もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第388回 
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 公演日時: 平成22年12月10日(金)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 笑福亭 喬 若  「野ざらし」
 桂   雀 喜  「鰻屋」
 林家  うさぎ  「へっつい盗人」
 桂   枝 光  「蛸芝居」
  中入
 笑福亭 鶴 笑  「立体西遊記」
 笑福亭 松 喬  「質屋蔵」(主任)

   打出し  21時10分
   お囃子  花登益子
   手伝い  桂 治門
 平成二十二年も十二月。神戸では恒例の「ルミナリエ」も開催され年末ムード一杯の十日の金曜日に、今年のお開き公演となります[ 第388回十二月師走公演 ]が開催となりました。
 事前の景気もバッチリで当日はいつものように多くのお客様が開場を待つ列が「ルミナリエ」見学で人通りの多い本通りに溢れる。それを「何事やろ?」と、興味深げに見て通られる通行人の関心も最高潮。開場は多く届いたチラシの挟み込みの準備も完了したいつもと同じ五時半に、待ちかねた多くのお客様が一番太鼓と共に入場され客席が埋まっていき六時半には満席となり開演となりました。

 師走公演のトップバッターは三喬一門の総領弟子の笑福亭喬若師。
笑福亭一門伝統の陽気で元気一杯の高座は今回も全開を思わせるように『石段』の出囃子で登場。「えー、上方落語界の松阪大輔・・・・・。(会場からは狙い通りの笑い)それではこれで失礼致します」と、いつものつかみもバッチリ決まって、マクラはある落語会での携帯電話にまつわる出来事。そして、始まった演題は『野ざらし(野晒し、のざらし)』の一席。
この噺、中国の明代の笑話の「笑府」の中にあり、絶世の美女楊貴妃や三国志の張飛も登場する大作が元ネタとされている。それを土台に、元僧侶の二代目林家正蔵師匠が因縁話として作られ、それを初代三遊亭円遊師匠が滑稽な噺に改作され、その後、東京の代表的な噺として多くの演じ手のいる噺であります。上方へは、昭和五十年代に月亭可朝師匠が東京風をそのまま「野ざらし」として演じられたのを切っ掛けに広まり、上方には、ほぼ同じ内容の『骨釣り』としての演じ方もある噺です。
 喬若師の『野ざらし』は、東京風の演じ方。発端から因縁話を聞き、骨を釣りに行って一人大騒ぎするクダリと持ち前の明るい芸風で実に楽しそうに演じられる。
「♪鐘がぁ〜 ボンとなりゃぁさ、上げ潮ぉ、 南さ。カラスがパッと出りゃ、コラサノサ、骨(こつ)がある、サーイサイ。」「♪そのまた骨にとさ、酒をば、かけりゃさ、骨がべべきてコラサノサ、礼に来るサーイサイ。スチャラカチャンたらスチャラカチャン。」と、サイサイ節で大いに盛り上がってお後と交代となりました。

 二つ目は雀三郎一門の総領弟子の桂雀喜師が、師匠譲りのテンポUPの上方落語を演じるべく、『昭和拳』の小気味の良い出囃子で登場。会場からは大きな拍手が起こる。
  「えー、我々は色々な処で落語を演じる機会がありますが・・・」と、知り合いの知り合いの知り合いから頼まれた宴会の余興での苦心談。お客様は円テーブルで、乾杯直後に出番が、登場するとなんと、バイキングスタイルでお皿を持ったお客様がズラリ。これは何をやっても受けない。とのマクラに会場は大きな笑いに包まれる。そして、始まった本日の演題は、枝雀師匠、雀三郎師匠と口伝されたであろう『鰻屋』の一席。
 ただ酒を飲むために苦労した逸話や、鰻屋の主人の困る様子をコミュカルに小気味良いテンポで演じる秀作。会場はもちろんツボツボで爆笑が起こる。上下前後に逃げ惑う鰻に困り果てる主人の仕草はまるで本物の鰻がいるようで、会場からは大きな拍手が起こった。二十分の名演でありました。

 三つ目は染丸一門の二番弟子の林家うさぎ師が、愛嬌タップリの笑顔と堂々たる恰幅で『うさぎのダンス』に乗って高座へ登場。
  「えー、うさぎという名前を聞かれてどんな可愛らしいお嬢ちゃんが登場すると期待されたお客様には申し訳ございませんが、こんなんが登場しまして・・・。」とあいさつ。来年は私の当たり年でうさぎと一緒に年賀状を撮るとのマクラで会場を和ました後、「この三つの坊を喋ってる限りお客様に失礼はありません」と『さんぼう』の話題に。『食いしん坊・けちん坊・泥棒』と紹介して始まった本題は、いかにも上方らしい擬音がタップリ入った盗人噺の定番の『へっつい盗人』の一席。『花色木綿』『穴泥』『盗人の仲裁』『書割盗人』など同様に落語に登場する盗人には本当の悪人はいないが、この噺の二人もその通りでポカの連続。ついには仲間割れを起こすことになる。それをほのぼのと演じる高座に会場からは大きな笑いが連続して起こった高座であった。

