もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第387回 
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 公演日時: 平成22年11月10日(水)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 林家  卯三郎  「ふぐ鍋」
 露の  吉 次  「竹の水仙」
 桂   米 平  「稲荷車」
 桂   文 福  「民謡温泉」
  中入
 笑福亭 鶴 志  「長短」
 桂   文 喬  「研修医と愉快な仲間達」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  勝 正子
   手伝い  桂 和歌ぽん
 平成二十二年十一月の第387回恋雅亭・十一月公演は、寒さが増してきた水曜日。
いつものように開場を待たれる多くのお客様が列を作られる。本日の出番の一番乗りは桂文福師匠で、自宅から元町まで電車で一本で来られるようになり、お弟子さんの和歌ぽん師を引き連れ、早くから楽屋入りされる。元気一杯で、談笑やチラシの挟み込みのお手伝いもして頂き開場準備。いつも通りに五時半に開場。

 一番太鼓と共にご入場されるお客様で席はどんどん埋まっていき、開演の六時半には後方にやや空席を残した九分の入りとなり、二番太鼓、祈が入って『石段』の出囃と共に林家染丸一門の林家卯三郎師の登場となりました。
 名前の由来となった平成十一年の卯年の入門でキャリア十一年。北海道は酪農学園大学出身で、岡山で獣医師となって鶏、豚を相手に落語を続けて入門、動物とお喋りできるので、上方のドリトル先生と言われている。あいさつから、ふぐにまつわるマクラ。ふぐの刺身は「てっさ」、ふぐ鍋・ふぐちりのことを「てっちり」とふぐのことを「てつ」と呼び、これは、「下手な鉄砲も、数打ちゃ当たる」の「てつ」、つまり、「弾に当たる=たまに当たる=たまに当たって死ぬこともある」。そして、「乙ですと言うがふぐには手を出さず」という川柳を紹介し『ふぐ鍋』の一席が始まる。この噺、冬場に演じると季節感がピッタリで、多くの演者が、鍋料理がより一層おいしく感じられるようにと来訪を寒い夜の設定にしたり、骨付きのふぐの身をおいしそうに食べてたりと工夫を凝らして演じられておられる。卯三郎師も三代、四代目の染丸師匠の十八番な一門のお家芸を、そんなにしつこい笑いの取り方ではなく、そこはかとなく笑いが生まれ、それでいて伝統でもあるコッテリ、もっちゃりした演出も忘れず、何とも言えないおかしみのある高座となった。
 大橋さんのにぎやかさにプラス太っ腹であり、ちょっと小心者という処のある、良家の旦那さんも見事で随所に笑いも多く起こり、意表をつくサゲでお後と交代となった。

 二つ目は露の五郎兵衛一門から露の吉次師。
昭和六十二年のキャリア二十三年。師匠譲りで一門の特徴でもあり、いかにも上方らしいもっちゃり・こってりの芸風。ファンの拍手に迎えられて高座へ登場。「(拍手に対して)ありがとうございます、これ、師匠の形見分けです」と羽織の紐と帯を見せながら、「はい、千円から」とオークションスタート。これで会場の爆笑を誘って始まった演題は『竹の水仙』。
 この噺、吉次師は桂梅団治師匠からの口伝だそうで、梅団治師匠が現枝鶴(小つる)師匠からの口伝であるとすると、初代京山幸枝若⇒五代目笑福亭枝鶴⇒六代目笑福亭枝鶴⇒四代目桂梅団治⇒露の吉次と口伝された。全編、主人公の左甚五郎、宿屋の夫婦、大大名の越中守や大月玄蕃、登場人物全員が大阪弁で噺は展開、「ぎょ〜さん」、「けつかる」「さいぜん」「ボロクソ」などが連発し場内は大爆笑。浪曲にはサゲがないが、考え抜かれたサゲもズバッと決まった22分の秀作でありました。
 主人公の左甚五郎は、兵庫県播磨の生まれの江戸初期の大工・彫刻師。徳川家の造営大工の棟梁で、日光東照宮の眠り猫や上野東照宮の竜はその作と伝えられている名人。慌てふためいて竹の水仙を買いに来る大月玄蕃なる侍は、江戸時代の玄蕃寮という役所の玄蕃助という官職名を名前のように使っている。落語の世界の大立者・三太夫さんは大名家で家事・会計をあずかる人で、今で言う執事の通称だそうです。

