もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第389回 
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 公演日時: 平成23年 1月10日(月)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂   ひろば  「狸の賽」
 林家  染 雀  「掛取り」
 露の  新 治  「紙入れ」
 桂   雀 松  「おごろもち盗人」
   中入
 笑福亭 三 喬   寿獅子舞
 笑福亭 仁 智  「ハードラック」(主任)

   打出し  20時50分
   お囃子  勝 正子
   手伝い  笑福亭智六
 新年、明けましておめでとうございます。
平成二十三年一月十日は「成人式」での休日、三連休であります。寒さの厳しい中、正月らしい華やかな雰囲気の元町通りに今年もいつものように開場を待たれる列が出来、「第389回もとまち寄席・恋雅亭 新春初席公演」が開催となりました。
 事前の景気もバッチリで当日はいつものように多くのお客様で開場を待つ列が三連休で人通りの多い本通りに溢れました。開場は多く届いたチラシの挟み込みの準備も完了した、いつもと同じ五時半。待ちかねた多くのお客様が一番太鼓と共に入場され客席が埋まっていき六時半には大入満席での開演となりました。

 新春初席公演のトップバッターはざこば一門から、上方落語界巨漢の雄、桂ひろば師。
師匠ゆずりの豪快、陽気、元気一杯の高座を今回も全開させるべく、普段の『石段』に変わって初席のトップだけに奏でる『十日戎』の出囃子で登場。「えー、一杯のご来場、ありがとうございます。まずは私、上方落語界の若乃花、桂ひろばの方で・・・。」とあいさつ。
 「今日は朝、東京で一席、大阪へ戻って繁昌亭に出演し、ここ、この後、最終の新幹線で東京へ・・・。そんな忙しい噺家になりたい・・・。」と得意のツカミで本年初の爆笑を誘い、博打好きな狐と狸の小咄とマクラをつなぐ。そして、始まった本題は上方では演じ手の人数が五本の指に入るご存知『狸の賽』の一席。師の風貌が可愛い狸とダブリ、仕草もクスグリもキッチリ決まり、その都度、場内は拍手喝采となった十五分の高座でありました。

 二つ目は染丸一門の林家染雀師。
大阪大学文学部美学科を卒業し、平成4年に四代目林家染丸師匠に入門した逸材で、趣味も芝居見物、茶道(裏千家)、長唄や三味線、日本舞踊(藤間流)。それも趣味の域を超えるレベルで熱心そのもの。そして、当席でも御馴染みの白塗りの芸者姿で、あやめ嬢はバラライカ、染雀師は三味線やアコーディオンを演奏しながら音曲漫才を進めていく『姉様キングズ』としても大活躍。その染雀師、師匠譲りのテンポUPの上方落語を演じるべく、小唄『どうぞ叶えて』の出囃子で登場。会場からは大きな拍手が起こる。
 この『どうぞ叶えて』は、「♪〜どうぞ叶えてくだしゃんせ、 妙見さんに願かけて、参る道にもその人に逢いたや見たや恋しやと、こっちばかりでさきゃ知らず、ヱーヱ、しんきらしいぢゃないかいな」の小唄で、東京では、先代・当代の金原亭馬の助師匠の出囃子でもあります。
 当席の常連の染雀師、今席は昔は師走の風物詩であった『掛取り』の一席を年が明けてしまいましたがと断ってスタート。大晦日に数多く訪れる掛取りとのやり取りをコミュカルに描くこの噺、多くのクダリがあるが、その中でもご自身も造詣が深い「狂歌」「義太夫」「芝居」好きな掛取りにスポットを当てて演じられる。造詣が深いだけあって義太夫の語り、芝居の役者もお見事そのもの。ツボツボでは大きな拍手が起こり、「大晦日の風景で」とまとめて二十分の爆笑高座はお後と交代となりました。

