もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第391回 
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 公演日時: 平成23年 3月10日(木)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 林家  染 左  「つる」
 桂   わかば  「蔵丁稚」
 笑福亭 純 瓶  「犬の目」
 桂   千 朝  「抜け雀」
   中入
 笑福亭 鶴 瓶  「お直し」(主任)

   打出し  21時05分
   お囃子  林家 和女、勝 正子
   手伝い  桂 三ノ助、笑福亭たま、べ瓶。
 当日は曇りのち小雨(開場を待たれるお客様には大変ご迷惑をお掛けいたしました)。
本公演は笑福亭鶴瓶師匠の出演とあって、二月十一日より発売の前売券も午前中に完売。その後も電話、メールでの問い合わせも多い中、当日を迎えました。
 なんと、当日の一番の来場者は正午。さらに二時までには約二十名様が階段に列を作られる。その後も、「えー! いつもより一時間も早く来たのに。」「今日はこうなると思たわ」と、感想を述べられて、どんどん列は長くなっていく。いつも通り届く折込を人海戦術で実施し、開場準備をを実施し定刻の五時半に開場となり、ゆっくり、ゆっくりお客様にご入場頂き、席は次々埋まっていき六時を待たずに満席となりました。

 立ち見覚悟のお客様もご入場頂き、二番太鼓の後、定刻の六時半に3月公演のトップバッター、林家染丸一門の林家染左師の登場で開席となりました。染左師は染丸一門の八番弟子。平成八年入門のキャリア十五年で一門では染雀師が大阪大学、竹丸師が神戸大学と国立大学出身に並んで、最終学歴は大阪大学であります。もったいない(キャリア十五年がトップでの意味)。早くから楽屋入りして、楽屋準備やご自身の会の「めふ乃寄席」や「須磨名谷亭」など、多く届いたチラシの折込みのお手伝い、二番太鼓(着到)の笛と大忙し。 定刻の六時半に『石段』の出囃子と会場から巻き起こる盛大な拍手と共にいっぱいの笑顔と共に高座へ登場。「えー、一杯のお運びでございましてありがとうございます。只今より開演で、あれ、ここに・・・・・」と、行方不明になっていた笛の袋が帯に挟まっていたのを発見。本日、一発目の爆笑となる。 取材に行った時の海女さんの潜っていられる時間の意地の張り合いのマクラから、始まった演題は『つる』の一席。
 この噺、上方の根問物の『絵根問』の一部分を四代目桂米團治師匠が独立されたとされる噺で、米團治師匠の作られた台本をベースにして前座噺として扱われることが多いが、米朝師匠は「上方落語で難しい噺は何んやと訊かれたら『百年目』と『つる』や」と言われる。演じ方次第では全く受けずにサゲも活きない口演となってしまう噺であります。
 染左師はその噺を基本に忠実に演じられ、ご自身のクスグリであろう「へーときて、び、と止まったら、へび」も爆笑と、ツボツボで大きな笑いが起こった十五分の熱演でありました。

 下りてこられた染左師の感想は、汗を拭き拭き「ええ、お客さんですわ、ここのお客さんやったらこの噺は何百回と聴いてはるのに、ようけ笑ってもらえて、演(や)り易かったですわ」。この噺の中で、「上がって来て、いきなりじょら組む奴があるかいな。」という件があります。「じょら組む」は、染左師も口演でさりげなく説明されましたが「あぐらをかく」こと。その語源は「丈六(じょうろく)」。坐像の仏像はあぐらをかいていなすが、その姿と仏像の高さが多くが一丈六尺であったため、丈六の処からの説があるそうです。

 二つ目はざこば一門から、桂わかば師の登場。
いつも笑顔の師匠、本日もやや恥ずかしそうに『まかしょ』の出囃子で高座へ登場。出てきただけで会場全体がほんわかムードになると感じるのは小生だけではないであろう。「えー、うちの一門を紹介しますと、都丸(塩鯛を襲名)、出丸、ここまでが朝丸時代の入門者、ざこば襲名の三日後に入門のわかば、あと、ひろば、ちょうば、そうば。そして、あおば、この男は男前ですが師匠の奥さんをおばはんと呼ぶアホです」と紹介。
 マクラで、ざこば師匠と談志師匠の前で落語を演じ、師匠に大恥をかかせた実話を紹介して、始まった演題は忠臣蔵を題材とした『蔵丁稚』。この噺の原話は二百四十年位前に出版された『千年草』の中にあるそうで、上方では多くの演じ手のいる噺で、わかば師の大師匠にあたる米朝師匠の十八番でもある噺です。 発端からサゲまで、キッチリと、口跡もハッキリと演じられる。この噺、丁稚が芝居を演じる時にちょっとでも照れると台無しになってしまうなど、随所に難しいくだりのある噺だが、わかば師の口演は照れることなく、『忠臣蔵四段目』の舞台も参考にされたことがよく判る、見事に演じきった二十二分の好演でありました。

