もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第390回 
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 公演日時: 平成23年 2月10日(木)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 林家  市 楼  「江戸荒物」
 桂  こごろう  「強情灸」
 桂   珍 念  「二人癖」
 笑福亭 呂 鶴  「千早振る」
   中入
 月亭  八 天  「がしんじょ長屋」
 桂   文 珍  「猿後家」(主任)

   打出し  20時50分
   お囃子  林家 和女、勝 正子
   手伝い  笑福亭呂竹、呂好、月亭天使
 第390回もとまち寄席恋雅亭は、寒さの厳しい2月10日の木曜日に開催されました。
前売券は発売日の翌日の午前中に完売となり、その後も問い合わせの電話も多く前景気も最高潮で、開場を待たれる多くのお客様の列が長く続く。折込のチラシも二十枚を超え人海戦術で準備。そして、定刻の五時半に開場し待ちわびたようにご入場されるお客様で場内は満席となり、立ち見のお客様もおられる中、一番太鼓、二番太鼓から六時半に開演。
 『石段』の出囃子と共にトップバッターの林家市楼師の登場となりました。
初出演となられる市楼師ですが、当席へは師匠で実父にあたる四代目林家染語楼師匠とご一緒に来演されておられたでの現場はよくご存知。開演準備に汗を流される。「えー、林家市楼・・・」と、挨拶すると会場から本日、一度目の爆笑が起こる。「野球のイチロウ選手は200安打ですが、私の方は同じ200の記録がありまして、200日仕事がオフ」。これにも続いて大爆笑が起こる。マクラもそこそこに始まった本題は『江戸荒物』の一席。
最近ではやや珍しい噺に属す噺となったのかお耳新しく、口伝に忠実に、さらに汗ブルブルの熱演なので、場内はツボツボで爆笑が起こる。
 この噺、江戸弁で応対すると物が良く見えるとの発想で慣れないチンプンカンプンの江戸弁を使うのだがうまくいかない。 し と ひ のアクセントの違いや、「ざる=いかき」「天秤棒=朸(おぉこ)」「たわし=切り藁」の物の呼び名が違ったりと爆笑の連続。
 サゲでは更に田舎から出てきたばかりのおなごしさんが登場してまたしても言葉が通じず大騒動が起こり、また爆笑。客席も演者も大満足な十五分の高座でありました。
 下りてこられた市楼師、汗を拭く拭き「嬉しかったですわ。憧れの高座でしたし、ええお客様やし、・・・。ライトは暑かった」。

 二つ目は、南光一門の筆頭弟子の桂こごろう師。
「お先、勉強させて頂きます」と元気良く『復興節』の景気の良い出囃子で高座へ登場。「えーよろしくお願い致します。続きまして桂こごろうでお付き合いを願っておきます。まことに大胆な名前でございまして、ひらがなで書いてあります寄席文字でございますので決して「てでろう」とは読まないで下さい」とのツカミからスタート。
 始まった本題は『強情灸』の一席。「その位のお灸なんてどうもない」と啖呵を切った強情な男、いざ火が廻るとあまりの熱さと葛藤する。そのさまをコミュカルに表情豊かな熱演に場内は大爆笑。あっという間の十五分の高座でありました。
 東京では人間国宝の五代目柳家小さん師匠をはじめ多くの演じ手がいる噺ですが、元々は上方の『やいと丁稚』と言う噺で、今は演じ手のない噺となっています。お灸の材料のもぐさは、お餅にまぜて作るお菓子の「よもぎ餅」、別名を「草餅(くさもち)」の材料のよもぎから作るそうです。天日で「よもぎ」の葉を乾燥させ、臼(うす)でひいたりついたりして葉の繊維をくだき、ふるいにかける。この作業を繰り返せば良質なもぐさの出来上がりだそうです。

 三つ目は文珍門下の二番弟子、桂珍念師匠。
『ずぼら』のイメージピッタリの出囃子で登場。この師匠が登場すると、会場全体が暖かく感じられる。 当席では鉄板で大受けの得意のフレーズから小咄を一席。場内は本日一番の大爆笑に包まれる。「今日はこれだけが受けたら満足です」と、ノリノリのハイトーンで本題の『二人癖』の一席が始まる。 この噺、登場人物も少なく、トントンと小気味良く演じないと受けない難しい噺ですが、逆にはまると大受けする噺。勿論珍念師匠は後者でいつもながら、いや、いつも以上の絶好調の珍念師匠でありました。