 三つ目は五郎兵衛一門から露の新治師匠が、久々の出演となりました。
愛嬌タップリの笑顔と目にも鮮やかな白朱子の紋付で落ち着き払って民謡『金毘羅』の出囃子に乗って高座へ登場となりました。
 この『金毘羅』は、「♪〜金毘羅船々(こんぴらふねふね) 追風(おいて)に帆かけてシュラシュシュシュ まわれば、四国は 讃州(さんしゅう)那珂の郡(なかのごおり) 象頭山(ぞうずさん)金毘羅大権現(だいごんげん) 一度まわれば」と有名な民謡・お座敷歌で、東京では、落語芸術協会最高顧問の桂米丸師匠、落語協会の三代目柳家権太楼師匠の出囃子。権太楼師匠が登場の際にこの出囃子が鳴ると客席からは手拍子が起こる程のテンポUPな名調子であります。
 「えー、明けましておめでとうございます」とあいさつし、可愛くてしょうがないお孫さんを正月休みにお風呂に入れ、***に遭遇してもお構いなしのほのぼのとしたマクラで場内を新治ワールドへ誘い込む。日本語はややこしいと、大阪のおばちゃんの日常会話から、深刻そうなアベックの女性の喫茶店で発した一瞬で周りを凍りつくした三文字とは「生むで」と、マクラをつないで始まった本題は『紙入れ』の一席。落語にも流行(はやり)や廃りがあるようで、この噺は前者に属して当席でも良く演じられ様になった噺。主人が可愛がっている弟分の貸し本屋の新さんをその奥さんも可愛がるパターンの噺で、「町内で知らぬは亭主ばかりなり」の間男噺。
 この噺の舞台の江戸時代の「密通(不倫)」が、今と根本的に異なるのは、当時の法律では、掴まれば二人とも死罪、さらに「密通の男女共にその夫が殺し候はば、紛れも無きにおいては、おとがめ無し」、密通の現場を夫が押さえれば、二人を束にして斬り殺しても構わないと、定められているほどの重罪とあり密通した相手の男のことが、俗に「間男」(まおとこ)という。現実には「その罪を許して亭主五両とり」、と示談金で済ませるということが行われていたらしい。さらに、「据えられて七両二分の膳を食い」と、据え膳に応じたら、なんと夫婦共謀で示談金を巻き上げる「つつもたせ」の手法もあったらしい。余談だが、この「つつもたせ」は漢字で書くと「美人局」と書き昔は入社試験問題にも出たことがあるらしい。
 このロケーションなので、命を落すかも判らない間男のビクビク度合いは大変なもので、その噺を実に見事に演じる新治師匠の口演に場内は「クスクス」と漏れるようなな拍手が起こった。
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口演後の師匠の感想がご自身のHPに掲載されていました。
 兵庫県神戸市の元町寄席「恋雅亭」(れんがてい)。私は、「紙入れ」をかけました。最高のお客様に支えられ、楽しく務められました。恋雅亭のお客様は、私の中でナンバーワン!です。正直、独演会のお客様よりいいのです。私のことを全く知らないのに、温かく迎えてくれはります。ほんまに落語がお好きなんでしょう。ありがたいかぎりです。
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 新春初席の中トリは、枝雀一門で、地元神戸出身の桂雀松師匠。
「えー、私の方もお付き合いを願っておきます。お付き合いと言いましても・・・。昔は落語なんかなかった。世間は困ったか?。困らへん。けど、今、落語がなかったどうか?・・・。誰も困らへん」と得意のフレーズ。そして、盗人の小咄を披露して始まった本題は『おごろもち盗人』の一席。
 貧乏長屋の夫婦が間抜けな盗人をひょんなことから捕まえ、一騒動が巻き起こる。何とか逃げようと盗人が次々に言い訳を繰り出すが、主人に見事に返される。その都度、会場は大爆笑。夫婦が寝てしまうと通りがかった男に助けを請う盗人だが、逆に・・・・・。
 全編、爆笑の連続の雀松師匠の半時間弱の好演でお仲入りとなりました。

 中入りカブリは、初席らしく「寿獅子舞」を
平成8年初席の第209回公演以来となる笑福亭三喬師匠に演じていただくことになりました。
ご陽気なお囃子に乗ってお獅子が登場すると会場からは待ちかねたように拍手が起こる。
 まずは、腹ごしらえと、タイミング的にはちょっと早いご祝儀がお獅子の口に。お獅子は満腹ではなさそうで、お代わりを要求するがなく、地団駄。数々のポーズも見事に決まり、お客様の投げるミカンのキャッチにチャレンジするが、うまくいかず、直接、口に入れてもらう。
すると、すぐさま皮が出てくる。これには場内、大喝采。
 決めは「落語は恋雅亭、お買い物は風月堂」「獅子舞のご用命はこちらまで」「電話番号は・・・・・」との三つ掛け軸を見せ、ここで初めて顔を見せてお客様からの大きな拍手をもらってトリと交代となりました。

 平成二十三年の新春初席のトリは笑福亭仁智師匠。
ご陽気な「オクラホマミキサー」のお囃子に乗って高座へ登場。
 「えー、ありがとうございます。今年も一年もとまち寄席恋雅亭をよろしくお願い致します」と挨拶から、ツキのない自身の経験談のマクラがスタート。「この後、打ち上げあるのに明日が健康診断で飲めない」「駅の自動販売機に並んだら前のおばあちゃんが遅かった」などで笑いを誘って始まった本題は自作の爆笑創作落語の『ハードラック』。
 ツイてないのであらゆる手段で自殺を試みるがことごとく失敗。そこで考え直して生きることを決意するのだが・・・。ポンポンと起こる場面転換。その一つ一つの場面に見事に笑いが散りばめられており、全編、テンポの良い笑いが連続して起こる。
 乗り乗りの演者の高座にノリノリの客席が爆笑で応じる。その好循環が続いた初席トリの二十五分の爆笑高座でありました。
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 先月号のクイズの問題:「質屋蔵」は落語には珍しい秋の噺ですが、どこで判るでしょうか?
回答:丁稚がてったいの熊はんへの情報提供のお駄賃に買ってもらい美味しそうに食べるのが「焼き栗」。栗は秋の代表的な食べ物ですので、この噺の季節は秋です。