もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第393回 
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 公演日時: 平成23年 5月10日(木)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 笑福亭 鶴 二  「米揚げ笊」
 笑福亭 学 光  「あのこの世」
 笑福亭 鶴 光  「軽業」
   中入
 襲名披露口上
 枝鶴・鶴光・きん枝・学光・鶴二
 桂   きん枝  「孝行糖」
 笑福亭 枝 鶴  「禁酒関所」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  林家和女、勝 正子
   手伝い  笑福亭喬介、飛梅。
 当日は小雨の火曜日。雨模様の中、今席も出足好調で多くのお客様に列を作って頂きました。そして、各地で開催される折込チラシ数も先月並みの枚数で、人海戦術で折込を終えると同時に開場となり、ゆっくり、ゆっくりお客様にご入場頂き、席は次々埋まっていき開演の六時半には満席となりました。客席と同様に楽屋も笑福亭一門で大入り満員の盛況。
 満席の五月公演「小つる改め 六代目笑福亭枝鶴襲名披露公演」の
トップバッターは、一門の笑福亭鶴二師。定刻の六時半、いつもの『石段』ではなく、お亡くなりになられた七代目松鶴師匠も使われた『独楽』の出囃子で高座へ。お囃子は、三味線が二丁、大太鼓、〆太鼓、ドラ、当り鉦、笛、祈とフルライン。
 「えー、ありがとうございます。本日は枝鶴兄さんの襲名披露の会。一杯のお客様で嬉しい限りでございまして、今日は楽屋も賑やかです。笑福亭一門ばっかりでね、濃いですわ、濃い。ここで休んでますねん。特に鶴光師匠は普段は東京ですのでこっちへ帰ってきはったら久しぶりですからよう喋りますねん。【この時、楽屋から鶴光師匠が顔を覗かせ「***」と一言。これには会場は大爆笑】・・・。あっ、びっくりした。」と、ツカミの挨拶も決まって、続いて爆笑マクラ。「今日はこの後、口上がありまして、袴を着けます・・・。」と、入門直後に東京の古今亭志ん朝師匠の袴を畳めなくて、師匠自ら畳んで頂いた。翌年、師匠から「袴、畳めるようになった」と、声を掛けら、覚えていてくださった嬉しさとまだ畳めなかったので、ビクビクした失敗談で会場全体を大爆笑に巻き込んで、始まった演題は笑福亭のお家芸の『米揚げ笊(いかき)』の一席。
 よく演じられている噺との印象でしたが、当席では、平成九年十一月に笑福亭鶴二師、平成十五年十二年十二月に笑福亭右喬師、そして、平成二十年四月に林家染左師とお耳珍しい噺となっています。その噺を、発端から持ち味の明るさとテンポの良い運びに、主人公とピッタリな(失礼)イメージがプラスされ場内は爆笑の連続。
 本来のサゲは襲名披露にはそぐわないと変えられ、サゲへの仕込みの言葉もカットした絶妙の演出でトントンと上がった処で二十分の高座はお後と交代となりました。

笊(いかき)とは笊(ざる)の上方での呼び名で、同じように今では落語にしか登場しません、天秤棒のことを朸(おおこ)、たわしを切藁(きりわら)と呼んでいましたが、今では通じない言葉になっています。私も小さい時に祖父から「起きたら手水使いや。」とは言われた記憶はありますが、前出の言葉は聴いたことがありません。
大阪の丼池から天満までの道中の言い立てでは中之島と中央区北浜を結ぶ栴檀(せんだん)の木橋、北区西天満と中央区北浜を結ぶ難波(なにわ)橋が登場し、今の北区西天満付近の天満の源蔵町にいかき屋さんのお店があります。

 高座を下りてこられた鶴二師と鶴光師匠が芸談義。
鶴光師「この噺、おやっさん(六代目松鶴師匠)の十八番やった。直接、付けてもろた。ゲンのええこと言われて機嫌よくなった旦那はんが『千円やり』と言うとこな。あそこは声を落としてやってはった。ドッと受けるとこや。」
鶴二師「笊の担ぎ方もあれ(直接、肩で担ぐ)では沢山、乗りませんし、『お家へほりあげる』処はちょっと無理がありますね」
鶴光師「担ぎ方も二通りやってはった。肩へ担ぐのと、おおこで担ぐのとな」
鶴二師「一度、おおこで演ってみます」

