もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第392回 
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 公演日時: 平成23年 4月10日(日)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 林家  竹 丸  「平の陰」
 桂   三 若  「ライフ イズ ワンダフル」
 笑福亭 岐代松  「時うどん」
 桂   春 駒  「神様のご臨終」
   中入
 桂   春 蝶  「任侠伝」
 林家  染 丸  「鶴満寺」(主任)

   打出し  20時45分
   お囃子  勝 正子
   手伝い  林家愛染、桂 壱之輔、桂 紋四郎。
 めっきり暖かくなった当日は晴れの日曜日。お客様の出足も絶好調。
そして、各地で開催される折込チラシ数も過去最高を更新。人海戦術で折込を終えると同時に開場となり、ゆっくり、ゆっくりお客様にご入場頂き、席は次々埋まっていき開演の六時には満席となりました。

 満席の四月公演のトップバッターは、トリの染丸一門から、
地元、神戸大学出身の林家竹丸師。早くから楽屋入りされ開演準備のお手伝いをして頂き、定刻の六時半、『石段』の出囃子で高座へ。「えー、ありがとうございます。もとまち寄席恋雅亭・第392回公演、只今より開演でございます。まずは、『落語会の子泣きじじい』、林家竹丸の方でお付き合い願っておきます。」とつかみの挨拶。客席からは賛同の笑いが起こる。マクラで笑いは体に良いことが科学的に証明された。それも、漫才よりも落語、大阪よりも神戸、その中でも恋雅亭で聞くのが一番だと紹介して、始まった本題は、字が読めないのに、読めると知ったかぶりをする噺、『平の陰』。この噺、東京では『手紙無筆』と呼ばれ、上演時間が十分前後と、寄席向きな噺で特に時間のない時はピッタリな噺。 しかも、登場人物も、二人だけで、そんなに難しい噺ではないと思われれがちですが、ここが落語の難しい処で、なかなか呼吸が難しく、テンポ良く演じるのではなく、字の読めない人が、これまた字の読めない人に、手紙を読んでるふりをするののですから、間延びしないように間合いを十分とらない受けない難しい噺です。その噺を竹丸師は自身のキャラクターを十二分に生かして間合いもバッチリ。会場からはクスクスと狙い通りの笑いが連続して起こる。ますます面白くなりそうな予感を感じさせる十五分の好演でありました。
 この噺に登場する手紙の書き出しは、「拝啓(結びは敬具、拝具)」、「謹啓(結びは謹言、謹白、頓首、敬白)」、「前略(結びは草々、不一、不尽)」、「前文御免下されたく候(結びはかしこ)」と、いかにも読めるように登場する。

 二つ目はこの師も神戸出身、全国を走り回っての落語会や地元の「中道寄席」などの地域寄席へも出演される勉強家の三枝一門の貴公子・桂三若師。
 『辰巳の左褄』の出囃子で元気良く高座へ登場し、「続きまして、落語界の寝起きのジュリー」と鉄板のつかみで場内は大爆笑。マクラは、山口県防府市の高校に落語をしに行き防府高校の校門前でバスを降りて遭遇する爆笑マクラ。大いに盛り上がって始まった本題は自身の創作落語、『ライフ イズ ワンダフル(人生はいいものだ)』。ペットショップに犬選びに来たカップルの会話に犬がツッコムという落語でしか表現出来ない爆笑編。今回はサゲも二段とおまけつきで、犬の噺で「猫かぶった」というサゲらしきクスグリに場内からは拍手が起こる。これを「まだ、終わりちゃいます」と、打ち消すと場内は大爆笑。さらに盛り上げってサゲとなった二十分の高座でありました。

 三つ目は笑福亭一門から笑福亭岐代松師。
今回も一門伝統の豪放磊落な上方落語をバイタリティ一杯演じるべく準備万全。『どて福』といういかにも上方らしい出囃子に乗って長身をやや前かがみにして座布団へ・・・。ここで緊急事態発生。お茶子さんが置くのを失念し小拍子がない。「小拍子が・・・・。」、その声に大慌てで用意。「それでは、やり直し」と、再度、出囃子に乗って高座へ。これに場内は大爆笑。見事にムードを変えてマクラが始まる。「えー、我々はここ(恋雅亭)へは二年か二年半に一回、出してもらっていますが、ここには厳格な規則がありまして、受けなかったらそれが、四年に延びます。今日のお客様が笑うか笑わないかで決まります・・・。先ほどの噺はサゲが判り難くかったですが、私のほうは誰でも知っているサゲで・・・」。昔の時間の説明から本題の上方古典落語の定番中の定番『時うどん』の一席がスタート。この噺、岐代松師が言うように誰でも知ってる。それだけに演じ、爆笑をとるためには力量が必要となる噺。原話は『軽口初笑』(1726年)の中にあり、東京の『時そば』は、明治時代に三代目柳家小さん師匠が東京に移植して有名になった噺で元祖は上方。 間合い、仕草、そして、現在に通じるクスグリと大受け要素タップリの次回の出演が待ち遠しくなる二十分の好演で、何より演者ご自身の「五つ、六つ、七つ、三文損しよった。」の後の「ドッカーン。」がそれをものがたっています。
 マクラでは昔の時間の数え方の説明もありましたが、補足を一つ。日の出を「明け六つ」日の入りを「暮れ六つ」とし、それぞれの間を六等分していますので、よって、季節により昼夜の長さ、一刻の長さが変化をしています。最も昼間の長い夏至と短い冬至【正確には違いますが】では、約四時間違いますので、一刻は四十分の差があることになります。代金の十六文は今では160円位となります。
 高座を下りてこられた岐代松師と談笑。「今日もありましたね。」「そうですわ、前は喉の調子が悪かったのでお茶を出して貰いました。」「そうそう、高座へ出たら見台の上にお茶が乗ってた。」「大笑いですわ、私も場内も。」「それから、出演前に骨折も。」「ありましたわ、あれで一回飛びました。面白いもんですな。おやっさんと楠本さんが天国で笑ろてはるやろな。」