 三つ目は上方落語界の巨漢・桂米平師匠。
今回も百キロを越す巨漢を揺すりながら愛くるしい笑顔と共に『大拍子』の出囃子で高座へ登場。マクラは元気一杯の米朝師匠の話題。ここで、会場のお客様の体調が悪くなるとのアクシデント発生。マクラでつないで始まった本題は、師匠直伝の『稲荷車』の一席。場面の設定は人力車が登場するので明治時代。場所が高津さんの社前。時刻は晩方で、明かりも、そんなになく、お月さんも出てない、降りそうな曇り空、人力俥が客待ちしているという、寂しい場面。そこへ、上品そうな産湯までのお客さんを俥屋さんが狐と疑って乗せる。走りながらの、俥屋はんとお客さんの会話が伏線に住所や名前を聞いたり、正直もんであるとか、ありきたりの会話。そして、騙したつもりが忘れ物をして大変な事態に。一方の俥屋は稲荷様のお土産と勘違いして大散財。そこへシオシオとかの男が登場して又、一騒動で今でも充分、通用する良いサゲとなる。
 永らく埋もれていた噺を起承転結をハッキリさせ、ストーリーも、きっちりと、かつ、笑いも適度にある非常に良く出来上がった噺に仕立て上げられたのは米朝師匠。その師匠の直伝をキッチリとお客様の頭の中のスクリーンに浮かぶように語る米平師匠。実に見事な25分の好演でありました。
・土地勘がない方に、ちょっと説明・
@高津(こうづ)神社=浪速高津宮:大阪市中央区高津にある仁徳天皇を王神と仰ぐ神社。
A産湯稲荷=天王寺区小橋町にある神功皇后の近臣・雷大臣の子大小橋命を祀る。
B土佐稲荷神社=大阪市西区北堀江にある土佐高知藩蔵屋敷の鎮守社。
C伏見さん=伏見稲荷大社の愛称で京都市伏見区深草にある全国の稲荷神社の総本社。
 ちなみに正一位とは、神社に与えられる神位の最上位に位置する。

 十一月公演の中トリは「和歌山のおいやん」こと桂文福師匠。
『月光仮面は誰でしょう』の出囃子で高座へ登場。「ばぁー、ちょっと地味な衣装で、今の米平君、次の鶴志、私と暑苦しい会で、芸名を文福、本名・小栗旬と申します」。さっそくの「文福ワールド」突入となりました。続いて、お客様へのサービスとして「謎掛け」。そして、「和歌山ラブソング」を二番熱唱し、和歌山方言とアクセントの紹介から、相撲の話題へ。得意の「相撲甚句」。「相撲編・世界のニュース編・野球編・恋雅亭編」。本日の本題は『民謡温泉』。「おけさ・追分・武田節・どんぱん節・音頭」と、トリネタは十八番の「河内音頭」。内容を詳しく紹介するまでもなく大爆笑編。
 会場も師匠もノリノリの半時間の高座でお仲入りとなりました。

 中入りカブリは、当席では、顔と体型と声通り、笑福亭の豪放磊落な『野崎詣り』『試し酒』『らくだ』『高津の富』『胴乱の幸助』などの上方落語を演じられておられる笑福亭鶴志師匠。
 今回はカブリとあって、何を?  と期待の中、『船行きくずし』に乗っての登場となりました。
「えー、御来場いただきまして・・・。」と始まったマクラは、「笑福亭では珍しく明るい話題、枝鶴襲名・・・。枝鶴はええけど松鶴はあかん」、さらに「気の短い人間の代表はやはり、笑福亭松鶴師匠でんなぁ」と、十八番の師匠の思い出噺。「元気な頃の鶴志、晩年の小松」と言われる松鶴師匠の物真似はバツグン。師匠の思い出噺の爆笑の連続のマクラから始まった今日の演題は『長短』。
 この噺は東京の十代目柳家小三治師匠からの直伝とお伺いした。東京落語の定番のこの噺を鶴志師匠は見事に上方へ移植。筋も言葉も原形を一切変えることのない、
鶴志十八番の上方落語『長短』。秀作でした。

 本公演のトリは文枝一門から桂文喬師匠に努めて頂きます。
『本調子まつり』の出囃子で登場され、「えー、私の親父、亡くなりましたが、変わった親父でして・・・」と、「失恋した姪に『人間、顔やないぞ』と言う処を『人間の顔やないぞ』」「高い化粧品を買った母親に『ばか者』と言うのを『化け物』」と、つかみのあいさつ。そして始まったのは、自作の創作落語の中も自信作の『研修医と楽しい仲間達』。
 この噺、師匠が以前、実際に経験した入院体験を基にしたことを、やや誇張した爆笑創作落語であり、緊急で担ぎ込まれた病院の出来事。同室の背中に絵が書いてある患者さんが「手は今、洗ったが、足はとうに洗った」と登場し、注射も満足に打てない頼りない研修医らが、次々に登場 一命にかかわる目に遭う。その関わりをコミュカルに演じられる。場内は大爆笑の連続。
 二年後、研修期間を終了した研修医と再び遭遇するが、残念ながら技術(採血)は変っていなかった。半時間の熱演は爆笑の連続でサゲとなった。