 この噺、東京では『四段目』として演じられていますが、中でも先年お亡くなりになられた古今亭志ん朝師匠が、六代目笑福亭松鶴師匠に直談判して口伝され演じられておられました。この口伝の時の逸話を、志ん朝師匠から「六代目のお師匠はんは照れ屋でしょ。私、一人にね大きな声で熱演してもらいましたよ」とお伺いしました。

 三つ目はトリの鶴瓶一門から「純ちゃん」こと笑福亭純瓶師匠。
天性の明るさが漂う純ちゃん、楽屋するなり元気一杯。♪梅が枝の、手水鉢、叩いてお金が出るならば、もしもお金が出た時は、その時ゃ身請けを、そうれたのむと、俗曲をモチーフとしたノリノリの出囃子『梅がえ』の出囃子と、満員の客席に自身を奮い立たせるかのように気合を入れながら高座へ登場。「えー、わっ、もう一杯のお客様で、私ら三十人以上の前で演ったことないのであがります」とあいさつし、花粉症の話題に。客席からくしゃみが聞こえると「花粉症の方はどうしても反応してしまうのです。杉原さんとか杉本さんの名前を聞くだけで反応します」。と、笑いを取って「昔は医学も発達していませんでして・・・」と、始まった演題は、『犬の目』の一席。
 多くの先人の名演と自身の工夫のエキスがギュっと濃縮され、随所に盛り込まれたクスグリに会場からは大きな笑いが起こった十五分の好演でありました。

 中トリは米朝一門から桂千朝師匠が『本調子鞨鼓』の出囃子でユッタリと登場し
「えー、ありがとうございます。落語の中には昔のことがよく出てまいります・・・。長屋なんかがありました。路地で遊んでると『おいたをしてはいけません。お坊ちゃま』」と・・・、言われてた子と遊んでおりました」。ゆっくりユッタリの口調に会場は一気に千朝ワールドへ突入。
 マクラは続いて、「遊園地も無くなりました。阪神パーク、宝塚ファミリーランド・・・。昔はコーヒーカップや薬局の前で十円で動く乗り物でも興奮してましたけど、今は風神雷神ですか・・・。」と、昔のよき時代の思い出。さらに、乗り物の昔と未来を扱った小咄、江戸時代は駕籠がありましてと、サゲをサラッと仕込んで、始まった本題は米朝師匠直伝の『抜け雀』の一席。
 何事にも動じない絵師と宿屋の夫婦の会話で爆笑を、親子の情でホロリさせ、余韻を残すサゲも素晴らしかった二十五分の好演でありました。

 三月公演のトリは二年半ぶりの出演の笑福亭鶴瓶師匠の登場となりました。
『新ラッパ』の出囃子で師匠が高座へ姿を見せると本日一番の大きな拍手と「待ってました、たっぷり」の掛け声、座布団へ座ると前列の追っかけのファンの一団が手作りのプラカードを振りながら、「つるべさーーーーん」。
 それに応えて「えー、なんですねん。今日は落語会でっせ」。絶好のタイミングで「待ってました」と声が掛かかると、「そういうのは良んです。今日は落語会で・・・」と盛り上がりも最高潮。「えー、今日は昼、『いいとも』に出てまして、それを終わってここに来ました」と、大爆笑マクラがスタート。今、のレギュラー番組で「Aスタジオ」での竹之内豊さんとの裏話や最近、放送された「家族に乾杯」での高校の友人とのエピソードを紹介(これは、自作の『松岡』で口演)。 忙しい中、去年は『転宅』、『錦木検校(にしきぎけんぎょう・別名:三味線栗毛)』、そして『ちんげ』の三席をネタ下し。その中の『ちんげ』の一部分をダイジェストでと大爆笑マクラに場内は大満足。
 そして、本日の演題をネタ下しに近い『お直し』と、元々は江戸の噺やったのを、舞台を東京の吉原から大阪の新町に置き換えて、主人公の吉原から来た花魁のみ江戸弁で、その他の登場人物は大阪弁にと、完璧に上方に移殖出来ましたと発表。 さらに、「お直し」「親元身請け」の意味や、その当時の色町の料金体系を紹介、「勉強になりまっしゃろ、メモした。こんな説明するの私だけですよ。」と、つないで本題がスタート。男と女、自分の女房に客を取るように頼む亭主とどうしようもない亭主の頼み事をしぶしぶ承知する夫婦の情愛を縦糸にたくましい商魂を横糸に演じられた口演はシーンと聞き入る場面から一転して爆笑が起こる場面と飽きささない。大阪色町の新町の中でも場末の描写も素晴らしく、満員の会場の全てのお客様の頭の中の想像場面にも見事に描き出された秀作。
 サゲも東京のそれに師匠の工夫が入ってより上方風にと、マクラからサゲまで一時間弱の高座は天井が抜けるような大きな拍手と共にお開きとなりました。

 平成5年11月公演から当席での鶴瓶師匠の落語が大爆発します。
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