 中トリは昭和46年入門でキャリア40年の上方落語界の重鎮・桂春駒師匠。
いつも通り『白拍子』の出囃子でユッタリと登場すると、会場からは大きな拍手と、「待ってました」の掛け声がかかる。「岐代松さんが、『初天神』やというので『替り目』を全編、演(し)ょうと思っていましたが、えらい『初天神』(笑)で、うどんがかぶりますので別の噺を・・・。」と、始まったのは桂三枝師匠の創作落語、『神様のご臨終(逢坂まひょ・原作)【三枝師匠の初演は平成七年六月】』。春駒師匠の噺はもちろん、三枝師匠直伝。ある日、主人公に電話がキリストからかかってきて、二十席の神様の臨終に立ち会って欲しいとの依頼を受ける処から始まる。
 全編、駄洒落のオンパレードで実に面白い噺をさらに古典と創作の両刀使いの春駒師匠が随所の新しいクスグリやサゲにも化粧を施した秀作。同じ言葉でも師匠の絶妙の間にかかると笑いが増幅されるのはやはり芸の力。受けに受け、笑いに笑いを誘った二十五分の好演でお仲入りとなりました。

 中入りカブリは当席でも襲名披露公演を開催されました桂春蝶師が、「えー、恋雅亭のカブリですか。ここは重責です。」と、さらに当席ならではの春駒、染丸の両先輩に挟まれての出番とあって意気込みもバッチリで、小気味の良い『祭囃子』で元気一杯に登場すると場内は大きな拍手に包まれる。『祭囃子』は、現在、東京では同じく親子噺家の二代目林家三平師匠が使用中で、実兄にあたる九代目正蔵師匠がこぶ平時代に、さらに昭和の爆笑王の先代三平師匠も使われた囃子であります。
 「えー今日、初めて言いますけど、実は私、マイナス思考なんです。」からスタート。学校寄席での紹介のされ方で、「では今からこれが芸か、という落語を演じてもらいます。」「一生懸命やってもらいますから辛抱して聴く様に。」と紹介して、原因は自身の幼少時代のトラウマ。「鶴瓶師匠の麻雀牌、飲み込み事件」「上岡竜太郎・桂ざこば・桂春蝶の女の口説き方」を紹介して笑いに変え、始まった本題は、『任侠伝』。皆様、よくご存知の先代春蝶師匠作の爆笑落語。
 その噺を先代の口演を基本に随所に自身の工夫を盛り込みパワーUP、さらに、高倉健に憧れる主人公に対して、「難波金融伝・ミナミの帝王」の竹内力に憧れる警察官との対決でサゲとなるように工夫された二十分の再演を期待したい秀作でありました。

 さて、卯月公演のトリは、当席最多出演の四代目林家染丸師匠の登場となりました。
師匠はご説明するまでもなく、当席の「柿落し公演」の『蛸芝居』から昨年3月の『三十石夢の通い路』まで名作揃いの好演の連続で、今回も満を持しての楽屋入りとなりました。『正札付き』の出囃子で高座へ登場すると会場から「待ってました」と大きな掛け声が飛ぶ。「えー、ありがとうございます。一杯のお詰め掛けでございまして、只今は春蝶さん、先代とはあまり似ていませんええ男で、お母さん似でして・・・」と、挨拶から、「桜の、この季節に合ったお噺を、噺の舞台は大阪の長柄で、たいこ持ちが登場します。」と、旦那に合わせるたいこ持ちと旦那の会話をマクラに本題の上方でも珍しい『鶴満寺』の一席がスタート。
 この噺、染丸師匠も三十数年ぶりとのことで、上方でも演じ手は、二、三師で、東京でも八代目桂文楽師匠と珍しい噺と言えます。若旦那、お茶屋のおかみさんや、芸者衆(から松、荒神松、おちょね。こちょねんさん)、そして、たいこ持ちの一八のご一行様が鶴満寺での花見と出発。
 この鶴満寺さんは地下鉄「天神橋筋六丁目」駅を北東へ3分ほどの所にあり、植えられた枝垂桜が見事で、大阪の桜の名所と称えられていましたが、明治十八年のたが洪水で大被害を受け全滅となったそうです。 この落語の時代は全盛でその道中の陽気なこと。しかし、行儀の悪い花見客にお寺は門を閉められています。そこは、金に物を言わせてやり手の一八が寺男の権助を見事に攻略して花見を敢行。この権助の次第に酔っていく姿の描き方が演者の力の要る処でしょうが、染丸師匠の名演に場内は爆笑に次ぐ爆笑に包まれたことは言うまでもありません。
 粗筋が狂言の『花折』と良く似ていますので、原話はこれでしょうし、サゲの仕込みとなった権助に袖の下として握らせた百文と二朱は今の価値にして七千円程度。季節観溢れる噺で満員の恋雅亭四月公演はお開きとなりました。