もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第386回 
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 公演日時: 平成22年10月10日(日)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂   阿か枝  「商売根問」
 桂   宗 助  「禍は下」
 笑福亭 仁 勇  「猫の皿」
 桂   文 太  「八五郎出世」
  中入
 桂   枝三郎  「エレクトロハウジング」
 桂   雀三郎  「胴乱の幸助」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  勝 正子

 平成二十二年十月の第386回恋雅亭・十月公演の当日は日曜日。
猛暑から一転ちょっと肌寒いくらいの陽気。前景気も好調で、熱心なお客様はいつも以上に早くから列を作られる。いつもながら長時間並んでいただくには申し訳ないことであります。今回も一杯で届いたチラシを人海戦術で折込を行い開場を迎える。一番太鼓と共にご入場されるお客様で会場に用意した椅子が次々に埋まっていき、定刻の六時半にはほぼ満席で開演を迎えました。

 公演のトップバッターは文枝一門から地元明石市出身の桂阿か枝師。
元気一杯の高座を期待されるお客様の拍手と『石段』の出囃子で高座へ登場。「えー、こちらの恋雅亭に出して頂く事はありがたいことで、私、明石に住んでおりますので通勤に便利」とあいさつ。マクラは明石の魚の棚(有名な市場)で、焼きあなごを買うために並んでいた時の前の二人の奥様の会話「ヤッパリ、阿か枝さん(明石産)はええな」。これを聞いて明石では有名人になったと勘違いと爆笑を誘う。
 そして、始まった本題は、師匠の五代目文枝師匠のカバン持ちをしていた時代に「まず、長い噺として覚え、それを高座の時間に合わせて、調節出来るような噺に仕上げなさい」と、言われ、口伝された『商売根問』の一席。入門直後に覚える噺として『旅の噺』と『根問物』の分野がありますがこの噺は根問物。これらの噺で、間、テンポ、掛け合いなどをマスターするとされ、噺に力があり、盛り上がり箇所も随所にありますが、一方、「こんにちは」「お、お前かいな。まあこっち上がり」の会話で、二人の位置や、家の間取りの大きさなどをお客様に想像させなければならない難しい噺ともいえ、文枝師匠の教えは的を得ています。
 この根問物には他に『色事根問』『浮世根問』などがありますが、二人の会話で物語が進行するボケとツッコミがハッキリしているしゃべくり漫才の原点とも言える噺です。その噺を基本に忠実にキッチリと演じられる。勿論、ツボツボでは客席は大爆笑。多くの失敗談で構成されるこの噺、今回は『雀』『鶯』そして、『河童(ガタロ)』を捕まえようとして失敗する十五分の好演した。
 『ガタロ』」は本町の曲がりに捕まえにいくのだが、東横堀川の本町橋と農人橋の間のSの字に曲がったところで、昔は人通りの少ない怖い場所だったらしい。現在では、上を阪神高速道路が通る賑やかな所であります。ちなみに高速道路も昔と同じようにS字型に曲がっています。

 二つ目は、米朝一門から桂宗助師。
平成元年に米朝師匠の最後の直弟子として入門し、落語『二番煎じ』の登場人物の「そーすけはん」を高座名とされた。師匠譲りの本格的な上方落語はツボツボで爆笑を誘う本格派。キャリア二十二年の師匠が二つ目とはいつもながら何とももったいない出番組。もっとも三つ目の仁勇師もキャリア三十三年。その宗助師、『月の巻』の出囃子で満面の笑みで高座へ登場し行儀正しい高座がスタート。
 「えー、一杯のお運びでありがたい限りでございます。本来ならお客様、お一人、お一人のお宅へ伺ってお礼を申し上げなければならない処でございますが、もっとも本当に来られてもお困りやと思いますのでこれであいさつにかえさせていただきます。」から、「落語の中には男女の仲、夫婦の仲を扱いましたお噺が・・・」。近頃の女性は強くなった。ことは、ウソで昔から強かった。雪山で遭難しても皮下脂肪で生き延びるし、冬の夜道もコートは要らないと、女性の強さのマクラから始まった本題は師匠直伝の『禍は下』の珍しい噺。定吉が言い訳に魚を買って帰るクダリは東京の『権助魚』であるが、全体ははめものが入ったり、なるほどと思わせるサゲもあって大ネタの風格の二十分の好演でありました。

 三つ目は仁鶴一門から笑福亭仁勇師。
この師匠の高座名は英語の「NEW」を意味しているとのこと。「上方落語界の皇太子殿下」も今や貫禄タップリで、『吉原雀』の出囃子で登場すると、さっそく最近のニュースから爆笑マクラがスタート。
・日本人がノーベル賞を二人、受けましたが上方落語協会員は二十人が生活保護を
 受けております(冗談です)。
・小沢一郎、鳩山由紀夫氏が冷酒を飲みながら「やっぱり、燗(かん)は要らんな」。
・「カレー何杯食べても500円」の看板に喜んで入って食べると「一杯500円」。
・彦八祭りで「騙されたと思って買うて」を「買うて騙されてえなぁ」と言い間違い。
 そして、骨董を扱う道具屋さんの話題から、始まった本題は『猫の皿』。この噺も当席では珍しい噺で、噺の舞台は三島の宿とのどかな田園地帯と設定。「山が笑う」などお客様の頭の中にその風景を浮かび出さす風景の描写は見事。
 のんびりとした発端から意外な逸品を見つけた古道具屋さんの心の動きが笑いを誘う。それを知らぬ素振りの茶店の老人。そして、駆け引きの末、見事なサゲとなった逸品でありました。
 この噺、別名を『猫の茶碗』とも言い、原話は江戸後期の戯作者・滝亭鯉丈の「大山道中膝栗毛」だそうである。