 二つ目は枝鶴師匠と同期【昭和五十年に笑福亭鶴光師匠に入門】で同門、さらに、高松でいっしょに会を開いておられ、当席へは久々の出演となられる笑福亭学光師匠。
『深川くずし』の出囃子に乗って満面の笑みで高座へ登場、「えー、久々の出演でして上がってまして」と、実にソフトな語り口でマクラがスタート。
 学光の芸名の話題。
@ 最初は一番弟子から一光、二光、の予定だったが五番弟子が五光で自分が一光なら名前負けし、さらにイッコウだと今は同じ名前の変な人がいる。
Aこの名前は師匠の友人のはらたいらさんが名付け親。
B学光=がっこう=学校なので、学校関係の仕事が多い。
C実際の読み方は、がっこ、つるこ、となり延ばさない。
 続いて小学校へ行って、「おじさん何者(なにもん)?」と聞かれ「ドラエもん」と答えて失笑された話題や一番好きな小咄として、「九官鳥と六代目松鶴」を演じて、「今日は皆さん、付いて来て下さい」と断って自作の旅ネタ創作落語の『あのこの世』が始まる。
 あの世とこの世の境で繰り広げられる、全編シャレのオンパレードで蝉、狐、牛、はじめ、六代目松鶴師匠まで登場して大活躍して進行していく爆笑噺。
サゲも明快で多くのお客様が気付かれ笑いが起こり、「明日に死んでも良いように、百まで生きてもいいように」との名言で締めくくりとなりました。

 中トリは当席、久々のご出演となられる笑福亭鶴光師匠。
早くから楽屋入りされメンバーの輪の中心になって実に楽しそうに談笑。トリの枝鶴師匠の演題を確認してご自身の演目を『軽業』に決定され、さっそく、キッカケの打合せ。太鼓担当は笑福亭松枝門下の飛梅師になりかけたのを鶴二師が「わしが太鼓を」と自ら志願され準備も万全。「東京ではこの噺も出来ひんねん。聞いたことがないらしい。『その昔、小南師匠が演られた』程度やから。今日はタップリやるで」と実に嬉しそう。『春はうれしや』の出囃子で高座へ姿を見せると待ちかねた満員の客席から大きな拍手が起こる。
 「えー、ほんまに高齢化社会でんな・・・。ここのことを言うたんちゃいまっせ」と、得意のフレーズから、「今、九官鳥の小咄をしてましたが私の方は高島屋のオウムの噺を・・・」と、「高島屋に『お買い物は高島屋で』と言うオウムがおりましてん。噺家の若い衆が、面白がって『お買い物は三越で』と教えたんですわ。えらいもんでオウムが覚えて『お買い物は三越で』と言うたんですわ。その次の日からオウムの姿は見かけなくなりました。なんでも地下の食品売り場で焼き鳥になってるとか・・・。」と、場内を大爆笑に巻き込んで、「先ほどは創作落語の旅の噺でして、私の方は古典落語の旅の噺を」と、六代目松鶴直伝の『軽業』が始まる。
 お伊勢詣りの途中に遭遇した白髭大明神【忍山(おしやま)神社】の屋根換えの正遷宮【改築・修繕が終わり神体を本殿にうつすこと】。別名、『もぎどり』とも言う前半には、「天竺の孔雀」「天竺の九尺(天竺木綿で作った六尺褌と越中褌【三尺】)」や「とったりみたり(相撲ではなく虱を)」で騙されてここは大丈夫と次に張った飛び込んだのは高物(たかもん)小屋。
 ここで、お囃子もタップリに軽業興行を楽しむ噺。その噺を鶴光師匠は実に楽しそうにお囃子との息もピッタリに演じられる。場内も軽妙な囃子と師匠の仕草に乗り乗り。大爆笑連続の二十五分の好演でお仲入りとなりました。