 中トリは笑福亭一門の大御所、「ローやん」こと笑福亭呂鶴師匠。
いつもながら気さくでダンディな師匠、今回も和服姿で木戸口に来られあいさつを交わしての楽屋入り。いつもながら『小鍛冶』の上品な出囃子に乗って落ち着き払って高座へ登場。
 「えー、たった今のニュースで、皆様方もよくご存知の読売巨人軍の長嶋名誉監督が、本日の六時十分、大勢の家族に見守られながら・・・、夕食を終わられた・・・」。場内は一瞬、静寂に包まれ即、大爆笑に変わる。その反応を見て楽屋へ「おい、まだこのネタいけるぞ」と、ガラッとムードが一変して始まった演題は『千早振る』。自分の娘から百人一首の解釈を聞かれて飛び込んだ先の隠居との短歌の珍解釈が「そんなあほな」と笑える噺。その噺を楽しむように演じられる師匠の口演に場内からはツボツボで笑いが起こる。サゲもズバッと決まってのお仲入りとなりました。
 この噺、今から二百年以上前の初代桂文治師匠の作と言われ今までに色々な改作が加わり、今では多くの演じ手がいる噺であります。「千早ふる 神代もきかず 竜田川 からくれないに 水くぐるとは」本当のこの短歌の意味は、「山を彩る紅葉が竜田川【奈良県生駒市】の川面に映り、唐紅のくくり染めのようである。このようなことは神代にも無かっただろう」で、勿論、相撲取りや花魁は出てきません。

 仲入りカブリは、月亭八天師匠。当席へは一年半ぶりの出演となりました。
弟子の天使嬢を引き連れて楽屋入りして念入りにネタの準備され、『おかめ』の出囃子で高座へ。「今日はけったいな噺をしますので是非、がんばって付いてきて下さい」と前置き。落語は「想像の芸」と、扇子を使って仕草を披露。扇子一本を使って箸(うどんから餅)、みたらし団子、筆、 釣り竿、手鏡、徳利などと変化させて見せると場内から拍手も起こる。
 そして始まった本題は、SF作家の牧野修氏原作の『がしんじょ長屋』の一席。なんとも奇妙奇天烈な内容と、羽織は勿論、着物、襦袢も活用し脱ぎ捨てての熱演に場内は爆笑の連続。二十二分の高座に大きな拍手が送られてトリの文珍師匠と交代となりました。

 そして、2月如月公演のトリは桂文珍師匠にとっていただきました。早くから楽屋入りされた師匠、過去のネタ帳を念入りに御覧になり、本日のネタを模索されておられるご様子。
 八天師匠の口演を高座袖で楽しそうに御覧になり、『円馬囃子』の名調子に乗って、いつものようにゆったりと高座へ。会場からは本日一番の拍手が起こる。先ほどの八天師匠の口演を楽しむように「デンデロデンデロ・・・」と第一声。会場からは大きな笑いが起こる。
 マクラは落語風に題して『今世間根問』とでも言うような最近のニュースが二人の男の会話で繰り広げられる非常に新鮮な演出。小沢一郎・相撲八百長問題など次々に繰り出される話題は多岐に渡って、そして、切り口も鋭く繰り広げられる話題ぶ場内は爆笑の連続。
 そして、始まった本題は、文枝師匠十八番だった『猿後家』の一席。ご存知、猿顔と笑われた大家の後家はん。「さる」という言葉を禁句にしてします。お店(たな)をしくじるまいと悪戦苦闘する多弁な主人公、女主人としてのプライド、ひやひやしながら成り行きを見守る奉公人と役者は揃っての大爆笑編の半時間強。大いに盛り上がった二月公演も無事お開きとなりました。
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ここで登場する美人を解説しますと、
「小野小町」 詳しい系譜は不明で、絶世の美女、七小町などの逸話がありますが、
絵でも後姿が 大半で素顔は不明。
「照手姫」 小栗判官(おぐりほうがん)との恋仲で伝承されてきた物語の主人公。
苦労の末に結ばれる。
「衣通姫」 その美しさが衣を通して輝くことからこの名が付いたとされる
(そとおりひめ) 本朝三美人の一人。
「楊貴妃」 中国唐時代の玄宗皇帝の寵姫。寵愛しすぎたために安史の乱を
引き起こしたため、傾国の美女と呼ばれ、古代中国四大美女
(西施・王昭和君・貂蝉)、世界三大美女(クレオパトラ・小野小町) の
一人と呼ばれている。
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 文珍師匠が当席で初めてトリをとられたのは、阪神大震災の一週間前の第201回公演から、以後、一回のネタの重複もなく今回の『猿後家』まで17席、熱演揃いでありました。
『たいこ腹』『天狗裁き』『らくだ』『七段目』『宿屋仇』『星野屋』『はてなの茶碗』『軒付け』
『胴乱の幸助』『三枚起請』『七度狐』『御神酒徳利』『天神山』『百年目』『粗忽長屋』
『高津の富』