、一番可愛いのは愛犬の喜六と、「ざこば噺」が続く。
 次々に繰り出される噺に会場は爆笑の連続。そして、スッと見事に本題の十八番の『厩火事』がスタート。この噺、東京では数多く演じられていますが、上方では珍しい噺で、ざこば師匠は落語作家の小佐田定雄先生の台本により平成九年頃から演じられおられますが当席では初の口演となる噺であります。「上方の人情派」の師匠の感性にはピッタリな噺で、年上の女房のいじらしさとそれに甘える亭主との夫婦愛が感じとれサゲの亭主の一言が全てを語る秀作でありました。
 下りてこられた、ざこば師匠、「ここのお客さんは、いつもええお客さんやなぁ。ツボ外さんとキッチリ笑うてくれはる。」

 中トリは都んぼから四代目を襲名される桂米紫師匠。
師匠譲りの『猫じゃ猫じゃ』の軽快な出囃子に乗って、いつも通りの愛くるしい笑顔一杯で高座へ登場。東京の噺家とある催し呼ばれ主催者が挨拶に来られ、「かぶとです」「とんぼです」そうしたら「町長です」。これは大受け。芸名に纏わるマクラで充分に会場を沸かせた後、始まった本題は『佐々木裁き』の一席。この噺、大々師匠に当る桂米朝師匠の十八番だった噺を塩鯛師匠からの直伝を受けた秀作で、主人公のこましゃくれた桶屋の高田屋綱五郎の倅の四郎吉は描き方ひとつで笑いを誘わないのだがご自身のキャラクターが見事に一体化され大爆笑の連続で噺は進み、サゲとなった中トリに相応しい半時間の秀作高座でありました。
 この噺が出来上がったのは、嘉永七年に実在した佐々木信濃守が登場するので、出来上がったのは幕末から明治初期にかけて、ちなみに嘉永七年から十四年後が明治元年であります。サゲ近くに登場する天保銭は楕円形をした大型の穴あき銅銭で、裏面に「當(当)百」と刻印されているところから「とうひゃく」と呼ばれ、今の価値に換算すると千円程度だそうです。

 シャギリが入って幕が開くと、高座にはズラリと六師が並んでの「襲名記念のあいさつ」が万来の拍手の中、笑福亭松枝師匠の司会でスタート。
 まず、ざこば師匠。「えー、米朝師匠より都丸に塩鯛をとの話があり嬉しくお受けした訳で、襲名前にこの頃、都丸さん上手くなったとよく言うてもらいました。この頃は『ざこばはん、あんた、完全に抜かれてるで』と、言われます。嬉しいです。ええんです。私が二十五年前に師匠の米朝を抜いた時(場内は大爆笑)、階段を上がる時に・・・後、言われへんがな」と、嬉しいあいさつ。
後、小鯛師、そして、鯛蔵師の「この恋雅亭で一日も早くトリがとれますよう。精進を重ねます」があいさつ。
 米紫師匠は「私だけ、塩や鯛が付いておりません。これは、先代塩鯛師匠の前名が米紫やったからで、この名前を頂きました。ですから、五代目塩鯛は私に決まったような訳で・・・。けど、特にいりません。やっと、昆虫から人間の名前になったのですから魚には・・・」。
 塩鯛師匠は「五代目も決まりましたんで・・・。」そして、最初は米朝師匠の処に入門しようと思い、断られ、枝雀師匠にも断られ、それでざこば師匠に、との入門秘話でざこば師匠の機嫌が一気に悪くなり「いつ、やめてもろてもええで」「お客さま、この後、もう噺聞かんと帰って」「気分が悪い、今日は割酔いするで」と突込みが入る。その都度、塩鯛師匠の困った様子で場内は大爆笑に包まれる。松枝師匠の大阪締めもバッチリ決まった大爆笑のご挨拶となりました。

 本日のトリは勿論、四代目桂塩鯛師匠です。
出囃子は、従来の『猫じゃ、猫じゃ』を米紫師匠に譲って、芸名に相応しい『鯛や鯛』のこれも小気味の良い出囃子。万来の拍手の中、堂々と登場し嬉しそうにあいさつし本題は新芸名にピッタリの『鯛』。この演題は一連の桂三枝師匠の平成二年六月の創作落語。この噺、塩鯛師匠は当席では平成十八年七月の第335回公演で演じられて、襲名の会での待ち望んだ再演となりました。
 とある居酒屋のいけすにやってきた(?)鯛の新入りロクといけすの主、ギンギロはんが自分の後継者として暖かく教育。その時、板さんの手網が迫っくる大ピンチ。ロクとギンギロはんは見事に切り抜けることができたのか、運命やいかに。手に汗握るいけすの中のスペクタル巨編。
今回も期待に応えられた大爆笑連続の秀作でありました。
 演じきった塩鯛師匠に会場全体から大きな拍手が巻き起こったことは言うまでもない秀作揃いの襲名記念公演でした。