 中トリは、文枝一門から桂枝光師匠。
当席で「小つぶ改め桂枝光襲名披露公演」も開催された常連で、今回も明るい芸風で演じられる上方落語を期待されるお客様の拍手と『猩猩』の出囃子で高座へ登場。目にも鮮やかな青の紋付と黄の袴、さらに桃色の手ぬぐいといかにも上方らしい華やかな衣装といつまでも変わらない童顔と満面の笑みで高座へ姿を見せると会場からは万来の拍手喝采が起こる。
 マクラはカラオケにまつわる話題。十八番は「浪花恋しぐれ」ではなく、郷ひろみの「哀愁のカサブランカ」と、会場を枝光ワールドへ引き込み、始まった演題は『蛸芝居』。上方落語の芝居噺と位置づけされるこの噺、勿論、枝光師匠は師匠の桂文枝師匠直伝。芝居、踊りの素養が必要とされ、且つはめものとの息も必要となる難しい噺を発端からサゲまで見事に演じきった文枝師匠の十八番を蘇らせてくれた枝光師匠の口演に会場からはツボツボで大満足の拍手と笑いが起こった半時間の高座でありました。
 次は同じく文枝師匠の十八番でした当席ではまだ一度も演じられていない『浮かれの屑より(紙屑屋)』を演じて頂きたいものです。

・・・・・・楽屋裏話・・・・・
 楽屋入りした枝光師匠は、熱心にネタ帳をチェック。「今日は大好きな恋雅亭の中トリ。何か大ネタを考えて師匠の十八番の『蛸芝居』をと思って、和女さんに『恋雅亭で演(や)ろうと思ってるんやけど』と相談した処、『出てないよ、是非に』とのアドバイスを貰いました。ほんまに出てませんね。意外でした。」と、本日のお囃子の花登益子(はなとますこ)嬢とキッカケの打ち合わせを始め本番に臨まれた。 この噺、意外と当席では演じられていません。
公演記録を調べますと、今回で8度目の口演となります。

 やや短めの中入りからシャギリが入って、「ドンガー、ドンガラガッタ、ドンガー、ドンガラガッタ、国松さまのお通りだ・・・」の『ハリスの旋風(かぜ)』の出囃子で、当席の出演は、平成十二年一月の第257回公演以来、実に十一年ぶりとなる、笑福亭一門から笑福亭鶴笑師匠の登場となりました。
  高座へ座ると同時に、笑顔一杯にイラクで落語を演じた時の実話がスタート。これがドキュメントとあって実にリアルで面白い。会場を大爆笑の連続に巻き込んで始まった本日の演題は、『立体落語・西遊記』。師匠十八番のパペット落語であります。
 パペットとは人形劇などで使われる操り人形の一つであり、主に人形を手指で操作する形状のもので、指人形とも言われています。一方、糸で吊って操作する物をマリオネットと呼んで区別しているそうです。自作の人形を使って演じられる、パペット落語『西遊記』の始まり、始まりとなります。
 これは絶対見る落語で文章での説明は難しい。 孫悟空の登場から場内は爆笑の渦となって、如意棒が出現し、上空へ上がる悟空と妖怪次第に小さくなっていく。大きくなる妖怪と、変身する悟空。血を流す妖怪と、その都度、場内は拍手と爆笑の連続となっていく。読んでいる方にはお分かりいただけないだろうが。
  へとへとになっての二十分の高座は客席の大喝采に送られてお後と交代。

 本年のトリは、上方落語界の重鎮六代目笑福亭松喬師匠にお願い致しました。
今回も過去と同様の上方古典落語の大物をタップリと、期待の本日一番の拍手に迎えられ『高砂丹前』の出囃子で貫禄一杯に登場。前の鶴笑師匠の大爆発高座の影響は、「えー、もう一席の処、昨年は十二月に出れませんでしたので、本年は一月とこの十二月と二回ご厄介になります。これで、暫くは出んでええなぁ・・・」。この一言でガラッと松喬ワールドに。さらに、ご自身の還暦落語会の紹介。上方落語の大物の『百年目』や『帯久』を演じることを紹介し、「本日も大物を」と『質屋蔵』の一席がスタートする。本席に到着後に「今日はこれ、久しぶりや」と決められ、「九時ちょっところぶで」と気合一杯。
 師匠のマクラは定評があるが、本日も噺のポイントを見事に散りばめた展開。そして、発端からサゲまでキッチリと演じられる。各処の地雷もものの見事に爆発し場内は大爆笑に包まれる。サゲの菅原道真公と登場とマクラでの仕込みが最後の大爆発を誘った笑い納めに相応しい四十分の高座でありました。
 お開きにクイズを一つ。この噺、落語には珍しい秋の噺ですが、どこで判るでしょうか?
平成二十三年も充実の高座をご期待下さい。