 中トリは昭和四十六年入門でキャリア四十年の上方落語界の重鎮・桂文太師匠。
『さわぎ』の出囃子で高座へ登場すると場内から拍手と歓声、掛け声が掛かる。「えー、待ってましたなんて、嬉しい限りでございまして、繁昌亭ではご祝儀が飛んできましたが、今日はまだですか」とのあいさつで会場は一気に文太ワールドへ突入。
 本日のマクラは、三十年来の友人のインドから日本にカレーの勉強に来たインド人の奇妙な行動から。日本のイメージの絵を描くと、「富士山、舞妓さん、人力車、ジャンボジェット、新幹線、真っ赤な鳥居には南無妙法蓮華経。設定は二十年前の横浜。」訳が判らないので、日本の文化を判らせるために落語を聞かすと「貴方は狂っている」。文化が違うと判らないことが多いとマクラを振って始まった演題は師匠が贋作と称されている自信の一席『八五郎出世』。
 この噺、師匠が過去、東京から移植され当席で演じられた『猫定(同)』『松島心中(品川心中)』『文六豆腐(文七も元結)』『よもぎ餅(黄金餅)』『幾代餅(同)』【( )は東京名】同様の手腕が光る傑作贋作噺。
 「女、氏なくして玉の輿に乗り。男、氏なくして玉の汗を掻く」。八五郎の妹が殿様に見初められお世継ぎを出産して方号を頂戴する大出世。兄貴として殿様にお目見えが許される。
 言葉どころか袴の穿き方も知らない八五郎が周囲の心配をよそに、ざっくばらんな性格が殿様に気に入られ侍に取り立てられる、東京では、『妾馬』として幾多の名人が手がけられておられる涙あり笑いありの大物であります。
 文太師匠の演出は、妹のお鶴ちゃんが殿様に見初められたクダリをカットして、八五郎の登城、殿様とのやりとりに重点をおいた演出。もちろん師匠の工夫が随所に盛り込まれ、全編、大阪弁のやり取りで、よりナンセンスで面白く客席全体から津波のような笑いが起こる。さらに兄妹・親子の情愛にホロッとさせられたりと半時間の名演でお仲入りとなりました。

 この噺にも色々な言葉が登場します。「名字帯刀」「恐惶謹言(きょうこうきんげん)」「四面楚歌(しめんそか)」「弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)」「阿鼻叫喚(あびきょうかん)」、解説は次の機会に。

 中入り後は、「枝さん」こと桂枝三郎師匠の登場。
いつものように『二上がり中の舞』の名調子でユッタリと高座へ「えー、ありがとうございます。続きましては桂枝三郎と申しまして、さぞ、お力落としもおありかと思いますが」と、いつものフレーズ。
 「えー、前半は珍しい落語の特集でございまして、後半は枝三郎、雀三郎の漫才コンビでご辛抱を願っておきます。」と、最近、嬉しいことは落語を判ってくれる人が増えたが、まだ、落語を見て「キョロキョロするな」とクレームを入れる人が。次々繰り出される枝さんワールドに場内は共感と納得の爆笑に包まれる。
 そして始まった本題は自作の創作落語『エレクトロニックハウジング』。創作落語の切れ味は師匠譲り。数々のクスグリが決まって場内が爆笑の渦となった二十分の高座でありました。

 十月公演のトリは、文太師匠と同期の桂雀三郎師匠。
当席へは数多く出演され期待を絶対に裏切らない熱演は請け合い。『じんじろ』の出囃子で登場し、さっそく趣味のマクラから始まった本題は当席ではトリでの熱演が多い『胴乱の幸助』。発端からサゲまでハイテンポでちょっと理知的な演出で噺が展開。場面転換もダイナミックな半時間。お開きの拍手が満足度を表すように長く大きく続いた十月公演でありました。

 この噺に登場する言葉をちょっと解説します。
「胴乱」・・・・・・・・・・薬、印鑑、煙草、小銭銭などを入れ腰へ提げる革製の四角袋。
            『天神山』という噺には「胴乱の安兵衛」なる人物も登場します。
「お半長」‥・・・・・・「桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)」の主人公の信濃屋のお半と
            帯屋長右衛門の二人のこと。
「柳馬場押小路」‥京都の地名で、南北の柳馬場通は河原町と烏丸のほぼ中間、東西は、
           「丸竹夷二押御池姉三六角蛸錦」の押小路通は御池の1本北の道。
            その交わる場所であります。