 仲入り後は、祈が入って幕も鶴光師匠曰く、「金比羅座やなぁ」通り、手でスルスルと開いて、出演の五師匠が居並んでの『襲名披露口上』。
 司会進行役の鶴二師の紹介で、まずは兄弟子の鶴光師匠。
「枝鶴と言う名前は光鶴から枝鶴、そして松鶴と光鶴が資格(枝鶴)を得て枝鶴、昇格(松鶴)して松鶴との出世名前でして、いづれは当代も・・・。」。先代師匠には馬券の買い方、酒と色々教えてもらった思い出を、締めには「先々代の六代目松鶴師匠も名人でしたし、先代も名人でした。名人に三代無しとは言いますが、こと枝鶴に関してはそうではございません」とご挨拶。
 続いて、司会者より「この度、サンTVの大人の子守唄では赤褌マンとしてレギュラーを勝ち取り、あきれた娘さんが出て行ってしまった笑福亭学光よりご挨拶申し上げます」と、紹介されるとすかさず、「嫁も出て行ってしまいました」と付け加えて、枝鶴師匠との友情の証である別れた女性を送っていった秘話をご披露。
 きん枝師匠は、「先代枝鶴兄ちゃんには家が近所だったので、まず教えてもらったのが住之江競艇。」「私が繁昌亭の出番組みを担当していた頃、上方落語協会所属の噺家総出で出演している中、出番が極端に少なかったのが、小つるさんと学光さんで、二人が高松でのラジオの帯番組と落語会開催が原因でした。しかし、二人同時に出演している訳ではないので、出演を工夫して繁昌亭出演の機会を提供出来て、先代枝鶴師匠への恩返しが、この時やっと出来た気がする。・・・・・・。」と、長々と語られる。絶妙のタイミングで鶴光師匠が「長いなぁ〜」とツッコム。
 披露口上の締めは鶴光師匠の音頭で大阪締め。
「打ちましょ、チョーンチョン。も、一つせ、チョーンチョン。祝うて三度、チョチョンがチョン」。
いつもながら見事で決まった手締めでありました。

 口上の後は桂きん枝師匠。
開口一番「えー、参議院候補から上方落語協会理事に返り咲きましたきん枝でございます」と、あいさつすると場内は大爆笑に包まれる。そして、マクラは先の参議院議員選挙での比例区候補での落選秘話。落選原因は投票日の前日に届いた複数の推薦葉書。大阪のおばちゃんの投票確約の口約束のエエ加減さ。三枝師匠と江夏豊氏に推薦人を依頼すると、自分と合わせて犯罪者が二名になる。など失敗談を面白おかしくトントンと繰り出します。失念した用語に対しては客席から助け舟が出るなど客席との息もピッタリ。
 大爆笑の『参議院選挙秘話』を約二十分の後、「今日はこれでええかと思いましたが、落語も一席」と、始まった演題は文枝師匠直伝の『孝行糖』の一席。場面転換や人物描写も鮮やかにトントンと噺は進展して成程とうならせるバツグンのサゲとなりました。

 さて、本公演も大詰めとなり、披露口上を終わられた鶴光師匠は最終の新幹線で東京に、
入れ違いに打ち上げで鶴光師匠と飲みに福笑師匠が楽屋入りとめまぐるしい中、本日の主役、六代目笑福亭枝鶴師匠の登場となりました。
代々枝鶴の出囃子の小気味の良い『だんじり』で高座に姿を見せると本日一番の拍手が起こる。「えー、改めまして、小つる改め六代目笑福亭枝鶴を襲名させて頂きました」との挨拶。会場からは鳴り止まない大きな拍手が起こる。
 マクラの後、始まった本題は先代師匠も当代も十八番の直伝の『禁酒関所』の一席。
発端の藩きっての酒豪の村上の旦那が訪れるクダリをカットして噺はスタート。当代の十八番とあって随所に仕込まれたクスグリで場内は大爆笑の連続、上方落語伝統?の小便のクダリではさらに大きな笑いが起こって、見事なサゲとなって、大爆笑連続の『襲名披露公演』はお開きとなりました。